第20回 食と観光と女性の力(2) 〜お酒とお茶〜


 前回、ご当地グルメを取り上げましたが、食の市場は、@国内消費者向けか、訪日外国人・輸出向けか、A高級食・富裕層向けか、普通食・大衆向けか、二つの軸で4つの領域に分類できます。そして、この4つの領域でマーケティングと商品企画、ブランディング、プロモーションの構造も異なってきます。それをサポートできるクリエーターやマーケティングの専門家等が必要になってくるわけです。このクリエイティブ層が都会偏在で、地方では不足がちですが、往々にして、地方に関心のある方も多い。この人材の流れをうまく作るためには、やはり官民の政策とビジネスに関する情報と人材のプラットフォームを構築していくことが重要です。クラスター政策と同じことが当てはまると思います。


 食の一部であり、食事に彩りを与えるお酒とお茶。日本は、世界に冠たる酒文化と茶文化を有しながら、まだまだ輸出や観光に結びつき、世界市場で稼げるところまでいっていません。しかしながら、観光立国、クールジャパンの政策の流れの中で急速にこの分野での動きも活発になりつつあります。

 今回は、「SAKEから観光立国」を提唱されている平出淑恵さん、そして、「九州のお茶結びプロジェクト」を進めている徳永睦子さんをご紹介したいと思います。


平出淑恵さん
(酒サムライコーディネータ、コーポ・サチ代表取締役)

 平出さんは、JALの国際線の客室乗務員をされていましたが、ワインにすっかり魅せられます。「空飛ぶソムリエ」として、お仕事の合間にワイン産地への訪問し、様々な会に参加されて、海外のワイン業界の人達とのネットワークを広げてこられました。


 そして、会社も認めるワイン通として、JALとWSET(Wine & Spirits Education Trust:英国の最高権威のワイン学校)が共同で設立する東京のワイン学校開催のお手伝いをするようになりました。その時にワインの先生方が全く日本酒の知識がないことにショックを受け、そして、自らも日本酒の勉強を始めました。そして、ある日、絞りたての大吟醸に「利き猪口の中に日本が詰まっている」と日本酒の価値に目覚め、その瞬間から「SAKEから観光立国」が夢になったのだそうです。

 その後、WSETロンドン本校での若手蔵元(日本酒造組合中央会の日本青年経営者協議会(日青協)のメンバー)によるSAKE講座の開催、そしてWSETのCEOの京都蔵元訪問が実現し、ロンドンのIWC(International Wine Challenge: 国際的に最も権威のあるワイン品評会)の大会に日本酒部門の創設が実現することになりました。また、その実現に日青協が全面的に支援しましたが、その中で「酒サムライコーディネータ」という役を果たすことになりました。酒サムライは、酒文化を内外に発信するために叙任された者のことで、平成17年に始まった日青協の事業です。


 

 私が平出さんとお会いしたのは、2年前に農商工連携担当でもあった経産省地域Gの時、クールジャパンの食部門も担当するということになり、日本酒の海外展開について平出さんや蔵元さん、ワイン輸出企業さんと勉強会を開いた時です。その後、九州赴任後ですが、「日本食と日本酒の輸出検討会」が開催されました。その中で、5省庁がオブザーバーになり、連携体制ができ、特に、外務省が大変前向きで、在外公館でのIWC入賞酒の活用や新任大使への日本酒講習会、さらに天皇陛下誕生日レセプションでの日本酒乾杯などが決定しました。
その検討会の報告書は、非常によくできていると思います。


http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001463.pdf


 そして、昨年度は、九州から佐賀県鹿島市の鍋島がSAKEチャンピオンを受賞し、これを機に、平出さんが九州での日本酒の海外展開や酒蔵ツーリズムの講演など普及活動をされ、これらが古川佐賀知事の応援も得て、鹿島酒蔵ツーリズム推進協議会が発足などに繋がっていきました。

 私も九州から観光庁に出向することになって、東北観光博にからめ、東北ご自慢のお酒で絆を深めようと、平出さんと共同幹事で、東北酒の会を7月4日に開催、観光庁の井手長官や総務省の椎川局長(当時)はじめ各省の幹部の方々にもご参加いただきました。

 そして、5月から、内閣官房の国家戦略室で、國酒を楽しもう推進協議会が発足、9月初に「國酒等輸出促進プログラム」が発表されました。観光庁は、酒蔵ツーリズムの推進に向けた官民の協議会を設立し、地方と協同連携して、鹿島のような動きを促進していくとともに外国人客の酒蔵訪問を進めていく予定です。


http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20120904/20120904_kokushu.pdf


徳永睦子さん
(一般社団お茶結びプロジェクト理事長、フーディアムトクナガ代表)


 栄西(ようさい)は、2度目の南宋で禅宗を学び、我が国最初の禅寺(扶桑第一の禅窟)である聖福寺を博多の地に創建しましたが、その20年前の最初の宋からの帰国時に茶樹を九州に持ち込んだそうです。そして、霊山院(佐賀県)に我が国で初めて(相当規模の)茶樹園ができました。喫茶養生記の著作もあります。
 その後、九州各地に伝わり、産地は20以上にのぼります。さらに、九州から宇治の栂尾や静岡にも伝わりました(もっとも、諸説あるようですが)。また、茶と禅とは切っても切れないものであり、九州は、我が国の禅宗とお茶文化の発祥の地といえるのです。


 九州で育まれたお茶や食の文化を茶育・食育を通じて、現代生活に継承し、九州の産地を結び、内外に発信しいくことで、九州の茶業の発展と観光の振興を図ろうという「お茶結びプロジェクト」が始まりました。

 この企画と実施を主導されたのが料理研究家の徳永睦子さんで、一般社団法人お茶結びプロジェクトの理事長です。多くの著作があり、テレビの料理番組も受け持ってこられました。

 その活動の中心的ともいえるものが昨年10月に行った「ティーロード茶壺道中・聖福寺献上・茶壺式典」というイベントです。九州を代表する4つの産地(八女、嬉野、東彼杵、南鹿児島)から茶壺が新幹線で博多駅に集結し、そこからお寺まで駕篭に乗せて約130人が練り歩きました。来月も第二回が予定されています。


 九州に来てから、徳永さんのお仲間と九州茶文化プロジェクトについて楽しくいろいろ話をしてきましたが、ここ一年で俄にプロジェクトと組織が形になってきました。また、九州各地で茶育指導士を100人育ててこられ、このチーム徳永は、お茶結びプロジェクトの様々な事業の企画実施部隊として活躍されています。


 今年の7月には、お茶結びプロジェクトの記念シンポジウムが福岡で開催され、熊倉功夫先生の講演と聖福寺の細川老師はじめパネルディスカッションがあって、500人以上もの参加者がありました。
 私もパネルに参加しましたが、事前の打ち合わせでは、観光の観点とともに日本酒の活動事例も併せて紹介してほしいとのことでした。しかし、正直、日本茶に日本酒のような海外愛好家がいるのだろうかと疑問でした。 シンポジウムの前の昼食時に、利き茶師十段の解説を聞きながら、八女の玉露、釜煎りの嬉野茶、東彼杵茶、深蒸しの嬉野茶などに合わせたお昼の料理を頂きました。日本茶文化の奥深さと世界で大人気の日本食が当然のように調和して、これは世界の料理通に十分理解してもらえると確信しました。また、日本酒の酒サムライなどの活動が十分参考になるのではないかとも思った次第です。 また、最近商品化されたワインボトルに入った八女茶玉露のほうじ茶は、一本5000円、最高級の玉露は、20000円以上するのだとか。百貨店のお中元商品として、一日で1500本が売り切れたそうで、お酒を飲まない中東富裕層にも人気が高いそうです。


 政府は、日本食文化を世界無形文化遺産登録しようと今年3月に申請しました。日本食文化は、世界を魅了しつつあるものの、まだまだ十分に知られていないし、お酒やお茶の奥の深さを伝えていくのもこれからです。そして、この食の分野で、もっともっと女性に活躍いただくことが重要です。


(以上は、個人としての見解であり、属する組織とは関係ありません。)



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