スティーブ・ジョブスが逝った


俯瞰工学研究所の松島克守のメルマガです。第10号を送らせていただきます。


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせていただいております。またこのようなMLはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出をくださるようお願いします。また、内容等についてもご遠慮なくご意見をいただければ幸いです。


皆様

◆季節のご挨拶◆
季語の「釣瓶落とし」の通り彼岸を過ぎて日は随分と短くなりましたが気温は思ったより暖い日が多く、上着も手に持つ日が多いこの頃ですが、すぐに秋らしくなるでしょう。13日青森に行きましたが今年はきれいな紅葉が始まっていました。


◆スティーブ・ジョブスが逝った◆
スティーブ・ジョブスが56歳で逝きました。世界中からその死を惜しむメッセージが発せられていますが、個人的にも感無量です。パソコンを創り、そのパソコンに引導を渡して逝きました。ITの世界の本当のリーダーだったという事を改めて認識させてくれました。そしてリーダーとは、という事も。彼の最後の手紙、これは辞世の句、彼は本当の侍ですね。

生前の彼の言葉が多く紹介されていますが、読み返しても凄いことを言っていたのだなと、再認識させられます。例えば、「デザインとは、人間が作った創造物の基本となる魂であり、・・」とありますが愛用しているiPhoneは彼の分身だったのです。スタンフォード大学での講演「ハングリーであり続けろ。愚かであり続けろ」も凄いですね。YouTubeにその映像があります。

Web上に無数の情報はありますが、俯瞰工学研究所のサイトの「ジョブスの言葉」にいくつか置いておきます。1991年にスティーブ・ジョブスとビル・ゲイツがITの未来を語った20年前の記事がたまたまファイルの中から見つかりましたのでそれも置いてあります。
http://www.fukan.jp/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%96%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%A8%80%E8%91%89/?logout=1


◆サンクト・ぺテルブルグに行ってきました◆
9月の末にサンクト・ペテルブルグに行ってきました。まず、空港がとても小さいのでびっくりです。羽田の国際線より小さい感じです。

日産自動車の工場とそのサプライヤー、そして地元の建機メーカーを見学してきました。トヨタ、GM、フォード、現代そして日産と工場がありますが何れもノックダウンを小規模に始めたばかりで、想像していたよりずっと小規模で、当地の自動車産業もこれからです。サプライヤーの集積も僅かで、中国の自動車産業の数年前の状態です。

ただ凸凹ありますが年間200万台くらいの市場規模で近く400万台になるという事ですのでやはり潜在的な市場としては大きいでしょう。因みに日本市場は500万台で飽和しています。高速道路は市中心部を囲むルートが完成しつつありこのルート上に工場はありますが、その周囲は、殆どは広大な原野のままです。地元の企業は、広大な荒廃したかつての国営工場の後の一部の建屋を借りて生産を始めたと云う所で、製造業はこれからだと現地の人も言っていました。資源関係に投資と開発が集中していて製造業は後回しの感じです。

滞在中に、プーチンの大統領選出馬の発表がありましたが、地元の人は白けた感じで、これでまた変革が遅れるだろうと言っていました。国内のニュースは信用せず、インターネットの情報を見ているようです。インターネットはかなり自由でかつWiFiはホテルなどではよく整備されていました。

街、凄いですね。歴代の皇帝が西欧文化を積極的に導入して、ある意味コピーしたので極めてヨーロッパ的です。なにしろ皇帝がオランダの造船所でインターンシップしたくらいに貪欲に西欧文化を取り入れています。バルチック艦隊が出動した軍港もありますが、当時のこの街、この軍隊を見た日本人は日露戦争の開戦に躊躇したでしょうね。当時の東京とは比べようもない大都会だったでしょう。結果、日本はロシアに勝った唯一の国です。

ナポレオンも、ヒトラーも敗退しました。「ビストロ」という言葉は、ナポレオンを追ってパリに進駐したロシアの軍人が、レストランで「早く、早く」と急き立てた時のロシア語がなまったものだというと通訳が教えてくれました。この通訳は小泉首相の訪ロでも通訳を務めたとのことで、日本ついては詳しかったですね。

しかし、数多くの豪華な宮殿を農奴の犠牲の上に作り続けた怨嗟で、ロマノフ王朝は倒されたという事も納得がいくような、華美でベルバラ的趣味の宮殿がいくつもあります。


◆台湾の高雄に行ってきました◆
10月の初めに台湾の高雄に学会の招待講演で行きました。台湾は何回か行きましたが、高雄は初めてです。成田から直行便があります。行ってみると学会は観光ビジネスの会議で、なんで私が呼ばれたか判りませんでしたが、聞いてみると日本語のできる人は日本のサイトを見ていて、おまけに拙書「地域新生のデザイン」を持っている人もいてびっくりしました。講演は「地域クラスターの作り方」を英語でしましたが、中国語への通訳の人の知的レベルが素晴らしく、内容を完全に理解して自分の話のように話しているので、聴衆は非常によく理解できたことを、質問の時間に理解しました。

国立の観光大学がいくつもあるのにいささか驚きましたが、一緒に招待されていたニュージーランドの教授から、ニュージーランドの基幹産業は観光と教育で、その為、観光学科が多くあり人材を供給しているという話で、どうも日本人は、産業=製造業という固定観念に侵されているという事が判りました。

台湾の人たちはともかく明るく前向きで、男子はおとなしく女性は元気がいいという印象を受けました。親日的で気持ちのいい滞在が出来ます。日本と台湾の連携は今後深まると思います。街は比較的清潔で中国の先の世界にあると思いました。

即ち、台湾、韓国、シンガポールは日本に続き、先進国になったという実感がしますが、この後のアジアの国々はこの水準までいけないのではないかという感じが最近します。水、食料、エネルギー、高齢化と成長のハードルが高くなってしまいました。


◆ビジネスモデル学会が10月29日に東大本郷で開催されます◆
大会のテーマは「3.11 それから」です。下記のような貴重な講演を準備できました。これを聞かずして、3.11を語るなかれ!

< 日時と場所 >
開催日時:平成23年10月29日(土)10時-18時 交流会18時-20時
開催場所:東京大学本郷キャンパス工学部新2号館 (アクセス)

< 主な講演 >
-基調講演:「3.11大震災によって企業経営の何が変わったのか」
ビジネスモデル学会副会長/カーライル・グループ マネージング・ディレクター日本共同代表 平野 正雄 氏
-特別講演1:「空洞化の実態と真の国益」
タイ王国政府政策顧問 松島 大輔 氏
-特別講演2:「甦れ!ヘドロから咲く花」―被災地支援の一般法則―
元農林水産省生産局花き産業振興室長/京都大学経済研究所准教授 佐分利 応貴 氏
-特別講演3:「激闘240日!現場からの報告」―本物の復興に向けて、これからが勝負だ!―
事業創造大学院大学准教授 赤木 弘喜 氏
-特別講演4:「BCPの反省と再構築」
危機管理対策機構理事 細坪 信二 氏

< 会員発表 >
-会員発表1:事例報告
海外での大災害等発生の際の情報伝達方法の現状と課題
外務省(在ハンガリー日本国大使館三等書記官兼副領事)天野 真吾 氏
-会員発表2:研究論文
大規模災害を想定した地方空港の新たなマネジメントモデルの提案
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任准教授 湊 宣明 氏
-会員発表3:事例報告
震災時における民事責任法の役割
―風評被害リスクマネジメントとビジネスモデルの構築―
拓殖大学政経学部 講師 露木 美幸 氏
-会員発表4:研究論文:
書籍流通における効率配送のビジネスモデルの研究
―予測法の開発と店舗送品支援システムの構築―
東京大学 工学系研究科 システム創成学専攻博士課程 松島 和史 氏

< パネルディスカッション >
ディスカッションテーマ:「3.11 それから」
モデレーター:
ビジネスモデル学会 松島 克守 会長
パネラー:
 危機管理対策機構理事 細坪 信二 氏
事業創造大学院大学准教授 赤木 弘喜 氏
元農林水産省生産局花き産業振興室長/京都大学経済研究所准教授 佐分利 応貴 氏
 タイ王国政府政策顧問 松島 大輔 氏
ビジネスモデル学会副会長 平野 正雄 氏

http://www.biz-model.org/


◆デジタル書斎の構築2◆
前回は書斎に散らかる紙のpdf化を取り上げましたが、既に製本されている報告書等については捨てるのが一番ですが、それでも電子化して保存したい向きは、LION PAPERCUTTER PCA4-PNというカッターを購入して端を、5-8ミリ程度切り落としてS1500でスキャンすれば簡単にpdf化できます。10ミリくらいまでは一度に切り落とせますがそれだけに危険でくれぐれも指を切らないようにお願いします!スキャン前にジャムらないように原稿をさばいておくといいでしょう。

次に名刺です。これも長年苦労しましたが現在の結論は、20枚ずづくらい、S1500で読み取り、S1500付属の「名刺ファイリングOCR」でOCR化することです。スキャンの前に設定でアプリケーションを「名刺ファイリングOCR」に切り替えて置く事。読み取りは片面で十分でしょう。メールは字が小さいので、白黒400dpiにしておいた方がいいでしょう。名刺管理のポイントは読み取りミスを気にしないことです。OCRはミスもりますが、イメージも保存されるので、必要がればその時見ればいいですから。

私は氏名とメールアドレスは修正しています。仕事によっては企業名も修正する必要がありますね。住所・・・気にせず放っておきます。これで名刺は全部捨てられます。この気分は最高です。

書斎のデジタル化に必須のソフトウェアは、DropboxとEvernoteです。両方ともクラウドの無料サービスですが、ここは少しお金を出して有料にしておきます。有料ですと、Dropboxのクラウドの容量は50Gになります。Evernoteはローカルのホルダーが置ける事と、クラウドにアップする容量が無制限になります。容量が大きくなることよりもローカルのフォルダーが便利です。

Dropboxの使い方ですが、パソコンのドライブCの直下にDropboxというフォルダーを作り、そこにマイドキュメントを丸ごと移動します。動画やビデオは容量が多いので中に入れない方がいいでしょう。システムがローカルのDropboxのホルダーとクラウドのDropboxのフォルダーを自動で同期します。バックアップも自動でとります。ファイルも間違って消したファイルも戻せます。これが凄い!

これで、複数のパソコン、iPad、iPhoneでどこでもマイドキュメントが共有が出来ます。ユビキタス環境の実現です。iPad、iPhoneの場合はGoodReaderというソフトウェアを機器に導入して置くと、クラウドのDropboxのデータを機器の中のストレージに収納できますので、ネットワークが繋がらない環境でもそのドキュメントを見れます。あらかじめそのようなドキュメントをGoodReaderにダウンロードしておきます。これもほとんどワンタッチです。

Evernoteはちょっとした情報をメモしておくツールです。IEやGoogleChromeにEvernoteのプラグインを入れて置くと、気になるサイトの全体や、記事、URLをワンクリックでクラウドにしまって置けます。ブックマークよりはるかに便利です。

手書きの白板の情報や、バス停の時間表の写真・・なんでもメモできるうえに、画像の情報はOCRしておいてくれますので、あとで検索できます。機器のシリアル番号も写真にしてEvernoteに入れています。iPhoneの写真もそのままEvernoteに送れます。ただ写真はとりあえずそのままiPhoneの写真ロールに置いておいて別途パソコンにバックアップ、ですが。さらに、こうして放り込んで置いた情報はGoogleの検索エンジンが一緒に検索してくれるので、思わぬ時に情報が浮上します。紙のノートでは不可能でしょう。これも凄い!

ざっと書きましたが、これだけで知的生産性は驚くほど向上します。ただ本質的な知的能力が向上することは勘違いしないでください。詳細わからない人は近くのiPhone愛好家に質問してください。

次回?


◆書評◆
今月のご紹介は、
「暴走する文明」 ロナルド・ライト著 星川淳訳 2005 日本放送協会

本書は、歴史家であり作家のロナルド・ライトの著作になります。俯瞰学の手法の一つは時間的俯瞰ですが、歴史学は時間的俯瞰から独自の解釈と認識の構造を引き出すものです。一読に値する一冊です。「我々はどこから来たのか?我々はどこに行くのか?」というゴーギャンの問いからこの本の語りは始まります。この絵の写真は、(社)俯瞰工学研究所のサイトの「特別な写真」に置きます。

このまま野放図な消費を続ければ、地球環境の破壊とともに人類も滅亡するという警告の書です。墜落した飛行機から回収したフライトレコーダを読み解くように、過去に滅亡したイースター島、シュメール文明、マヤ文明そしてローマ帝国の凋落のプロセスを読み解きいくつかのパラダイムと警告をしています。

この本では「文化」とはある社会の持つ知識と信条と実践の総体をさし、「文明」とは特殊な文化をさすとあります。ただ、文化のすべてが文明であるとは限らないともあります。人類の歴史の99.5%は旧石器時代であり、文明の発祥以来の時間は5000年ほどで70年の生涯を70ほどつないだものだという時間感覚を強調していいます。

イースター島は、火口湖からの花粉の分析では、かつては水も植物も豊かであったが移り住んだ人類の野放図な消費と持ち込んだネズミにより木一本ない島になったとあります。石造信仰にすがり、ほかの島に行くカヌーを作る木もなくなるまで切り倒し、その為に、最後の木を切り倒した人たちは、最後の一本であり、もう二度と木が生えることはないことを承知で切ったはずだとあります。無制限の人口増加、資源の浪費、環境破壊、宗教が保証する未来という狂信の実験を見せてくれたとあります。

メソポタミアのシュメール文明も同じように、現在のために未来を犠牲にして、天然資源の最後の一滴まで絞り尽くすというイースター島と同じふるまいの末滅亡し、古代の都市跡を取り巻く現在の砂漠はその住人達が作ったものだといっています。

ローマ帝国がなぜ凋落したか、疫病、蛮族、鉛毒、狂気の皇帝、腐敗、キリスト教とありますが、複雑なシステムは必ず収穫逓減に屈するという原理、そして帝国の土壌が疲弊すると、環境負荷を植民地に輸出し、その結果周辺も疲弊し、周辺のローマ都市の遺跡は今は砂漠の中にあると。

「ピラミッド体系」というパラダイムも面白いです。ローマとマヤの歴史から、文明がしばしば業績拡大の間だけ儲かるピラミッド型「マルチ商法」のふるまいを見せるとあります。即ち文明は拡大する周辺から富を吸い上げるので、絶頂期に不安定になり、さらに前進する唯一の道は自然と人間から新たな借入金を絞り続けることとあります。日本、米国、そしてこれからの中国に思いを馳せると意味深長です。マヤの高塔群はすべて最後の1世紀に建てられたものだと。マヤは人口過剰と農業の失敗で崩壊したと結論付けられています。

エジプトと中国は多くの文明が千年前後で滅亡したのに対し、ともかくその後、三千年残った。エジプトは緩慢な人口増加とナイルの洪水により救われたが、農地を潰して都市を建設するほど愚かでなかった、というくだりは弥生以来の美田を潰してきた日本人には耳が痛いですね。中国は分厚い黄土の堆積層に救われ、さらに南部にこける水田農耕という持続可能な農業システムで残ったとありますが、北部の黄土地帯に今は水がありません。これは深刻な問題で、中国の経済成長に伴う食糧需要と干ばつによる農作物の不作のため、既に世界の食料価格は2倍に上昇しています。(文末のURL)

人口は食料供給の限界まで増加し、富が社会の階層の上層に集中するため社会全体に十分な食料が行きわたる事はないという言葉も、重いですね。

最近の反ユートピア小説から引用されている「希望は、一番大きな空約束する政治家に当選の道を開く」、「我々大半は、手堅く予測可能な清貧より、わずかな希望にかける」、「貧乏人が自分を搾取されているプロレタリアートではなく一時的に困っている億万長者とみなす」、「アメリカはまだ朝の国と言って省エネをあざ笑うレーガンを大統領に選んだ」という一つ一つが胸に刺ささります。

今や文化や政治システムは異なっても経済的にはただ一つの文明が存在し、地球全体の自然資源を食いつぶしている、このまま行けば世界的な飢餓と無政府状態と戦争が起こり、21世紀末までこの文明が生き延びられる確率は五分五分より大きくない、という事が本書の最終的な警告です。イースター島の住人は最後は殺し合いと人肉を食らう地獄だったといいます。

ネオコンに対する批判は手厳しくて、規制緩和や減税は、お太鼓持ちのメディアが売り込んだが、実際のところ大衆は税金が引き下がらなかった。これはいま日本で議論している法人税を減税して消費税を引き上げるという事かと?

彼は現代人の祖先であるクロマニオン人に滅ばされたネアンデルタール人や、ヨーロッパ人に絶滅された北アメリカ先住民に対する同情と愛情を感じさせる記述を随所に入れています。自身もネアンデルタール人の遺伝子を受け継いでいるとも言っていいます。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4710.html


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◆俯瞰 MAIL 0010号(2011年10月15日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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