第10回 九州の農業産業化に向けて 


九州農業産業化協議会(仮称)
 9月から、農業産業化協議会(仮称)設立に向けた県別懇談会を九州経済連合会と共に行っています。9月は、鹿児島で、10月には、熊本で開催しました。3月の設立総会と記念シンポジウムに向けて、各県で懇談会を進めています。先週の熊本では、熊本県はもとより食品産業を中心とした商工団体の代表企業や農業法人の経営トップ、JA、支援団体など約50名が一堂に会し、円卓を囲みました。また、先日、指宿での九州沖縄農業法人協会のシンポジウムでもアピールしてきました。


 この協議会では、オール九州での農業の産業化に向けた政策+ビジネスのプラットフォームを作っていきたいと思っています。政策面では、国(農政局と経産局)、各県の政策の連携。特に、オール九州の輸出戦略としての九州ブランドの構築や輸出体制の再構築です。また、ビジネス面では、各県毎に農商工+金融の経営トップによる交流の場を作り、さらに、県の垣根を越えた広域ビジネスマッチングを行うことにより、農商工の経営連携が進むことを期待しています。




 元は、北海道の食クラスター連携協議体をモデルとして、九州でもこのような組織を作ろうという構想を当局の勉強会(農業産業化支援懇談会。座長が甲斐諭中村学園大学長)で議論してきました。各県、各界に打診したところ、賛同を得て、来年3月の設立総会に向けた流れを作っているところです。


 九州は、北海道と違って7県あるので、組織自体は柔軟にして、如何に意味のあることをやるかにかかっています。関係者が集まるだけで大変です。基本単位は、各県が担っているわけですが、この協議会では、九州7県と農商工の団体が連携することで、九州の潜在力を発揮したいものです。


 協議会は、九州経済連合会を中心として、各県行政、商工・農業団体、農商工分野の経営トップ、支援機関等から構成し、国(九州農政局、九州経産局)がどういう立場で加わるか検討中です。また、日本食農連携機構(九州支部)も事務局機能に加わる予定で、全国レベルのキーパーソンとつながり、智恵と経営ノウハウなどの情報を獲得できるようにしたい。


食と農林水産業の再生のための基本方針・行動計画
 新成長戦略を受けて、農林水産省は、「食」に関する将来ビジョン(平成22年12月)、経済産業省は、農業産業化WG報告(平成23年2月)を発表してきました。そして、政府として「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」が10月に発表されたところです。これらに基づいた農業競争力強化策が次々に具体化されてくると思いますが、九州の中で、これらの政策を消化する体制として、この協議会がその役割を担えればと思います。


農商工連携の第二ステージとしての経営連携
 平成20年度に農商工連携法が制定され、農業者と中小企業(商工業者)が連携した新事業の計画を認定し、支援する仕組みができ、農商工連携という言葉がすっかり定着しました。また、その前年度に地域資源活用促進法(私、担当課長でした)で、農水林産物などの地域資源を活用した新事業の計画を認定し、様々な支援策を講じる仕組みができています。これら二法の農と食関連の事業認定が九州で120件を越えました。全国では、およそ千件近くでしょう。


 現場では、商工側のリードによる取組が多く、農業側中心の案件が少ないとか、農業側には必ずしもメリットがないという声も聞こえるところです。それもあってか、農水省は、今年度から農山漁業者の6次産業化法も制定し、地域資源の活用による農業者の6次産業化への支援、地産地消の支援がその内容になっています。


 今後、進めていきたいと思うのは、事業認定による支援策を受けなくても、農業側と商工業側が民民の発意で連携を増やし、民主導の自律的な事業の流れを拡大していくことです。「新規事業」の認定要件として(かなり厳しい)新規性が求められるなど分野や事業内容が限られるし、事業計画の作成や補助金の管理にはかなりの時間や労力も求められます。


 それはそれとして、商工側が農業分への進出をはじめとして、地元産の原材料を使用しようとか、流通面での販売協力や商品開発提案といった手近なところから、さらに農業分野の新事業の立ち上げなど本格的なものまで、数多くの連携から大きなビジネス、新産業の流れを作っていきたい。


 九州局では、これを農商工連携も第二ステージと位置づけ、「農商工の経営連携」として提唱しています。その際、農業側は、農業法人や産地JAといったしっかりした経営体であることが必要です。また、連携に向けたビジネスマッチングの場、土壌と仕組みを広域的に作っていきたいと思っています。


九州の農業・食と農業法人
 九州は、農業産出額(平成20年度)は、全国の19.3%を占め、北海道の11.8%を抜いています(もっとも関東が28.4%と最大)。畜産業、水産業がそれぞれ全国の約25%を占めています。鹿児島、宮崎は、畜産王国であるし、長崎は水産、宮崎、大分と林産が盛んです。このように各県特色があって、食についても歴史的文化的に豊かで、地域的な多様性も有しています。また、食品関連製造業は、4.4兆円と自動車(3.5兆円)、半導体(2.5兆円)を上回っており、外食や観光も含めると正に九州を支える基幹産業であり、地域活性化の主役であり、当然、経済界の関心も高いわけです。


 特筆すべきは、農業法人の先進地域で、優秀な経営者が多いことでしょう。直感的な印象からすると、熊本、鹿児島は、千葉と双璧ではないかと思います。やはり、農業の強化にとって優秀な経営者の育成、経営力強化が最も重要ではないかと思います。



【9月のKP志布志集会の後、さかうえ農場見学。
 林監督と十勝の場所文化研究機構の後藤代表】

 現在の全国農業法人協会の会長は、熊本菊池市のコッコファームの松岡会長で、養鶏・鶏卵から加工、直売所と観光レストランを手がけられ、まさに六次産業化のモデル企業になっています。なんと民間インキュベーション施設まで作った。青紫蘇の輸出で農産物輸出の取組のトップを走る青紫蘇農場(合志市)の吉川社長。ITを活用した野菜生産の草分け、新福青果(都城市)の新福社長。志布志のさかうえ農場は、飼料用とうもろこし(国内の畜産関係者の常識を越えた取組で、見学者が3000名超)をはじめ根菜、野菜を生産していますが、坂上社長は、九州大学大学院に通い、IT活用経営を極める若き農業経営者です。坂上さんを第一号に、KPの榎田氏が若手農業者の映像をシリーズで制作し、農業経営者を志す若手に夢を持ってもらおうというプロジェクトも始まります。(大阪ケーオス、http://www.osakachaos.com/参照)


 産業界も農業分野に関心が高く、農業法人との連携に関心が高い。鹿児島における畜産業の発展も鹿児島銀行のアグリクラスター戦略に支えられてきたし、JR九州は、ニラ、トマト、鶏卵、夏柑など農業分野への4件の進出で話題になっています。


オール九州での政策連携、特に輸出戦略
 各県も農業政策は、非常に熱心で、熱心なだけに、各県で拘らざるを得ない構造力学が働くのですが、オール九州の戦略的視点が今後、一層重要でしょう。 特に農産物輸出の面です。福岡のいちご甘王、鹿児島黒豚や黒毛和牛など海外でも有名なものはありますが、各県産地ばらばらでは勝負になりません。産地名と商標名に追加して「九州」を付して、九州ブランドで打ち出していくことが有効でしょう。九州は、アジアに近いにもかかわらず、北海道と違って、「九州」という地域名のブランド力が弱く、九州で一番有名なのは、阿蘇(ASO)なんだそうです。


 最近、香港貿易発展局との話の中で、九州の地理的近さと食生産の豊富さから、香港への輸出基地にしようという構想が浮上しています。香港は、農産物輸出の25%を占めていますが、東日本震災後、日本からの食材が入らなくて、日本料理店等は大変な危機感を持ったそうです。11月末に九州から経済ミッションを出し、協力連携の覚書を結ぶ予定で、12月には、香港企業の返礼ミッションが九州を訪問する予定。香港側からは、農産物を輸入するのに、その都度、各県を回るのはたいへんなので、どこかに一本の窓口を作って欲しいとの要請があり、その仕組み作りを検討・議論する予定です。


 各県にとって農業政策そのものは、国がどういう政策をとるかに依るところ大だけれども、農業の産業化に関する取組は、連携したり、優良事例を相互に導入したりすることが有効でしょう。しかし、意外にそれが進んできたとはいえない。例えば、大分県の農業分野の企業誘致。3年間で100件超、雇用者1000人超、生産額も100億円近い実績です。残念ながら、3年間どの県も右に倣えとはやっていない。熊本県の農業経営塾も長く続いており、優秀な農業経営者輩出の要因だと思います。また、鹿児島の畜産の輸出もたゆまぬ努力によって築かれてきたと思いますが、各県の輸出ノウハウを蓄積し、共有する仕組みがもっとあってよい。宮崎の農業・食の課題は、加工産業を育成することだと思いますが、福岡、熊本、鹿児島の優良食品加工企業との連携協力・ビジネスマッチングが有効ではないか。これらは、是非九州各県で連携して取り組んでもらいたい施策です。


 以上、農業産業化協議会(仮称)の中間報告でした。


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