第9回 医療・介護・健康産業月間


経済産業省商務情報局ヘルスケア産業課
 本年7月、本省商務情報局にヘルスケア産業課が発足しました。昨年6月には、新成長戦略、産業構造ビジョン2010,医療産業研究会報告書が出され、ライフ・イノベーションによる健康大国戦略が打ち出されていますが、カタカナ名の是非は別として、とうとうやったかと感心しきりであります。


 従来の政策の整理学では、医療・介護は、公的保険制度の範囲を想定していましたが、高齢化に伴い、これらの分野の需要が増大しています。しかしながら、保険制度と保険財政の範囲では、予算の範囲で計画された供給しか提供できないために、潜在的な需要を満たす財・サービスが提供できず、新ビジネスが生まれません。また、需給を自律的に調整する機能が低いことから、経済効率も低くなります。新成長戦略の考え方は、保険外で新しいビジネス、医療生活産業を創出しつつ、保険内外一体での医療・介護・健康関連分野のイノベーションを促進していくことかと思います。



 そこで、ヘルスケア産業課の政策課題として次が示されています。
@保険外の「医療生活産業(健康産業)」の創出、
AIT化の促進や地域医療の再編など医療・介護分野の高度化・効率化、
B医薬品・医療機器の競争力の強化に向けたイノベーションの促進、
C医療観光などインバウンドの取り込みからアウトバウンドとしての医療機関の海外進出など医療の国際化


財界九州8月号特集〜「医業」最前線
 財界九州8月は、医業特集を行っており、九州経済界での関心の高さを示しています。この特集では、変革期の医療業界に押し寄せる「国際化の波」と「産業化の要請」に対する行政、経済界、医療業界の対応を取材しており、多方面の情報を見事に編集しています。


 九州局でも、医療関係者や医療関連産業者に話を聞いており、印象的な話を紹介します。


・地銀の方にどの分野が一番活発かと聞いたところ、医療・介護分野だとのこと。医療機関の経営支援、医療機関同士の合併や事業承継、医療と介護の連携、異業種からの医療・介護・薬局分野の提携・進出などが盛んだとのことです。


・医療経営コンサルティングの方は、医療機関に民間の経営を導入することやの重要性を指摘しています。総合特区を活用して、国際化を進めていくべき、九州道州制に向けて、医療制度改革の議論を盛り込むべきなど、地域において多方面の関係者の連携が大事だと。


・医師会のリーダーの方も、施設毎ではなく、地域の医療機関が相互補完して地域完結型医療を追求していくこと(地域医療の再編)、医療の標準化を進めること、中古住宅をICUにするための医療システムのユニット開発なども提言されています。孤独死を防ぐための水道によるモニタリングシステムを地域で導入していこうとも。


9月推進月間
 九州局としても、新成長戦略の目玉としてのライフ・イノベーションについて、どういう体制で進めていけばいいものか、検討してきましたが、政策領域についての座標軸ができて、対外的にも動きやすくなりました。そして、この9月を推進月間として、推進体制を作った次第です。


・9月13日には、キーパーソン(KP)筑後ステージ(医療・介護・健康分野のソーシャルビジネスのKP12人)。松田地域経済政策課長がずっと暖めていた構想でした。
http://www.kyushu.meti.go.jp/press/1109/110907_1.html



 医療機器の貿易収支は、意外にも赤字幅が拡大傾向で続いています。医療機器産業の競争力を強化していくためには、広い裾野産業を持った産業構造を作り、異業種、例えば、自動車産業や、特に微細加工などに秀でた中小企業からの参入が重要で、そのための規制制度改革、インフラ作りが必要であることを強調されていました。また、大分・宮崎のメディカルバレーのような地域の取組に強い期待を持っているとのことです。


 ここまで包括的に紹介した会合はなかったと思いますし、この分野で活動されている方々は、横の連携を渇望されており、今回のネットワーキングはたいへんな盛り上がりを見せました。


・14日には、飯塚市の(株)麻生飯塚病院で、久野先生の第一回九州スマートウェルネスシティー(SWC)研究会を開催。主催は、SWC首長研究会に正式メンバーとして参加している飯塚市、指宿市、天草市の3市で、当局は、オブザーバーとしての位置づけです。12市から産官学から80名が参加し、特に、飯塚市からは、健康増進は、全政策に関連するということで、管理職全員が研修として参加いただきました。



 世界的にみても元・産炭地域は、衰退したところが多いけれど、飯塚を元気な高齢者の町にしたいという麻生グループの麻生泰会長、斉藤飯塚市長の思いで、第一回の研究会が実現しました。


 指宿での会合以来、各地で市長さんに健幸まちづくりの話を紹介しているのですが、身を乗り出して、私が一番悩んでいる問題なんですよとおっしゃられる。今は、12市ですが、もっと参加が増えると思います。第二回は、半年後に福岡市での開催の予定ですが、九州整備局や九州運輸局、九経連等産業界も巻き込みたいと思います。


・そして、22日には、医療関連産業推進フォーラムのキックオフ会合が開催。内閣官房医療イノベーション推進室の八山企画官から、世界をリードする医療機器産業を目指してと題した基調講演をいただきました。舛添元厚労大臣から改革チームに抜擢されたことで話題になった方です。 http://www.kyushu.meti.go.jp/event/1108/110809_2.html


 医療機器の貿易収支は、意外にも赤字幅が拡大傾向で続いています。医療機器産業の競争力を強化していくためには、広い裾野産業を持った産業構造を作り、異業種、例えば、自動車産業や、特に微細加工などに秀でた中小企業からの参入が重要で、そのための規制制度改革、インフラ作りが必要であることを強調されていました。また、大分・宮崎のメディカルバレーのような地域の取組に強い期待を持っているとのことです。



 また、九州保健福祉大学(九保大)竹澤教授から、延岡メディカルタウン構想の医療機器産業振興の取組や麻生飯塚病院の鮎川副院長から九州工科大学との医工連携のシーズ・ニーズのマッチングについての紹介がありました。


 九保大は、旭化成クラレメディカルと人工透析のカセット式システムを開発し、小型化に成功したとか。構造不況の繊維産業が人工透析膜への転用に成功したことにより、日本は、ダントツのシェアを有しているのだそうです。


 今後、医療機器の小型化が課題になっており、日本のお家芸ではないかとの指摘。開発にあたっては、医療現場からのニーズの汲み上げ、対話が重要であります。


 懇親会では、機能性食品バイオクラスターのメンバー会社はじめ半導体や自動車関連の企業も参加されていて、産学官のネットワークをうまく組んでもらいたいものです。


 この推進フォーラムを九州における「医療イノベーションの政策展開とビジネスのプラットフォーム」にしたいと思います。今回は、医工連携による機器開発が中心的テーマになりましたが、先端医療開発拠点づくりと連携強化、さらには国際化などもテーマにしていきたいと思います。


・これに先立つ4月に指宿で開催した、健康関連産業連携会議は、医療介護も含めて自治体、産業界との政策連携に絞り込んだものにします。


(株)麻生飯塚病院の挑戦〜病院改革から健康寿命世界一の国へ
 当局の一連の取組に高い関心と応援をいただいた麻生飯塚病院について、ご紹介します。(参考:麻生泰著「明るい病院改革」)


 麻生飯塚病院は、筑豊地域での石炭を中心とする麻生グループの社会事業として、明治41年(1911)に開設された病院で、「オンボロ病院の西の横綱」といった状況だったそうです。しかしながら、麻生泰社長(当時。現在会長)が「日本一のまごころ病院」を目指し、70年代半ば以降の病院改革により、この25年間黒字で、医師の数は4倍、売り上げを3倍、大型投資も行ってきました。


 まさに、民間経営、すなわちリーダーシップの発揮、ビジョンの提示、ミッションの明確化こそが病院改革を推し進めたものであり、日本唯一の株式会社としての面目躍如たるものがあります。そして、患者、医療スタッフ、医療財政が幸せになる効率的な運営を可能にしたのだと。我が国病院改革の先駆けであり、聖路加病院、千葉の亀田病院と石川県の恵寿総合病院などとともに異彩を放つ先進的サービスを実現しています。


 飯塚病院が成長した要因として、次の4つを上げられています。
@救急救命センター(昭和57年開設)という特長・強みによる病院全体の活性化、A研修教育病院(研修医の教育指定)、BTQM(トータル・クオリティー・マネージメント)活動という文化、C大学との協力、医療にTQMを導入するための実証プロジェクトへの早稲田大学との共同参加。


 九州大学病院から鮎川先生(現副院長・救急救命センター長)という逸材を得て、これなら投資をしても大丈夫と確信したというくだりがあり、ああやはりそうだったのかと思いました。鮎川先生には、指宿と飯塚での会議から先日のフォーラムまで、ご登壇、ご参加いただき、医療健康改革についてのひとかたならぬ熱意を感じております。


 麻生会長が著書で述べるように、世界一の健康寿命の実現は、かつての高度成長のような国民的目標としていくべきではないか、超高齢化社会に真っ先に突入する日本の世界史的使命ではないかと思います。さらには、そこで生まれた新ビジネスが新しい輸出産業になっていく。それは、国民一人一人が「不摂生による生活習慣病を恥とし、自己管理に務めること」でもあり、メタボの私としても耳の痛い命題です。


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