トランプ大統領に振り回される世界


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表として名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々にお送りしています。このようなメールマガジンはご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さい。内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。お時間があれば章末のURLの元情報を読んでください。
過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。http://www.fukan.jp/
ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので、添付のpdfファイルを保存してタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。
既に約5000人に配信していますので“小さなメディア”になりました

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◆時候のご挨拶◆
寒い日もありましたが、もう3月です。あと20日もすれば桜ですか。
正月も1年の時間を感じさせてくれますが、花見も1年の時間の経過を感じる時です。
3月は別れの時でもあります。新しく社会に巣立つ人を見送るときです。
大学の研究室では、巣立つ学生達と晩餐を囲むことをしてきました。“最後の晩餐”です。いつも一緒だった仲間と囲むディナーは、最後になるからです。今年は昨年“最後の晩餐”をした人たちが、もう一度集まって食事をすることになりました。
大学の教員をやってよかったと思う時です。
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●トランプ大統領に振り回される世界
●気になるフランスとドイツの選択
●日本経済は分からない
●俯瞰サロン 「松島克守所長 講演“歴史を俯瞰して今を識る”」
●俯瞰のクッキング“ふるさと納税”
●2020年以降の世界5“ドローン”
●俯瞰の書棚“キャスターという仕事”
●編集後記

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◆トランプ大統領に振り回される世界◆
前回も書きましたが、選挙戦の闘いの中では過激な発言をしても、大統領になれば政治家として分別ある行動するかと思いましたが、選挙戦の延長のままで、その言動に世界中が振り回されています。

矢継ぎ早に大統領令を乱発し、今後の見通しがつかないために、各国や企業は様子見の状態に入っています。閣僚人事も、これを見て辞退する人が続出です。強硬な移民排斥は、さすがに司法判断で止められましたが、これに代わる厳格な移民対策を打ち出すと言っています。

公約通りTPPの離脱をし、 NAFTAの見直しも進め、そして地球温暖化対策計画の撤廃です。そして軍事費を大幅に増額し核兵器の強化を行い、予算は環境関係と外交関係の対外援助関係から出すと言います。 6兆円の増額です。ちなみに日本の防衛予算は総額で5兆円です。 20世紀に逆戻りする政策です。

選挙戦で出来た大きな社会の分断を融和していくことが期待されましたが、結果は大きな分断は広がるばかりです。

まず国内では、反トランプの行動が止まりません。国民がトランプ派と反トランプ派に真っ二つです。経済界も初めは融和を模索しましたが、東部の金融および中西部の伝統的な製造業と、西海岸のハイテク企業に真っ二つです。多様性のハリウッドはほとんど反トランプ派です。

深刻な分断は、トランプ大統領とメディアの対立、そしてトランプ大統領と情報機関との対立です。いずれも、アメリカの民主主義の根幹にある組織ですから、憎悪で対立すれば結果は深刻なものになります。アメリカの混乱は、日本を含めた国際社会がその影響を受けますから深刻です。諜報機関が、すでに重大な機密は大統領に伝えないと言う報道もありますが、安全保障上、由々しき状態です。

メディアとの対立はますます深刻になり、ほとんど戦争状態です。選挙中の報道によほど腹を据えかねているのでしょう。気に入らないニューヨーク・タイムズとCNNを記者会見に入れないという前代未聞の暴挙に対しては、たまりかねてブッシュ元大統領も声を上げています。これはこのままでは済まないでしょう。ニクソン大統領の弾劾は、ワシントンポストのスクープから始まっていますから。そして諜報機関との対立は、反トランプ的な情報のリークにつながるかもしれません。こうなると、ニクソン大統領弾劾と同じ構図になります。

さらに深刻な分断は、同盟国との関係です。ヨーロッパはほとんど反トランプです。しかし、ヨーロッパにもジレンマがあります。アメリカの軍事力なしではロシアと対峙できません。 NATOは、依然としてヨーロッパの安全性保証の基盤です。とりわけ、いちどはソ連に併合されたバルト海3国は、NATOがなければ再びロシアに併合されると考えているでしょう。すでにクリミア半島併合の事実を目の当たりにしていますから。

そのNATOの国防相会議にマティス国防長官が出席し、変わらぬ同盟関係を約束しましたが、各国に今年中に国防費を国内総生産(GDP)比2%まで引き上げることを要求しました。引き上げなければ、NATOのコミットメントを弱めるとしています。出来ませんからアメリカとヨーロッパの分断はさらに深まります。

そのロシアとの関係ですが、プーチン大統領と蜜月の関係を結ぶはずでしたが、それを画策していたフリン補佐官が、選挙中からロシアの外交筋と情報交換をしていたという事件で、政権内部から排除されました。石油利権でロシアと深い関係にあると危惧されていたティラーソン国務長官も動いていません。マティス国防長官は生粋の軍人ですから、ロシアに対して気を許す事はないでしょう。したがって、プーチン大統領はアテが外れたかもしれません。ただシリアにおけるISの掃討にはロシアの協力が欠かせませんから、ここで何らかの動きがあるかもしれません。

イスラエルについは、大使館をエルサレムに移すとか、 2つの国家にこだわらないなどと危険な発言をしていましたが、さすがに火薬庫にマッチで火をつけるような危険な事は出来ないと諭されたか、イスラエルによる占領地へのユダヤ人入植地の拡大は「(和平の)助けにならない」と述べ、「分別をもって欲しい」とイスラエルに注文したと報道されています。
また、米国大使館をエルサレムに移転することについては、「簡単な決定ではなく、長年、誰も決めたがらなかった。私は真剣に検討しているところだ」と語ったと報道されています。

いくつかの事例を見ると、最終的にはトランプ大統領の暴走を止める人々がいると思います。少なくとも、ペンス副大統領、ティラーソン国務長官、マティス国防長官は保守派といえども十分分別があるはずですから、トランプ大統領と補佐官が最後の一線を超える時は止めに入ると思います。いや、入って欲しいです。

中国に関しては、台湾の総統と電話会談し、 1つの中国政策を見直すと言いましたが、中国外交の背後にある力が、ひとつの中国政策を継続することにさせました。陰にあのキッシンジャーがいると言うネットニュースもありますが、偽ニュースかもしれません。

このような状況の中で、フロリダで安倍首相と晩餐会の最中に、北朝鮮がミサイルの発射実験しましたが、その国家安全保障上のやりとりを衆人環視のディナーの席で行ったことは、責任感が欠如している表れだとされ、またオーストラリアのマルコム・ターンブル首相との電話会談を一方的に打ち切って恥をかかせたことも大問題だと非難されています。オーストラリアは、この100年で4度の戦争を共に戦ったアメリカの同盟国なのですから。

こうなると、外野の方では雑音がでてきます。FTは“トランプ米大統領は本来、米国のエリート層に対する反乱を率いているはずだった。実際には、エリートの楽しみのための宴会を用意している”と厳しい論評です。

さらに、大統領に職務遂行能力がない場合の手続きを定めた合衆国憲法修正第25条第4項に則り、閣僚の過半数が賛成すれば、ペンスは「大統領代理」になれるから、解任することが可能だという話まで出ています。

ただ株式市場は、依然トランプラリーで最高値を更新しています。“最大の勝者は、ウォール街と化石燃料エネルギー産業、そして防衛産業から生まれる(FT)”と論評されています。
こうなると誰がトランプに投票したかを再確認したくなりました。

白人の支持率は58% 、所得は中流以上、年齢は40歳以上ですが、ヒスパニックの29 %がなぜかトランプに投票しています。分析によると都市部ではヒラリー・クリントンが強く、郊外ではドナルド・トランプが強いという別の分断が見えています。そして、トランプに投票した人々が現在の“トランプ劇場”をどう見ているか。

日本は安倍首相が営業マンのようなフットワークの良さと、ゴルフで日米同盟を確認してきましたが、このトランプとどこまで握れるのか、冷静に判断することが必要です。

トランプ政権、温室効果ガス撤回 大統領令発令へ 削減目標を事実上放棄
http://www.sankei.com/smp/world/news/170223/wor1702230011-s1.html?
utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
トランプ氏、イスラエルに「分別を」 パレスチナ問題
http://www.asahi.com/articles/ASK2C254QK2CUHBI003.html
中国巡るトランプ氏の立場修正、ティラーソン国務長官が尽力
http://jp.reuters.com/article/usa-trump-china-call-idJPKBN15S050
反トランプを表明し始めたシリコンバレー企業
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061700004/020200179/?
n_cid=nbpnbo_twed&utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter&ST=smart
トランプ大統領と情報機関、対立が激化 機密情報を大統領に伝えていない?
http://www.huffingtonpost.jp/2017/02/16/trump_n_14807934.html?
ncid=tweetlnkjphpmg00000001
トランプ大統領、ホワイトハウス記者会の夕食会欠席へ
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-7064.php
ブッシュ元大統領「メディアは必要」 トランプ氏を批判
http://www.asahi.com/articles/ASK2X1VS2K2XUHBI003.html
欧州はトランプ大統領に断固とした対応を、仏大統領が呼び掛け
http://www.afpbb.com/articles/-/3115844
ドイツのメルケル首相、トランプ氏の大統領令を批判「難民受け入れは国際社会の義務」
http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/31/merkel_n_14509810.html
国防相会議 NATO重視の「対価」 米、負担増で圧力
http://mainichi.jp/articles/20170217/ddm/007/030/102000c
軍事費6兆円増へ トランプ氏「歴史的拡大」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM27H9K_X20C17A2FF8000/
NATO軍事費 独仏2%負担「幻想」 財政事情が影響
http://mainichi.jp/articles/20170222/k00/00m/030/077000c
[FT]トランプ政権で上位1%のエリートはお祭りだ
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO13424080X20C17A2000000/
「ペンス大統領」の誕生まであと199日?
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/199.php
【米大統領選】誰がトランプに投票したのか
http://www.huffingtonpost.jp/yuki-murohashi/trump-president_b_12891546.html


◆気になるフランスとドイツの選択◆
4月23日のフランスの大統領選挙は、大混戦です。現職のオランド氏は人気がなく、立候補できません。

その与党の社会党も候補者を立てられません。そして、本命とされてきた保守系野党「共和党」公認のフランソワ・フィヨン元首相は、公費で家族を架空雇用した疑惑で支持が急落しています。フィヨン氏が100万ドル以上の公金を勤務実態に乏しい妻ペネロブ氏や2人の子供に給与として支払っていた疑惑が報道されています。

ここで無党派のエマニュエル・マクロン氏が人気を高めていますが、同性愛者との不倫疑惑を報道されています。

この状況の中、世論調査で極右のルペン候補が最有力となりました。ルペン候補はトランプ大統領の政策を支持し、フランス第一主義を主張しています。さすがにこの状況に、ルペン候補の当選を何としても阻止するために、中道のフランソワ・バイル元教育相は、大統領選への不出馬を表明し、中道・無党派候補のエマニュエル・マクロン前経済相に協力する考えを示しました。「われわれは極めてリスクの高い状況に置かれており、異例の対応を要する」と指摘、自身が「犠牲」となり、「マクロン氏に協力を申し出ることを決めた」と語ったとのことです。

この様相を見ると、フランス社会の持つ特異な社会構造や価値観が見えてきます。日本やアメリカとは全く異なる社会です。結婚という形を取らない家族が普通のものになり、同性愛に対しても寛大な社会です。しかし、社会の底辺には、北アフリカを中心とした多数の移民が格差の下で苦しんでいます。それがテロ多発を生んでいます。政治に参画している人と、できない人に分断されています。

最終的にはマクロン氏が勝利するとも言われていますが、すでに私たちは、英国EU離脱とトランプ大統領という、2つの“まさか”を見てきました。 3つ目の“まさか”が起こらないと言うわけにはいきません。その時にはEUは大混乱になり、ヨーロッパは想定外の混乱となるでしょう。状況は日々変わっているようですが、それに応じて金融市場は不安定な動きをするでしょう。 3月にはオランダの総選挙があります。ここでも右派勢力が勢いを増しています。3月から4月の金融市場、そして株式市場はかなり乱高下する可能性があります。

メルケル首相の勝利が確実と思われていたドイツでも、最新の世論調査によると、社会民主党(SPD)の支持率が、メルケル首相率いる保守系与党連合のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を、2006年10月以来初めて上回ったと報道されています。移民受入に反対する勢力が勢いを増しているのでしょう。移民・難民の受け入れは正論ですが、国民感情の底流はこれを拒否しているのでしょう。

歴史的にはトルコからの移民で高度成長成し遂げ、現在のドイツができたのですが。私もかつてドイツ住んだことがありますが、社会の下部構造としてのトルコ移民を認識していました。ドイツ人とは別の生活水準でした。それでもうまく共存していたと思います。しかし今回の難民は悪い形の多様性を持ったままドイツ社会に入ってきましたから、社会の安全に問題が出てきました。

日本でも、移民の受け入れを主張する人いますが、私は労働力としての移民は賛成できません。日本で生まれた移民の子供は日本人です。この多様性を、日本の社会は受け入れることができないでしょう。工場の労働者であれば、ロボットで代替できます。

生産年齢労働力については、製造業における無人化、 AIやITを活用したサービス業の生産性向上を強力に推進するしかありません。一部にAIで仕事がなくなるという議論をしていますが、 AIでできることに、貴重な日本人労働力を使うことありません。実はAIで出来る事は現段階では極めて限られていますから、仕事がなくなるという議論は無意味です。

すフランス大統領選、スキャンダル続出で混迷 極右ルペン氏勝利の可能性は?
http://www.huffingtonpost.jp/2017/02/15/france-election_n_14762504.html
フランス大統領選、ルペンがリード拡大 第1回投票世論調査
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/1-29.php
フランス大統領選、バイル氏不出馬でマクロン氏追い風 市場好感
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-7041.php
仏極右政党のルペン党首、トランプ氏による入国禁止令を称賛
http://www.cnn.co.jp/world/35095963.html
ルペン氏「真っ赤なうそ」、欧州議会の不正報酬疑惑
http://www.afpbb.com/articles/-/3118331?act=all
独社民党支持率、「メルケル与党連合」上回る
http://toyokeizai.net/articles/-/160080
シュルツSPD首相候補の登場はドイツを変えるか?
http://www.newsweekjapan.jp/morii/2017/02/-2017.php
3月投票のオランダ下院選挙戦開始 反イスラム政党が支持率首位
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/3-47.php



◆日本経済は分からない◆
下記は“生みの親・浜田氏に聞く”という記事の一部です。
--物価は2%どころか16年はマイナス。アベノミクスの失敗では?
「それは違う。物価目標達成は手段として望ましいが、もっと大事なのが人々の生活基盤となる雇用だ。失業率は低水準、有効求人倍率は25年ぶりの高水準。アベノミクスの前に戻りたい人はいない」

--手詰まりは、どう解消できますか?
「財政拡大だ。いま、私は米プリンストン大のクリストファー・シムズ教授の論文から大いに影響を受けている。金融緩和をしても、財政を引き締めたら効果は減るという。これを踏まえれば、消費税率10%への引き上げは凍結すべきだ。物価や景気の条件が満たされたら、毎年1%ずつ上げればいい。将来の日本を背負う若者の支援など、金融と財政政策の連動が望ましい」

--日本政府の借金は主要国で最悪。さらに財政再建が遠のきますが。
「国民や民間が潤うことが最重要。政府の借金は政治や経済が安定していれば将来世代に引き渡せる。国民の対外資産高は大きく、十分貯蓄している。しかも政府が借金してお金を使えば、経済が活性化してデフレ脱却も進み、税収増で戻ってくる。そういう財政再建の方が賢い」

かくして、第三次補正予算でも赤字国債を発行し、来年度予算案でも赤字国債は発行されます。その予算を執行すれば、一般会計の基礎的財政赤字は10兆8413億円に悪化する見通しです。

そして国債残高は、総額918兆4764億円で過去最高となり、残高を今年7月1日時点の総務省の人口推計で割ると、国民1人当たりでは約829万円になるといいます。

心配ないという意見があります。経済学は専門外ですが、ビジネスの常識から考えて、持続可能な国家財政ではないと思います。膨大な国の借金をインフレで帳消しできるという無責任な人もいますが、今でさえ下流老人の問題があり、インフレは年金生活者を直撃します。

確かに、アベノミクスは株価をあげました。安倍政権発足時に株を買っておけば、現在は倍近いでしょう。ですから金融資産を持っていた富裕層は潤っています。格差が広がる一番簡単なモデルです。給与所得は伸びていますが、ごくわずかです。正規雇用者と非正規雇用者の格差が大きく、しかも非正規雇用者が増えていますから、さらに格差が拡大していると思います。

この格差の拡大は、いろいろな社会問題を生んでくると思います。若者たちが政治に目覚め、声を出すと言うことが必要ですが、これがアメリカ、ヨーロッパで起きている現象につながることになるかもしれません。日本人は本当に穏やかな民族ですね。

アベノミクスに手詰まり感? 生みの親・浜田氏に聞く
http://www.asahi.com/articles/ASK225JV7K22ULFA01Y.html
17年度予算案を可決=衆院予算委
http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN1660CH.html
給与所得者の数や所得税額をグラフ化してみる
http://www.garbagenews.net/archives/2228545.html
「国の借金」1053兆円 国債残高、過去最高に
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS10H20_Q6A810C1EE8000/


◆俯瞰サロン◆
第40回俯瞰サロン 2017年3月13日(月)開催
松島克守所長講演「歴史の俯瞰で今を識る」

俯瞰サロンは40回目を迎えました。今回は私が講演します。
悠久の歴史から学ぶことは多いが、今を識るためには現代史を俯瞰する必要がある。1900-1945は「現代」の基層が形成された時代である。1945-2000は一つ前の「現代」である。第二の基層となった。そして「今」は2000-2017である。テクノロジーと産業は1900-2017に断層はない。今回はこの辺を一緒に議論していきたい。
日 時: 2017年3月13日(月)18:30-20:00 (18:10 受付開始)
主 催: 俯瞰工学研究所
会 場  東京都港区港南2-15-4
     品川インターシティホール&貸会議室 会議室5
http://sic-hall.com/access/
★参加費:講演会のみ 1,000円★
定 員: 50名程度
    (定員に達し次第、お申込みを締切りますので、ご了承ください)



◆俯瞰のクッキング “ふるさと納税◆
最近、東京から“ふるさと納税”で税収が地方に流出して困る、返礼品競争がおかしいという議論がありますが、もともと東京には税金が集中しています。ですから、都知事や議員の大名旅行が横行し、6,000億を使った築地から豊洲への移転が漂流することになります。“ふるさと納税”は東京から地域へ税収を移算する、いい仕組みだと思います。地域の産品を直接消費者に売ることにより、生産者と生活者がwin winの関係になります。

以前から気になっていました。昨年は色々やってみました。結果、返礼品についていろいろ勉強ができました。結論から言うと、生の海産物はあまり向きません。届く日と食べる日をうまくマッチさせないといけませんから。冷凍食品ですと冷凍庫に置いて好きな日に食べられます。そして意外と割高です。

お米はすごく割安で、結果として我が家はお米を買うことが無くなりました。実は発注を誤って大量の玄米が届いてしまいました。ですから、家庭用の精米機を買いました。これが意外と当たりで、冷蔵庫の野菜室に玄米を貯蔵し、炊飯する直前に精米します。おいしいです。玄米ですと長期保存が可能です。

霜降りの和牛の返礼品はたくさんありますが、脂の多い肉は苦手です。切り落としの方が使いまわしが出来ます。豚肉はシャブシャブ肉と切り身が使い勝手がいいですね。これはかなり割安です。スペアリブはもっと割安です。

鹿児島のうなぎの蒲焼7尾はよかったです。最近高価ですから、長らく食卓から遠ざかっていましたが、このおかげで好きな時に食することができます。

明太子も比較的高価な食品ですので“ふるさと納税”で求めましたが、塩分が多いのであまりたくさん求めることはできません。

焼酎や日本酒も保存が効くので“ふるさと納税”に適しています。
今年は納税額を見ながら最適な“ふるさと納税”をしていきたいと思います。


◆2020年以降の世界5 “ドローン”◆
Amazonがドローンで宅配をするというプロジェクトを発表したのは、ほん少しの前だったという感じですが、ドローンはものすごい勢いで広がっています。“既に起こっている未来”そのものです。日本でも各地で実証実験が行われています。ともかく安倍晋三首相も国家戦略特区諮問会議で、自動運転やドローンの分野での技術革新が規制制度に阻害されないよう、手続きなどを抜本的に見直す「サンドボックス制度」を創設する考えを示し、今国会に提出する改正特区法案に盛り込む方向だと発言したと報道されています。幸いUberと違って既得利権を持っている業界がないので、活用はスムーズに進むでしょう。

しかし、あまりにも日本は出遅れています。経済産業省がドローンの国際規格を日本から発信したいと言っていますが、本当にリーダーシップをとるのか疑問です。

この分野は中国はものすごい勢いで産業化しています。ドローンの有力ベンチャーは中国のベンチャーです。すでに産業になっている感じです。最大手のDJIは日本にも拠点があります。水素燃料を積んで長時間飛行ができるドローンも開発されています。自動車の水素燃料車はドンキホーテのようなものですが、水素燃料のドローンは正統派です。

むろん各地で墜落事故を起こしています。ですから、これから社会システムとしてドローンの活用を作り込んでいく必要があります。

ドローンの活用は無限大にあります。空撮と言う応用は当たり前ですが、すでに農薬散布などは実用化しています。ドローンの最初の実用化は軍事でした。アフガニスタンやイラクで米軍が使っています。しかもアメリカ国内で操縦しています。

いろいろな議論が出てくると思いますが、ともかくもっと早く、もっと広くドローンの活用を推進する必要があります。残念ですが自動運転に続きドローンも日本は一周遅れです。モノづくりの日本、技術力がある日本という“うぬぼれ”が、既存の技術分野に閉じこもり、改善という自虐的なイノベーションを追求してきたのではないでしょうか。

やっていいこと、すなわちポジティブリストの日本では、改善は安心して推進できます。そして有言実行という、言った事はやれ、ですから、出来るコトしか提案しません。これはイノベーションを起こさせないという縛りになります。ですから、ロケット再利用のような発想が生まれてきません。

もっと自由な、縛りがない社会環境を作っていかないと、日本の未来はありません。 2020年以降の世界ではドローンは当たり前のものとして実装されるでしょう。

ところで、日本にはすでにドローン大学校が存在することをご存知ですか。東京のお台場にあるのです。ドローンの運転教習所です。既に開講していますから入学できます。新しい職業、ドローンパイロットですか。

自動走行やドローン、技術革新が阻害されない環境整備を=安倍首相
http://jp.reuters.com/article/drone-abe-idJPKBN1600VE
ドローンの自動飛行を実証実験 荷物輸送など目指す
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170228/k10010893061000.html
MMC、水素燃料ドローン「HyDrone 1800」新バージョンを発表
http://www.drone.jp/news/20170227141321.html
DJI、産業用ドローン「MATRICE 200シリーズ」を発表
http://www.drone.jp/news/20170227175906.html
DJI (会社)
https://ja.wikipedia.org/wiki/DJI_(%E4%BC%9A%E7%A4%BE)
中国、新型軍事ドローンが国外から過去最大の受注
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-
7078.php
しJUIDA認定校ドローン大学校、スクール修了生を対象にティーチングアシスタントプログラムを発表!
http://dronecollege.ac/



◆俯瞰の書棚 “キャスターという仕事◆

ご存知のように国谷裕子さんは「クローズアップ現代」のキャスターを23年間続けて、何らかの力で解任された人です。この本は国谷裕子さんがキャスターに成長していくドキュメンタリーでもあります。帰国子女で日本語が苦手と言いながら、躍動的で、国谷さんから直接お話を聞いているような素晴らしい日本語です。
冒頭は、ニューヨーク・タイムズの記者でベトナム戦争のレポートで、ピューリッツァー賞を受賞したアメリカのジャーナリストのデイビッド・ハルバースタムの言葉から始まります。 「テレビが伝える真実は映像であって、言葉でないということです。テレビが伝える内容は単純で、複雑なことは伝えません。複雑な政治問題や思想、様々な行為の重要性について伝えることができないのです」
彼は単にベトナム戦争の映像ではなく「言葉の力」でTVメディアがベトナム戦争を終わらせたと評価されたのです。彼女が強く認識したのは、この番組では「言葉の力」がキャスターに求められる要件だとしています。イラク戦争のバクダット空爆を見ていても、今バグダッド市民はどうなっているだろうという情報は提供されず、映像は想像力を奪ってしまうほどパワフルだとあります。

彼女はテレビ報道に3つの危うさがあるといいます。
1事実の豊かさを削ぎ落してしまう、危うさ
2視聴者に感情の共有化、一体化を促してしまうという、危うさ
3視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまうという、危うさ
です。

わかりやすさを追求しすぎると事象や事実の深さ、複雑さ、多面性を削ぎ落とす危険性があるというのです。

感情の共有化については、 9.11で、繰り返し映像を見たアメリカ国民は、憎悪と復讐に燃えた一体感を共有し、冷静な判断力を失ったとあります。それを利用して、ブッシュ大統領はイラク戦争を始めたかもしれません。何しろ、ヒラリー・クリントンもイラク戦争開戦決議に賛成しています。

そして、この時この視聴者の一体感に寄り添って報道を続けたFOXテレビが視聴率を急速に上げると、他の放送局もその方向に追随するようになっていったとあります。怖いですね。
クローズアップ現代が目指したものは、情報をせき止めニュースの底流にある意味と変化を見つめることだとありますが、 「情報をせき止めて底流にある意味と変化を見つめる」は印象に残りました。この俯瞰メールの冒頭部分のニュースに関するものはまさにこの仕事をしてきたのだと認識しました。むろんこれは私自身のための仕事で、それを俯瞰メールの読者の方々と共有しているわけですが。
今まであまり意識していませんでしたが、クローズアップ現代は次の構成をとっています。まず短い映像とコメントによるテーマの紹介、それに続くキャスターによるコメント、その後映像レポート、そしてスタジオでのゲストとキャスターの対談、その後また映像レポート、再びゲストとキャスターの対談で締めくくります。

キャスターの役割は4つあり、まず視聴者と取材者の橋渡し役です。ですからアメリカの番組ではキャスターという言葉はなく最後にバトンを渡す「アンカー」です。

次は原稿を正確に伝えるアナウンサーではなく、視聴者に「自分の言葉で語る」ことです。

3つ目は「言葉探し」です。出来事を前にしてそれをどう言い表すか、という言葉を見つけないと届かないということです。そしてその言葉と映像が結びついた時人々に概念が伝わるとあります。

そしてインタビューです。
インタビューをもの凄くこなしていますから、インタビューの技術が学べます。
まず「聞く」と「聴く」の違いです。相手の話の細部まで注意深く丁寧に「聴く」ことが重要だが、その人全体が発するメッセージを丁寧に「聞く」力を見失なってはならないということです。
ボディランゲージをきちっと受け止めることです。このためには、自分のインタビューのシナリオに気を取られ、頭の中は「次に何を質問しようか」ということばかりになると、「聞く」ということができなくなるので、インタビューでは準備も重要だが、実際にインタビューの場面になったら、一旦準備で得たもの全て捨てなければならないとあります。
含蓄がありますね。

そして、相手に嫌がられても聞くべきことを聞く、しつこく聞くとあります。
石原慎太郎都知事のインタビューでは、突っ込んだ質問に対し、相手から切り返され、初めて額にあぶら汗をかいたとあります。
ですから、準備は徹底的にするが、あらかじめ想定したシナリオを捨てることがインタビューのプロの仕事です。
問いつづけること、という章の作家の村上龍さんとの対談で、彼が「日本は自信を失いかけているときに、より一体感を欲する。それは非常に危険だ」と言っています。彼女はこの数年、流れに逆らうことなく、多数に同調しなさいと言う風圧が高まっているのではないかと指摘しています。
ものすごく大勢の要人とのインタビューをこなして来ていますが、結果として降板の遠因になったと考えているインタビューは、4つあります。

キャロライン・ケネディ大使とのインタビューにおいて、当時は安倍首相の靖国神社参拝に関し、アメリカ大使館は失望するというコメントを出し、それに関するNHKの会長の歴史認識の発言に対しても、アメリカ側から批判の声が上がっていた、難しいタイミングのインタビューでした。
その冒頭で「日本とアメリカの関係は、安倍政権の1人、それにNHKの経営委員や会長の発言によって影響を受けていると言わざるをえません。・・・・ 」これは彼女がフェアーなインタビューを目指すためにあえて口にしたそうです。即ち、日本側に問題があると認めてからインタビューをしたわけです。ケネディ大使は「アメリカ大使館のコメント通りです」と答えていますが。

次は「集団自衛権 菅官房長官問う」。
ここでは、しつこく集団的自衛権の行使について質問していますが、残り30秒を切ったところで、つい質問をした結果、官房長官の話の途中で番組が打ち切られたことがあり、首相官邸の不評を買ったと報道されたようです。 「聞くべき事はきちんと聞く、繰り返し聴く」ですが、なぜ残り30秒で質問を発してしまったか、私のミスだったとあります。

3つ目は、沖縄基地番組の報道で、彼女は徹底的に沖縄県民の目線でインタビューしました。ひめゆり学徒隊38人の70年を描いた「最後の同期会 ひめゆりたちの70年」です。そして直接テーマとは関係ないが、普天間基地、辺野古に触れないわけにはいきません。結果として生き残りのゲストの島袋淑女子さんの言葉は当然ですが、戦争の準備はやめてくれです。微妙な時期に最も困った報道になったのでしょう。
4つ目は「出家詐欺 狙われる宗教法人」で、いわゆるヤラセの映像が放送倫理検証委員会より違反とされたことです。
何度もスタッフと映像を見ていながら、なぜそれを見破れなかったかということを悔やんでいます。彼女だけの責任とは思いませんが、キャスターと言う仕事は難しいですね。

ジャーナリズムの機能は、第一義的には権力の監視機能ですが、社会的弱者に対する感受性を発揮して、社会全体がその痛みを共有できるようにすることもジャーナリズムの重要な役割だとしていますが、同感です。私も、経済格差が拡大する中で広がる、シングルマザーたちの貧困化や子供の困窮化を知ることができました。「暗いつぶやき」を拾い上げていくことが、報道番組の役割だとあります。同感です。

最後の章に、国連総会に行きSDGs(持続可能な開発目標2030アジェンダ)に出会った時の情報が重要ですので、紹介します。
このSDGsが登場した背景は、地球が持っている人類の生命維持機能が限界にきているという認識、このままでは地球というシステムが崩壊してしまうという危機感です。中心人物の言葉が凄いです。「地球は私達人間なしでも存続できますが、私達は地球なしでは存続できません。先に消えるのを私達なのです」

しかし、トランプ政権はこの戦線から離脱しました。世界のリーダーシップを核兵器の増強で追求するというのです。

そして2015年の暮に、契約更新をしないと言われて、国谷裕子のキャスター生活は終わりになります。

ご興味ある方はご一読をお勧めします。といつもは締めますが、今回はぜひ読んで、私が受けた感動を共有してください。

改めて、最近のクローズアップ現代を見ましたが、似て非なる番組でした。わさび抜きの寿司ですか。



◆編集後記◆
●トランプ政権の迷走は止められないのか、最低限の歯止めがあることを祈ります。
●ここにきてヨーロッパの不確実性が一気に高まりました。あのメルケルが選挙で負けるとEUはガタつきます。幸い大統領選挙ではないので連立維持もあります。
●フランス大統領選挙は本当に怖いです。さすが我が身を犠牲にしても混乱を阻止する人が出てきましたが。
●記事として論評しませんが、韓国の現状も危機的な状況です。大統領選挙の前にTHAAD(高度防衛ミサイルシステム)の実装を終わらせることは、米韓で握りができているようです。韓国に友人も何人もいますので、個人的にも気になります。
●書類を捨てる、PKOの日報、国有地払下げ、これって当事者が有ってはまずいという確信犯的な行為で、墓穴を掘ることになります。人間の業(ごう)ですか。安倍首相が指名されなくても代わりに国会答弁をしなくてはならない、稲田防衛大臣、金田法務大臣を見ると、任命責任はどうなっているのかとなります。稲田大臣に至っては、三軍の長の自覚があるのかと首をかしげます。そして靖国参拝?大臣の資質ではありません。


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◆俯瞰 MAIL 0066号(2016年2月28日)
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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