第16回 香港・九州の新時代


孫文・梅屋庄吉展

 この3月下旬まで、孫文・梅屋庄吉長崎展が長崎県立博物館で開催されていました。昨年の辛亥革命100周年記念に因んだ展示会です。梅屋庄吉は、長崎の貿易商。孫文に現在の価値で一兆円もの政治活動の資金援助をしたという。他にも熊本の宮崎滔天,福岡の安川電機創業者の安川敬一郎、玄洋社の頭山満など明治の九州人脈が清末の革命運動の裏舞台で重要な役割を果たしていました。明治維新から4、50年ですから、九州には幕末の気概や身近な逸話にあふれ、明治九州人は、清末の革命を夢見ていたのでしょう。


 この展示会の前に九州香港友好協会(各県経済同友会)と香港貿易発展局が香港と九州の経済産業の結びつきを深めていこうという辛亥革命100周年セミナーが長崎、福岡で昨年夏に開催し、九州、香港の経済界の交流機運を盛り上げました。これを機に、世界中小企業展などが開催される11月に香港で、九州・香港経済界(九経連と香港中華総商会)で相互の経済産業学術交流を深化させていこうとMOUが締結されました。


 その後、12月の食ミッション、2月の春節香港経済シンポジウムと矢継ぎ早に仕掛けづくりがなされてきました。12月には、香港から食品ミッションは、福岡、熊本、宮崎、鹿児島に訪問しました。


 この動きをリードしてきた香港貿易発展局の古田香港茂美代表、香港日本食品輸入業協会フランキー・ウー会長(味珍味会長)らのスピード感と実行力に感服する限りです。また、全体を指導、支援いただいている香港中華総商会ジョナサン・チョイ会長も経団連会長のような立場の方ですが、九州の動きが活発だからと、昨夏に引き続き、急遽2月の福岡春節シンポジウムにも参加され、「東京と違って、福岡九州はコンパクトでもあり、話の動くスピードが違う」と。また、九州香港友好協会の石原会長(JR九州会長)、九経連松尾会長はじめ九州側経済界の方々もこれに呼応し、両者の波長がうまく合っているようです。 



【12月食品ミッションで、フランキー・ウー会長】


【12月ミッション、福岡での懇親会】

 特に、具体化しつつあるのは、九州を香港の食農の輸出基地にしていこうという構想です。これは、麻生前福岡県知事とウー会長との間で話のあったものだとか。これまで11月から経済界に九州農政局や九州経産局も入れて、4回の協議をしてきました。先日の3月19日の九州農業成長産業化連携協議会の設立を機に行動計画の中身を具体化させていきたいと思います。6月には食農ミッションをオール九州で出して、8月にFOODEXに結びつけていこうと検討しています。



【2月春節シンポジウム】

香港への農産物輸出:3つの課題

 日本の農産物・食品の輸出は、約5000億円で、うち香港向けは25%、最も多い仕向地になっています。また、香港市場は、安全性以外の規制がほとんどなく、高品質で信頼性の高い日本の食材や外食が人気を博しています。九州から香港への農産物輸出に当たっては、香港側から、次のような問題点・要望が提起されました。


 第一に、九州で窓口を一本化してほしい。各県ごとに相談に行くのはたいへん。各県が販売、マーケティングをばらばらに仕掛けてくるので、香港側は混乱している。各県が販売競争をして、価格と品質を下げてしまっている。九州ブランドを作っていくべき。日本の経済的地位が相対的に下がる中、各県ごとには対応できなくなる。


 第二に、香港向けの商品を企画、販売すべき。現在は、国内向けの一部を香港に回しているだけ。香港のニーズを把握し、香港向けの農作物を栽培し、品質基準を決めるべき。さらに、高品質は維持しつつ、競争力のある価格を提示すべき。行政には、コスト低下のたの支援を要望したい。


 また、独占販売契約を締結すべき。例として、熊本のJAたまなのいちご「ひのしずく」。統一基準で品質を確保し、独占契約により、香港側で模倣商品を訴え、初めての勝訴を勝ち取った。規模は比較にならないが、サンキストレモンは、規格と価格を統一して、世界中の産地から調達している。このようなブランド商品の開発をすべき。さらに、日本の産地をまとめて調達したり、海外での開発輸出まで拡大していけばよい。製造業ではやっていることだ。


 第三に、物流の短縮化。そのため福岡空港と港湾の機能を高めるためのインフラ整備、各地からの集荷の改善を行うべき。船便は、大震災以降、下関や釜山を回るため、1、2日余分に掛かっている。早朝に競りをし、午前中の航空便で夕方、店先に生鮮品を並べることができるのは、福岡だけ。この機能を最大限活用すべき。


 これらの指摘については、農業産業化協議会の輸出部会の中で、各県も入れたWGを作って行動計画をまとめていきますが、農業経営者、ビジネスプロデューサー、輸出業、卸業の方々から案を作って、揉んでいくという流れになるでしょう。


 第一のオール九州の窓口という機能の作り込みは、協議会の中に上記部会・WGで検討しますが、香港からのニーズに応えられる意欲的な生産者とのマッチングの仕組み、各県間での共同イベントや九州ブランドづくりなどを行っていくことになろうかと思います。


 香港への売り込みは、各県にとっては、知事のトップセールスとして進めてきたご自慢の政策でもあり、必ずしもこれらを否定するものではありません。九州全体を括り、調整する機能を導入していくべきということです。


 第二の香港向けの輸出ブランド商品の企画、生産、販売は、具体的に、米、みかん、いちごに絞り込んで進めてはどうか、という話になっています。また、その他の品目でも意欲のある生産者をどうネットワーク化していくか、輸入業者が直接結びつくようなマッチングをどう作るか検討していくこととしています。しかし、安定的な流通を確保するためには、全国を視野に入れた卸売りの機能もベースとして当然必要でしょう。


 第三の物流の短縮化については、九州各地から福岡港、空港に集荷し、コンテナ輸送を定期便化し、スケールメリットを出していくことかと思います。沖縄では、ANAが夜までに日本全国から沖縄に集荷し、仕分けして、翌朝、世界中の仕向地に輸送する空輸ネットワークである、ハブ・アンド・スポークを既に始めていますが、福岡以外ではこの仕組みも活用できるでしょう。


 なお、羽田、成田空港の機能の一部を福岡に移して、北海道や東北の農水産物を福岡九州に集荷して、輸送するというアイデアについて、首都圏震災の発生に備えたリスク分散の観点から、香港の経済界がたいへん関心を示しているそうです。最近の話題は、首都圏の大震災なのだそうです。


 また、水産物についても、北海道ものを福岡に集めて、香港に届けていこうという動きが検討されています。北海道にとっては福岡を活用すれば、商流の拡大になるし、九州にとっては、水産物のラインナップの拡大になり、九州の魚だけでは飽きられることを回避できることからも、両方にとって有益な仕組みになるでしょう。また、物流商流が寸断してしまった東北の水産物も入れてはどうか、という話も加わりそうです。


 この話は、福岡県庁の渡辺大輔さん率いるお魚応援団の仲間の提案です。産地・漁業者と飲食店・消費者を結ぼうという活動をされています。渡辺さんは、3月に香港事務所に異動になりましたが、正に適材適所、打ってつけの人事でした。ホテル、レストラン、根を張って、情報収集、様々な提案活動をされています。



 また、本件のキーパーソン、古田代表は、学究経験の長い方で、昨年、共著で「グワンシ」(中国人との関係の作り方)をいう本を上梓されました。グワンシとは「関係」の意味ですが、華人社会の紐帯のメカニズムで、縁を共有するつながり、さらには、利益を共有するネットワークで、華人企業の経営原理でもあり、外国企業が中国ビジネスを行う際に欠かせないもの。これらを歴史的経済的社会的に分析した本です。


 「競争力だけでは中国事業は成功しない。孫文との九州人脈という文化歴史的資源があるからこそ、その関係性が経済・事業交流の促進剤としてものを言うのであって、それ故に九州にこだわりを持ち続けるのだ」と述べられたことが印象的でした。


 なお、私は、4月から国交省観光庁に出向し、観光地域振興部長になります。引き続き、観光という観点から、つながり力による地域活性について論じ、実践していきたいと思います。



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