ふらつくトランプ政権


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◆時候のご挨拶◆
あっという間に桜の季節が終わり新緑の季節になりました。新緑の緑は、若さを感じさせ、元気になります。そして、もうすぐ田植えの季節です。景色は、穏やかですが、北朝鮮情勢は、極度に緊張しています。心穏やかになりません。
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・ふらつくトランプ政権
・仏大統領選、英国総選挙、独総選挙そして韓国大統領選
・国際政治の闇を暴露するスノーデン
・今年も東大で俯瞰経営学のゼミを開講
・クロネコヤマトの物流センターを見学してきました
・俯瞰サロン“IoT・ビッグデータ時代にどう生きるか”
・俯瞰のクッキング“魚を食す”
・2020年以降の世界7“宇宙ビジネス”
・俯瞰の書棚 “データ分析の力、因果関係に迫る思考法”
・編集後記

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◆ふらつくトランプ政権◆
トランプ政権が発足して100日が経ちました。この100日間の評価についてメディアでは様々な議論がされています。

私は、トランプ政権自体がまだ完全に成立していないのではないかと思います。報道によると、局長級の人事がほとんど進んでいないこと、トランプ政権内での権力争いが続いていること、そして何よりも原子力空母カールビンソンの一件です。

最高司令官の大統領が西太平洋にカールビンソンを派遣したと声高に北朝鮮に威嚇をかけておきながら、当のカールビンソンはインド洋に向かっていたとは驚きです。意図的に偽ニュースを流したとか、猿芝居だとか思いたくありません。ホワイトハウスと現場の間のコミュニケーションに深刻な問題がある事は確実です。こんな状態で、武力攻撃をかけられるはずがありません。たぶん国民は北朝鮮に対して、威嚇はしても軍事行動を起こすわけがないと思っているのでしょう。

したがって、内政面では司法と議会の関係で公約がほとんど実現できませんし、予算すら難航しています。通商政策で成果をかち取ろうと“口撃”をかけて来ていますが、後に居る官僚機構がついてこなければ、結果は出せません。

結論としては、トランプ大統領があれこれ言ってもじっくりと状況を見極めて行動を起こすしかありません。国境の関税もなくなったようです。 NAFTAの交渉もどうなっているか判りません。

それにしても、トランプ大統領の閃いた瞬間に口にしていると言う脳の構造は、困ります。先般も韓国に導入する新型迎撃ミサイル(THAAD)の導入費用10億ドルを韓国が負担せよと、とんでも無い事を口にしました。土地の提供と整備は韓国、運用の費用は米国と負担すると話がついていたようですが、この始末です。さすがにこれは、ホワイトハウスが訂正しました。ともかく頭の中で考えて、言葉を選んで話すという基礎的な知的訓練がされていないのでしょう。

3月にもドイツメルケル首相の訪米の時、いきなりドイツ国防費として33兆円の請求書を渡したというニュースがありました。ドイツの随員は憤慨し、国防長官のジェームズ・マティス大将は面子丸潰れです。いったいこの請求書を誰が作成したのでしょうか。ホワイトハウスの内部統制が、乱れていることが判ります。

株式市場もトランプラリーが終わりましたが、アメリカ経済そのものは順調のようで、大きな混乱は予想されていません。むしろ国際情勢では、これから続くフランスとイギリス、ドイツ、そして何よりも韓国大統領選挙の影響は日本にとって重要です。

なぜかインド洋を航行 原子力空母派遣はトランプの猿芝居
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/203913
米国、今月28日に政府機能閉鎖へ…トランプ大統領が歴史的失政、軍事行動の裏で
http://biz-journal.jp/2017/04/post_18825.html
トランプのパトロンの正体
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9447
シリア情勢、北朝鮮情勢に対して米世論が冷静な理由
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2017/04/post-908.php
トランプ、韓国を攻撃「FTA見直し、THAAD導入費負担せよ」
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/04/ftathaad.php
トランプ大統領、メルケル首相に3000億ドルの請求書。国防相マティス大将も仰天
https://hbol.jp/135016


◆仏大統領選、英国総選挙、独総選挙そして韓国大統領選◆
はらはらさせたフランス大統領選も、中道系独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相と極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が、5月7日の決選投票に進む見通しとなりました。世論調査では、マクロン候補が大幅にリードしているので、金融市場やEU諸国もほっとしていると思います。万が一はないと思いますが、ルペン候補がかなりを取れば、フランス国内の深刻な格差と分断が露呈します。すでに深刻な格差と分断があるのでしょう。国内の分断と格差にどう対応するかは、各国に共通する政治課題です。

英国は6月8日に総選挙です。労働党内の分裂も相まってメイ首相の圧勝が予想されています。国民に“EU離脱の信を問う”選挙ですが、メイ首相の方針はハードグレンジットです。すなわち移民・難民、あるいはその他の取り決めに関して、英国が自由裁量を確保する一方で、単一市場参加などの優遇も放棄することです。国際通商では日本と同じ立場になります。ですから各国と通商関係の交渉に入らなければなりませんが、 EU離脱の交渉が済まないと進められません。 EU側は厳しい交渉条件を確認していますので難航するでしょうが、幸い関係する政治家がトランプ政権と違って大人ですから、うまくやってくれると思います。

ドイツは9月24日議会選挙です。 難民の問題で苦戦させられたメルケル首相ですが、なんとか政権を維持する情勢です。また、フランスのようにポピュリストが大きな支持を集めていませんので、安定感はあると思いますがEUの存続はドイツ国民の選択にかかっています。

一番気になっているのは韓国大統領選挙です。 5月9日投票ですから、すぐに結果が出ます。「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)と、「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)の決戦ですが、文在寅が優勢とされています。この左派政権が成立すると、日韓関係は今以上にぐちゃぐちゃになります。そして北朝鮮との融和を掲げて、中国に寄り添って反米的な外交を始めると、北朝鮮問題はさらに厄介なことになります。歴代の左派政権による北朝鮮融和政策は、結果として核武装を許し開発を促進させました。

さすがにTHAADの韓国配備には2人とも容認の立場になったので、軍事的には大きな変動はないと思いますが、対日政策では大きな違いがあります。文在寅候補では「最終的かつ不可逆的な慰安婦問題の解決」など、全くの白紙というか、白紙以前になるでしょう。


◆国際政治の闇を暴露するスノーデン◆
私は情報収集のためツイッターで有力な情報源をフォローしています。Reuters、WSJ、BBC、CNN、WIRED 、朝日新聞、日経新聞、産経新聞、時事通信などです。先日、エドワード・スノーデンの単独インタビューという記事を見つけました。下にURLがあるWIREDです。かなりの長文ですが、一気に読みました。ものすごく迫力があって興味深く、ぜひご一読をお勧めします。この記事はオリバー・ストーン監督の映画「スノーデン」の公開のイベントの一環です。この映画は最近の封切で、まだレンタルされていないので、ドキュメンタリー映画の『シチズンフォー スノーデンの暴露』ローラ・ポイトラス監督をAmazonでネットレンタルしてみました。この映画もドキュメンタリーゆえに、真実に迫る迫力があります。 WIREDの記事と合わせて見ると、いろんなことがわかってきました。以下にWIREDの記事から抜粋引用を載せます。

“機密文書はすでにスノーデンの手を離れている。ロシアには持ってきていないらしい。そのコピーは、複数の報道機関に渡っている。最初に機密文書を受け取ったのは『ファースト・ルック・メディア』のグレン・グリーンウォルドとドキュメンタリー映画監督ローラ・ポイトラス。英国の『ガーディアン』紙もコピーを受け取ったが、英国政府から圧力を受け、その物理的管理権(所有権ではない)を『ニューヨークタイムズ』紙に移譲することになった。そして『ワシントン・ポスト』紙のバートン・ジェルマン記者。

WIREDの記事はスパイ映画を見ているような迫力があります。

“指定されたホテルでのインタビューに向かうあいだ、尾行されないよう細心の注意を払った。街外れの、西側からの旅行者はちょっと敬遠するようなホテルだ。ロビーの、出入口ドア正面の椅子に座り、持ってくるよう命じられていた本を開く。午後1時ちょうど、スノーデンが歩いてきた。濃い色のジーンズに茶色のスポーツコート。大きな黒いバックパックを右肩に背負っている。筆者が近づいてゆくまで、スノーデンはこちらを見なかった。「どこにいました? わかりませんでしたよ」と聞かれたので、いままで座っていた椅子を示し、「で、あなたは今までCIAに拘束されていたんでしょ?」とジョークを言ってみた。スノーデンは笑った”

どんなものでも盗聴器になるという部分は驚きました。

“諜報の世界で「オペレーショナル・セキュリティ」と呼ばれているものに関してスノーデンはきわめて用心深い。腰を下ろすやいなや、携帯電話のバッテリーを抜く。筆者は自分のiPhoneをホテルに置いて来ていた。たとえ電源を切っていても、NSAは携帯電話をいとも簡単に盗聴マイクにしてしまうのだ、とスノーデンの協力者たちから繰り返し警告されていた”

スノーデンが機密情報の暴露を考えるようになったきっかけは、情報機関の内部の腐敗です。

“ジュネーヴで、スノーデンはCIA職員が現場で見せるモラルの低劣さを初めて目の当たりにした。諜報員は、集めた情報提供者の数に基づいて評価される。そのためCIA職員は、情報の質はお構いなしに、手当たり次第に証言者にサインさせようとして足を引っ張り合っていた。ターゲットを刑務所行きになるまで泥酔させ、保釈金を肩代わりして言いなりにさせることもあった。「情報提供者を集めるために相当あくどいこともしていました」”

別な部分に、情報提供者として銀行員が挙げられているのが気になりました。銀行は業務を通じて膨大な企業と個人の機密情報を収集しています。

そして9.11以降に、テロ対策として組織的な大規模な情報監視が進んだようです。

“9.11事件以降、莫大な予算が諜報に注ぎ込まれ、NSAの業務の多くはデルやブーズ・アレン・ハミルトンのような軍需企業に外注されるようになった。日本への赴任はスノーデンにとって、このうえなく魅力的だった。少年のころから日本に行ってみたかったのだ。スノーデンは東京郊外にある横田空軍基地に勤務し、軍の幹部や将校に、いかにして中国のハッカーからネットワークを守るかを講義した。”

この部分では最近のニュースが気になります。最近スノーデンが暴露した文書の中に、アメリカが日本に対して大規模な諜報活動動を行っていることがスクープされました。

「米政府の情報収集活動を暴露した米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン氏が持ち出した内部資料で、日米が通信傍受などの活動で緊密に協力してきた実態の一部が24日までに新たに明らかになった。米国家安全保障局(NSA)が電子メールなどの情報を監視するシステムを日本に提供していたという。スノーデン氏の内部資料を公表してきたニュースサイト「インターセプト」が24日報じた。日本国内のNSAの拠点は三沢、横田などの米軍基地内にあり、監視施設の建設費などを日本政府が負担してきたという。協力の一方で、2010年には首都ワシントンなどの日本政府、日本銀行職員らを監視する裁判所命令を取得していた。日経新聞2017/4/25」

なんと監視施設の建設費は日本政府が負担し、それで日本政府を監視していたとは、驚くというより国際的な諜報の現実を赤裸々に教えてくれました。

インタビューの記事で、すごい部分があります。

“知ったさまざまな事実のなかでも最もショックを受けたのは、NSAがプライヴェイトな通信記録を、メタデータのみならず、その内容まで、一切手を加えずにイスラエルの情報機関に渡していたことだった。この種の情報は、氏名や個人を特定できるデータを削除して「最小化」するのが普通である。だがNSAは米国国民の情報に事実上なんのプロテクトもかけていなかったのだ。そこには数百万のアラブ、パレスチナ系米国人のメールや電話の通信記録も含まれる。その記録に基づいて、イスラエル占領下のパレスチナに住む、彼らの親類縁者が攻撃の標的になりかねない。”

アメリカとイスラエルの尋常では無い関係がわかります。アメリカにおけるユダヤネットワークは有名ですが、諜報機関が現場でこれほど深い関係にあるとは驚きます。

“もうひとつ、厄介な事実が判明した。NSAがポルノサイト閲覧記録を監視しているという、NSA長官のキース・アレクサンダーのメモが発見されたのだ。これは、テロ計画の容疑で逮捕できない政府批判者に対して、このような「個人的な弱み」を握って、NSAが社会的地位の破壊を目論むかもしれないということだ。スノーデンはこのメモに驚愕した。「かつてFBIはマーティン・ルーサー・キング牧師を、不倫をネタに自殺に追い込もうとしました」”

スキャンダルを握って都合の悪い人物を追い落とすのは、古典的な攻撃です。田中角栄の失脚もこれではないかと言う風評は消えません。他にもいくつか思い当たる事件があります。

“12年、NSAのハッキング部門であるTAOが、長期化する内戦のさなかにあったシリアの大手インターネットプロヴァイダーのコアルーターのひとつに、遠隔操作でエクスプロイト(コンピューターシステムの脆弱部分を攻撃するプログラム)を仕掛けようとしたというのだ。成功すれば、NSAはこの国の電子メールやインターネットトラフィックの大半をごっそり抜き取れるはずだった。だが、作戦は失敗し、あまつさえルーターが固まってしまった。つまり一切の操作を受け付けなくなってしまったのだ。このミスにより、シリア全土のインターネットが完全に接続不能に陥った。だが国民には、それが米国政府の仕業だ、とは知らされなかった(この事実は、本インタビューが初公表となる)”

そしてスノーデンは、ついに行動を起こす事を決心します。

“スノーデンをついに決心させたのは、ユタ州ブラフデールに極秘裏に建設されたNSAの巨大なデータ保管施設の能力を調べているときに発見した、ある秘密プログラムだった。テキストであれば500京(1京は10の16乗)ページ分にも及ぶ1ヨタバイト以上のデータ保管能力をもつ93,000平方mのその建物は、NSA内部では「ミッション・データ・リポジトリ」という名で知られている。毎時数十億件もの通話、ファックス、メール、コンピューター間の転送データ、世界中から届くSMSがミッション・データ・リポジトリを通っていく。素通りのデータもあるが、一時的に保管されるデータ、そして永久に記録されるデータもある。

2013年3月13日、「トンネル」内のオフィスで(ハワイのNSAの施設)、スノーデンはある新聞記事を読み、行動を起こすときが来たと思った。国家情報長官ジェイムズ・クラッパーが上院委員会で、NSAは数百万件の米国民の個人情報を「積極的に収集はしていない」と答弁した、と伝える記事だ”

“長官は国民を騙すことが自分の仕事だと、それが当然のことだと思っていた。それで罰せられるとは考えたこともなかったでしょうし、その考えは正しかった。なにしろ宣誓したうえで虚偽の証言をしたことを暴かれても、何のお叱りも受けないのですからね”

国会における、森友学園に関する稲田防衛大臣の虚偽の答弁は、これに近いですね。スノーデンは、ものすごく正義感の強い純真な人物のようです。プライバシーの保護という、人権に対する国家の暴虐を許すことができなかったのです。そして今でも、自分のやったことが何であったか自問自答しているようです。

このスノーデンのインタビューと、今国会で審議中のテロ防止法案の議論を組み合わせると、法案がもたらす結果を新しい視点で認識することができます。幸いなことに日本政府は、アメリカのNSAのような大規模な情報収集能力がありませんが、一度ターゲットになれば、かなりの情報は集められるでしょう。私たちは、深く考えることなく個人情報を公開しています。 GPSを使えば、いつどこにいたかもわかります。 Suicaの情報を分析すれば凄い、個人情報が得られます。 コネクテッドカーに乗っていると、どこをどう走ったかもわかります。私は乗っていますが。政権に向かって正論をぶつけたいと思う人は、ネット環境における個人情報の管理を注意するでしょう。ネットでの発言もその影響と効果を精査して行うべきです。結果言論の自由は制限されます。

テロ対策の治安関係者から見ればネット上の情報を限りなく収集し、分析することによって事件を未然に防ぎたいという思いは否定できません。民主主義のジレンマでしょうか。

サンデー毎日に昨年特集されたスノーデンのインタビュー記事も面白いです。下記
http://mat-ottomo.jugem.jp/?eid=448
The most wanted man in the world
http://wired.jp/special/2017/edward-snowden/
スノーデンの警告「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49507
電子メールは監視されている可能性も 「米が日本に提供」とスノーデン文書
https://www.j-cast.com/tv/2017/04/25296426.html
米極秘文書を入手 スノーデン“日本ファイル”
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3965/
米、日本に通信監視システム提供 日本政府職員の盗聴も
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM25H0N_V20C17A4EAF000/


◆今年も東大で俯瞰経営学のゼミを開講◆
2009年に大学を定年退職しましたが、その時の授業をそのまま、東大本郷で続けています。学生の主催による自主ゼミです。俯瞰経営学というゼミですが、目的は知的腕力を磨く道場です。頭が良くても知識があっても、目前の課題を正しく迅速に処理するためには知的腕力が必要です。では知的腕力とは何か、このゼミでは情報の収集と分析、そして編集を高いレベルで短時間に行う能力を強化しています。

課題は経営に関連する、マーケティングや経理、イノベーション、 M&Aですから、結果としてビジネスの知識は付きます。しかしあくまでも追求しているものは、知的腕力の強化です。

5人1組のグループで、今年は6グループ30人です。毎週課題を出して、次の週に6チームが発表します。発表が終わったあと、どのチームが1番良かったか投票します。 得票ゼロのチームもよく出ます。ほぼ前の晩は半分徹夜で、当日は1時から6時までかかります。そして単位がつきません。知的腕力は付きます。そして9年続いています。

毎週木曜日の午後、工学部3号館で開講していますから、授業参観希望の方はおっしゃってください。現役の大学院一年生の学生に会うことができます。



◆クロネコヤマトの物流センターを見学してきました◆
クロネコヤマトの羽田クロノゲートに行きました。ヤマトグループのすべての機能を集積する最新鋭の物流センターです。羽田という立地は、陸海空すべての輸送モードを利用できると言う利点があります。説明によるとギリシャ神話の時間の神様“クロノス”と“ゲートウェイ”を組み合わせて“クロノゲート”と名付けたそうです。ネットで申し込めば、誰でも見学できます。よく準備された見学コースが用意されています。専門のガイドもいます。

単に荷物を仕分けるだけではなく「医療機器の洗浄」 「パンフレットの印刷」 「電機製品の修理」 「メンテナンス」といった付加価値をここで付けることができます。例えば、医療機器は、病院は必要に応じてレンタルします。ヤマトはこれを回収して洗浄して次の病院に配送します。電機製品の修理は、宅急便で引き取って、この羽田クロノゲートで修理して、宅急便で届けます。単に物を届ける宅急便の次の世界を見せていると思います。

近接して、大きな保育所を設立しています。社員だけでなく近隣の子供を受け入れています。ヤマトは今、色々と話題になっていますが、社会貢献を重視してきた会社です。保育所もその一環で、ハンディキャップのある人たちに仕事を作るなどしています。

ネット申し込みで、誰でも見学できます。家族連れでも楽しめると思います。


◆俯瞰サロン◆
IoTやビッグデータ、AIといった言葉をよく目にするようになりましたが、その本質や有効な活用法は意外に知られておりません。ネットワークの普及があらゆる産業に大きな影響を及ぼしたように、これらのIT技術は、これからの生活やビジネスのあり方を一変させる可能性を持っています。

企業にとっては大きく発展するチャンスでもありますし、逆にこれまで築いてきた地位を一気に奪われる危険性も秘めています。すでにこれらを活用している欧米の企業が、これまで日本の独壇場だった領域を次々に侵食し、技術力だけに頼っていた日本企業が競争力を失いつつあります。

そこで、IoTの本質を俯瞰するとともに、IoT・ビッグデータ時代にどうやったら生き残り発展することができるのかについて、事例を用いながらわかりやすく解説いたします。

講師:入鹿山 剛堂 氏(いるかやま ごうどう)
・(株)入鹿山未来創造研究所 代表取締役所長
・MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)IoT委員会 顧問
・(一社)IoTリサーチ&デザイン 理事
・(特非)日本メタデータ協議会 理事長
・慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
日 時: 2017年5月29日(水)18:30-20:00 (18:15 受付開始)
主 催: 俯瞰工学研究所
会 場  東京都港区港南2丁目14番14号
     品川インターシティフロントビル 6階
★参加費:講演会のみ 1,000円★
懇親会: 講演終了後に懇親会を開催します。参加費用は、別途 3000円程度。



◆俯瞰の書棚 “人口と日本経済”◆

今回の紹介は「人口と日本経済」 吉川 洋 2016年 中公新書 です。
この本はマクロ経済学の泰斗(その道の大家)である吉川洋東大名誉教授の人口学と経済学のエッセイです。日本における人口減少の悲観的な議論に対し、マクロ的なデータや学術的な分析によって、悲観的な議論が間違いであることを正したいという吉川洋先生の強い気持ちが感じられます。
まず経済成長と人口増加はあまり関係ないことを歴史的なデータで示すとともに、そもそも先進国は人口の増加で成長するのではなく、 一人あたりの所得の増加によって成長するのであると説かれています。そしてこれは、イノベーションを通じて実現されるという主張です。
第一章では人口の歴史と、イギリスの経済学者のマルサスとケインズの人口に関する議論を紹介しています。マルサスの人口論とは「人口の増加は必然的に食料により制約される、食料が増えれば人口が増加する」です。しかし歴史的な結果は、社会が豊かになると少子化が始まります。そしてダーウィンの進化論は、このマルサスの人口論にヒントを得たとあります。
ケインズは、すでにイギリスが人口増加の時代から人口減少の時代へと大転換時代を迎え、未来が過去とは全くことなる世界になると言明していました。またスウェーデンでは、早い段階から少子化の問題を取り上げ、子育て支援策を推進しています。話がそれますが、スウェーデンは本当に先進的な先進国です。すでにリアルの貨幣を廃止し、全て電子マネーで経済を運営しています。一方、ロシアによるヨーロッパの安全保障の劣化に対し、最近徴兵制を復活しています。現実に即対応です。
「先進国の経済成長は、基本的に労働人口ではなく、イノベーションによって創出されるものである」と第一章を結んでいます。
第二章では、先進国の経済成長を決めるのは人口ではなく、イノベーションである、について議論を展開しています。高齢化と少子化は結果として、膨らむ社会福祉の財源の問題に突き当たります。現役世代は負担できません。わが国すでに社会保障の給付はGDPの四分の一に達している状態で、国債残高はGDP比率200%に達しており、このままでは破綻をまぬがれないと警鐘を鳴らしています。ともあれ労働生産性を上昇させなければならないが、最大の要因はイノベーションだとしています。
第一次オイルショックからバブル崩壊までは、私は日本経済の黄金時代だと思いますが、この間、労働人口は1.2%成長率、そして実質GDPの成長率は、 4.6%です。人口が増えなくても経済成長できるという証左です。そして人工知能やインダストリー4.0というイノベーションによる経済成長に期待とあります。この章も先進国の経済成長は人の数ではなくイノベーションでされると結んでいます。
第三章では、人口の減少と寿命について議論しています。人口も寿命も「一人当たりの所得」が要因であり、これもイノベーションが影響するとあります。一方、経済成長は望ましいのか、という「 ゼロ成長論」の研究に言及しています。また文明が繁栄すると、人口が減少し文明が滅びるという、ギリシャ都市国家とローマ帝国の衰退に関する論文も紹介しています。
人口の減少、出生率低下については、日本においては晩婚化や非婚化に加え、バブル崩壊後の若者の労働条件の劣化の影響もあるとしていますが、今まさに議論されている正規労働と非正規労働、そして労働環境の改善、子育て支援の政策が非常に重要なことがよく理解できます。
寿命に関しては世界で一、二を争う長寿国になった事は、戦後の日本が成し遂げた最大の成果であるとしています。とにかく高度成長が始まる前は、日本は先進国中で最も寿命の短い国だったのです。寿命の格差「寿命のジニ係数」について解説されています。
ソ連は1950年代末から「寿命のジニ係数」の低下の停滞が始まり、かえって上昇し平均寿命も伸びませんでした。 このことから1950年代からの社会主義体制がいかに大きな問題を抱え、行き詰まった社会であることがわかるとし、ソ連はまさに自壊したとあります。そして日本は世界の最長寿国になったことが戦後日本の最大の成果であると結んであります。
第四章は人間にとって経済とは何か、という本質論を議論する中で日本の進むべき道を論じています。一人当たりのGDPと平均寿命という図表がありますが、世界各国のデータは見事に1本の曲線の上にデータが乗っています。
「需要の飽和」という議論も面白いです。ですから成長が停滞します。そして消えていくモノ、サービスもあります。この辺と人工知能で仕事が奪われるという議論を混同している人がいますが、その人は要注意人物です。結局これもイノベーションによって新しい需要を創出していくしかありません。
この後、ケインズの未来論やトマ・ピケティーに言及し、両者に共通するものは「利子率の力」であるとしています。またその後ゼロ成長論も解説していますが、江戸時代は安定していい時代だったという議論を、発掘された骨から悲惨な生活状態だったことを示し、安易な議論を戒めています。
多くの経済学者は、日本の潜在成長率は0.5%程度しかないというのに対し、吉川洋先生は1.5%程度の成長は可能で、そのためには年率2%の労働生産性の伸びが必要であるからそれを実現するイノベーションを起こす必要があると主張しています。しかし日本の企業はイノベーションに投資するよりも手元に現金を残し、退嬰的だと言っています。そして「日本経済の将来は、日本の企業がいかに人口減少とペシュミズムを克服するかにかかっている」と結んでいます。つまり日本人、日本企業は、人口減少に対し悲観的すぎる。一人当たりの所得をイノベーションによる労働生産性の向上で実現すれば、経済成長できることを信じて前に進め、という励ましと叱責が、この本の主題であると思います。



◆俯瞰のクッキング “魚を食す”◆
毎日、基本的に野菜料理、魚料理、肉料理を作ります。残ったものは朝食に食べます。

最近食べている魚は、鰤、真鯛、イワシ、ヤリイカ、カマスでしょうか。最近は真鯛が安くてお買い得です。鯛は万能で、カルパッチョや鯛飯、アクアパッツァでしょうか。鯛飯も丸ごと使うのではなく、三枚におろしてもらい、アラももらってきます。アラでダシをとります。そしてその出汁で鯛の腹身の部分で鯛飯を作り、背は刺身かカルパッチョにします。

最近、天然のブリが年中出回っています。価格も安いです。以前はよく照り焼きや、ブリ大根を作りましたが、どうしてもこの和風のレシピは、醤油、砂糖、みりんと糖質が多くなります。ですから最近では塩焼きと大根おろしです。

イワシは開いて、先月号の香草入りのパン粉でグリルまたオーブン焼きが多いですね。カマスもこの食べ方が一番多いです。腹にローズマリーを詰めて塩焼きにすることがあります。ポルトガルのリスボンで食べたイワシの塩焼きを思い出します。

ヤリイカも安く出回っています。これも、すりおろしたニンニクとオリーブオイルをそのまま塗してオーブンで焼きます。簡単ですが意外とこれが美味しいです。

毎日魚料理を食べるとすると、意外と同じ料理になります。むろん刺身もレパートリーの一つです。秋はイクラの醤油漬が定番です。そして焼き魚はサンマです。

カツオはこれからシーズンですが、刺身とたたきになりますか。火を入れるとカツオは固くなりますから。ただ刺身やたたきは醤油味で、塩分多くなりますので、カルパッチョですね。

意外と食べないのはサバですが、理由がわかりません。新鮮なサバがなかなか入手できないからでしょうか。食べるときはムニエルです。ただしバターで焼かずに、オリーブ油とニンニクと唐辛子で焼きます。


◆2020年以降の世界7 “宇宙ビジネス”◆
最近宇宙ビジネスに関連するニュースが目につきます。イーロン・マスクが立ち上げたSpace Xが第1段ロケットの再利用実験に成功と言うニュースもあります。使い捨てだったのでロケットの1段目を、逆噴射を制御して回収し、その再利用をすることによって衛星打ち上げのコストを大幅に削減しました。その再利用したSpaceXのFalcon 9ロケットでNASAはDSCOVR(Deep Space Climate Observatory=深宇宙気候観測)衛星を打ち上げ、衛星画像を公開しています。

インド宇宙研究機関(ISRO)は、人工衛星104基を搭載したロケットの打ち上げに成功したと発表しました。1つのロケットで打ち上げられた人工衛星の数としては世界最多です。インドは宇宙開発に積極的です。104基中101基は外国の人工衛星で、米国96基、オランダ、スイス、イスラエル、カザフスタン、アラブ首長国連邦(UAE)各1基となっており、全てを軌道に乗せることに成功しました。

Googleは6月10日、スカイサット衛星を開発・運用する衛星画像ベンチャーのSkybox Imaging社を5億ドルで買収して、グーグルアースのサービスをしていましたが、この会社をプラネット・ラボ(Planet Labs)に売却しました。 グーグルアースのライセンスは継続するとのことです。プラネット・ラボは、人工衛星88基をインド宇宙機関で一途に打ち上げ、現在149基の人工衛星を保有し、すでに、地球の表面のうち約5000万平方km(北米大陸全体の2倍の広さ、地球全体の表面積は約5億1000万平方km)を毎日撮影しており、1ピクセルあたり約1?3mの解像度の画像を企業や研究者が購入できるようになるとのことです。

このような大量の人工衛星を打ち上げ、所有することができるようになったのは、 人工衛星の小型化です。プラネット・ラボが打ち上げている人工衛星は約4キロです。むろん100キロ以上の大型の人工衛星でないと出来ない事はあるでしょうが、 1億円から5億円程度の小型衛星で出来る事はたくさんあるのです。

プラネット・ラボはNASAの4人の技術者が立ち上げました。最初のアイディアはスマートフォンを衛星に載せれば映像が撮れる、そして画期的なことができるという発想です。この発想から生まれたのがNASAプロジェクトで、バッシュイゼンとマーシャルが担当したフォンサット(PhoneSat)です。この衛星はスマートフォンと予備電池を3台のキューブサットに組み込み、2013年4月21日にオービタルサイエンスのアンタレスロケットで打ち上げられました。凄いのは、スマートフォンが軌道上でも機能することが証明されるのを待たずして、バッシュイゼンとマーシャル、さらにNASAの物理学者であったロビー・シングラーが加わった3人はプラネット・ラボを設立するために、NASAを後にしたということです。この会社はサンフランシスコに本社を置き、地上で入手可能な先端民生技術を人工衛星に使用するアイディアを展開することを事業としています。

ロケット再利用といい、スマートフォンで衛星写真という、この発想が日本人には出来ない、そこがもどかしい、ですね。

日本の宇宙航空開発機構(JAXA)も世界一小さな衛星を打ち上げロケットを開発し、世界のこの流れになんとか置いていかれないように頑張っています。このロケットに搭載されるのは東京大学で開発された超小型衛星「TRICOM-1」で、重さはわずか3キロですが、地上から送られる電波を収集する機能のほか、地表撮影用のカメラを備えています。しかし、すべてこれらは国家予算です。

日本のベンチャーで、衛星の開発/製造/運用を手がけるアクセルスペースは昨年12月10日、地球の周回軌道上に50機の人工衛星を投入し、地球の広い範囲を毎日観測できる画像データプラットフォーム「AxelGlobe」を構築すると発表しました。この衛星群から得られる画像データを蓄積し、農業、森林保護、天然資源開発、インフラモニタリングなどの分野で活用してもらい、収益を上げる事業計画です。そして、AxelGlobeプロジェクトは、すでに三井物産、スカパーJSAT、ウェザーニューズが業務提携を結んでいます。各社は、サービス開発、海外展開、運用ノウハウ共有、気象ビジネスなどでアクセルスペースと協力してビジネスを開拓しています。

地上の方でも宇宙ビジネスは進んでいます。パナソニックは、高性能CPUと豊富なメモリーを搭載した頑丈タブレットPC「TOUGHPAD(タフパッド)」上で動作する「複数の測位エンジンにより、時間をずらして順次測位エンジンを追加しながら測位し、最も確からしい測位結果を迅速に導き出すアルゴリズム」を独自開発し、測位演算終了までの時間を平均90秒程度にすることで、実用化しました。

人工衛星のコストは100分の1になりました。このイノベーションを事業に取り入れる、これは新規事業の大きなオプションです。

宇宙ビジネスは「すでに起こった未来」です。

Space Xが第1段ロケットの再利用実験に成功
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/417245/080200013/
人工衛星149基を運用 プラネット・ラボの全地球画像ビジネス
https://www.technologyreview.jp/s/30465/the-startup-thats-in-charge-of-the-biggest-private-satellite-fleet/
2014-03-27 キューブサット衛星群開発ベンチャーPlanet LabのCEOインタビュー
http://www.spaceref.co.jp/homepage/colum/2014_03_30_planet_labs.html
インド、一度に人工衛星104基を搭載したロケット打ち上げ 世界最多
http://www.sankei.com/world/news/170216/wor1702160011-n1.html
世界最小ロケットで超小型衛星を打ち上げへ  JAXAの狙いとは?
http://www.huffingtonpost.jp/2016/11/22/ss-520_n_13142434.html
超小型衛星50機で全地球を観測する「AxelGlobe」--アクセルスペースが構築へ
https://japan.cnet.com/article/35074785/
NASA、DSCVR衛星が撮影する高解像度の地球画像を毎日公開へ
http://jp.techcrunch.com/2015/07/21/20150720hello-earth/
Googleが衛星画像事業Terra BellaをPlanet Labsに売却、Earthの画像はライセンスにより継続
http://jp.techcrunch.com/2017/02/04/20170203google-selling-terra-bella-satellite-imaging-business-to-planet/
グーグルの「衛星事業」買収の企業 新規に88の衛星を打ち上げ
http://forbesjapan.com/articles/detail/15167
パナソニック、10cm測位が可能な独自衛星測位技術開発 - タブレットに搭載
http://news.mynavi.jp/news/2015/08/29/066/


◆俯瞰の書棚 “データ分析の力、因果関係に迫る思考法”◆
今回の紹介は「データ分析の力、因果関係に迫る思考法」伊藤公一朗 2017年 光文社新書です。
この本は、ビックデータの理解を深めるのに最適な本です。統計に関する基本概念を、数式を全く使わずに、高校生にでもわかるレベルの容易さで、環境経済学という文理横断の学問について理解させることを意図して書いていますから解りやすいのは、当然です。

第1章 なぜデータから因果関係を導くのは、難しいか。社会的な現象は、関係する因子が、多数ありますから、単純な独立変数を前提とした因果関係の立証は、難しいことを解説しています。この章で印象に残ったことは、因果関係は相関関係とは違う、です。言われてみると当たり前ですが、何か、新しい気づきをもらったような気がしました。

第2章 現実の世界で実際に実験してしまう。完全にランダムなサンプルデータにすれば、因果関係の証明は出来るということです。これは、統計学のイロハですが、統計学を知らない高校生に解るように丁寧に解説してあると思います。

実例として、アメリカ大統領選挙でオバマ陣営が利用した例を紹介しています。 webページから支援者のメールアドレスを獲得し、サポーターが資金援助をお願いするわけです。どんなwebページにすれば多くの人がメールアドレスを登録してくれるかを、この方法を使って決定し、大きな成果を得たとのことです。トップページのデザインとボタンのデザインについてwebのアクセスに対しランダムに表示し、どの画面が一番登録率が良かったか評価して決めています。結果はスタッフが当初想定した画面ではありませんでした。しかし、これによってオバマ陣営は巨額の選挙資金を獲得しました。

第3章 境界線を賢く使うRDデザイン。完全にランダムなサンプルを利用出来ない時に統計、データの境界線を見つけて、その、前後の変化から因果関係を評価します。例えば、70歳の境界線で患者数は非連続的に増加する例で、この手法を説明しています。69歳と70歳では、特に健康状態に大きな差異は、ないはずなのに、患者数の非連続的な増加があります。これは、健康保険の制度がそうなっているのです。すなわち、この年齢で医療自己負担額が変わるからです。この分析手法は、色々応用できますが、欠点は、境界の前後の説明はできても、全体的な因果関係は説明できないということです。そしてあくまで、境界線で自己負担額が変化しない場合には医療サービスの平均値は境界線でジャンプすることがないという仮定です。行政的な境界線を利用して電力価格と消費者の節電の因果関係を分析した例も紹介しています。

第4章 階段状の変化を賢く使う集積分析。自動車の燃費規制は大きさによって階段状に規制されています。筆者らの研究グループは、この分析から車のサイズが大きくなるほど燃費規制は緩やかになっていることが、結果として自動車の大型化をさそい、環境保護を狙った燃費規制で平均110キロの重量の増加をもたらし、この政策が完全な失敗であることを発見しています。最近では政策に対し、この手法で政策の善し悪しを強化するようになっているようです。でないとたくさんお金を使った人が評価される役所仕事になりますから。

第5章 複数比較のデータを生かすパネルデータ分析。パネルデータとは複数のグループに対し複数期間のデータが手に入るデータです。ヨーロッパでは国を超えて移住することが容易ですから、取得税の安い国に人々は移民するのかを分析した事例が興味深いです。

デンマークでは1991年に税制改革があり年間所得が約1,200万円を超える外国人労働者の取得税が大幅に安くなりました。政府は優秀な外国人労働者を国内によび込もうとしたのです。分析結果で効果があったことが判明しました。

第6章 実戦編:データ分析をビジネスや政策形成に活かすためには。シリコンバレーでは日常的にランダムなサンプリングによる分析がビジネス戦略分析に使われているとのことです。またアメリカの連邦政府内でも、エビデンスに基づく政策形成として、データ分析で政策効果の大きさを評価しているとのことです。

データ分析をビジネス戦略や政策形成に生かすかには何か。

成功の鍵、データ分析専門家との協力環境を築く。データへのアクセスを開く。

政府は膨大なデータを持っていますが、あまり公開されていません。しかし近年日本政府も含め公開を推進しています。ビックデータから価値ある知恵を抽出して、新規ビジネスを発掘しようということです。

企業とデータ分析者のパートナーシップの例がいくつかとり上げられていますが、シカゴ大学とUVERの協力の事例が興味深いですね。 UVERは需要と供給によってフレキシブルに料金を設定しますが、その設定のアルゴリズムの決定にRDデザインのデータ分析を活用しているとのことです。

第7章 上級編データ分析の不完全性や限界を知る
1 データ自体に問題がある場合は優れた分析手法でも解決は難しい
2 分析結果の外的妥当性という問題、たとえば北九州市で行われた電力節電の実験結果が他の地域でも適用出来るかという問題です。
3 出版バイアスとパートナーシップバイアスという問題、たとえば環境問題に対する意識が高い実験対象や地域は、結果に対しあるバイアスを持ちます。論文を書く研究者は面白い結果が出るケースを意図的に選ぶこともあります。
4 介入に波及効果が存在する場合の注意点。本来無作為に抽出されたグループは独立ですが、他のグループの影響を受けてしまう場合があります。これも評価を狂わせます。
5 一般均衡的な効果が存在する場合の注意点。この説明が難しいのですが、小規模な実験と大規模実験では違う結果が出ることがあるということです。
第8章 さらにまだ具体化のために参考図書の紹介。経済学を本格的に勉強したいための教科書の紹介があります。結論から言うと入門理論を学び、実践につながる基礎を築きたい方は、アメリカの経済学部学生が使っている教科書がおすすめだということです。
Wooldridge(2015)です。

改めてデータ分析の基礎を復習するために、岩波書店のIWANAMI DATA SCIENCE 全5巻を買いました。どこまで読めるか?何とか連休にと思っています。脳に楽をさせると退化しますので、頑張ります!



◆編集後記◆
・トランプ大統領のような脳の構造を持つ人はいますが、リーダには向きません。脳に閃いたことが次の瞬間に言葉になっている人、罷免された復興担当大臣もそうですね。

・ヨーロッパに大きなサプライズは無いようですが、隣の韓国大統領選挙ではサプライズが起こらないと左派政権が成立し、日韓関係、北朝鮮問題などが混乱する可能性があります。

・改めてスノーデンがしたこと、そしてその勇気に感動しました。民主主義を守るためには、この様な事ことを実行に移す人が必要です。日本は世界報道自由ランキングの順位を61位(2015年度)、72位(2016年度)と年々下げています。権力に忖度しすぎと評価されていますから。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-7031.php

・日本の世論調査も、調査方法を精査しないと結果を鵜呑みにできません。ほんの最近まで固定電話にかけて世論調査をしていましたから。ランダム抽出ですが、明らかに統計学の基礎的な誤りです。担当者は当然専門家ですから理解していたはずです。これが日本のメディアの実態です。何に対して忖度していたのか。

・“忖度が日本をダメにした、ダメにする”が、最近の事件を理解する鍵ですか。



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◆俯瞰 MAIL 0068号(2017年4月30日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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