象徴という暗喩


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表として名刺やメールを交換させて頂いた方々にお送りしています。このようなメールマガジンはご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。そしてお時間があれば、章末のURLの元情報を読んでください。
過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。http://www.fukan.jp/
ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので添付のpdfファイルを保存しておいてタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。
また、このメールマガジンに記事の投稿をご希望の方は是非原稿をお寄せください。
既に約5000人に配信していますので“小さなメディア”になりました。
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◆時候のご挨拶◆
連日猛暑日が続きますが、山の木々にはすでに赤や黄色の気配が目につきます。この前まで緑一色だった田圃も、かすかに色づいています。猛暑なのに植物は秋を感じているのです。日照時間の短縮を感じ取っているのでしょうが、どこにそのような判断機能があるのか不思議です。脳がないわけですから、細胞ひとつひとつが日照時間を感じ取ることができるのでしょう。
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● 象徴という暗喩
● 小池知事という民意
● トルコの独裁化で、さらに不透明化した国際情勢
● 中国の情勢が見えない
● 俯瞰サロン “米国情報通信分野の最新動向”
● 俯瞰のクッキング “ウー・ウェンの料理”
● ニューウェーブの俯瞰 “電子雑誌読み放題の時代になった”
● 俯瞰の書棚 「今、なぜデザインか」エレン・ラプトン他3人 
● 編集後記
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◆象徴という暗喩◆
天皇陛下がお気持ちをメッセージで国民に伝えられた事は、大きな衝撃であったと思います。政治的な意見表明ができないということで、練りに練られた文章だと思います。

内容も誠に道理にかなうものです。体力が衰え公務を全うすることが困難になった、といって体力に合わせて公務を縮小するわけにはいかない、また摂政をおくと、天皇のまま死ぬことになるので、天皇の葬儀という大行事のために国政が停滞する。昭和天皇のご葬儀の大変さを実感されて、もっと簡素な儀式にしたいというお気持ちが感じ取れます。

このお気持ちは、そのまま受け止めるべきだと思います。ただ日本は特別な国だと強い思いを持つ人々は、“自分たちの天皇制”に拘るわけですから、素直に受け止められないかもしれません。そしてそういった人々は、天皇の気持ちに反することをすることがあります。

例えば、昭和天皇は靖国神社の宮司に戦犯を合祀しないようにというお気持ちを表明していたにも関わらず、靖国神社宮司は戦犯を合祀しました。 それ以来、昭和天皇は靖国神社を参拝することはありませんでした。伝えられるところによると、太平洋戦争の開戦についても、昭和天皇はあくまで避けたいという強い気持ちを持たれていたにも関わらず、当時の軍部はそれを押し切って開戦したわけです。これが戦犯の靖国神社への合祀に反対された理由かもしれません。

この天皇陛下のメッセージを読んでいると、象徴という言葉が8カ所もあります。これは明らかにキーワードです。受験の現代国語の読解の手法です。そして最後にある文章、
“そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました。”

象徴天皇としての務めを全身全霊でやってきたことに満足されていると同時に、これは、現在の憲法が定める象徴天皇を変えることなく継続して欲しいと言う暗喩のように読み取りました。憲法改正で天皇を国家元首にするということに対して、反対のご意思を示されたのかもしれません。

【動画】象徴としてのお務めについて、お言葉を述べる天皇陛下
http://www.asahi.com/articles/ASJ8766FBJ87UTIL02P.html


◆小池知事という民意◆
サプライズではありませんが、予想を超える大差で小池百合子さんが東京都知事に当選しました。自民党支持者の多くが小池候補に投票したようですから、浮動票集めで当選したというよりも、これを民意として受け取るべきでしょう。

選挙戦としては、流石にTVキャスターの出身だけあってメディアをうまく使い、まだ組織されていない無党派層には、ツイッターというSNSを駆使して直接メッセージを毎日打ち込んでいたようです。時代をきちっと理解していると思います。ネットを活用するという事を、政党という組織に乗っかっている政治家はこれまで重要視してきませんでした。

4年後の東京オリンピックは小池知事のリーダーシップで行われることになります。オリンピック組織委員会は、全員が出向で期限付きの組織ですから、通常の組織のような統制が取れた仕事がかならずしもできていないでしょう。メインスタジアムやエンブレムの問題がその内部的な問題を露呈させました。

このオリンピック組織委員会と小池知事がいい形で連携すれば、オリンピックの管理運営のクオリティが上がるかもしれません。

都政においても、我々都民から見れば伏魔殿のように税金の使い道がわからない状態が、小池知事が約束しているような見える化が進めば、利権や無駄遣いが減ることが期待されます。なにしろ東京都はヨーロッパ一国分を超える人口や面積そして経済規模があります。そして都知事は大統領です。

多分、既得権益を持つ集団は色々な手を使って抵抗するでしょうが、外部から真っ当なスタッフを積極的に登用して都政の刷新を進め、必ず公約を果たして欲しいと思います。ただ過去の都政では、都知事が連れてきた腹心と呼ばれた人がとかく問題を起こしていましたから、側近をどのような人材で固めるかが新知事の成否を決めることになります。

NHKの歴史ドラマに見るように、信頼関係にある側近がなく孤高の信長の挫折、そして信頼関係にある側近が複数いてもチームを組んでいず短期政権に終わった秀吉、これに対し信頼関係に固められた家臣団、とりわけ本多忠勝、井伊直政、榊原康政、酒井忠次という徳川四天王に支えられて、家康は天下を取り300年にわたる長期政権を確立しました。周りにどんな人を置くか、それがリーダーの最も重要な器量です。

小池百合子都知事を「敵」であるはずの自民党支持層が高く支持
http://news.livedoor.com/article/detail/11864349/
小池氏フォロワー数優勢19万、鳥越氏追う15万
http://www.nikkansports.com/general/news/1679264.html
フォロワー数、「いいね!」とも小池百合子氏がトップ SNS
http://www.sankei.com/politics/news/160721/plt1607210041-n1.html
<偶然ではない>小池百合子にまんまと利用されたメディア
http://blogos.com/article/186187/


◆トルコの独裁化でさらに不透明化した国際情勢◆
英国のEU離脱の衝撃は、不安定さは残りながらも、とりあえず大きな混乱もなく収まっていましたが、トルコのクーデター未遂で世界情勢は一変しました。その後のエルドアン大統領の大粛清は異常で、独裁制へ向かうとみられています。反対派に処す粛清はおろか、メディアに対しても弾圧を加えていますからトルコの民主制は終わります。死刑制度復活などまさに恐怖政治そのものです。そして、真っ先にロシアのプーチン大統領と会談するためにモスクワに飛んでいます。

比較的安全だったドイツは複数のテロ攻撃を受けました。ローマ法王にして“世界は戦争状態”と言わしめました。ひろく難民を受け入れてきたドイツですが、危険な分子もたくさん取り込んでしまったのでしょう。と思うドイツ国民は少なくありませんから、メルケル首相の支持も落ち込んでいます。

トルコに対しEUは何も動けません。なにしろEUはトルコに資金援助することを約束して、シリア難民をトルコ国内に留めてもらうように話をつけたばかりです。エルドアン大統領は人質を取っています。

もしロシアとトルコの連携が進み、EU 、西欧に対して共同歩調を取ることになれば、ヨーロッパは流動化します。経済活動も大きな影響を受けます。流動化の中でロシアのプーチン大統領はウクライナや東欧諸国に対し圧力を強めるかもしれません。

一方米国は、大統領選挙で大混乱です。なぜか評判の悪いヒラリー・クリントンです。負ける事はないでしょうが、万が一ヒラリーが負ければ世界中大混乱です。今の米国はヨーロッパやトルコ情勢に関与する力はありません。いずれにしても、今後の国際情勢は不透明です。

「世界は戦争状態」=ローマ法王
http://www.jiji.com/sp/article?k=201607
トルコ、クーデター未遂で5万人粛清 国際社会の懸念深まる
http://www.afpbb.com/articles/-/3094657
トルコ、メディアへの弾圧拡大
http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/339866
トルコ国民は死刑復活を望んでいる=エルドアン大統領
http://diamond.jp/articles/-/96806
「西側諸国はテロとクーデターを支持」 トルコ大統領が強く非難
http://www.afpbb.com/articles/-/3096166
「クーデター粛清は行き過ぎ」 対トルコ、独が非難
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201608/CK2016080302000125.html
トルコのエルドアン政権が死刑復活ならEU加盟できず、ドイツがけん制
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/07/post-5507.php
メルケル独首相、支持率急落 難民テロ影響か
http://www.sankei.com/world/news/160805/wor1608050007-n1.html
テロ多発地帯と化したドイツで、なぜメルケルは不気味な沈黙を保ち続けるのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49308
トルコのクーデター未遂事件は 世界を一変させる「ブラックスワン」になるのか!?
https://news.nifty.com/article/magazine/12215-20160808-98330/
まもなくトルコ・ロシア首脳会議、何が起こるか?
http://synodos.jp/article/17700


◆中国の情勢が見えない◆
南シナ海では、“国際法上、中国の領土ではない”と司法判断が出ましたが、中国はまったく受け入れる気がない、と言いながらも実質は動きができません。 ASEANもラオスとカンボジアを除けば、他は中立もしくは反中国です。中国にとって、大きな外交的敗北でした。

では東シナ海か。とにかく何か積極的な海洋進出の実績を示さないと、国内政治のバランスが取れないのでしょうか、多数の漁船と公船すなわち日本でいう巡視船ですが、尖閣諸島の領海近くおよび領海内で威嚇行動をしています。

その背景には、今中国の中で深刻な権力闘争が行われているという見方が強まっています。権力を争うのは江沢民派、李克強首相の出身母体である共青団、そして習近平派ですが、共産党が指導する国有の大企業が鉄鋼業、造船業を中心に破綻しかけています。工業化の産業政策の基本ですから、最初に国家主導でエネルギー、インフラ、重化学工業を起こし、ついでに自動車産業、電機産業、生活産業、そしてサービス産業を起こしていきますが、国家主導の重化学工業は共産党の利権が複雑に絡みあっていますから、権力闘争と政策闘争が入り混じった戦いでしょう。

“2013年に李克強首相ら経済改革派が行おうとした国有企業の「三歩走」、すなわち「市場化→多元化→民営化」という改革を進めていれば、多くの国有企業が民営企業に着地し、中国経済はダイナミックで持続可能な経済成長が期待できたのだ。それを習近平主席ら中国共産党の保守派は、国有企業を政治的利権の道具にしようとした。そのため昨年9月に、国有企業の「二歩走」、すなわち「淘汰→党中央の管理強化」という「改悪」を国有企業改革の骨子に定めてしまった。”(近藤 大介『北京のランダム・ウォーカー』講談社現代ビジネス)

最近の貿易統計も対前年比マイナスを続けていますから、経済は停滞しているはずです。国民の政府に対する不満も高まっているでしょう。となると、外に目を向けさせるために尖閣列島を利用しているのかもしれません。ただ危険な火遊びで、不測の事態が起こるかもしれません。たとえ小競り合いであっても日中の軍事衝突があれば世界経済に与えるインパクトはリーマン以上です。我々国民も不測の事態を想定内としておく必要があります。ただ現在の中国は深く世界経済に依存していますから、政治の判断では衝突はありませんが、現場は場合によっては制御できません。自衛隊もあからさまにロックオンされれば自衛措置を取らざるをえません。

尖閣諸島周辺に約230隻の中国漁船
http://toyokeizai.net/articles/-/130692
中国はなぜ尖閣で不可解な挑発行動をエスカレートさせるのか
http://www.newsweekjapan.jp/ohara/2016/08/post-4.php
中国が秘密の「北戴河会議」開催か 序列5位の劉雲山氏が現地入り
http://www.sankei.com/world/news/160805/wor1608050070-n1.html
ASEAN会議 中国の国際法無視が目に余る
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20160726-OYT1T50137.html
中国人民大学「ゾンビ企業レポート」が示す習近平政権の致命的な過ち
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49405
ナチスに酷似する中国、宥和では悲劇再現も
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47517



◆俯瞰サロン◆
米国を拠点に活躍されているジャーナリストに聞く
“米国情報通信分野の最新動向”
日 時: 8月22日(月)18:30-20:00 (18:15 受付開始)
場 所: 俯瞰工学研究所
     東京都港区港南2丁目14番14号
     品川インターシティフロントビル 6階
     http://www.sicity.co.jp/front/access/
定員 : 40名程度
懇親会: 講演終了後に、立食形式で懇親会(有料)を開催します。
参加費: 講演会・無料
     懇親会・一般 3000円から4000円、学生(社会人学生を除く)無料
※すでに満席となっているかもしれませんが、http://www.fukan.jp/俯瞰サロン/ からお申し込みください


◆俯瞰のクッキング “ウー・ウェンの料理”◆
有名な料理研究家のウー・ウェンのレシピは料理本で読んだことがありましたが、 Amazonで別の本を探している時、リコメンドされた本の1つが“ウェインさんちの定番献立”という本でした。買って読んでみると改めて彼女は数多くいる料理研究家の中でも特別な人だと思いました。レシピを読んでいると非常に知性が高い人だと感じました。

そして企業と共同開発したウー・ウェンの中華鍋は、販売が16万個だそうです。売価を考えると約2億円です。

北京から日本に来て、結婚するまで料理をしたことがなかったとのことですが、家族ができて、食事は「料理は家族の健康そのもの」で人任せにできないと、料理をすることになったとのことですが、レシピはシンプルながら水準が高いです。

冒頭に台所の写真がありますが、“仕事の始まりと終わりは、いつも何もものが出ていない状態で”、とあります。簡単そうでこれ結構難しいですね。そして鍋は3つ、すなわちウェンパンと呼ばれる中華鍋(北京鍋)、湯鍋と呼ばれるソースパン、煮鍋と呼ばれる平らな両手ナベです。実際は色々お持ちでしょうが、彼女の提案はこの3つで良いとのことです。そして切菜刀と呼ばれる彼女が考案した、中華包丁と日本の菜切包丁の良さを併せ持つ包丁です。

調味料も黒酢、醤油、太白ゴマ油、日本酒、塩だけです。その他の調味料もオイスターソース、焼き豆板醤、甜麺醤、そして顆粒の鳥ガラスープだけです。

これだけのシンプルなキッチンには憧れます。鍋だけでも20?30個、包丁もあれこれ10本近くあり、その他の道具を合わせると、ちょっとしたキッチン用品の店が開けるような台所で料理を作っていると、シンプルキッチンに憧れます。

レシピは基本的「一汁 二菜」です。そして基本的に中華料理ですが、とてもシンプルです。
多くの料理研究家の本はアイディアに満ちた料理の提案が多いですが、定番の献立は簡単に作れる料理ばかりです。私たちが食べ慣れている、油をたっぷり使った中華料理のような献立はほとんどありません。和食に近い家庭料理らしい中華料理です。

例えばある日の献立は、麻婆豆腐、キャベツ甘酢あえ、筍とアサリのスープです。また別の献立では完熟トマトで作るエビチリ、インゲンの炒め物、ザーサイのスープ。おなじみのキャベツの回鍋肉や青椒肉糸のレシピもシンプルですが本格的で勉強になります。

彼女のレシピによく出てくる料理法は「蒸す」ことです。ウー・ウェンの鍋はフッ素加工された底が少し平らな北京鍋ですが、付属の蒸し皿と蓋を合わせると、焼く、炒める、煮る、 蒸す、ができます。たぶん簡単な薫製もできるでしょう。むろんIH対応です。私は2つ買いましたが、 1つはフッ素が剥げてしまったからです。この点は改良された新型が出たようです。

レシピの中で作ってみて、気に入った料理は、トマトと豚スペアリブ煮込み、エビチリ、蒸し豚、チャーシューです。このレシピで、これまで何気なく作っていたおなじみの料理が新しい料理に生まれかわったような気がします。完熟トマトで作ることが重要でした。

日本料理と北京料理の文化の差を感じたのは、ダシです。彼女のスープは、 特別なダシを使わずに素材の旨みで十分、とありますが、濃いうまみに慣れている私の舌には物足りないので、顆粒の鶏ガラスープや昆布を入れてしまいます。海から獲れた鰹節や煮干し、昆布のような、日本では普通のダシが、北京では入手できないことが差異になっているのかもしれません。


◆ニューウェーブの俯瞰 “電子雑誌読み放題の時代になった”◆

いよいよ日本でも8月3日、Amazonが電子書籍読み放題のKindle Unlimitedサービスを開始しました。Kindle unlimitedとは、講談社、小学館、文藝春秋、新潮社などの出版社の協力により国内12万冊の和書が月額980円で読み放題というサービスです。ちなみに先行している米国のおかげで、洋書は120万冊読み放題とのことです。迎え撃つ集英社やKADOKAWAは今回参加してないようです。

これに対抗して楽天も8月9日、雑誌の読み放題のサービスを始めました。月額380円で週刊誌や経済誌、それにファッション誌など200誌以上を読むことができるということです。

Amazonは電子書籍も含みますが゛、楽天は雑誌だけです。雑誌の読み放題サービスは早くからドコモがサービスしています。以前にここでもご紹介しました。雑誌読み放題サービスは他にいくつかあります。例えば、
dマガジン約160誌月額400円
タブホ約400誌月額500円
ブック放題約130誌月額500円
ひかりTVブック 約350誌月額400円
少しずつ内容が違いますから一概にどれがいいとは決められませんが、サービス比較対象のサイトを下記におきましたので、興味ある方は見てください。

この価格で雑誌が読み放題ということになると、紙の雑誌はどうなるでしょうか。すでに出版部数は激減しています。広告媒体として、紙のメディアと電子メディアの併売が有利であればこのトレンドは雑誌に対する救いになるでしょうが、タブレットで本を読むことに慣れてしまうと、紙のメディアをわざわざ買うということをしませんから、雑誌にとっては苦渋の選択です。

個人的な体験ですが、ドコモの雑誌読み放題を使ってみると実に便利です。例えば新聞に出ている週刊誌の広告を見て興味をひかれる記事があれば、すぐその記事を読むことができます。電車の中の時間を有効に使うためには、タブレットで書籍や雑誌を読むのは非常に便利です。ましてや旅行や出張のような場合にはタブレットがあれば、移動時間も苦になりません。

日経新聞も、朝は紙の新聞で読みますが、タブレットで読むと自由に拡大ができて視力が落ちた私はこの方が快適です。私のパートナーは、同じ日経新聞を、隣でiPadで読んでいます。

電子書籍や新聞の電子版、雑誌の電子版は、ほんの2?3年前は近未来のような話でしたが、あっという間に普及してきました。時代は本当に速いスピードで変わってきています。そして人々のライフスタイルを変え、社会を変えてきます。これに既存の企業はついて行っていません。

銀河系の星雲のように巨大な広がりを持つネットの世界、その凄さを改めて見せつけたのがゲームの“ポケモンGO”です。私もサービス開始日に早速学生の指導を受けながらやってみましたが、すぐに1つ捕獲しました。単純なゲームですが、この爆発的な流行でApple Storeの売り上げは数十億ドルと言われています。最初無料ですが、ポケモンを捕獲していくとボールがなくなりますから購入しなければなりません。 Appleは何もしなくても売り上げが立ちます。ただこのAppleもスマートフォンの世界を中国メーカーに奪われていくでしょう。盛者必衰です。すでにアメリカの自動車ビックスリーはこれを味わいました。

私の友人の山田太郎さんは参議院選挙で再選されませんでしたが、ネットやゲームの無党派層から29万票も支持をもらいました。インターネットとスマホが凄まじい変革というか破壊を進めていることを認識すべきです。

経団連に名前を連ねる大企業も、この巨大な津波に飲み込まれていく事を意識する必要があります。自動車産業は最大のターゲットです。中国の百度(Baidu)は、アメリカで自動車自動運転の研究開発を始めました。

みなさんも電子書籍読み放題で“時代の風”を感じてみたらいかがですか。

日本でもKindle Unlimited、月額980円の定額読み放題サービスを開始
http://www.amazon.co.jp/gp/press/pr/20160803/
Amazonの電子書籍読み放題サービス「Kindle unlimited」のサービス詳細
http://www.kokoro-fire.com/entry/kindle-unlimited
楽天が電子書籍の読み放題サービス 競争激化
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160809/k10010628621000.html
電子雑誌約200誌が月額380円で読み放題の「楽天マガジン」提供開始、「記事まとめ」機能も装備
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1014605.html
雑誌読み放題サービス比較してみた
https://techub.jp/125594
百度、自動運転車開発チームを米国に結成 100人超規模目指す
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/042501214/?rt=nocnt
今や世界のスマホの3分の1が中国メーカー
http://japanese.engadget.com/2016/07/04/mwc-2016/


◆俯瞰の書棚 “今なぜデザインか”◆
今回の紹介は「今なぜデザインか」エレン・ラプトン他3人 2012 英治出版 です。
この本はスミソニアン学術協会クーパーヒューイット国立デザイン博物館が2000年から始めた、デザイントリエンナーレの第4弾2010 ナショナルデザイントリエンナーレが元になっています。この本は、現在起こっている数々のイノベーションのスナップショットです。すなわち、すでに起こっている未来をこの本の中で見ることができます。そしてデザインがイノベーションを生み出す力を秘めていることを示しています。

既に起きている未来を知る事は、ビジネスはもとより人生の選択にも重要です。 この本は、エネルギー、モビリティ、コミュニティ、マテリアル、豊かさ、健康、コミュニケーション、シンプリシティの八章から構成されています。

まずエネルギーの章では、海の波力発電のプロジェクトに興味をひかれました。再生エネルギーの中で未だ実用化していない技術です。そして日本は周囲を海で囲まれていて、 無限の可能性を持っています。この章を読んでいくと電気自動車の時代が来ることが実感できます。

モビリティの章では、「化石燃料による移動が急速に増えていることが問題だが、石油が枯渇しかけているのではなく、二酸化炭素を大気に排出する余地がなくなりかけている」と明快です。そして多様な移動手段を提供する必要のあることを説いています。

道路に多数の充電ステーションを展開するというプロジェクトは、すでに実際に進んでいます。アメリカの場合でも、日々の移動は64キロ以内なので、この間隔を考えて、充電ステーションを展開することを提案しています。そして 2015年までに、1万台の充電ステーションを導入するプロジェクトをアムステルダム市が推進していました。むろんアメリカでもカルフォルニアを中心に進んでいます。

確実に電気自動車の時代になりつつあることが認識できます。 MITのオンデマンドの共用自動車のプロジェクトも近未来を示しています。ただこの電気自動車へのシフト、そしてシェアリングは自動車産業に重大なインパクト与えます。これを想定して企業戦略や人生設計を、いま考える必要があります。ただ自動車産業に代わるような巨大な産業は、今は全く見えません。

コミュニティの章では、環境に配慮した建築のプロジェクトがいくつか紹介されています。その中で興味を惹かれたプロジェクトは、コロンビアのメデリン市の「最も美しい建物を、最も貧しい場所に」というプロジェクトです。もっとも絶望的で危険な地区の中に大規模な公共の建物、公園をつくりました。街の中心部には図書館、学校、博物館、託児施設、職業安定所、融資相談などの公共サービスの拠点があります。街は一変しているようです。
もう一つは、ロサンゼルスの中心のホームレスの高齢者・障害者の終の家となるアパートメントです。都市の中心部に弱者が住めるようにすることは都市にとって重要だと思います。

マテリアルの章では、鉛や錫、銅などの資源は近い将来に枯渇すると言われています。そして環境問題から、製造時のエネルギーすなわち化石燃料の必要が少ない、持続可能な素材が求められています。従って「 リディース、リユース、リサイクル」が重要となります。
問題となっているプラスチック製容器に代わる、植物から作られる容器、生物分解性の包装素材が紹介されていますが、興味を引かれたのは二酸化炭素をコンクリートに閉じ込めるというプロジェクトです。もしこれが実用化されると、二酸化炭素排出問題と火力発電が救われます。

豊かさの章では、貧困対策のいくつかのプロジェクトが紹介されていますが、興味を引かれたのはノキアが行っている、スラムの住民のアイディアを生かす“ノキア・オープンスタジオ”です。「人々の本当の生の声を企業に」とありますが、ノキアという企業の経営理念の高い水準を感じさせます。この辺は日本の企業がこれから取り入れていかなければならない近未来です。

健康の章では、いろいろなプロジェクトが紹介されていますが、ホンダの、中腰の仕事をサポートするロボットが紹介されています。写真を見ると中腰での作業をこれで支援しているようです。これは既に実用化された新しいロボットですが、中腰の作業は多いので、もっと広く普及していくでしょう。

Webとビックデータを込み合せたヘルスマップは実用化されています。これはほぼリアルタイムで世界で病気を監視・視覚化するシステムです。ニュースやブログ、医療のwebサイトのデータをもとに世界の各地でどんな病気が起きているかを無料で公開しています。 Googleマップの上にデータは表示されています。旅行先や海外法人の社員の健康を管理するのに有効なツールですね。

コミュニケーションの章では、 iPhoneとKindleが取りあげられています。確かにすでに社会を変えたコミュニケーションツールです。

まだ十分評価していませんが、統計情報を分かり易く伝えるワールドマッパーも興味を惹かれました。数値データを図解する(Infographic)ことは、コミュニケーションとして優れています。

シンプリシティの章では、“デザイナーは「ユニークで高価」か「平凡で安価」な製品ではなく「豊かで低コスト、賢い低価格」の実現を目指している”とあります。 これもこれからのマーケティングにヒントをくれます。無印良品のベッドが取り上げられています。無印良品は成功した日本のビジネスモデルですが、その秘密はシンプリシティにあるわけです。もう一つ、日本のWASARAの、使い捨てでも美しい紙の食器が紹介されています。現在の紙の食器は使い捨てということでデザインが貧弱です。使いやすい、美しい、自然分解するという紙の食器です。日本文化の源流である「無常の美」を具現化したとされています。探して入手してみたいと思います。

以上興味を惹かれたプロジェクトをご紹介しましたが、冒頭で書いたように、すでに起きている未来をこの本で見ることができます。難しい理屈はないので楽しく読めます。原著は2010年の発行ですから、すでに実用化しているものもあるでしょう。夏休みにパラパラとお読みになったらいかがでしょう。近未来を知ることはいろいろな意思決定に必須ではないでしょうか。

◆編集後記◆
● 生前退位ぜひ実現したいですね。
● 企業経営者も。トラブルでやむなく退陣とは晩節を汚して見苦しいですね。独裁の結果、周囲から忠臣が消えているでしょう。
● 小池百合子知事、公約の結果を出してください。よもや金のトラブルはないと思いまますが。
● アメリカ、ヨーロッパの力が弱まると国際情勢は流動化し、資本はリスクを嫌って積極的な投資を控えますので経済は成長できません。
● 中国はフェーズ2に軟着陸する苦しみの中にいるでしょう。これに権力争いが加わると想定外の事態もあり得ます。
● 関東地域の大地震が無いように祈っています。


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◆俯瞰 MAIL 0060号(2016年8月12日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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