第11回 インド人にとっての家族


 前回、インド人にとっては、結婚が個人と個人との結婚というよりは家族と家族の結婚の色彩が強いということをご紹介しました。今回は、インド人にとって家族というのはどのように位置づけられているのか、これまでいろいろと聞いてきた範囲内で、このようなことかなと現時点で私が感じていることをご紹介したいと思います。


 インド人に、どのような家族ですかと聞くと、自分の家族は大家族だという答えがまず返ってきます。これはどういうことかなと思っていろいろと聞いてみると、自分の家族は子供がいっぱいいるということを指しているのではなく、祖父母、兄弟、従妹などが皆同じ家や近所に住んでいるということが多いです。ただ、必ずしも同じ家や近所に親戚を含めた家族がいっぱい住んでいるということだけではなく、金銭的にも非常に依存関係が高いということがわかってきます。これはどういうことかと言うと、大家族の中で収入のある人は、収入のない人の分も含めてすべての家族を養わなければならないという義務が課せられているということです。すなわち、大家族の中で、それなりの収入を得られる人は、自分の子供、リタイア後の両親の面倒を見ることはもとより、兄弟家族、従妹家族などのうち、自ら生計を立てられない者の分まで養わなければならないということです。


 このため、私がそれなりに親密になったインド人と本音の話をしていくと、彼らは、自分たちの家族に対する義務の重さに耐えきれないのだという人もいます。どうもその人たちは、稼いでも稼いでも親族の生活維持費のために収入がすべて消えていっているという状況のようでした。おそらく、何らかの非常に強い助け合いの精神でもって社会秩序を維持しているのではないかという気がしますが、子供やリタイアした両親の面倒のみならず、働き盛りの年齢の兄弟や従妹の分まで養わなければならないのはなぜなのかというのが、日本人の私には何とも理解ができない点です。


 個々人が働いて得てくる収入自体が、個人のものではなく家族のものであるという考え方に基づいているのだと考えられるのですが、この前提に立って、もう一度前回のテーマとした結婚について見つめなおしてみると、結婚が個人意思に基づくものではなく、家族意思に基づくものとなっている理由が少し理解できるような気がします。すなわち、インドにおける結婚というのは、単にある男女がお互いの相性等を確認したうえで両者の合意のもとで結婚を形作っていくのではなく、家族と家族がお互いの相性、金銭的依存関係などを確認したうえでそれぞれの構成員である個人間の結婚を了承するという形態がとられているのではないかということです。


 もし、私の推察が正しいとするならば、結婚に当たっては、金銭的依存関係なども考慮したうえで家族が家族を互いに選別するという過程を経ており、結果としてインドにおいては富める層は富める層と結婚し、貧しい層は貧しい層と結婚せざるを得ない、これらのことを通じカースト階級などの維持が結果的に行われているのではないかとも思いました。まだまだこの国の中で理解できていない部分が多い中で、安易なことを結論付けられるわけもないと思いますので、このあたりで今回の思考は止めておきたいと思います。いずれにしても、インドに対する理解を深めるうえで、本テーマは非常に重要なテーマだと思うので、今後とも引き続き考察していこうと思います。



記事一覧へ