見えてきたトランプ政権


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表として名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々にお送りしています。このようなメールマガジンはご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。お時間があれば章末のURLの元情報を読んでください。
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◆時候のご挨拶◆
気が付けば師走です。冷え込んできました。株式市場も上昇を続け、東証も2万円に迫る ところまで来ましたが、先行きには誰もが不安を感じています。東芝の巨額損失、電通社長の辞任と、日本社会の弱い部分が顕在化しました。 1月20日のトランプ大統領の就任式に向けては、不安と期待が交差します。しかし、希望に満ちた新年が来ると、明るく正月を迎えましょう。
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●見えてきたトランプ政権
●日ロ会談に見る安倍外交の危うさ
●小池都政の150日
●俯瞰サロン「日本のドローン事情とビジネスの展望」
●アメリカ西海岸新紀行
●俯瞰のクッキング“鯖のへしこ”
●2020年以降の世界3 “・・・し放題”
●俯瞰の書棚 「つながる脳科学」 
●編集後記

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◆見えてきたトランプ政権◆
トランプ次期大統領は、来年1月20日の就任に向けて、主要な人事を決めました。

まず側近として、大統領首席補佐官にラインス・プリーバス共和党全国委員長を、首席戦略官・上級顧問には大統領選で陣営の最高責任者を務めたスティーブン・バノン氏を、国家安全保障を担当する大統領補佐官に、マイケル・フリン元国防情報局長官を指名しました。

閣僚はほとんど財界人、元軍人、共和党保守派です。 筆頭閣僚とも言える次期国務長官に、エクソンモービルのレックス・ティラーソン会長兼最高経営責任者(CEO)を指名しました。共和党主流派と連携するために、前の大統領候補で元マサチューセッツ州知事のミット・ロムニーの就任が取りざたされましたが、結局、政権移行チームの中で議論の末、この人選はなくなったようです。

経済閣僚は、商務長官に、知日派で投資家のウィルバー・ロス氏、財務長官は元ゴールドマン・サックス幹部のスティーブン・ムチューチン氏、米国家経済会議委員長にゴールドマン・サックス社長兼最高執行責任者のゲーリー・コーン氏を指名しました。

安全保障の閣僚としては、国土安全保障長官にジョン・ケリー氏が、国防長官には「狂犬」の異名を持つジェームズ・マティス氏、国家安全保障担当大統領補佐官には元情報将校のマイケル・フリン氏が選ばれました。次期CIA長官に陸軍士官学校を卒業の共和党保守派のマイク・ポンペオ氏が起用されています。

経済閣僚はいずれも大富豪が多く、安全保障は制服組の軍人です。いずれもかなり攻撃的な人物のようですから、今後いろいろなサプライズも想定されますが、今あれこれ考えても仕方ありません。ただ共通していることは、スタッフの情勢分析と結論を聞き、実行するかしないかを決断する仕事のスタイルですから、独裁的なプーチン大統領や習近平主席とは違うと思います。したがって、ある程度分別がある政策が実行されるのではないでしょうか。

この閣僚以上に、トランプ次期大統領に影響力があるのは、娘のイバンカさんとその夫のジャレッド・クシュナー氏ではないかと言われています。ジャレッド・クシュナー氏は正統派ユダヤ教徒で、妻のイバンカさんも結婚前にユダヤ教に改宗し、クシュナー家ではユダヤ教の戒律に従った食事をとり、安息日を守り、ニューヨークのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝堂)に通っているとのことです。すなわち、イスラエルに対する強い支援の行動が予想されます。すでに、国連の安全保障理事会がイスラエル非難の決議をした際に、オバマ政権が拒否権を行使せず決議が採択されたことに対し、トランプ次期大統領は怒り狂っています。日本はちなみに棄権したようです。

ロシアのプーチン大統領とは共に核兵器を増強し、再び米国とロシアがスーパー大国になって国際関係を仕切るような共通感覚でしょうか。したがって、このフレームワークの中で中東情勢を処理することになるかもしれません。ただ中東情勢は複雑で、イランとイスラエルの対立があるなか、新政権がイランとの核合意を解消するようなことがあれば、一気に中東情勢は緊張します。これを仕切るのはロシアで、アメリカはこれを追認するということになりそうです。シリアのアレッポのアサド政権による制圧がその第一歩で、ロシアとトルコの主導でシリア内戦の停戦が始まります。アメリカは蚊帳の外です。ヨーロッパは問題山積で、それどころではありません。

中国に対しては、習近平主席の長年の友人を中国大使に任命し、ソフトなインターフェイスを持つ方向でしたが、トランプ次期大統領は中国の為替や貿易に対する厳しい発言を繰り返し、中国が絶対に認められない2つの中国のカードを切ると、我慢の限界を超えたようで、南シナ海でアメリカ海軍の無人探査機を目の前で強引に回収し、加えて空母艦隊を西太平洋に進出させました。これに対してトランプ次期大統領は、さらに反発しました。極めて危険な状況です。

日本は、このタイミングで安倍首相が真珠湾訪問を行い、オバマ大統領と堅固な日米同盟をアピールしました。加えて、台湾における事実上の日本政府の外交拠点である「交流協会」を「日本交流協会」と1月から改名すると発表すると、中国政府は激怒しました。ここまでくると、中国が何か日本に対して行動を起こす可能性があります。極めて危険な状況と言えます。台湾海峡も緊張が高まるでしょう。

トランプ次期大統領は、就任初日に実行する政策を発表していますが、TPPからの離脱、金融政策の緩和、エネルギー政策の規制緩和などが予定されていますが、それ以外は不明です。誰も、トランプ次期大統領に選挙公約を完全に履行して欲しいと思っていないでしょうが。

ともかく1月20日からは新しい世界が始まりますが、その世界が日本にとって好ましいものか厳しいものか全く予想がつきません。ただアメリカに寄りかかる事は出来ません。安全保障も“戦争放棄、不戦の誓い”だけではすみません。

トランプ政権の閣僚をまとめてみた
http://www.outward-matrix.com/entry/2016/12/24/140507
トランプを支えるアイン・ランド信者の正体
http://toyokeizai.net/articles/-/150766
トランプを大統領にした男 イバンカの夫クシュナーの素顔
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/11/post-6381_1.php
トランプ氏怒る イスラエル巡り米が拒否権使わず
http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000090813.html
トランプ氏、中国空母に鉄槌!
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20161227/frn1612271130003-n1.htm
トップに対中強硬派=国家通商会議を新設?トランプ氏
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016122200112&g=int
日本の対台湾窓口機関、1月から名称変更 中国は不快感表明
http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKBN14H0LU.html
トランプ次期大統領就任式、数十万人規模のデモ計画
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM27H5E_X21C16A2000000/


◆日ロ外交に見る安倍外交の危うさ◆
プーチン大統領が11年ぶりに来日し、安倍首相の郷里の温泉旅館で裸の付き合いを強調し、東京でも長時間首脳会談をしましたが、結局領土問題に対して何の進展もありませんでした。まさに“大山鳴動して鼠一匹”と国民は受け止めているでしょう。自民党幹事長すら、落胆と不満を隠していません。

そもそもこの始まりは、今年の5月のソチにおける日ロ首脳会談です。そこで安倍首相は新しい発想と言うことで、経済協力を提案しました。当然プーチン大統領は前向きに歓迎しました。ここで安倍首相は、領土問題の扉が少し開いたと感じたでしょう。

次に9月にウラジオストクで日ロ首脳会談を行い、経済協力についてさらに具体的な提案を行い、そのプロジェクトの進捗を定期的に日ロ首脳会談でフォローしようという提案でした。ここで、さらに領土問題の扉は広く開いたと思ったかもしれません。しかしロシアはこの時点では北方領土の実効支配を強化し、経済を優先し領土問題は棚上げする姿が報じられています。

しかし日本は、領土問題の進展に対する期待を膨らませ、官民ともに領土問題に進展があると勘違いして、その成果を持って安倍首相が年末、もしくは年始に総選挙をするのではないかと、ある意味ワクワク感を持ってしまいました。

そして11月ペルーで行われたAPEC首脳会議に際して、プーチン大統領と首脳会談を行い、 12月15日に首相の地元の山口県で首脳会談をすることを確認しました。そして会談後、首相は記者団に領土交渉の進め方について、「道筋が見えてきた」と述べた上で「その手応えを強く感じとることができた会談だった」と語ったと言われています。

12月の来日前にプーチン大統領は読売新聞と日本テレビのインタビューに対し、 「北方領土については、領土問題は存在しない」と言いながらも、1956年の日ソ共同宣言の歯舞・色丹の引き渡しを認めつつも、それも無条件ではないと言う「2島-α 」の立場を示し、4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの日本の立場を、「まったく別の話」と牽制しました。この段階でプーチン大統領は、12月首脳会談で領土問題が進展することはないとクギを刺したわけです。

そして12月の首脳会談の結果はご存知の通りです。少し丁寧に時間軸に沿ってニュースを見直してみましたが、領土問題の進展と言う期待は日本の独り相撲で、プーチン大統領が空手形を出してわけではありません。逆にプーチン大統領の立場に立ってみれば、北方四島を返す理由をロシア国民に説明できません。ヤルタ協定で第二次世界大戦後の終戦処理として、千島はソ連領となることが認められています。ただ歯舞・色丹については千島列島の一部か北海道の一部か微妙なところがありますから、日ソ共同宣言で歯舞・色丹の返還を認めたのでしょう。ですから、プーチン大統領が切れるカードは「2島-α」しかありません。

安倍首相は、外交は得意と言っていますが、この日ロ外交のプロセスを見ると、外交能力も危ういですね。首相の周辺で外交政策を支えているスタッフは、何を考えているのか理解できません。単に首相の首脳会談という、ひとりよがりの首脳外交を見て見ぬふりをしているのでしょうか。

一連の日ロ交渉で、日本の主張する北方領土問題は存在せず、「2島-α」を「2島+ α」に変えることが現実解であることを認める必要があります。絶対に認めないと言う人がいる事は、承知していますが。

北方領土 その歴史的経緯
http://www.sankei.com/main/topics/main-32812-t.html
ソチ日露首脳会談 首相、露に経済協力を提示
http://mainichi.jp/articles/20160507/k00/00m/010/078000c
ウラジオストク 安倍晋三首相の日露首脳会談定期化提案
http://www.sankei.com/politics/news/160903/plt1609030023-n1.html
安倍晋三首相「領土交渉の道筋が見えた」 11月、ペルーで再会談 
http://www.sankei.com/politics/news/160903/plt1609030004-n1.html
囁かれる「クリスマス総選挙」 北方領土問題に進展ありか?
https://dot.asahi.com/wa/2016092100214.html
ロシア・プーチン大統領 特別インタビュー
http://www.news24.jp/articles/2016/12/13/04348989.html
日ロ首脳会談、領土成果なく肩すかし
http://digital.asahi.com/articles/ASJDJ5W10JDJUHBI029.html?rm=369
自民幹事長「国民がっかり」=日ロ交渉に異例の不満
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016121600877&g=pol


◆小池都政の150日◆
小池都政も150日を超え、小池劇場と揶揄されるドラマチックな展開が続いています。 まず豊洲移転の延期の決定では、盛り土がされずに地下に空洞があることをさらけ出し、その責任を厳しく断罪しました。続いて野放図に膨れ上がるオリンピック施設の建設予算に対し果敢にチャレンジし、結果としては当初計画で押し切られましたが、大幅な予算削減を実現しました。これについてはネガティブなコメントもありますが、私はオリンピック組織委員会に一矢報いたと評価していいと思います。

次に、東京都の予算にあった200億円の意味不明な都議会の自由裁量の予算枠を削り、予算編成の見える化を推進しています。ここまでくると都議会自民党は我慢ができず、質問を事前に伝えず、小池知事が質問につまるとヤジを飛ばすような卑しい振る舞いをしましたが、「自民党は有明の利権が欲しいんだろ!」と傍聴席から声がかかると、自分たちの振る舞いが都民にどう見られているかハッと気がついたようで、静まりかえったと言われています。

そしてカジノ法案について、公明党が自主投票をせざるを得ないような状況下で、会期を延長して強引に法案を成立させたことで、公明党も自民党に対し少し引き気味になり、都議会では自民党と袂を分かち、小池都政を支援する方向になりました。加えて除名問題に端を発する自民党内部の分裂は、 3人の当事者ではなく、選挙基盤の脆弱な3人の都議会議員が自民党を離党し、小池与党の党派を作りました。

ここまでくると小池劇場も面白い展開になりそうです。次の都議会選挙では小池塾の新人を小池与党として立候補させ、あの“緑の軍団”を使って自民党に攻勢を掛ければ、自民党は大きな敗北をする可能性があります。選挙では、自民党は改革の抵抗勢力のイメージになります。この流れは多分止められないでしょう。

当初は単なるポピュリズムのような目で小池さんの立候補を見ていましたが、ここまでくると「小池さんで良かった」と思います。伏魔殿の東京都政を、きっと改革してくれるのではないかという期待が生まれます。

小池百合子都知事に、内田茂氏率いる自民党都議団が“奇襲”も傍聴席の一般人が応戦
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12205-26063/
小池知事の広尾病院移転「白紙」方針 都医師会理事が歓迎
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201612/CK2016122702000127.html
小池百合子新都知事についての特集ページ
http://www.asahi.com/senkyo/tochijisen/koikeyuriko/
小池都知事、自民離脱の3都議と連携へ「勇気に報いる」
http://www.asahi.com/articles/ASJDX5QRHJDXUTIL03J.html


◆俯瞰サロン◆
第38回俯瞰サロン2017年1月24日(火)開催 
ドローン大学校 理事長 名倉真悟さんに聞く「日本のドローン事情と、ビジネスの展望」

ドローンを取り巻く話題は、その開発からビジネスでの応用、法規制と多岐に渡り、急速に進展しています。2017年、新年最初の俯瞰サロンでは、ドローン大学校代表理事の名倉真悟さんをお招きし、日本のドローン事情とビジネスの展望を伺います。

日 時: 2017年1月24日(火)18:30-20:00 (18:15 受付開始)
主 催: 俯瞰工学研究所
会 場  東京都港区港南2丁目14番14号
     品川インターシティフロントビル 6階
★参加費:講演会のみ 1,000円★
定 員: 40名程度
    (定員に達し次第、お申込みを締切りますので、ご了承ください)
懇親会: 講演終了後に懇親会を開催します。
     参加費用は、別途 3000円程度。
     ※会場準備の都合上、懇親会への参加の有無も
      ご提示ください。
主 催: 一般社団法人 俯瞰工学研究所 http://www.fukan.jp/
申込みは、https://www.fukan.jp/俯瞰サロン/から。
日程・内容は予告なく変更されることがありますのでご容赦ください。



◆アメリカ西海岸新紀行◆
12月の上旬にアメリカ西海岸の視察旅行に行きました。昨年と同じ、ある企業のマネジメント研修のいわば修学旅行です。やはりアメリカの西海岸は依然として時代の先端を走っていると思いますから。

まずロサンゼルスに入りTEDxLA: Imagineに参加しました。プレゼンテーションのコンテストです。今回のテーマImagineです。時間の関係で半日しか参加しませんでしたが、ネットで見るものと、ほとんど同じです。発表者は、素人のようなレベルからプロフェッショナルのようなレベルまで色々です。しばらく聞いていると、あることに気が付きました。会場の聴衆の大半が白人で、 3割ぐらいが東洋系でしょうか。ほとんど黒人がいませんでした。また参加費用が高いので、若い学生はほとんどいませんでした。これが西海岸の前衛のセグメントなのでしょうか。 Googleも白人が優勢だと、たびたび非難されています。

次にポートランドに行きました。ポートランドは住みたい街ナンバーワンを長年続けています。高層建築がほとんどなく、中心部が再開発されて生活の場と仕事の場、そして楽しむ場所が同じエリアにあります。

中心部に高層ビルのオフィスがあり、その外に工場があり、そして離れた郊外に住宅地があるという、アメリカの典型的な都市開発とは違います。自動車がなくても路面電車や自転車で移動ができます。ナイトライフも楽しめます。そして、その新しい街にはクリエイティブクラスと呼ばれる時代感覚の高い人たちが集まり、クリエイティブな仕事を始めます。その人材を活用するために、ナイキのような大企業もオフィスを構えます。そして街が環境汚染することなく経済発展していきます。この好循環が、都市再生のモデルになっています。

富山市はこのポートランドと姉妹都市の関係にあり、このモデルを使って見事な都市再生を成し遂げました。

この後、サンフランシスコおよびシリコンバレーに移動しました。自動運転の電気自動車で先頭を走るテスラの工場を見学しました。この工場は、かつてトヨタとGMが合弁で自動車を生産していた巨大な工場です。まず工場内部は床と天井が白い塗装で、床を含めて清潔です。テスラは鋳物やスティールを使っていないので、工場が汚れません。ロボットが多数、動いていました。サプライチェーンが整備されてないようで、広い工場の あちらこちら部品が積まれていました。これからチューンナップすれば、かなりの増産が可能でしょう。テスラを購入して引き取りに来る人は、この工場ツアーを楽しんだ後、車に乗って帰るようです。

いつものようにシリコンバレーに暮らす研究室のOB達と会食をしながら、最近の状況を聞きました。熾烈な競争で疲れているようです。ともかく結果主義ですから。勤務時間は特に決まっていませんが、結果として自宅でも“オン”の状態が続くとのことです。勤務時間が決まっていて、その時間内に仕事を片付けると言う働き方は難しいです。会社でしか仕事ができないような環境作り、時間内に残業しないで仕事をする、という最近の日本の動きを見ていると、それで仕事ができるのか疑問を持ちます。やはりいつでもどこでも仕事ができる環境がないと、仕事と生活の調和と最適化ができません。セキュリティが? という人はセキュリティの技術が分かっていない人です。

スタンフォード大学の中にあるSAPのD.schoolを見学しました。デザイン・シンキングに基づく学生の起業家塾ですね。企業が積極的に大学の中で教育プログラムを展開しています。直接的なリターンを求めることをしません。この辺もシリコンバレーの奥行きでしょうか。結果としては、大きなリターンが地域経済に還元されます。SAPは顧客企業向けにデザイン・シンキングのワークショップも開催していて、日本からも参加が多いようです。

デザイン・シンキングとは、一言で言えばニーズドリブンです。生活者の行動を観察し、真の問題点とニーズを発掘し、その中から新しい事業機会を探る方法で、シリコンバレーの思考プロセスの標準と言われています。UberやAirbnbもこれから生まれたのでしょう。シーズからマーケティングを考えるのとは、逆の発想のです。

現状の問題点を徹底的に分析してシステム開発を計画するCPSという手法を、何十年も前にIBMでやっていましたので類似性が高く、その効果は理解できます。個人的にもこの手法で大きな営業成果を上げました。

シアトルに飛んでマイクロソフトとボーイングの工場を見学しました。何度見てもボーリングのエバレット工場は迫力あります。地球最大の工場としてギネスに認定されているようですが。マイクロソフトのビジターセンターは酷いです。

最新鋭の787、そして777、747が組み立てラインで生産されています。この3つのラインを見れば、航空機の組み立て工程の進歩が一目瞭然です。最新鋭の787は大きなモジュールで搬入され組み立てられていきます。かなりの部分は日本から納入されます。大きなモジュールは特別に改造された大型の747で日本から運ばれてきます。

レントン工場にも行きました。737が量産されています。ボーイングの型番の真ん中の数字は、その航空機が開発された順序ですから737は現在生産されている中では1番古い機種です。技術革新を取り入れてバージョンアップされていますから、古い設計を作り続けているわけではありません。現在は787が最新の開発機種です。次は797ですが、その後はどうなるのでしょうか。

この後アマゾンの新しいオフィスを見学しに行きました。 Amazonはシアトルが本拠です。因みにStarbacksもシアトルで創業しました。今や観光スポットになっている1号店にも行きました。

アメリカの多くの企業は、街の外に巨大なオフィスを建設していますが、 Amazonはシアトルの中心部のたくさんのビルを借り上げ、分散型の本社を形成しています。従ってAmazonは、シアトルの中心部に数万人の雇用を創出しています。このモデルもAmazonのジェフ・ベゾスの凄さを見せつけます。シアトル中心部は当然活性化します。これぞ地域振興の1つのモデルでしょう。オフィスの中は、いろんなスタイルで働くことができるような工夫がされています。

そのオフィスの1階部分に、“レジでの決済不要で、棚から取り出した商品をそのまま持ち帰ることができる”というコンセプトストアの実験である“AmazonGO”の店舗がありました。実証実験中ですので限られた会員しか中に入れませんが、道路に面して大きなキッチンがあり、店舗で料理を作りサービスする機能もあるようです。

この旅行中にUberとAirbnbも積極的に試しましたが、西海岸では完全に社会の中に埋め込まれたインフラです。 Uberのためにか、複数のタクシー会社が倒産したとのことです。日本はタクシー会社を倒産させないために、当局が一生懸命努力してUberを規制しています。 民泊も宿泊業者を保護するために最低2泊3日とか、年間営業日を制限するなどの規制をかけていますが、成長を続けるアメリカと成長できない日本の根本的な構造が見えています。

ともかく日本の当局は、自分の縄張りの企業の保護者という立場を死守しています。消費者の利便や国全体の成長は、二の次かもしれません。ですから、いくら内閣が経済成長の旗を振っても、新しい時代の事業を志す人の足にくびきをつけますから、新規事業は伸びません。既存の業界にインパクトを与えない、おとなしい事業だけが新規事業として認められるわけです。こうして規制緩和が進まないまま、金融緩和だけが空回りしています。

TEDxLA = independently organized TED eventTheme: Imagine
https://www.ted.com/tedx/events/12881
デザインシンキングとは何か
http://business.nikkeibp.co.jp/article/design/20140508/264172/
レジレススーパー「Amazon Go」は世界中の小売業を完全支配するAmazon帝国設立のための第一歩
http://gigazine.net/news/20161222-amazon-go-control-grocery/


◆俯瞰のクッキング “鯖のへしこ”◆
前回は小浜市で開かれた「鯖サミット」で買ってきた“鯖のフレーク”の料理を紹介しました。同時に買ってきた“鯖のへしこ”はかなりクセがある食材でしたので、次回研究して紹介すると書きました。色々考えましたが、次のようなレシピを試してみました。

“鯖のへしこ”は、塩漬けにした鯖をさらに糠に漬け込んだ保存食です。薄く切って酒の肴になります。“鯖のへしこ”はサラミやカラスミのような食材だとみなして、小さなピザのような料理を考えました。

まず“鯖のへしこ”を薄く切り、日本酒で洗って糠を取ります。
市販の大型の餃子の皮に刷毛でオリーブ油を塗り、その上に“鯖のへしこ”をのせ、ベランダの鉢植えのパクチ-、バジル、イタリアンパセリを採ってきて乗せました。好みで薄切りのニンニクをおいてもいいと思います。さらにオリーブ油を上からタラタラとかけて、グリルまたオーブントースターで焼きます。自宅にオーブントースターはないので、BISTROの両面グリルで5分焼きました。この辺の時間は道具によって調整してください。
これはかなりイケます!「しらす」でもやってみました、これもイケます!

ミニミニのピザという発想で、餃子の皮にオリーブ油塗ってからトマトソースを塗って、その上に“鯖のへしこ”を乗せ、ハーブを乗せて同じように焼きました。時間は8分ほどです。この焼き加減も道具に合わせて調節してください。これはまさにピザです。これもイケます!

トマトソース無しの方が簡単なので、トッピングを変えながら幾種類か作ると、とてもいいワインのつまみになりました。



◆2020年以降の世界3 “・・・・し放題”◆

ネット上のサービスビジネスは、定額料金で無制限のビジネスモデルが主流になりつつあります。まず音楽が先行しました。 1曲1曲ダウンロードして音楽を購入するAppleのモデルは、いまは通用しません。

通信料金もパケットし放題が普及しています。海外旅行に行っても海外パケットし放題のサービスが提供されています。

映画もNetflixやAmazonプライムのように定額で無制限です。まだレンタルのDVDをビジネスにしているところがありますが早晩なくなるでしょう。

雑誌の売り上げが落ちていますが、一方で、定額で雑誌読み放題は伸びています。ドコモの「dマガジン」はサービス開始から1年で会員が200万人を突破しています。月額400円でほとんど雑誌は読めます。例外は日経BP社の雑誌くらいでしょう。私も家族も利用しています。

雑誌の読み放題はNTTドコモの「dマガジン」のほか、オプティムが提供する「タブレット使い放題・スマホ使い放題」、「ビューン」、U-NEXTの「U-NEXT」などがあります。
「Airbook」は雑誌読み放題サービスとは別種のサービスですが、全国のTSUTAYA対象店舗で対象誌を購入する際にTカードを提示すると、その電子版が無料で提供されます。

食べ放題サービスも花盛りです。居酒屋の飲み放題がもう当たり前です。販促ツールのデザインを月額料金で無制限で提供するサービスもあります。パソコンの電話相談もし放題サービスが提供されています。月額料金で写真のプリントし放題もあります。

自転車のシェアリングも、定額無制限がかなり普及しています。ほとんどのサービスが定額で無制限という時代にすでになっています。

“・・・・し放題”は、どこまで広がるか判りません。となると、既存のビジネスモデルの事業者はどうすべきでしょうか。“シェアリング”と“・・・・し放題”の組み合わせは、いろんな分野で破壊的イノベーションを起こすでしょう。



◆俯瞰の書棚 “つながる脳科学”◆
今回の紹介は「つながる脳科学 心の仕組みに迫る脳研究の最前線」理化学研究所 脳科学総合研究センター編 2016年 講談社 です。

この本は9章から構成されています。第1章は記憶をつなげる脳、第2章は脳と時空間のつながり、第3章はニューロンをつなぐ情報伝達、第4章は外界とつながる脳、第5章は数理モデルでつなげる脳の仕組み、第6章は脳と感情をつなげる神経回路、第7章は脳研究つなげる最新技術、第8章は脳の病の治療につなげる、第9章は親子のつながりを作る脳 です。

この本は理化学研究所の脳科学研究の最先端の研究成果を、一般人向けに易しく解説した本で、この本を読むと脳科学に関する理解がぐっと深まります。研究者をインタビューし、れをライターがまとめた本です。ライターがかなりの力量の人でしょう、机に座って顕微鏡を覗いている研究者の肩越しに、の研究を見るような臨場感のある文章です。

私も今、元ソニーのイノベーターの人たちにインタビューしてそのエッセンスをまとめるプロジェクトを進めていますが、読む人が臨場感を感じるそういう文体を目指しています。
10年以上前に、東京大学の俯瞰工学研究室(松島研究室)の学生達と一緒に30代40代の男女を中心に約100名にインタビューし本にまとめたプロジェクトをしました。 「今、そして未来」です。

その趣旨は、
“現在の日本は多くの課題を抱え、この課題を見据えてそれに向かってゆくのは30代の人達で、その課題を最も深刻に受け止めているのが、30代40代の女性達ではないだろうか。彼女達は働きながら、少子高齢化、介護、健康、安全・安心などに直面している。東京大学の俯瞰工学研究室では、30代を中心にした50代までの男女約100名にインタビュー調査をした。その人達はいわゆるエリートではないが、マラソンに喩えれば先頭グループのランナー達である。そして多くはこの東京で暮らしている。生活のためだけに生きている人達ではなく、無論悩んでいる人もいるし、目の前の生活に集中しているだけの人、やりたいことを仕事にすることができている人も多い。ある面では今の生活を楽しんでいるが、決して一本道の人生でもない。共通しているのは前向きに生きる人であり、そうした彼らの仕事観や社会観が学生や20代の人達に、人生を考えるヒントを与えてくれるのではないだろうか。”という趣旨です。
その時にそれぞれの人生を、ドラマを見るような感じで伝える文体を考えました。この本はその後出版社が倒産してしまったので、現在は俯瞰工学研究所で電子書籍として販売しています。

話が脱線してしまいましたが、 「この本は私たちのこの脳の働きが情報社会を生み出しているのですから、科学だけではなく人文・社会科学の知識も総動員して脳の働きを調べていく必要があります 」という趣旨で脳科学と他の学問とのつながりを追求する本です。 最も興味深いのは「心」についての理解を追求していることでしょう。

第1章 記憶は脳のどこにどのように蓄えられているのか、そして思い出されるのか、そのメカニズムの解説です。エングラムと呼ばれる脳の部分に記憶が蓄えられているとのことです。そして思い出す仕組みは海馬と呼ばれる部分にあります。

第2章 今自分がどこにいるのか、どのくらい時間が経ったのかこれを認識する時計や地図のような役割をする神経細胞があるということです。脳の中には地図のテンプレートもあるとのことです。

第3章 脳の中には1,000億もの神経細胞が詰まっていますが、そのつながりすなわち情報伝達の仕組みを解説しています。それはシナプスです。

第4章 見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触る、という五感で外界を認識していますが、脳のどこでこれが処理されているかを解説しています。

第5章 数理モデルという理論で脳研究する話です。今流行のディープラーニングと似ている部分と似ていない部分が解説されています。

第6章 脳と感情をつなげる神経回路の解説です。感情の動きである「情動」と脳の関係を神経回路で解き明かしています。

第7章 脳科学の研究に重要な最新技術の解説です。特に脳を視る技術です。脳科学に必要な観察技術や実験動物の作成の飛躍的な技術革新が脳科学の研究を加速しています。実験の手法の開発で何人もの研究者がノーベル賞を受賞しています。

第8章 脳科学の研究を「心の病」の治療に応用する可能性です。うつ病のメカニズムとその治療法の解説は興味を惹かれます。脳科学と関連付けられた心の病は、 「脳疾患」と呼ばれ脳科学と関連付けられていない心の病を「精神疾患」と言うとのことです。精神疾患を脳科学で解明できれば治療法が開きます。

第9章 親子のつながりを司る脳細胞があります。親子の感情、慈しむ心、虐待する心、いずれも特定の脳細胞と関係があるとのことです。

この本は最先端の研究成果を、優しく解説していると書きましたが内容そのものはかなり高度ですから、分かりやすい文体で書かれた内容を自分の頭の中で再構成するにはかなり努力が必要です。私ももう一度読み直して頭の中で脳科学の知識を再構成しようと思います。

科学とは何か、科学の力、そして研究者の努力と忍耐を理解するのに絶好の本です。科学を理解する事は社会のリーダーにとって必須です。ご一読をお勧めします。

◆編集後記◆
●今年はトランプ次期大統領の選挙で刺激的な時間を持ちましたが、結果が凄く、。アメリカに関する認識も深まりました。既存のメディアの限界が露呈しました。
●小池都知事も今年の後半に刺激的な時間を提供しました。新しいことが始まる予感がします。一匹狼で、女性であることが、変革の推進力になります。
●日露交渉これこそ“大山鳴動して鼠一匹”です。安倍首相はリーダーシップというよりもやや前のめりですね。プーチン大統領には好感が持てました。意外と誠実な人物かもしれません。
●UberやAirbnbは利用してみると、ビジネスイノベーションだと体感できます。このビジネスモデルが社会を変えます。
●規制緩和、これなしで日本の活性化はありません。経済諮問会議の民間議員にもっと頑張ってもらいたいと思います。
●最後の秘境である脳、脳科学を意識しながら生活していきたいと思います。


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◆俯瞰 MAIL 0062号(2016年12月30日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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