第14回 今年の抱負2 


 今年の抱負といいながら、2月半ばに突入してしまいました。この連載も短く、回数は多くということも抱負だったのですが、・・・。


ビジネスイノベーション
 この1月、東大の小川紘一先生に福岡でのNEDOセミナーに来ていただき、九州大学の水素先端科学研究センターと最先端有機EL研究センターで意見交換を行ってもらいました。以前に妹尾堅一郎先生から、研究開発の段階から国際標準や知財をどう取って国際的に勝てるビジネスプランをどう構築していくか考えていく必要があるという宿題をもらっていましたので、第二弾として小川先生に来ていただいたというわけです。


 研究開発を行っていくと同時に、知財マネージメント・標準化戦略と世界に勝てるビジネスモデルを三位一体で作っていくこと。この分野の軍師を育てることが重要との指摘に対応して、勝ちパターンの定石を学ぶためのビジネスイノベーション研究会(仮称)を設け、例えば、九州大学等の知財や技術経営講座に繋げていきたいと考えています。


 九州の自動車産業は、人材や立地環境の面で中部関東への一極集中からの移転の動きが続いてきましたが、震災後はサプライチェーンの強化という観点からも、この動きが強まっているといえます。2011年は、震災後、一時的に生産が停滞したにもかかわらず、日産、トヨタ、ダイハツで119万台(国内シェア14%)と最高台数を更新しました。1月の福岡モーターショーでは、福岡県小川知事があらためて生産台数150万台の目標についての自信を見せました。この日のシンポジウムでは、産学官での次世代自動車研究会の中間報告として、@品質向上による地元部品メーカーの強化と地元調達率の引き上げ(現行60%から70%)。そして、A水素研究を生かした燃料電池車など次世代自動車の開発・生産拠点へ、そのための水素ステーションなど社会インフラ整備に九州全体で取り組んでいこうということを局のメッセージとして打ち出しました。トヨタ九州の二橋社長はインタビューで、「チーム九州」といえる九州の持つ産学官の結束力は大きな力、これを活用して、九州にものづくりを残し、雇用を守りたい、と述べられていますが、心強い限りです。


 自動車と明暗を分けているのが、半導体です。業界再編と工場閉鎖のニュースが年末年始に衝撃を走らせました。報道ベースでは、円高等により、全国約100弱の工場が今後、再編されるそうですが、九州でも12事業所のうち半数が半導体・電子関係です。今後、シリコンアイランドの再構築が求められています。大企業としては、国際競争と産業構造の変化に対応せざるを得ず、地域としては如何ともしがたい面があります。


 しかしながら、地域としては、九州半導体クラスターを関西など広域的に連携して、新しい事業、機能を呼び込んでいくための事業立地環境の整備が重要です。また、海外とのネットワークと産学官の結束力を活かしていきたいところです。また、地元で育った協力・下請け企業が自社製品を作るようになり、下請けから脱皮して、さらには臥龍企業からGNT化して、地元の技術開発力・技術吸収力を保持し、優良な雇用、所得を支えて欲しいものです。


 新展開の方向性として、九大の次世代有機EL研究や福岡県の社会実証センター、3次元実装センターが開設され、産総研のミニマルファブの開発が進んでおり、地元中堅企業のものづくり技術の革新、設計能力の向上に期待されています。数万種類といった多品種少量のデバイスの需要に対応できるようなミニマルファブに向けた実用化などできるところから進めることが重要ではないかと思います。


 また、農業、健康医療、環境エネルギー、交通などの分野でのIT融合、スマート化が政策的に提唱され、実際に進行しています。九州の課題としても情報通信分野の技術力向上とともに、需要サイドへの課題解決、価値創造のため、需要側と一体になったサービス化も取り込んだIT融合クラスターに再編していくことが重要ではないかと思います。


健康医療介護分野
 高齢化、人口減少下で自治体は、健康医療介護にかかる住民のQOLの充実を図るとともにこれらの今後増加していく財政負担の合理化にどう対処していくかが最重点の課題だと思います。そして、できれば、これらの分野の産業振興にも結びつけたいところでしょう。


 健康保険制度外の新事業、サービスをどう創出し、振興するか、九州局としても産学官の推進フォーラムを発足し、自治体間の政策とビジネスの連携会議を昨年9月から開始しました。この1年は、これらのいわば健康医療クラスター形成の具体的事業をどう進めるかが課題です。キーパーソンのネットワークづくり、先進企業の発掘、ロボットや先進医療、創薬など技術革新の支援などですが、特に、需要側の課題解決に即したビジネスモデルの創出・改善を図るための産学官のネットワーク作りです。また、医療ツーリズムへの経済界、自治体の関心も高まっており、九経連も医療介護部会を立ち上げ、まずは、インバウンドの検討をしています。さらに健康医療介護のサービス等の輸出も中長期的な課題です。


農業産業化
 「農業成長産業化連携協議会」というオール九州のプラットフォームと仕組み作りに向けて、各県別に農商工の経営トップの懇談会を進めてきました。3月19日に設立総会を熊本で行うことも決まり、事務局も熊本においたらどうかと提案しているところです。九州地域戦略会議(知事会と経済界)での位置づけがなされることが重要です。


 今後、香港への輸出体制の強化と6月に向けた食農ミッション、今春の宮崎における食品加工の広域ビジネスマッチング、(社)日本食農連携機構との協力による農業経営塾・経営革新などの具体的事業を活発化させていきます。


経営力強化
 法政大学坂本光司先生には、今年度20数回来てもらい、各地でネットワークを作ってきました。今年には、日本で一番大切にしたい企業賞の九州賞を設けたいと検討しています。先日、茨城経営品質協議会の鬼澤慎人さんの講演がありましたが、坂本研究会(関東局)メンバーの若手指導者にもつながりの和を拡げたいと思います。


 経営力強化のための支援手法に一番近いものは、経営革新制度です。都道府県が経営革新計画を承認するという、十数年の伝統的な手法です。全国で400万中小企業のうち、5万の中小企業が承認を受け、そのうちの8割に黒字企業です。経営革新計画を作成する過程で、自社の経営の強み弱みを分析し、経営力がつくようになると言います。


 サービス分野や金融機関との協力に加え、農業法人や医療法人、NPOなども事実上対象にしていくことも検討するなど九州の中で新しい展開を考えていきたいと思います。


 そして、金融連携プログラム。引き続き、地域密着型金融(リレバン)と経営力強化と事業再生の三つの歯車を現場で噛み合わせていきたいと思います。すなわち経営者がリレバンの精神を理解し、金融機関との良き関係に努め、経営規律・財務状況を向上すると共に金融機関の指導支援をうまく得るようにすることが大事です。当局と福岡銀行との人事交流も始まりました。中小企業庁では、中小企業支援に意欲のある金融機関等を支援機関に認定する制度(中小企業経営力強化法案)も検討しているようです。リレバンの中小企業政策での位置づけを明確にしていくことが重要です。


サービス生産性の向上
 サービス生産性向上をどう地域中小企業政策の中に組み込んでいくか? 1月末に産学官の推進協議会を設け、今年度の重点3事業を決めました。


 第一に、民間ベースの九州サービス生産性協議会の設立を目指し、民間主導の運動に盛り立てていきたいと思います。第二に、サービス生産性協議会(全国ベース)で開発してきた顧客満足度指数等のツールを使って、経営革新計画を立てたものに対し各県が承認を出し、また、承認済のサービス企業に対してフォローしていくことも。第三に、産総研サービス工学センターと基本的考え方の啓蒙とハイサービス提唱、そして支援人材育成のための各種セミナーを九州各地でかなり気合いを入れて行っていきます。



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