英国のEU離脱という激震


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表として名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々にお送りしています。このようなメールマガジンはご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。お時間があれば章末のURLの元情報を読んでください。
過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。http://www.fukan.jp/
ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので添付のpdfファイルを保存しておいてタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。
また、このメールマガジンに記事の投稿をご希望の方は是非原稿をお寄せください。
既に約5000人に配信していますので“小さなメディア”になりました。
-----------------------------------------------------------------------------
◆時候のご挨拶◆
利根川水系の水源地のダムは干上がり気味で節水制限、そして九州は度々記録的な豪雨です。やっと台風1号が発生しましたが、今年は台風発生が少ないとなると、地球規模の気候変動が気になりますね。そして、この夏は記録的な猛暑という予報です。熱中症には注意ですね。
-----------------------------------------------------------------------------
● 英国のEU離脱という激震
● 俯瞰的にもう少し分析を
● そして日本の現状と変化を今一度考える
● 俯瞰サロン ブロックチェーンの応用可能性
● 俯瞰のクッキング “ふるさと納税をやってみました”
● ニューウェーブの俯瞰
● 俯瞰の書棚 「色のちから」ジャン・ガブリエル・コース
● 編集後記
-----------------------------------------------------------------------------


◆英国のEU離脱という激震◆
想定外の英国のEU離脱の国民投票の結果は、世界に激震を与えました。歴史の転換点になるという見方が支配的です。事前の報道を整理すれば。

“米国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを含む多くの優れた民主主義国のように、われわれはEUの外でより裕福で安全になれ、ようやく自らの運命を決められる自由を手に入れる。残留すれば、英国はわずか数年後には、拡大するドイツ支配の連邦国家に容赦なく呑み込まれるだろう”と感情論を展開した「大衆紙サン」。

一方エリートが愛読する高級紙は、
“庶民がブレグジット賛成で、エリート層が反対である。だが、新自由主義的な経済政策をとったまま本当にブレグジットが実現したら、庶民の抱える問題はむしろ悪化するだろう”英紙「インディペンデント」。
“仮に英国民がEU離脱を選んだ場合、キャメロン首相は辞任し、スコットランドの独立派が勢いづき、連合王国の存在事態が危ぶまれることになる”英誌「エコノミスト」。
“ブレグジットに賛同する人々はロシアのプロパガンダに踊らされているのだ。近年、ロシアは英国に限らず、反EUを掲げる欧州の極右勢力を積極的に支援してきた。いまこそ西側諸国はプーチンの思惑に対して反撃するべきだ。” 英紙「タイムズ」。
“本当にブレグジットが実現したらどうなるのか。100人を超えるエコノミストに取材した結果、「中期的には悪影響」と見る人が75%を超えた。「プラスだ」と考える人はわずか8%だった”英紙「フィナンシャル・タイムズ」。
“ブレグジットで最も痛手を負うのはEUの中核たるドイツだろう。EUは英国を失うことで、「欧州第2位の経済大国」「国連安全保障理事会常任理事国」「核兵器保有国」「長年にわたり米国と欧州の仲介役を務めてきた国」をまとめて失うことになる”米紙「ワシントン・ポスト」。
“ゴールドマン・サックスなどの投資銀行が「負け組」になる”米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」。
“落ち着いて考えてみよう、不安要素が多すぎるブレグジットを前にすれば、英国民は現状維持を選ぶだろう、と考えられるからだ”とやや楽観的なフランス紙「ル・モンド」。

いずれも、エリートが上から目線で他人事のように解説しているような記事です。また、このような高級紙を読んでいる人は実利的判断で残留でしょうが、高級紙ではなく大衆紙を読んでいる人達は、感情的にEU官僚の理想主義に嫌気がさして離脱を求めたのでしょう。日経新聞の記事にあるようにグローバル化で得るものなく、多くを失って疲弊した地方は昔に還った方がほうがいいという感傷で離脱を選んだのでしょう。本当のエリートであれば、この感傷を受け止める能力が必要です。“ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)”の国だったはずです。

“地方経済は疲弊している。英国の2015年の成長率は2%強だったが、地方では成長の実感は乏しく、海外から資金や技能の高い人材が集まり繁栄するロンドンとの差は開くばかり。調査会社ユーガブによると、都市部では残留派が多数なのに対し、離脱派は脱工業化に失敗したイングランド北部や東部の地方に広がり、50歳以上の白人男性で労働者層が目立つという。「日経新聞小滝麻理子」は高級紙と違い緊張感ある記事ですね。

結果は大方の予想を裏切り離脱派が僅差で勝利しました。この結果に、離脱賛成に投票した人も後悔した人が多いようです。何よりも離脱をリードしたボリス・ジョンソン氏の当惑した顔が印象的でした。

想定外に離脱派は勝ってしまいましたが、その理由としてエリートが上から目線で経済危機の警告をしたことはかえって裏目に出たともいわれています。またEUへの拠出金がなくなれば、その3億5000万ポンドが国民の健康サービスに使えるという、まやかしの公約が効いたと同時に、移民問題をことさら強調することで、移民が仕事を奪っているという感情を煽り、イギリス人があまりやりたがらない農業や介護のようなサービス業が移民で成り立っているということは伏せて、経済構造をきちっと理解していない大衆を離脱に追い立てました。

何よりもエリートと言われるキャメロン首相の“バカな博打” 、首相の座をなんとか取りたいボリス・ジョンソン氏とマイケル・ゴーブ氏の利己主義による声高のキャンペーン、そして古きイギリスという幻想にかられた高齢者、などが理由として語られています。「戦後のベビーブーム世代の判断ミスによって金融危機が引き起こされ、多くの若者が国境を越えると信じてきた未来は奪われてしまった」(米紙ワシントン・ポストのサイトへの投稿)という認識も同感できます。

離脱に投票した英国人を責める事はできませんね。もともとイギリスと大陸諸国は文化や価値観がかなり異質です。ですからエリート層でも英国離脱を主張している人もいます。

次の意見も的を得ていると思います。“「残留派=理性的かつ現実的な知識層」で、「離脱派=不寛容で感情的な無教養層」と決め付ける論調がある。果たして、そうだろうか。EU加盟国間の歴然たる経済格差や、人種問題、国民性、宗教対立など、現実に存在する問題を無視あるいは軽視して、加盟国の拡大を続け、理想を無理やり押し付けた。”(ケント・ギルバート)

それにしても離脱を声高に叫んでいたボリス・ジョンソン氏と英国独立党のファラージ党首は負担金の予算が浮くと主張しましたが、このスローガンは「離脱派の過ちだった」とはあまりにも無責任です。ですから、離脱派は偽りのキャンペーンで大衆を煽ったと言われても仕方ありません。

しかし金融市場は様々な思惑で大混乱です。なにしろ先が見えませんから疑心暗鬼で大量に資金が動きます。ロンドンのシティーの金融業が縮小するかもしれないと言ってロンドンの不動産ファンドが売られています。簡単には現金化できませんから、その影響で不動産価格も下がるかもしれません。

相対的に安全資産として円が買われ、急ピッチで円高が進んでいますがこれも、この後どうなるか分かりません。
今は何もしない、これが大勢でしょう。

「英国のEU離脱問題」各国メディアはこう報じた
http://courrier.jp/news/archives/50083/
英国:離脱派が調査でリード、大衆紙サンも支持?週末にオッズ逆転か
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160614-58676759-bloom_st-bus_all
オバマ米大統領、世界経済への影響を懸念
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7188
キャメロン英首相 EU離脱派の主張は「事実と異なる」
http://www.bbc.com/japanese/36573374
EU離脱・残留両派 討論会で激しいやり取り
http://www.bbc.com/japanese/36593835
若者が高齢層に怒り心頭「ベビーブーム世代の判断ミスだ」
http://www.sankei.com/world/news/160626/wor1606260036-n1.html
離脱派が勝った8つの理由
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-36628343
離脱派に広がる「後悔」「Regrexit」の造語も登場 軽い気持ちで投票
http://www.sankei.com/world/news/160628/wor1606280056-n1.html
英離脱の国民投票「ひどい失敗」 FRBのグリーンスパン元議長
http://this.kiji.is/120343509564769789
EU側からみた英国離脱の衝撃
http://www.huffingtonpost.jp/michito-tsuruoka/analyze-brexit-from-viewpoint-of-
eu_b_10710552.html
事前交渉を拒否、27カ国首脳会議 団結確認
http://www.sankei.com/world/news/160629/wor1606290045-n1.html
EU離脱、バラ色のはずが…旗振り役が「公約」を反故
http://digital.asahi.com/articles/ASJ6W5D0VJ6WUHBI026.html?_requesturl=articles
%2FASJ6W5D0VJ6WUHBI026.html&rm=529
ジョンソン前ロンドン市長、英首相レース離脱?党首選出馬せず
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-06-30/O9L38H6TTDSE01


◆俯瞰的にもう少し分析を◆
もう少し結果の詳細を見ると、45歳以上の世代では離脱が多数を占め、それ以下では残留が多数でした。 18歳から24歳では離脱派はわずか27%ですが、 65歳以上では60%を上回っています。この45歳という年齢の人は、1993年のEU発足時に22歳です。ですからEU加入前のイギリスを知っているという見方もできます。これ以降の年代は古き良きイギリスに郷愁はなく、イギリス人ではなくヨーロッパ人として生きてきた現在に肯定的であるのかもしれません。

そもそもEUの前身はECです。 20世紀に2度の大戦を引き起こしたドイツ、そしてこれと戦ったフランスが、二度と戦争しないという不戦の誓いから、フランス、西ドイツ(現ドイツ)、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの6カ国が欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)を1952年に設立しました。戦後間もないヨーロッパの復興には鉄鋼と石炭というエネルギーが重要だったのでしょう。そして1967年に欧州共同体ECが誕生しました。イギリスは1973年にデンマーク、アイルランドと一緒にECに加盟しています。 1989年にベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が終結し、ヨーロッパは統合に向かっていきます。 1993年にマーストリヒト条約(欧州連合条約)が調印されEUが発足しました。そして1999年欧州単一通貨のユーロが導入されます。その後旧共産圏を含む10カ国(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、エストニア、リトアニア、ラトビア、マルタ、キプロス)が一挙にEUに加盟して、現在38の主権国家の複合体になりました。

EUの官僚も肥大化して約3万人と言われています。分担金の割合で行けばドイツ人とフランス人が多数を占めているでしょう。出発点は不戦の誓いですが、ここまでくると異なる価値観と文化を有する国家の複合体になっていますから、 一つヨーロッパという理想を追求して行けば行くほど内部に矛盾が生じてきます。加えて英国は“不戦の誓い”ではなく、実利を求めてEUに加盟したわけです。さらにイギリスのエリートから見るとブラッセルやベルリンの“若造”の指図を受けたくたくないという感情もあるでしょう。

確かにドイツ流の細かい規制は英国人の気性に合わないでしょうし、フランスやイタリアのラテン系にも合わないでしょう。しかし今現在、EUの意思決定は実質的にベルリンで決まっています。英国のEU離脱を受けてメルケル首相はフランスのオランド大統領とイタリアのレンツィ首相をベルリンに招いて、独仏伊が首脳会議を開催し、英国の離脱通告まで交渉拒否 の声明を出しています。「もういい加減にしてくれ」、「出て行くのであれば早く出て行って欲しい」、「出て行くのであれば早く出て行って欲しい」ということです。他の加盟国はその決定に従うだけの存在ですから、一つヨーロッパではありません。

ただ英国のEU離脱によってEUの結束が緩み、力が弱まると国際間の力の均衡が変化します。まずウクライナ問題で経済制裁を受けているロシアは経済制裁が緩むという期待が生まれるでしょう。ドイツは歴史的に、また地政学的にロシアと関係が深く経済制裁に関しても柔軟に対応する姿勢を見せていました。英国は米国とともに強硬な経済制裁を主張していましたから、ウクライナ問題については、ある種の政治的な妥協が生まれる可能性があります。もしこれが実現すると、日本の北方領土問題も動く可能性があります。ロシアの経済制裁の中でロシアに経済的な支援を行う形で北方領土問題を処理するわけにはいきませんから。

EUの弱体化は中国にとっても悪い話ではありません。AIIBではアメリカの予想を裏切ってまっさきに英国は参加を決めました。そして習近平の英国訪問で大型の経済交流を決めています。英国ではEUという市場から離れれば、さらに英が中国に経済依存するのではないかと言われています。ドイツもメルケル首相が9回も中国を訪問しているように中国に深入りしています。ただドイツのメルケル首相は、最近はやや中国から距離を置く言動です。前回の中国訪問でははっきりと中国覇権主義を批判しています。ともかくEU、そしてNATOという欧州の安全保障も微妙に変化するのではないでしょうか。

トルコのEU加盟は長年の懸案ですが、これも今回の国民投票で離脱派が移民が増えるということで反対をしていましたが、ドイツとトルコの関係も微妙で、移民問題を含め波乱が予想されます。

長々とECとEUについて書いてきましたが、今回の英国のEU離脱は単に英国の感情に溺れた国民の過ちではなく、 EUというヨーロッパの体制の矛盾が顕在化し、大きなEUの改革につながっていくのではないでしょうか。誰もこのあとのことはわかりません。それにしても離脱を声高に叫んでいたボリス・ジョンソン氏と英国独立党のファラージ党首は無責任なエリートの本性を出しました。天下国家を声高に論じる人は要注意です。

以上は英国EU離脱を受けて、改めて俯瞰的な理解をしたいと思って情報を集め整理した、私個人の勉強のまとめです。多くの情報の中から丁寧に拾ったつもりです。引用したURLも意識して時間軸に沿って紹介してあります。これを読んでいくと俯瞰的な認識を得られるのではないでしょうか。自分なりの俯瞰的な認識を持つことは重要ですから。

蛇足ですが、この記事を書いていく中で気付いた事は、主役のキャメロン首相、ボリス・ジョンソン氏とマイケル・ゴーブ氏は、ともにオックスフォード大学で学んでいます。キャメロンとジョンソンは裕福な家庭に生まれイートン校の出身でもあります。そして、あの無謀な戦争を始めたブレア元首相もオックスフォード大学の出身です。俯瞰的に見ればエリートの驕りと、暴走に対する国民の反乱と認識してもいいかなと思いました。

ちなみに、次期首相に決まった、テリーザ・メイ内相もオックスフォード大学出身です。

国の国民投票とEUの根本的問題 短期間に無茶をやり過ぎた欧州委員会
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20160702/dms1607021000003-n1.htm
習近平が英国EU離脱を「歴史的好機」とほくそ笑んでいる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49025
ロシアへの波及警戒=制裁緩和に期待も?プーチン政権
http://news.livedoor.com/article/detail/11683237/
【年表】イギリスがEUを離脱するまで(1952-2016)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/eu1952-2016.php
GDP by Country, 1980-2015 - noema.com
http://jp.knoema.com/tbocwag/gdp-by-country-1980-2015?country=United%20Kingdom
英国で260万語のイラク戦争検証報告書、発表へ
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/07/post-5415.php
ブッシュとブレアのイラク戦争に遅すぎた審判
http://www.newsweekjapan.jp/kimura/2016/07/post-14.php


◆そして日本の現状と変化を今一度考える◆
この際、日本の現状も気になりますから、幾つかの視点で考えてみます。
生産年齢人口の減少は言われて久しいですが、就業者全体に占める女性と高齢者の割合が5割を超えたとは驚きました。日本の変曲点でしょう。

“総務省が29日公表した2015年国勢調査の抽出速報集計で、就業者全体に占める女性と65歳以上の高齢者の割合が初めて5割を超えたことが分かった。少子高齢化のあおりで労働力人口は6075万人と前回の10年調査と比べ295万人減少し、6千万人割れが目前に迫る。増加する介護・福祉分野などの人手不足を補うため女性とシニア層が働き手として存在感を高めている。”「日経新聞2016/6/29」

一方、 OECDの調査によると1991年に9位だった日本の賃金は、2014年にはなんと19位に転落しています。そして1991年上位20カ国の中で、 25年後に賃金が下がったのは日本だけだということです。まさにバブル以降失われた25年です。一部の富裕層をのぞけば、国民の誰もがアベノミクスの恩恵を受けていると感じていないでしょう。

そして現在40歳で年収800万円の人が受け取る年金が月額約18万円とは驚きました。これでは暮らしていけません。ですからシニアの就業者が増えるのは当然です。むろん仕事があって働く事は、肉体的にも精神的にもいいことだと思いますが。しかし70歳を過ぎてくると体にいろいろな不調が出ますから仕事も辛くなります。

そして2020年には日本人の平均年齢は50歳となり、 65歳以上の高齢者の中で75歳以上が半数以上となります。壮絶なシニア社会、そして暮らしていけない年金です。さらに日銀総裁が追求しているインフレ2%の話を掛け合わせると、これから高齢者の生活保護世帯が増えると同時に、悪くすると、たぶん老人の自殺が増えるのではないでしょうか。

英国のEU離脱の結果で気になった事は、 45歳以上の世代では離脱が多数を占め、それ以下では残留が多数でした。 18歳から24歳では離脱派はわずか27%ですが、 65歳以上では60%を上回っています。いわゆるシニア民主主義の問題です。

安倍内閣は1100万人もの高齢者に一律3万円もの給付金を配り、子供1人あたり3千円の子育て給付金を打ち切る政策を行いました。明らかな参議院選挙を意識したシニア民主主義の取り込みです。日本の将来を真摯に考えているとは思えません。

今の安倍政権に対して国民が期待するのは憲法改正や安保法制ではなく、持続可能な日本社会のフレームワークを構築することではないでしょうか。しかし考えれば考えるほど極めて困難な課題です。

最後に、日本社会は基層に誇るべき精神文化があると再認識させられたことがあります。北海道ですが、本来廃止する事になっていた無人駅を、その駅を利用していた、たった1人の女子高校生のために 3月の卒業までその運用を続けて、廃止したという記事です。ネット上では中国で大きな反響があり、「日本は本当に学ぶところの多い国だ」、「日本人の精神を学ぶべき」、「日本に対しては好感が持てる」と言った書き込みがあったとのことです。こういうところから将来の日中関係が現在と全く違う状態になってくれるといいと思います。こんなニュースを中国語に翻訳して配信している人は素晴らしい民間外交大使ですね。

働く人、過半は女性とシニア 15年国勢調査
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS29H5B_Z20C16A6MM8000/?n_cid=NMAIL001
先進国の1991年と2014年の賃金ランキング
http://president.jp/articles/-/18338?page=3
40歳のあの人は年金を一体いくらもらえるか
http://toyokeizai.net/articles/-/121989
生活保護の高齢世帯5割、50年で6倍に
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160601-OYT1T50087.html
軽減税率導入、高齢者に給付金3万円
http://www.nippon.com/ja/genre/politics/l00145/
たった一人の女子高生のために卒後まで営業を続けた駅
http://sp.recordchina.co.jp/newsinfo.php?id=126644


◆俯瞰サロン◆
※すでに定員に達してしまい、申込み受付を締切っています。
キャンセルなどの状況により、受付を開始する可能性もありますので、
お手数ですが、ホームページをご覧くださいhttp://www.fukan.jp/俯瞰サロン/
第33回俯瞰サロン 2016年7月25日(月)
「ブロックチェーンの応用可能性・不可能性と新たな社会基盤」
日 時: 7月25日(月)18:30-20:00 (18:15 受付開始)
場 所: 俯瞰工学研究所
     東京都港区港南2丁目14番14号
     品川インターシティフロントビル 6階
     http://www.sicity.co.jp/front/access/
参加費: 1,000円
定員 : 40名程度(定員に達した時点で受付終了します)
懇親会: 講演終了後に懇親会を開催します。
     参加費用は3,000円程度。
【講師★斉藤賢爾さんご紹介】
慶應義塾大学 SFC 研究所 上席所員 / 株式会社ブロックチェーンハブ CSO
1993年 コーネル大学よりM.Eng取得(CS)
2006年 慶應義塾大学より博士号取得(政策・メディア)
2007年度?期 IPA 未踏ソフトウェア スーパークリエータ/天才プログラマ
「Development and Application of Global Operating System Shell((地球規模オペレーティングシステム外殻の開発と応用)」

この話は今聴くべき話です。ブロックチェーンは国際決済の通貨になる可能性がありますから。

◆俯瞰のクッキング “ふるさと納税をやってみました” ◆
以前から興味があってやっていなかったことに、ふるさと納税があります。ふるさと納税は私の理解では2,000円を超える寄付金額については、主として住民税から全額が控除されます。ただし上限が住民税の2割までです。暗算しやすいので、住民税が年額100万円の人を仮定すると、20万円までとなります。そこまで払っていない人が多いと思いますが、月5,000円払っている人は年間60万円になりますから、 12万円まででしょうか。給与所得者は確定申告をしなくても、送られてくる書類を寄付先の自治体に送るだけで良いようです。そして寄付金の使用先も指定できます。以上はあくまでわたしの理解と認識です。

ネットで寄付金金額のランキングを見ると、第1位は宮崎県都留市の42億円です。お礼として送られてくる品は牛肉と焼酎その他です。次は静岡県の焼津市で38億円です。人気のお礼の品はうなぎです。 1万円で2匹のうなぎです。次は山形県天童市で32億円です。リンゴやラフランスなどの果物とお米が多いようです。次は鹿児島県大崎町です。

とにかくこのような市町村には巨額の財源が生まれているわけです。逆に地域の住民が他の市町村に寄付する金額が、他から貰う寄付金額よりも大きいと赤字になります。ですから地域間競争になっているのです。そのためお礼の品ものはかなり魅力的なものになっています。

一部には過大のお礼の品は好ましくないという意見がありますが、その分地元の産品が輸出されていますから、たとえ給付金の半分をお礼の品に使っても、地元の生産者にとっては、有力な通信販売となります。これは素晴らしいと思います。いくらいいものを作っても販売する力がなければ事業になりません。またあまり知られていない特産品を全国的にマーケティングすることにもなります。知事や議員が無駄に使うよりも東京都民の住民税を地方に移算することはもっとやっていいと思います。

早速、牛肉を選んでみました。大体1万円で500グラム程度でしょうか。ステーキ用、すき焼き用、焼肉用で違いますが。冷凍で送られてきますからそのまま冷凍庫に保管しました。ふだんは買わない霜降りのステーキを2口手に入れました。海産物では生きたサザエ、雲丹を選びました。お米はどこでもありますが、 1万円の寄付で15キロから10キログラムです。うちの場合、3万円くらい寄付するとお米を買う必要がなくなります。

ついつい夢中になってあれこれ寄付してしまいましたが、品が着いてみると保管の場所に困ります。先月のここでご案内した大型冷蔵庫の買い替えでなんとかなりました。

これからは少しずつ必要に応じて寄付をしようと思います。うまくやると2000円で殆ど食材が調達できそうな気がしてきましたが、勘違いかも。

2016年 ふるさと納税なんでもランキング
http://www.furusato-tax.jp/rank.html#about09
県内11市町村「赤字」 ふるさと納税
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160708/KT160707ATI090028000.php


◆ニューウェーブの俯瞰  ◆
人工知能の自動運転の車両が死亡事故を起こしました。電気自動車のテスラです。直前に割り込んだトラックにブレーキをかけずに追突して運転手は死亡です。自動運転に任せてハリーポッターのビデオを見ていたという報道もあります。もともと現在の自動運転は無人運転ではなく自動ブレーキや車線変更の自動化です。基本的にハンドルに手を置いているのが原則です。このテスラの自動運転は日本でもこの1月から導入されています。ただこれで自動運転が危ないとか、規制を強めるというような、後ろ向きな議論はしたくないですね。このほかにも死亡事故を起こしていますが、酒気帯び運転や脇見運転、居眠り運転で膨大な死亡者が出ていますが、自動運転の技術は劇的にこの数を減らすことができます。

私の車は自動ブレーキ、車線キープの機能があります。以前は高速道路でオートクルーズをよく使っていましたが、最近はオートクルーズを使わずにハンドルをしっかり握り自分と車の一体感をキープするようにしています。一体感が失われていると非常事態にうまく連携できないのではないかと考えていますので。

自動車がなくては生活ができない人は多くいます。そして自動車が運転できない人がいます。地域のモビリティは公共的なインフラと同時に、自動運転というイノベーションで解決していかなければなりません。

もう10年になったGoogleマップですが最近NASAの地球観測衛星「ランドサット8号」の利用によって精度が格段に向上しました。グーグルアースで自宅周辺を見ると本当に細かいところまで写っています。さすがに車種まではわかりませんが走行中、駐車中の車ははっきり見えます。また立木も一本一本見えます。自宅周辺を見てみませんか。

Amazonが電子書籍読み放題を始めるようです。月1,000円程度で電子書籍の読み放題です。すでに音楽の世界ではダウンロードして買うということから定額で聞き放題になっています。映画やTV番組もネットフレックスで定額見放題です。雑誌は以前この欄でご紹介しましたがドコモのdマガジンでほとんどの雑誌が、月額500円で見放題です。高速回線とスマートフォン、タッチパッドの普及であっという間に新しい時代になってしまいました。出版社やコンテンツ制作会社にとっては諸刃の剣ですが、ユーザーが新しいライフスタイルに移行するのに逆らうことはできません。特にこの分野はApple、 Amazon、 Googleという革命児が巨額の資金を持って社会的イノベーションを推進していますから、日本の企業が新しい世界に行くこと逡巡していると、企業の存続が危うくなります。私たちも新しい世界に積極的に入っていって自分自身の可能性を広げていきましょう。

人工知能誤判断?テスラ、自動運転中に死亡事故
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160701-OYT1T50060.html
グーグルマップが衝撃の高画質化。「新衛星」でこんなに綺麗に!
http://sorae.jp/030201/2016_06_28_map.html
アマゾン、電子書籍読み放題へ 月額1000円前後
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12430583.html?rm=150


◆俯瞰の書棚◆

今回の紹介は「色のちから」ジャン・ガブリエル・コース CCC メディアハウス 2016です。

普段あまり意識しませんが、私たちは色に囲まれて暮らしています。この本は色の与える心理的かつ生理学的影響に関する最近の研究を紹介したものです。読んでもっと色彩を意識する必要があると思いました。

第一章 色を理解する、第二章 色の与える影響、第三章 色を選ぶ、という構成です。
冒頭にアルチュール・ランボーの詩があります。母音に色があるということです。Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青です。こんな詩があるとは知りませんでした。

のっけから色というものは存在しない、色は人が見ることによってのみ存在する、ということです。つまり光とは電磁波が放射された後に、透過したかもしくは反射されたものである、です。色は3つの要素によって特徴づけられます。その要素とは色相、明度、彩度です。色相とは特定の波長に反応するスペクトルの色(青、緑、黄色、赤、茶色など)です。 明度は白の割合です。そして彩度は灰色の割合です。

美術館の照明について面白い事が書いてあります。かつては画家は蝋燭の光だけで描いていた、つまり強いオレンジ色の光の中で色彩を作成していたのだ、その絵画を白色照明で展示しているので、結果として美術館ではとても青く見えるとのことです。初期のピカソは蝋燭の光で書いていたらしい、とすれば彼の青の時代とは作品を展示する照明が間違っているだけだ、とあります。

男女間では色の感じ方に差異があり、男性は女性よりも暖色は暖かく感じることが証明されています。最近の研究によるとテレビゲームをしている若者たちは灰色を背景としたコントラストと細部に対する感受性が発達し、夜に文字を読んだり運転したりする能力が高まるとありますが。

動植物については、犬は青と黄色以外はうまく識別できないので犬の食器は青か黄色がいい、とあります。

第二章では、赤は私たちの論理的な能力を低下させるとあります。さらに赤を数秒間見ただけで人間は臆病になるという結果です、知的な論証で結果を出したければ赤を避けるべきとのことです。赤の持つ影響力は後天的なものではなく先天的なものであるようです。また先生が採点や評価に赤ペンを使う代わりに緑を使えば、子供たちへの励ましになるとのことです。緑は創造力を伸ばす効果があるとも言われています。また緑は人を納得させる力もあるとのことです。

リラックスさせる効果がある色はピンクです。ピンクは血圧を下げ、脈拍を減らし、エネルギーを削ぎ、撃性を弱めるとあります。

学習意欲と生産性を高める色については、白と黒と茶は学習能力を下げるとのことです。そして黄緑とオレンジと空色は学習能力を高めるとのことです。人は赤い環境では集中力が高まり、青い環境では直感を使うようになるとの研究もあるそうです。

マーケティングでは色が非常に重要で、商品のパッケージの色、店内の装飾についてはかなり研究結果が採用されているようです。スーパーの陳列棚で目に留めてもらえるかどうかは80%が色で決まるといわれています。マクドナルド店内の赤と黄色のコントラストのある内装は長居をせずテーブルの回転率を上げるためとのことです。

一般的にはそして世界中で、青は誰にも好かれる色です。私たちの色の好みは先天的なものか後天的なものかという点についてイギリス研究者は実験で、2歳以上の子供は、女子は次第にピンクを、男子は次第に青を好むようになるとのことです。確かに私の男の孫は青い車を好んでいました。

また、好きな色が黒だという人は少ないのですが、コンピューターやカメラゲーム機などは、なぜか黒が多いですね。

色と光は近年では医療にも応用されているようです。特にメラトニンの調節には光が重要で質の良い睡眠や、爽やかな目覚めに適した光が研究されているようです。

第三章は色を選ぶ、ですが色の選択は文化によります。例えば喪の色は中国では白であり西欧では黒です。エチオピアでは茶色、エジプトでは黄色、イランでは青とのことです。衣服の色も国によっては階級で使い分けられています。

ある色があなたの人格に文化的な影響を与えるかを知りたいならば、「目を閉じてその色を思い描き、頭の中に浮かんだ物体や形容詞を数え上げると良いでしょう」とあります。

そして結びにありますが、「光と色は我々の行動に強い影響を及ぼす驚くべき存在である、そしてその影響は科学的に証明されているにも関らず、過小評価されている」とあります。ですから色の持つ力を認識し今後は意識的に色を選ぶべきだということです。

そして「最高のカラリストはあなたの脳の中にいること忘れてはいけません、そのカラリストは直感です」と。

本書を読んで改めて色の力とその応用に興味が湧きました。周りを回してみると全く色に関する自分の意図がないことに気がつきました。強いていうと服装でしょうか。ジャケット、ワイシャツ、青が多いです


◆編集後記◆
● 参議院選挙は与党の圧勝でした。早速憲法改正を持ち出していますが、中国との関係は緊張しますね。
● 英国のEU離脱は2年以上先ですが、その前から新体制に移行する必要がありますから世界経済は不安定になるのでしょう。
● オックスフォード大学の歴史と文化に興味が出ました。英国、中国、日本ともに政治家は世襲制ですね。
● ふるさと納税はともあれ大ヒットですね。首都圏一極集中の現在、ささやかでも所得移転ができれば、過疎の地域に対する支援になると思いますが。
● 色について膨大な科学的研究がされているとは思いませんでした。人生にもっと色をつけましょう。



======================================
◆内容・記事に関するご意見・お問い合わせ/配信解除・メールアドレス変更 下記まで
webmaster@fukan.jp
……………………………………………………………………………………………………
◆俯瞰 MAIL 0059号(2016年7月12日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
======================================

※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


BACK