世界秩序の再形成に向かうのか


◆工学研究所の 代表として名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせて頂いております。 またこのようなメールマガジンはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。 ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。 また、内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。 過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。http://www.fukan.jp/ ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので、 添付のpdfファイルを保存しておいてタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。 また、このメールマガジンに記事の投稿をご希望の方は是非原稿をお寄せください。




皆様

◆時候ご挨拶◆
梅雨も明け、猛暑です。子供のころは35度というのは特別な日でしたが最近は連日どこか でこれくらいの気温に達し、熱中症で病院搬送あるいは死亡のニュースです。平均気温が3 度くらい上昇すると植生も変わり、人間の熱に対する耐性の限界を超えるのかもしれません。 電力消費のピークと供給も気になります。 前回から少し間が空きましたが42号をお届けします。今回は参照先を少し多めにあげまし たので夏休みで時間が空いたときにでもゆっくり元情報をお読みください。

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・世界秩序の再形成に向かうのか
・安倍政権の支持率が落ちてきたのは何故か
・韓国経済の変調が気になります
・今年も東大本郷で俯瞰経営学の授業を開講しました
・俯瞰のクッキング 健康にいい野菜のランキング
・ニューウェーブの俯瞰 グーグル帝国の中に取り込まれる我々
・俯瞰の書棚 「近代ヨーロッパ史」 福井憲彦 筑摩書房2010
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◆世界秩序の再形成に向かうのか◆

最近の国際情勢のニュースを追っていくと、歴史的な世界秩序の変化の時代にあるという 認識に至ります。
ウクライナ情勢はマレーシア機の撃墜を受けて、一気に緊迫した情勢になりました。 さすがにこれまで対ロシア追加制裁について経済的な理由からためらっていたEU諸国も対 ロシア追加制裁に踏み切りました。経済的には双方に相当のマイナス要因となり世界経済 の成長を阻害することになるでしょうが。
一方このマレーシア航空機撃墜による緊迫した政治情勢は、意外とウクライナ情勢の終結 を早める結果になるかもしれません。というのは冷戦時代を思わせるプーチン大統領のKGB 的な古い力の外交が破綻したわけです。さすがプーチン大統領も供与した対空ミサイルで 親ロシア派が民間機を撃墜するとは予想もしなかったのでしょう。

今の段階ではロシアの世論はプーチン大統領の親ロシア派支援を支持していて、安易な妥 協は弱腰としてプーチン政権を弱体化しかねませんが、元々経済状況がよくない上に今回 の制裁で経済成長がマイナスになるようなことになれば国民も冷静な判断をできるように なるでしょう。そして多分、結果として親ロシア派に対する支援を縮小もしくは中止せざ るを得ません。その結果新しいウクライナ体制が形成される可能性があります。
なぜここまでプーチン大統領がウクライナでリスクをとろうとするかという議論がありま すが、私はプーチン大統領が非常に追い詰められた状況にあることが、クリミア併合に始 まるウクライナ情勢の要因ではないかと推察します。
というのは冷戦終結後に旧ソ連の支配下にあったポーランド、ハンガリー、バルト海3国、 チェコ、スロバキア、ブルガニア、ルーマニアはワルシャワ条約機構と対峙したNATOに加 盟し国境線を保証され、さらにEUにも加盟することによって西欧としての経済発展を続け ています。ウクライナとベラルーシは旧ソ連邦であり、ロシアにとっては歴史的にヨーロ ッパからの侵入に対する防御線です。絶対にNATOやEUに譲るわけにはいかないという信 念でしょう。

ただ、 NATOとEUに加盟した東欧諸国は経済的な発展を続け、ロシアおよびウクライナと ベラルーシは経済的に取り残されています。国民が自動車を買ったり、テレビを買ったり、 服を買ったり、そんな生活水準の実感である、“一人当たりの購買力平価GDP ”の推移を調 べてみると、下記にありますがすでに“大国ロシア”はポーランドに抜かれています。従 って強権をもってしてもプーチン政権から民心が離れ弱体化していきます。これに対処す るためにはウクライナやベラルーシおよびその他の旧ソ連邦諸国との経済連携が緊要課題 です。ですからウクライナは譲れないのでしょう。
ついにイスラエルがガザ地区に地上侵攻しました。多くの市民の犠牲もでています。悲劇 と恩讐の連鎖です。まさに泥沼的な状況です。アメリカの必死の停戦仲介も聞きません。
隣国のエジプトはアラブの春から一転にしてイスラム原理主義を許さない軍事政権にかわ り、ガザ地区との経済交流を絞りました。ガザ地区を実効支配しているハマスはシーア派 のイランの支援を受けていても経済的に困窮します。となるとその矛先はイスラエルに向 かいます。しかしハマスが長距離ミサイルを入手してイスラエルの市街地をロケット攻撃 すればイスラエルとしてはその攻撃力を撃破するしかありません。誰がミサイルを供与し ているのか?判ったたような気がしますが絶望感があります。
イラクではスンニ派が武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」という独立国家 を宣言し、イラク情勢は一気に緊迫した情勢になりました。イラク南部の油田を抑えるシ ーア派、そして中部の油田を抑えるISIL 、北部の油田を抑えるクルド勢力という事実上3 国に分かれる可能性が高まってきました。もともとこの利権を狙ってアメリカのブッシュ 大統領とイギリスのブレア首相という列強が仕掛けたイラク戦争の結末です。かつてのイ ラク戦争でも多くの貴重な文化財が失われましたが今回はウラン化合物が武装勢力にわた るという事態まで起こっています。

シリアでも内戦が悲劇を産んでいます。すでに犠牲者は17万人を越えそのうち9,000人を 超える子供が犠牲になっていると報告されています。ここもシーア派のアサド政権とそれ に対抗するスンニ派諸国の支援を受けた武装勢力の戦闘がこの悲劇を産んでいます。この 地域の悲劇的な混乱の、もともとの原因は列強の利権争いですが、そこにスンニ派とシー ア派という宗教勢力の敵対構造が、着地点が見えない悲劇的な騒乱という火に油を注いで いると思います。
アフガニスタンでも政情は不安定で、大統領選挙も決着がついていません。悪くすると内 戦状態にまた入る可能性があります。ブッシュ大統領の、あのアフガニスタン戦争は一体 何を追求したものだったのでしょうか。このような列強の思惑で始まり広がった戦乱に、 列強が武器を供給しそれが拡散し、次の混乱を発生させていくという悪魔の連鎖が止まり ません。
シリアからの難民が流入しているというトルコですが、このトルコも変調をきたしていま す。エルドアン首相の言動が国内情勢をおかしくしていますが、ここでもイスラム教が影 を落としています。もともとトルコは建国の父であるケマル・アタテュルクの脱イスラム 主義を国是にしてきましたが、ここに来て現政権が宗教を持ち込んできました。これに対 する国民の反発が混乱を招きました。エジプトの反イスラム政権との関係もギクシャクし ています。 このエルドアン首相も理解に苦しむ行動を起こしています。NATO加盟国であり、EU加盟を 希望しているトルコですが、 セキュリティーに関して懸念を持つNATOの強い反対を押し きって通信インフラを中国企業に発注し、さらに新幹線も中国企業に発注するという中国 よりの外交をしています。ただこの中国製の新幹線はエルドアン首相も参加した開通式に 故障してしまいました。この地域の安定性を脅かす存在になるかもしれません。他の“ア ラブの春の諸国”も政情不安と混乱が続いています。

長々と中近東の国際情勢について書いてきましたが、日本は今日現在エネルギーの大半を 中近東に依存していることを忘れてはなりません。この地域の混乱は日本の安全保障の最 重要課題でもありますから、私たちは常にこの地域の状況を把握し必要あれば危機回避の 行動を速やかに取らなくてなりません。そしてこの地域の人々は非常に親日的です。将来の市場としても極めて有望です。 集団的自衛権の議論も歴史的な世界秩序の変化の時代だという俯瞰的認識の視座でなされ なければいけません。 詳細は下記のサイトで。


EU、対ロシア追加制裁を決定
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304126704580059654207131796

プーチン政権想定外のマレーシア航空機撃墜 ウクライナ東部安定化へのカギ
http://diamond.jp/articles/-/56454?display=b#gunosy

悲劇の地図:マレーシア機残骸はいかに散らばったか
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304180804580060720793820134

プーチンはなぜウクライナで大きなリスクをとろうとするのか
http://m.jp.wsj.com/articles/SB10001424052702303828304580044083486180818?mobile=y

旧ソ連圏ヨーロッパ各国の一人当たりの購買力平価の推移(1980?2014年)
http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=PPPPC&s=1980&e=2014&c1=LV&c2=EE&c3=RU&c4=LT&c5=PL&c6=CZ

国際宇宙ステーションからガザ地区
http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/24/gaza-from-the-iss_n_5616084.html

イスラエル軍、ガザに地上侵攻 09年以来、犠牲拡大も
http://www.asahi.com/articles/ASG7L1VPJG7LUEHF001.html

イスラエル、ガザ攻撃を再開 休戦延長白紙に
http://www.asahi.com/articles/ASG7W3GNBG7WUHBI001.html

緊迫のイラク情勢 いったい何が起こっているのか?
http://thepage.jp/detail/20140618-00000001-wordleaf

ウラン化合物が暴徒の手に 国連に報告「拡散の危険はない」
http://sankei.jp.msn.com/world/topics/world-14898-t1.htm

高まる原油価格高騰リスク
http://diamond.jp/articles/-/55116

拘束後に首切断…イスラム国、シリア軍兵士50人を殺害
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140726/mds14072611400006-n1.htm

死者17万人超、人権監視団が集計 子供も9千人超
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140711/mds14071100200001-n1.htm

シリア出国、トルコにあつまる密航希望者たち
http://middleeast.asahi.com/watch/2014072900001.html?iref=comtop_rnavi_chumo_l

アフガニスタン大統領選、全投票の再調査で合意 雪辱を期すアブドラ候補の思いとは?
http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/13/afghanistan_n_5581533.html

トルコとエジプトの関係が悪化―エルドアン首相の言動で
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304067104580054352682052256

中国、高速鉄道を海外輸出 「中国標準」規格の普及狙うもトルコ首相の乗った一番電車で トラブル
http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/29/turkey-high-speed-rail-maid-by-china_n_5629155.html

リビア:首都で燃料タンク炎上 高まる内戦突入への懸念
http://mainichi.jp/select/news/20140730k0000m030078000c.html



◆安倍政権の支持率が落ちてきたのは何故か ◆

メディア各社の世論調査では安倍政権の支持率が落ちてきたようです。集団的自衛権では 強引なリーダーシップで大きく国民の支持を減らしました。特に若い世代の支持率が急激 に落ちているようです。憲法9条の、「交戦権はこれを認めない」を憲法改正ではなく内閣 の判断で超える(オーバーライド)という知恵はだれが授けたかわかりませんが、わから ない陰の力で安倍首相もやらざるをえなかったという仮説も考えられます。その事情を聞 かされた公明党も妥協したと。平和主義と護憲を結党の旗印にしている公明党も苦悩の決 断でしょう。か単なる“政治家の信条”と“政治判断”かもしれませんが。
ただこの後、国民が白けた気分になったことは事実で、国民が安倍首相に体を張ってやっ てもらいたかったのは経済政策で、少子化対策、規制改革、医療。教育・・でした。これ も抵抗勢力の骨抜きで何かと、特区で済ますのでは白けますね。日本全体を特区にするの が国政ですから。国民の、特に若い層の白けた気分、これが内閣支持率低下の原因で、経 済停滞に繋がりかねません。

日本経済に対する情報はプラス材料もマイナス材料もありますが、基本的に自動車、電機 という基幹産業は業績が好調です。この段階では白けた国民の情緒を明るく持ち上げてい く必要があります。我々もメディアの悲観的な意見や見解に引きずりこまれないようにし ないといけません。楽観的な見解や予想よりも悲観的な見解のほうが何故か受け入れられ やすいという“日本人のサガ”がありますので。このような悲観的なメディア報道こそチ ャンスだという意見や歴史的な大波が来るという株屋さんの話を聞くのも精神的にいいか もしれません。
さすが日銀は、景気は停滞気味でデフレ脱却も道半ばだといっていますが立場上そう言う しかないでしょう。


内閣支持率、50%を切る 特定秘密保護法の成立時より高い
http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/03/cabinet-approval-rating-abe_n_5556779.html
日本の成長率引き上げ「アベノミクスを反映」 IMF専務理事
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM3000T_Q4A730C1EAF000/
電機大手7社、業績回復度合いで明暗 ソニー、再建は厳しいまま
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140801/bsb1408010500001-n1.htm
鉱工業生産3.3%低下 6月「弱含み」 7、8月は回復見込む
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140730&ng=DGKDASFS30H07_Q4A730C1MM0000
景気回復「腰折れ」報道は本格回復のサイン(澤上篤人)
http://www.nikkei.com/money/column/moneyblog.aspx?g=DGXNASFK0100V_01072014000000
6月の全国消費者物価3.3%上昇 13カ月連続プラス
http://www.nikkei.com/article/DGXNNSE2ICP01_T20C14A7000000/
6月景気ウオッチャー調査で反動減薄らぐ、先行き家計関連が悪化
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0FD0BQ20140708
歴史的大相場の入り口? 景気サイクルに乗る投資
http://www.nikkei.com/money/features/37.aspx?g=DGXZZO7457357022072014000000
増税後の国内景気に漂いはじめた停滞感
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20140710/407004/
デフレ制圧が視野、物価2%は道半ば=中曽日銀副総裁
http://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2014/07/130783.php
全9地域の判断据え置き、人手不足がリスク要因に=日銀地域経済報告
http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPKBN0FC0C320140707
「デフレ脱却」で賃金は下がり、景気は悪化する
http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2014/07/post-867.php



◆韓国経済の変調が気になります◆

韓国の経済の変調が気になります。あの沈没事故以来いろいろな事故のニュースが入って きています。自粛ムードで消費の落ち込みのような経済的な影響もあるかと思いますが、 ウォン高による韓国の主要な製造業の業績が落ち込んでいます。
特に韓国のGDPの16%を占めるといわれるサムスンの不調が注目を浴びています。収益の 柱だったスマホの不振が業績の足を引っ張っているようです。スマホとタブレットで業績 を伸ばしてきたサムスンですが、この市場ではAppleのiPhoneと中国の低価格製品の挟み 撃ちなっています。これはこの業界の典型的なジレンマで、価格競争力のあるメーカーと ブランド力が強い上位機種メーカーの間に挟まって身動きの取れない状況に陥っています。 Appleは、中国市場では出遅れましたが中国における4Gサービスの普及によって低価格の 機種からAppleの乗り換えが好調です。そして中国にはAppleのアプリケーションを開発 してApp Storeに売り出そうとするプログラマが15万人もいると言われています。 次の iPhone 6でも成長が期待されています。

中国では携帯やスマートフォンの生産の基盤が急速に整備されています。そして多くのチ ップやプロセッサーのメーカーが台頭しています。そのメーカーからの設計図も提供され ますので誰でも低価格のスマホは製造できます。
中国のスマホの市場は低所得者層が牽引役です。低価格のスマホのセグメントは中国スマ ホメーカーの独壇場です。主なメーカーはHuawei(華為)、ZTE(中興)、Lenovo(聯想)、 Xiaomi(小米)が有力ですが、いずれも東南アジア、北米、欧州そして南米とグローバル 展開していますから海外でもサムスンはシェアを奪われていくでしょう。低価格のスマホ メーカーとしての強力なライバルはインドにもいます。
ただサムスンが不況でも日本の部品メーカーはあまり影響を受けない構造に既になってい るようです。かつてのAppleショップから供給先を分散してリスクを下げているようです。

このような市場競争の脅威に加え、サムスンは内部的に深刻な課題を抱えています。 1つ は工場における労働問題で、国内でも深刻な訴訟等を抱えていますし、海外工場での子供 の労働問題も告発されています。韓国企業は全般に急速な拡大路線をとってきましたが、 安全や品質面で手を抜いてきたツケがいま回ってきていますので、これからは安全と品質 という内部構造を改善しそのコストを払っていかなければなりません。
さらにサムスンはこの成長を主導して来た会長が倒れ、その回復が見えません。何れにし てもサムスンの次世代の形がどうなるか大きな懸念です。もともと現会長も兄弟との争い から経営の主導権を奪い、グローバル企業サムスンを作ってきましたが、その会長の次世 代がこの巨大企業をうまく引き継いで成長路線を続けられるかが課題です。もともとサム スンの支配構造は複雑な資本関係によってわずか数%の持ち株でオーナーが支配してきま したがこの構造がそのまま継続できるのかも疑問です。
IBMに在職時に、サムスンが日産自動車と提携して自動車事業を起こす支援をしている韓国 IBMの自動車産業マーケッティングチームのサポートで、現代自動車の蔚山工場にも行き、 サムスン自動車にも行きましたが、現代自動車の幹部とサムスン自動車の幹部では全く印 象が異なりました。現代自動車は我々日本人にはきわめて紳士的で迎賓館で食事が出まし たが、サムスン自動車は非常にアグレッシブで猛々しいマネージャー達だったと思います。

韓国IBMの営業も現代自動車の営業担当はいいがサムスンの営業担当にはなりたくないと 言っていました。多くの幹部は米国での教育を受けており非常に優秀です。ということで 一族経営から日本と同じような非同族の経営形態に移行しても十分やっていけると思いま すが。 サムスンと並んで韓国経済を牽引する現代自動車の業績も悪化しています。ウォン高ドル 安が響いたとされていますが、李明博前大統領の推進したアメリカとEUとのFTAも効いて います。これまで現代自動車の独壇場であった韓国国内市場はヨーロッパ車と北米からの 輸入で高級車のシェアをどんどん失っています。北米市場でも日本メーカーがいったん失 ったシェアを回復しています。
現代自動車もウォン高ドル安という為替要因以外に、北米での大規模なリコールによるブ ランドイメージの低下とそれによる販売不振という構造的な問題があります。リコールの 内容も雨漏りがするという、考えられないような不具合です。加えて韓国での生産では強 力な労働組合との問題があり、しばしば大規模なストライキのため供給が滞ることが起こ ります。ここでも安全、品質、労務管理という内部構造の改革と整備に時間とコストかけ なければなりません。
このような韓国経済の変調に加え、政治的には朴槿恵大統領の支持率が大幅に落ちていま す。なにしろ「セウォル号」の沈没事故以降いくつかの事故も重なり、政府の対応のまず さが国民の非難のもとになると同時に、その余波で首相すら決められない状態です。もと もと社会に大きな格差があり矛盾があると言われていますからそれに対する国民の不満は 大きいようで、若年層の支持率が極めて低く20代では23% 、 30代では31%しかないと 報道されています。現政権で効果的な経済政策が遂行されるか懸念があります。

朴槿恵大統領は反日と親中の外交を推進していますが、日本と韓国は歴史問題が存在する ほど密接な隣国であり、経済活動も非常に濃密なネットワークを形成していますから韓国 経済の変調は日本経済に大きな影響を与える可能性があります。サムスンも現代自動車も 日本に追いつき、追い越してグローバル企業に成長した企業です。それが短期間でその輝 きを失っていくのを見るのは複雑な気持ちです。
日韓、日朝、韓中ともつれていますが、日本と韓国の協調こそが両国の戦略的な利益につ ながると思いますので韓国経済の復調を期待したいですね。


韓国GDP0.6%増、沈没事故が響き減速 4?6月 民間消費5四半期ぶりマイナス
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM24H0H_U4A720C1MM0000/
韓国で列車が正面衝突! 1人死亡、80人重軽傷
http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000031194.html
事故に揺れる韓国経済の「今」
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/nms/feature/post_70694/
ウォン高逆風…韓国製造主要5社中4社で減益
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20140728-OYT1T50125.html
サムスン電子が大幅減収減益 スマフォ不振
http://www.sankeibiz.jp/smp/business/news/140708/bsb1407081155002-s.htm
サムスン電子、スマホ不振でモバイル部門トップ苦境
http://m.jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304180804580062252247776026?mobile=y
サムスンにふりかかる“チャイナパニック” 日本製品に頼る韓国製造業の現実
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140723/bsj1407231115001-n1.htm
iPhone 6と中国メーカーに脅かされる、サムスンの苦境
http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/25/mobile-china-apple_n_5622507.html
中国のスマホは、中国が作る
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140708/363840/?n_cid=nbptec_r_NTO&rt=nocnt
サムスン変調でも冷静な部品各社 分散供給が奏功
http://it.igiw.net/?p=7226
なぜアップルとサムスンは訴訟闘争を続けるのか?
http://diamond.jp/articles/-/39889
サムスンの工場の過酷な環境。子供に時給120円で11時間の強制労働、しかも深夜勤務
http://blog.livedoor.jp/itsoku/archives/40030995.html
サムスンの「ブラック度」を告白
http://news.livedoor.com/article/detail/8412597/
サムスンの創業者一族、巨大帝国の支配力維持は困難か
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N922Q66TTDSC01.html
サムスン電子に続き…製造業の韓国代表現代自動車にも赤信号
http://japanese.joins.com/article/500/187500.html?servcode=300&sectcode=300
現代自の4?6月期営業益 13.3%減=ウォン高響く
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2014/07/24/0200000000AJP20140724002500882.HTML
米国で主力車88万台をリコール 韓国現代自動車
http://www.sankeibiz.jp/smp/business/news/140731/bsa1407310905003-s.htm
現代自動車 労組、賃金合意を賛成多数で承認しスト終結
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0H605620130910
正念場の韓国大統領 若者離れを侮れない事情
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO74519820Z10C14A7TY9000/



◆今年も東大本郷で俯瞰経営学の授業を開講しました◆

今年も東大の技術戦略経営学専攻で俯瞰経営学の授業をしました。現役の時から数えると 11年目の授業、退官して6年目です。内容は少しずつ進化しています。ただ私の定年後は 単位がつきませんが自主ゼミとして開催を学生から求められているので続いています。前 年度受講した学生の中の有志がTAとして授業の設定をしてくれます。

学生は受講を希望する約30名です。この学生は5人ずつ6チームに分かれて夏学期の間自 己研鑽を行います。というのはこの授業の目的は知識の習得ではなく、追求するものは「課 題に立ち向かい打破していく突破力」という「知的腕力」の鍛錬です。ここで「知的腕力」 とは正しく課題を認識し、その課題に関する“情報の収集、分析、編集のプロセス”を高 い水準でかつ短時間で成し遂げる知的能力です。毎回の課題がビジネス分野ですので結果 としてビジネスマネージメントの知識も付くということです。知識は教えられるものでは なく自ら学ぶものです。それをファシリテーションするのが教師の役割です。
第1回目でチーム分けを行い、夏学期を通して研究対象とする企業を決めます。今年度は 研究対象企業として業界の二番手を選びました。 KDDI 、川崎重工、ドトール、サントリ ー、 JAL 、ローソンです。業界二番手の経営は一番難しいかもしれません。
その企業を対象に会計、マーケティング、 技術戦略、戦略論、企業価値、 M&A 、経営学 そしてその企業への変革の提言をしていきます。そして毎週課題について情報の収集、分 析、編集の成果をプレゼンテーションします。これ以外にビジネスリテラシーとして人事 管理、リーダーシップ、 ICT最先端技術、近代ヨーロッパ史を課題にしました。ほぼ例年 通りですが、新しい試みとして近代ヨーロッパ史、ドラッカーの経営学とICT最先端技術 を入れました。

近代ヨーロッパ史を追加した理由は、地球的規模で流動化する不安定な国際情勢を俯瞰的 に理解するには、現在が、欧米という世界支配体制の終焉と新しい国際秩序の形成の時代 だ、という事を認識する必要があるからです。 19世紀にイギリス、オランダ、フランス、 ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、ロシアというヨーロッパに国家が形成され、 それに新大陸のアメリカが加わり欧米が成立しました。そしてその欧米が地球的な利権を 奪い合う中で、 2つの世界大戦が起こり、さらに民族独立、冷戦が続きました。冷戦はゴ ルバチョフの英断により終結しましたがその残渣が現在のウクライナ情勢を引き起こして います。これらの国際情勢と今後の新世界体制を俯瞰的に理解するためには、 19世紀と 20世紀のヨーロッパ史の知識が必須ですから。ただこの課題はリーディングアサイメント で「書評」をA4 で1枚程度にまとめさせました。
実はこの授業では日本語の、「読む、書く、話す、聞く」のスキルアップを重要な目標にし ています。将来のリーダーとなる人材は日本語の能力において完璧である必要があります が、これまで11年の授業でこの能力がほぼ完璧であった学生はゼロです。ただ基礎があり ますから指導すればすぐに向上します。書評を「書く」という事は意外と難しいのです。

ドラッカーの論文ですが、彼が94歳であった2004年の「プロフェッショナルマネジャー の行動原理」 、 1997年の「すでに起こった未来への準備」 、 1994年の「企業永続の理 論」 、 1991年の「知識労働とサービス労働の生産性」の4本の論文を読んで内容を要約 し、それを研究対象企業へどのように応用するかが課題です。改めて学生と一緒に読んで みると極めて今日的な経営学であることを再認識させられました。特に「企業永続の理論」 は感銘を受けました。社会と市場の変化に絶え間なく対応していく変革力こそが経営の神 髄であると言明しています。
戦略論はマイケル・ポーター中心ですが、彼の理論も「競争優位の戦略」から進化し、今 やCSV(Creating Shared Value)です。コトラーのマーケティングも今は「マーケティン グ3.0 」です。
興味深いのは、ポーターもコトラーもそしてドラッカーも経営のあるべき姿として、今や 社会的な課題を解決する行動が経営者の目指すべき目標であるとしている点です。このよ うな論文の購読と理解も非常に高いレベルで学生は消化していきます。
下記に参考となる情報を紹介しておきますので、夏休みの時間を利用して読まれたらいか がでしょう。それぞれ要約ですのでそれほど時間はかかりませんが内容は濃密です。実務 家は古い論文や書籍は読んでもしかたがないでしょう。


フィリップ・コトラーのマーケティング3.0
http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2010/10/marketing30-6fe.html
http://social-sensing.com/archives/569
https://www.kinmei.co.jp/ideaplus/images/pdf/no63/pdf_book_no63_2.pdf
http://webcreate.united-youth.jp/marketing3/
マイケル・ 。ポーターのCSV(Creating Shared Value、共有価値創造)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110516/219999/
http://bizacademy.nikkei.co.jp/feature/article.aspx?id=MMACz2000007012013
http://www.csvjapan.com/cn20/csv.html
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110530/220297/
http://andomitsunobu.net/?p=6509
P.F.ドラッカ-「企業永続の理論」
http://www.ritsumei.ac.jp/~kazuichi/pdf/kigyoueizoku.pdf
http://www.bookpark.ne.jp/cm/contentdetail.asp?content_id=DHBL-BS199501-414
http://drucker-ws.org/wp/wp-content/themes/drucker_workshop2012/projects/pdf/annualreport_vol03.pdf
P.F.ドラッカー HBR全論文
http://toshimitsuhara.wordpress.com/2010/05/29/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%
83%90%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%8
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◆俯瞰のクッキング◆

喜ばしいことに日本人男性の平均寿命が80歳を超えました。 80.2歳です。女性も過去最 高の86.6歳で世界第1位です。ちなみに男性の平均寿命は第1位が香港、そしてアイスラ ンド、スイスが続き日本は第4位です。
ただ気を付けないといけないのは平均寿命と健康寿命は、男性では9歳そして女性では13 歳の乖離があります。大切なのは健康寿命の延伸です。女性13年は膝の不具合が多く歩行 の傷害のため数字が悪くなるのでしょう。
その健康寿命のカギは生活習慣すなわち運動と食事です。質の良い食事は健康寿命の要で すが特に野菜と果物摂取が重要といわれています。
ではどんな野菜が体にいいのかということですが、アメリカの研究者の報告によるとトッ プはクレソンです。次はチンゲンサイなど中国野菜で続いてフダンソウ、ビーツの葉、ほ うれん草、チコリ、リーフレタス、パセリ・・・です。詳細は以下のURLから。
このランキングは、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の機関誌「Preventing Chronic Disease(慢性疾患を予防する)」に発表された研究で、健康に重要とされるカリウム、食 物繊維、タンパク質、カルシウム、鉄、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、葉酸、亜 鉛、ビタミンA、B6、B12、C、D、E、Kの17の栄養素の含有量をもとに食品がスコア化さ れそれに基づいたランキングです。
またよく地中海食が健康にいいと言われています。なぜいいのかわかっていなかったそう ですが、オリーブ油がなぜ体にいいのかという研究結果も報告されています 硝酸塩や亜硝酸塩を多く含むホウレンソウ、セロリ、ニンジンを、体に良い脂肪を含むア ボカドオイル、ナッツオイル、オリーブオイルと一緒に摂取することでニトロ脂肪酸が形 成されるということです。このような結果を見ると前の号で紹介したガスパチョやラタト ゥイユはまさに健康食ですね。野菜ジュースに亜麻オイルとかエゴマオイル入れて飲みま せんか。
ただ平均寿命ランキングを見るとスイスが第3位に入っています。見るところ乳製品と肉 が多く摂取されている国です。アイスランドも羊肉と乳製品そして魚です。何が身体に良 いのか迷いますね。

このところ健康に関する常識をひっくり返すような報告がいくつかあります。 例えば卵はコレスロールを増やすからいけないという説も疑問視されています。肉を食べ るな、いやもっと肉を食べろとかいう話もあります。痩せすぎよりも少し太っていた方が 寿命は長いとか。要は質の良い油と質の良いたんぱく質、そして身体に野菜と果物をバラ ンスよくとることが健康寿命の要点のようです。下記にあるフードピラミッドがその参考 になります。
50年の歴史がある福岡県の久山町のコーホート研究によると和食+乳製品が良いという 結果が出ています。この和食も内容次第で、素朴な和食をとっていた時代の日本人の平均 寿命は約50歳で、高度成長期以降、食事の内容が欧米化しタンパク質や油を多く摂取する ようになってから平均寿命はぐんぐん伸びてついに女性は世界1位になったわけです。む ろんこの間医療制度とその技術の進歩があります。

一方人間ドックで生活習慣病と判定される基準が大幅に緩和されて論議を巻き起こしてい ます。血圧や血糖値の基準が大幅に緩和され、これまで飲む必要のない薬を飲まされてい たと、これまでの厳しい基準は製薬会社の陰謀のような話になっています。 しかし判定基準が緩められたとしてもその値は低い方がよく、これまでの基準値を目標に 管理していった方がいいと思います。私は肥満についてはこの数年かなり管理ができてい て毎朝タニタの体重計に乗りますがBMIは22 、体脂肪率は20をほぼ維持できています。
このため糖質を控え、足の筋肉維持のため毎朝スクワットを40回しています。そして体 内年齢という表示は53歳から57歳を上下しています。実年齢は69歳です。体内年齢が若 く表示されるとちょっと嬉しい感じです。


日本人男性の平均寿命、初の80歳超え 女性も過去最高
http://www.asahi.com/articles/ASG703HKDG70UTFL001.html
最強の野菜は何?栄養素密度ランキングで1位に輝いたのは「クレソン」
http://karapaia.livedoor.biz/archives/52168562.html
オリーブオイルが血圧を下げる仕組みを解明、英米研究
http://www.afpbb.com/articles/smp/3015343/?device=smp
低脂肪製品は本当に健康にいい?食品と健康にまつわる3つの誤解
http://irorio.jp/utopia/20140725/150847/
フードピラミッド
http://sugp.wakasato.jp/Material/Medicine/cai/text/subject07/no10/html/section4.html
健康診断の判定基準を改訂 150万人の調査結果を反映 人間ドック学会
http://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2014/003497.php
日米で降圧目標値が緩和 あらためて血圧を考える
http://diamond.jp/articles/-/53418
「健康な人」の血圧やBMIの基準値変更!?人間ドック学会が発表
http://matome.naver.jp/odai/2139669611741938201



◆ニューウェーブの俯瞰◆

今回は次々とビジネスイノベーションを仕掛けてきているGoogleの最近の動向をまとめて みました。
まずネットにつながることにより従来にない機能を提供するいくつかのハードウェアの発 表があります。 Google Glassはメガネ型の携帯端末で視野の中に様々な情報が表示され、 両手が自由に使えるために幅広い応用が期待されています。実際に幾つかの企業では作業 現場に導入する試行があります。
日本ではまだ発売されていませんが既に幾つかの企業が導入を検討しています。例えば日 本語の記事を見ると自動的に翻訳した文章が表示されるとか、目的地まで誘導するナビゲ ーションとか、さらに論議を呼んでいるのは人の顔を識別同定してその人の情報をネット から映し出すということもできます。さすがにこの機能があるためGoogle Glassをつけた 人は入場禁止の場所も米国ではあるようです。

またGEは作業現場にGoogle Glassが使えるのではないかと試行を決めたようです。保守 サービスのエンジニアが必要な図面を、これを使って現場で見ることができます。
次はAndroid TVというインターネットTVの発売です。広い意味のインターネットにつな がるテレビは既に世界で10億台を超えているそうですが、パソコンやタブレットに繋がな くてもインターネット上にあるYouTubeなどのコンテンツがテレビを見るように見られる ものです。そしてコンテンツとしてゲーム動画のTwitchを10億ドルで買収しています。
Twitchは世界最大のゲーム・コミュニティ・サイトで、ここでゲーム愛好者は視聴者に向 けて自身のプレイをライブ配信することができるサイトです。
スマートフォンも開発して発売の予定です。買収したモトローラの製品ですがインターフ ェースが非常に斬新で多様なカスタマイズができ使いやすいという評判です。

小売業にも進出しようとしています。 Amazonが物品販売を核に多様なネットサービスを展 開することに対抗するのでしょうか。Amazonが従来型の店舗より商品を安く売ることで多 くの実店舗の脅威となってきたのに対し、Googleは自らを実店舗の協力者と位置付け、 Googleは、Amazonのように自前の倉庫を運営するのではなく、地域の小売店から商品を提 供してもらう予定だとあります。
風船を使ってインターネットサービスをしようという試みを、ブラジルでしています。風 船でWi-Fiサービスを提供するのですGoogleは2013年6月、インターネットアクセスを 世界中のいたるところに提供することを目的として、「Project Loon」を正式に発表した。 それから1年を経て、同プロジェクトは現在、数多くの問題を解消し、気球の強度を高め るとともに、フィールドテストしているそうです。
さらにその上空の衛星にもGoogleは投資を始めました。Googleは、現在はサービスが行き 届いていない地域でネット利用者を開拓することで収入や利益を押し上げたい考えのよう です。 最近の人工知能の進歩は目覚ましものがあるようですが、 Googleは人工知能について極め て野心的な展開をしています。Googleは最近、「深層学習(Deep Learning)」というAI新 分野の探究のため、天才たちをさらに雇い入れていると言われています。
深層学習とはつまり、人間の脳の生物学的構造をソフトウェアで模倣して、「オーガニック に」、すなわち人間の関与なしで学習するマシンを開発しようというものでこれは、人間の 言語を理解する助けになるかもしれません。そして同社のスマートフォンアプリやGoogle Glassの重要な武器になるでしょう。

米国のIT企業はこぞって人工知能に大量の投資をしています。その1つの理由がビックデ ータです。ビックデータを単に統計処理するだけではなく、人工知能の機械学習の機能を 使ってさらに有効な知恵を抽出しようとしているのです。この技術はロボットや工場の生 産ラインなど広い分野に応用できます。
自動車の自律運転もGoogleが力を入れている分野です。すでに市街地での自律運転の実験 を続けています。実験結果ではもしかしたら人間よりも安全かもしれないとも言われてい ます。お酒を飲んだら自律運転という交通規則が出来るかもしれませんね。
さらにAppleに対抗し自動車のカーナビにかわり様々なネットサービスが可能となるシス テムを自動車会社に提供しています。この分野では世界の自動車会社はAppleのシステム かGoogleのシステムのどちらかを選択することになります。Googleは自動車をモバイル機 器と同じように考えているのでしょう。あまりいろんなサービスが提供されると脇見運転 の心配がありますが。

ロボット事業にも参入を表明して相次いでベンチャー企業を買収していますが、その一つ は東大発ベンチャー企業のSCHAFTです。SCHAFTは米国防総省高等研究計画局(DARPA)主 催の災害対応ロボットの競技会で1位になったベンチャー企業で、東京大学でロボットを 研究する研究室のOBらによって設立されました。
私が最も注目しているのはGoogleの健康サービスの展開です。血糖値を測定できる無線チ ップ内蔵のコンタクトレンズを開発し、その製造を大手製薬会社のノバルティスにライセ ンスを供与したと発表しています。ソフトコンタクトレンズ用素材でできた2枚の膜の間 に微小な無線チップと血糖値センサー、毛髪より細いアンテナ、LEDライトが挟み込まれて おり、1秒ごとに血糖値をチェックするとのことです。
最近各社から腕に装着して心拍数や動きを検出し、それを無線でスマホに転送しさらにそ れをクラウドに集約して様々な健康のアドバイスをユーザーに提供するサービスが発表さ れていますが、 Googleもこの分野のサービスを始めるようです。噂されているGoogle Fit では、コンシューマーがフィットネスデバイスやアプリを通じて健康に関するデータをト ラッキングできるということです。

さらに驚くような野心的なこの分野のプロジェクトを発表しています。Googleは数千人の 血液や尿、涙などの生体データを収集し、健康のベースラインを発見するプロジェクト 「Baseline Study」を開始するとのことです。データ収集には、スマートコンタクトレン ズや、Google Xで開発されるウェアラブルデバイスが利用されます。Google Xは、これら の収集したデータを分析し、完璧な健康な人間の基準値を割り出します。そして算出され た基準値は、健康の維持だけでなく病気の早期発見にも役立てられるとのこと。
これら一連の野心的なプロジェクトを推進している部門がGoogle Xです。Google Xは、同 社のいわゆる「ムーンショット」プロジェクトの多くを生み出してきた部門で、ムーンシ ョットとは、技術を飛躍的に進歩させることを目指した実験的な取り組みで、自律走行車 や、Wi-Fi気球、Google Glass 、Baseline Study、などを推進しています。
Googleの共同創業者でGoogle Xに従事するサーゲイ・ブリン氏は「われわれの夢は人々の 生活の質を高めるために最新技術を役立てることだ」と語っています。
Googleが何を考えているのかは下記にある共同創業者の2人がベンチャキャピタルから受 けた公開インタビューが極めて興味深い内容で参考になります、ぜひお読みになったらい かがでしょう。 このようにGoogleは検索エンジンと広告という事業から得られた巨額の資金を使って手当 たり次第に企業や技術を買収しているように見えますが、人間の全ての活動を、それに関 連する情報をすべてGoogleが収集し分析し、人工知能を使って有益な知恵を抽出しそれを 社会に還元していく、というような壮大な野心が見えます。一方我われから見ると生活の すべてをGoogleに取り込まれ、その中で生かされるということにもなります。といってネ ットの情報なしに私たちは生活していくのが困難です。すでに見えている未来の社会をど う管理するのか、その中で私たちはどんな暮らしをするのかをもう考え始めなければいけ ません。
Googleは以上紹介したような野心的なプロジェクト以外に、社会に価値あるNPO等を支援 するプログラムを発表していますのでご関係のかたは応募されたら如何でしょう。


Google Glass、多彩な活用サービス、各社で試行続々 普及への課題も露呈
http://biz-journal.jp/2014/05/post_4852.html
GE、「グーグル・グラス」を現場エンジニア向けにテスト
http://m.jp.wsj.com/articles/SB10001424052702303768704580036173199771944?mobile=y
Googleは二股デバイスAndroid TVで市場支配をねらう
http://jp.techcrunch.com/2014/07/10/20140709connected-tv-market-crosses-1b-devices-as-google-pins-its-hopes-on-android-tv/
革新的なグーグルフォン「MOTO X」
http://wired.jp/2013/08/02/moto-x-gallery/
グーグルはゲーム動画の支配に動く
http://ascii.jp/elem/000/000/919/919859/
Googleはなぜモバイルに力を入れるのか?
http://html5experts.jp/furoshiki/8582/
グーグル、「Google Shopping Express」への資金投入を拡大
http://japan.cnet.com/news/service/35050511/
グーグル、規模拡大の鍵は米国外にあり?
http://zuuonline.com/archives/12145
グーグル「Project Loon」、ブラジルでネット接続を提供
http://japan.cnet.com/news/service/35049510/
グーグルが衛星に投資、ネット接続大幅に拡大へ
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303335604579600990161617238
グーグル「世界を覆う人工知能ネットワーク」構想
http://wired.jp/2014/01/29/google-buying-way-making-brain-irrelevant/
グーグルなどが買収合戦 米ITが人工知能に夢中な理由
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0702I_X00C14A7000000/
グーグルの自律走行車は「人間より安全運転」かもしれない
http://wired.jp/2014/04/30/google-cars-city-driving/?utm_source%3Dfeed%26utm_medium%3D
グーグルの自動運転車、市街地も克服
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303709304579530673973559930
グーグルの完全自律走行車は「人間を守ってくれる」(動画あり)
http://wired.jp/2014/05/29/google-builds-a-self-driving-car/
Androidを使った車載インフォテインメントで、Appleの「CarPlay」との競争が激化していく
http://clicccar.com/2014/06/30/260232/
グーグル、ロボット事業に参入 東大発VBを買収
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0501I_V01C13A2MM0000/
Googleのスマートコンタクトレンズ、ノバルティスが製造へ
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1407/16/news042.html
グーグル、健康関連サービス「Google Fit」を準備か
http://japan.cnet.com/news/service/35049344/
Google X、新プロジェクト「Baseline」で疾病予防に挑戦
http://japan.cnet.com/news/business/35051430/
数千人の血液や尿、涙などの生体データを収集し、健康のベースラインを発見するプロジェクト「Baseline Study」を開始
http://androidlover.net/androidnews/google-baseline-study.html
無人自動車からロボットまで 「世の中すべてをデータ化しコンピューターで便利に」 あらゆる業界の再編を目論むGoogleの戦略
http://blogos.com/article/88381/
ラリー・ペイジ、サーゲイ・ブリンがGoogleを語る―ヘルス分野は規制が重荷、手を広げすぎた方が実は効率的
http://jp.techcrunch.com/2014/07/08/20140706google-co-founders-talk-long-term-innovation-making-big-bets-and-more-in-fireside-chat-with-vinod-khosla/
Google 、非営利団体の活動をテクノロジーの力でサポート
http://googlejapan.blogspot.jp/2014/07/g4np2014.html
http://www.google.co.jp/intl/ja/nonprofits/



◆俯瞰の書棚◆

今回のご紹介は 「近代ヨーロッパ史」 福井憲彦 筑摩書房2010 です。
既に“東大俯瞰経営学”で書きましたが、地球的規模で流動化する不安定な国際情勢を俯 瞰的に理解するには、現在の支配体制すなわち“欧米”という世界支配体制の成立とその 後の歴史的な流れを認識する必要があります。19世紀にイギリス、オランダ、フランス、 ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、ロシアというヨーロッパに国家が形成されそ れに新大陸のアメリカが加わり“欧米”が成立しました。そしてその“欧米”が地球的な 利権を奪い合う中で、 2つの世界大戦が起こり、さらに民族独立、冷戦が続きました。冷 戦はゴルバチョフの英断により終結しましたがその残渣が現在のウクライナ情勢を引き起 こしています。ですから現在の国際情勢理解し今後の新世界体制を俯瞰的に理解するため には、 19世紀と20世紀のヨーロッパ史の知識が必須です。
この本は放送大学の教材としてまとめられたようですが、もともと著者の膨大な研究の要 約になりますので、本来の歴史的な情報の量に比べてページ数が少ないので 記述がかなり簡潔です。したがってある程度ヨーロッパについての基礎的な知識がないと、 意味的な文脈を追うのは難しいかもしれません。

ポルトガルとスペインによる大航海時代に始まり第一次世界大戦とその後までをざっと理 解できるコンパクトな本です。著者も言っていますが全体の流れは“近代ヨーロッパの光 と影“です。ヨーロッパの悲劇であった第一次世界大戦の経験がありながら第二次世界大 戦に突入した20世紀の歴史は極めて重要です。従って20世紀の歴史は別な本で補完した 方がいいと思います。第二次世界大戦に関しては以前紹介したオリバーストーンのドキュ メンタリービデオをご覧になるのがいいと思います。第一次世界大戦後の世界から現在ま でを歴史として取り扱っている書籍を見つけたらまたご紹介したいと思います。またご存 知の方は教えてください。





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◆俯瞰 MAIL 0041号(2014年6月12日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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