日本新生のビジョン


俯瞰工学研究所の松島克守のメルマガです。第4号を送らせていただきます。


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせていただいております。またこのようなMLはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出をくださるようお願いします。また、内容等についてもご遠慮なくご意見をいただければ幸いです。


皆様

◆季節のご挨拶◆
ある日突然桜が満開になりました。蕾が膨らむ日々があった筈ですが、それを楽しむ精神的なゆとりが無かった事に気が付きました。やはり震災後の惨状ニュースを繰り返し見て、また今後の課題を議論していることが、そのゆとりをなくさせたのでしょうか。すぐに友人にメールを送り、昨年と同じように目黒川で花見を提案して、ささやかに宴を開きました。目黒川はライトアップがありませんでしたが人出は例年並みでした。夜店で、東北の酒を売りにしている屋台がありましたので、一グラス買いましたが、聞くと恵比寿でレストランをしているが客が三分の一になっていると、暗い感じでした。近くにシャンペンを売っている屋台の若い女性は「自粛はイカン!」と言っていましたので、この感情は相当浸透してきたと思います。出来るだけ通常どおりに活動して、復興の分を少し余分に働きましょうと、声をかけています。


◆管総理にお会いして「日本新生のビジョン」を提出しました◆
4月6日三菱総研・小宮山理事長、東京大学・森田教授、同・坂田教授、藤末参議院議員、大久保参議院議員、ご一緒に、13:30から30分間ほどで、提言「日本の地域『新生』ビジョン」を菅総理に提出してまいりました。総理に手交した提言は下記WEBをご覧ください。
http://www.fukan.jp/日本新生のビジョン/

そのあと14:30から日本記者クラブにおいて記者会見を行いました。会見の模様はWEBにてご覧頂けます。
http://youtu.be/NZLBtIYx3aM

また、官邸で当日撮影しました写真をアップロードしましたので、ご参考まで。
https://picasaweb.google.com/fujisue/20110406?authkey=Gv1sRgCILU9-Hdx83c3AE&feat=directlink


◆宮城県に行ってきました◆
ニュースでさんざん見ていますが、日本文化の重要な規範「現地にいって、現物を見なければ、現状は理解出来ない」に基づいて4月12日宮城県に行ってきました。最初、県庁で復興計画の概要をお聞きして、短時間ではありましたが石巻に行きました。ニュースで見たままの光景で、内部まで船が打ち上げられて、逃げる際放置されたトラックが道端に何台もあり、積荷の水産物の腐敗しているような異臭、破壊された工場・・・でした。ただ既に重機で残滓の除去が始まっていました。この現場を見ると、まず片付けが先で、街の再興の議論はそのあとだ、という感情がわきました。瓦礫の片付けと仮設住宅が短期の最優先課題です。被災地の写真は取りましたが、やはりプロの撮影力は格段の差がありますのでNew York TimesのWEBサイトのページご参考に。
http://www.nytimes.com/slideshow/2011/03/23/world/asia/20110323_JAPAN.html
http://www.nytimes.com/slideshow/2011/03/27/world/20110327_JAPAN.html


◆復興計画で気になる事◆
宮城県で復興計画の簡単な説明を受けましたが気になることがありました。多分他の県でも同じだと思いますが、復興計画を企画して事業展開をするのは「市」であることです。元々地域の「市」の行政は、少子高齢化と過疎化で弱体化していて、さらに現在の短期的な仮設住宅と残滓の廃棄で手一杯であるはずで、中期的な復興計画を策定するゆとりが「市」にあるはずはないと思います。確かに当該市町村が主体で復興計画を立案、実行することが基本で、県や国はそれを支援するのが建前です。地域主体という掛け声で、国は、県へ、県は市町村へとボールを投げていいのでしょうか。復興計画の策定を官民で支援する体制が必要で、一方自治体は自分達の知恵だけで復興を考えないで外の知恵を入れるべきだと思います。でないと財政難で苦しむ地域モデルを、復旧する事になってしまいます。極端に言えば「シャター商店街」を復旧することになりかねません。物理的なボランティア活動も必要ですが、知恵を持ち寄るボランティア活動を組織する必要があります。

今回の東北地域の被災市町村は、既に述べましたように、少子高齢化と過疎化で弱体化しており、市町村単位で、フルセットの社会インフラを復興する事は出来無いと思います。道州制や市町村合併など天下国家の議論は置いて、ここは近隣の市町村が複数でネットワーク構造を形成しその単位で、病院、学校、ごみ収集、介護などの行政サービスを用意する事で、財政とサービス水準を両立するモデルが必要ではないでしょうか。学校や、病院の建物を再建する資金を援助しても、維持管理や中身が付いて来ません。これまでも医師の手当が付いていない地域が多いのですから。


◆日本製造業のビジネスモデルの欠陥が露呈◆
今回の震災で日本の製造業の欠陥がいくつか露呈したのではないでしょうか。狭い視野からのコスト削減により、サプライヤーを一社に絞り、一箇所の工場に生産を集中させるという、リスクマネージメントなしの「選択と集中」が被災のインパクトを拡大して、産業復旧を遅らせ、かつ海外の製造業へもインパクトを与えています。海外は危険、日本は安全ということが妄想であったのです。製造業の基本は、工場火災や自然災害による生産へのインパクトを低減するため、相応のコスト負担を受容して、供給を複数に分散していたはずですが、長い不況でコストダウンが先行して、製造業の基本も失われてしまったのでしょう。(続きをブログで読む)http://www.fukan.jp/


◆日本の古代史の俯瞰◆
日本の古代史の俯瞰的認識は一応のまとめをしましたので、ブログでなくサイトの左のメニューに「俯瞰古代史」を入れました。あくまで個人的な認識の構造で学術的な論考ではありません。

日本人は基をたどれば世界中の現代人と同じで、遥か昔アフリカを旅立って来ました。現代日本人の祖先である弥生人は、インドを経由して東南アジア、揚子江河口から、山東半島を経由、あるいは朝鮮半島南西部を経由、または直接、北九州にたどり着きました。インドで既に稲作や陶器、織りの文化を持ったとも云われています。遺伝子から言えば、中国北部、朝鮮、日本は近いグループです。東アジアでは、日中韓は古くから共生していたのです。遼東半島から朝鮮半島北部は紀元前から中国文化圏です。

弥生人がクニの連合としての国らしきものを形成したのは紀元前後で、2世紀にはかなり統一が進み、中国中原の政治勢力に朝貢して倭国の王として認めたもらう状態になりました。既にこのころ鉄器を求め対馬対岸の加奈の地域に倭人がかなり進出していたとあります。3世紀には北九州、吉備、出雲を従えて大和の勢力がほぼ西日本を統一して統一国家が成立しました。ただ中央集権の天皇制の成立は、大化の改新、白村江の敗戦、壬申の乱を経て7世紀になります。

日本書紀はその正当性の論理を展開する国史として7世紀に編纂されました。同時期に宗教的な神聖性を正当化する為、大和から見て日出る国の伊勢に伊勢神宮を建立し、日沈む国の出雲に杵築大社(出雲大社)を建立しています。この東西の軸は日本土着の太陽信仰のシャーマニズムですが、伊勢神宮の祭祀は中国渡来の陰陽五行思想で、北斗七星を神とする、南北軸が精神構造になります。従って当時の遷都は南北軸に動きます。

また7世紀は日本文化が本格的に形成されていく時でもあります。白村江の敗戦で百済が消滅して朝鮮半島では新羅が統一国家を形成して、朝鮮文化も独自に発展していきます。この時期、日本も朝鮮も、中国の最先端の文明の模倣から独自の文化を形成していく事になります。中国文化は遣隋使、遣唐使によって直接輸入し、朝鮮半島経由ではありません。日本語と朝鮮語は文法構造が極めて近いにも関わらず、語彙の共通性が無いと云われていますが、日本語も朝鮮語も7世紀以降独自の文化の中で語彙が形成されていったためでしょう。 日本人はどこからか渡来したのではなく、この日本列島で「日本人」になっていったのです。
◆詳細は以下のURLをご参照下さい。
http://www.fukan.jp/俯瞰古代史/


◆2011年度(社)俯瞰工学研究所の会員募集◆
4月からの会員を募集します。ぜひ会員になって(社)俯瞰工学研究所の活動に参加しませんか。会員のための技術経営講義が月に1回あります。基本的な内容は、東京大学で講義した「俯瞰経営学」の内容です。今年度は、プレゼンテーションスキルの強化を入れていきたいと思います。「社会人大学院」です。この場は会員同士の交流の場でもあります。毎回基本的に交流会をします。その他、会員が特に興味があるテーマがあれば別途ワークショップを開いてもいいと思います。賛助会員として、会社の仲間とグループで参加も大歓迎です。できるだけ、4月中に入会をお願いします。会費は原則4月―3月の年度会費です。5月には第一回の技術経営学講義を始めます。


◆近未来都市を作る実験?◆
二子玉川の都市再開発のプロジェクトはいよいよ4月からアクセルいっぱいです。コンソーシアムの拠点、カタリストBAが、4月25日二子玉川にオープンします。ぜひご現地に来て頂き、ご自分でこの「場」をどう活用できるか考えてみてはいかがでしょう。
◆詳細は以下のURLをご参照下さい。
http://creative-city.jp/2011/04/ba.html
(社)俯瞰工学研究所はこの活動の支援に参加しています。


◆ビジネスモデル学会春季大会100名以上のご参加をいただきました◆
ビジネスモデル学会の春季大会が3月26日、慶応大学の三田キャンパスで開催されました。今回のテーマは「ビジネスモデルと企業倫理」でした。企業はますます社会的な存在となってきました。その結果、求められる企業倫理もより高度になります。

アンケートでは下記のようなコメントを頂きました。(一部)・講演の内容が充実している。・個々の講演のレベルが高く かつ つながりがあり、興味深い。・日ごろなかなか聴けない貴重なお話を伺うことができました。・興味深い内容が多かったため、時間の短い講演は理解が難しい。・皆様、震災に関連付けてご専門の分野、テーマを説明されてよかった。・内容は充実していました。専門的でわかりづらいものがありました。・普段聞けないような話がきけて非常に刺激を受けました。・今回初めて参加させて頂きました。次回もぜひ参加させて頂きたいと思います。・これからの新規ビジネスを考えるにあたり、大変有益でした。・わかりやすい講演とそうでない講演、テーマの選択にばらつきがあった。・あの座席で1日は辛いです。講演は良かったです。・日本の現状にマッチングした内容であったため、この時期に開催することはよかった。

バングラデシュへの研修旅行が5月21-25日に予定されています。現地大使館の絶大なるご支援で貴重な訪問が実現しつつあります。ビジネスモデル学会にご参加頂ければ、貴重な知識を獲得し、交流会で素晴らしい人脈ネットワークを強化出来ると思います。これを機会に会員になって活動に参加しませんか。
◆詳細は以下のURLをご参照下さい。
http://www.biz-model.org/


◆書評◆
日本の古代史の復習は一応終わり、その外部世界であった古代中国の歴史を再認識するために「古代中国」貝塚茂樹・伊藤道治、講談社学術文庫 2000年を読みました。この本は、1974年に刊行された「中国の歴史」全十巻の第一巻として出版されたものを「古代中国」として新たに加筆修正して刊行されたものです。この30年ほどの中国における考古学的発掘は目を見張る物があり、新石器時代は、書き下ろしたとあります。夏王朝、殷王朝、そして周王朝とそのそれに続く春秋時代までは、新しい発見で訂正や加筆をしたとあります。戦国時代はほぼ旧版のままです。1964年の大学受験の世界史の知識では、今日の中国を正しく理解出来ないし、日中関係すらも認識を誤りかねません。正しい日中関係は、正しい歴史的理解が必要です。

紀元前6000年位は中国各地に石器、陶器、農耕、家畜の新石器文化が出現しているとあります。そして、我が国がまだ縄文時代の、紀元前15-16世紀には、城壁の高さが10米、約2キロ四方の、殷の時代の都市国家の遺跡が発掘されています。この本で詳しく分析されているのは周王朝です。

古代中国は黄河上流に興った周が黄河に沿って東進して行く歴史でもあります。一族を各地に封建して行く過程で、周は次第に求心力を失い、各地は周王朝と離れて国を作って行きますが、しかしその精神的な影響は長く残り、春秋時代の覇者も、名目的には周王朝のお墨付きを貰って覇者を号している事は今回知りました。この時代中国北部にあって、朝鮮半島に影響を与えた燕も周王朝に封建された国ですが、いつしか土着の文化に吸収されていったようす。・・・・

戦国時代は、何かと既に知識がありますので読みやすい感じです。そして秦の統一で中国の古代は終わります。

この本で知りましたが、文字の使用は、古代中国は意外と限定的で、本格的な漢字の成立と文字による記述は秦からです。学術的に丁寧に書かれていますので、決して読みやすい本ではありません。人名、地名はフォロー出来ませんからどんどん飛ばして歴史の流れを掴むことに集中して読みました。一読をおすすめする価値がある本です。

巻末の「講談社学術文庫の刊行に当たって」も読みましたが、「学術をポケットに・・・学術は少年の心を養い、成人の心を満たす・・」文庫本ですが定価1500円、これほどの情報をこんな低価格で良いのかと、改めて書物の社会的な貢献を実感しました。


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◆俯瞰 MAIL 0004号(2011年4月17日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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