第1回 九州成長戦略アクションプラン


連載にあたって
 私は、2000年に茨城県に出向して以来、地域・中小企業政策を継続して担当してきました。茨城県の後、内閣府沖縄産業振興担当、中小企業庁経営支援課、関東局、地域経済産業政策グループ政策課、九州局という具合に、霞が関と地方をほぼ交互に繰り返してきたことになります。


 これまでの拙い経験ですが、地域活性化のアイデアと実践や地域のキーパーソンの取り組みなどについての雑感をまとめる貴重な機会を与えていただいた出口さんに感謝しています。出口さんとは、DND事務局長として担当された時からの、まさに10年のお付き合いです。


 一口に地域といっても、過疎や中山間地から福岡市のような地方大都市まで、相当の多様性があり、また、地域活性化の方法論も公共投資や工業立地のようなハード面から産学官連携や経営支援のようなソフト面までいろいろです。昨年まとめた「産業構造ビジョン2010」では、多様な地域の発展パターンに応じた政策のあり方を提示しています。


http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100601a06j.pdf


 地方経済産業局は、産業クラスター政策など地域産業振興施策や中小企業施策、環境エネルギー関係の施策の実施を担っています。その地域、分野の課題に合うよううまく組み合わせて提供することが現場たる地方局の腕の見せ所でしょう。さらに、産学官+金融+公のネットワークと活かしながら、各分野毎に政策プラットフォームを作っていくことが重要であると考えています。


つながり力
 この度の地域活性の連載の通奏低音をなすものは、つながり力です。
 かつて地域産業は、生産、加工、流通、消費が繋がり、地域内で循環していました。しかし、全国的な流通に組み込まれ、経済のグローバル化し、世界がフラット化する中で、地域の産業は、空洞化、生活財を中心に輸入品が席巻し、分断された地域の商流という循環が多くあります。


 地域の活性化とは、その地域の企業・産業・経済関係をつなぎ、新事業や新しい商流、そして地域のイノベーションが起こるソフトな仕組みなどサブシステムとしての地域経済産業の循環を作っていくことではないか。あるいは、地域の強みや地域資源を磨き、地域独自の新しい価値を発信していくことではないかと思います。


 つながり力の総和としてのソーシャルキャピタル(SC:社会関係資本)にも注目したいと思います。大震災で、日本でのSCの大きさに世界が瞠目しましたが、地域の生産性を高め、良きものを伸ばし、悪しきを挫くのが地域のSCです。


九州成長戦略アクションプラン
 私が昨年8月に九州経済産業局に赴任してから最優先の仕事は、九州成長戦略アクションプラン(AP)の策定でした。松尾委員長(九州経済連合会会長・九州電力会長)の元、事務局は、九州局と九州経済連合会が共同で行い、各県、各省地方支分部局、商工団体など46機関が参加。昨年末に発表しました。

http://www.kyushu.meti.go.jp/action_plan/action_pdf/part/03.pdf

 これを九州活性化の「戦略と実践の手引き」としていきたいと思っています。

 策定に当たり、4つの視点を提示しました。


第一に、実践第一。
 昨年6月の新成長戦略や産業構造ビジョン2010の策定に伴い、様々な政策や施策が具体化されつつあります。これらについて、60のアクションプランを策定し、九州独自の課題も加えながら、九州で消化する体制を整え、誰が何をするのかを明記し、実践に移すことを第一におきました。


 これまでにも九州局で「九州経済活性化ビジョン」などこの10年間で8本の報告書をまとめているのですが、立派な報告書はできても、実行面が手薄ではなかったか。もっと実行に焦点を当てていくべきとの松尾会長の指示で、経済界のリーダーからも口を揃えて同じ注文が出ました。


第二に、連携・つながり力。
 関係機関との連携はもとより、九州内外、異分野の知恵と成功事例が多層につながり、化学反応を連続して起こすような構造を作っていきます。


第三に、オール九州。
 「九州は、ひとつ。」といわれます。その後に、「されど、ひとつひとつ」と揶揄されるのですが、実際に九州知事会と九州経済4団体からなる九州地域戦略会議で、平成20年に「道州制の九州モデル」がまとめられ、全国に先駆けて九州府への意欲を示しました。


 新政権になってからは、地域主権の議論、関西広域連携機構に呼応して、昨年10月に九州知事会が九州広域行政機構の構想を発表しました。これは、国の出先機関を「丸ごと」受け入れ、運営することを目指しています。


 県には県境の壁、各省には政策分野の壁があるが、これを取り払ってオール九州で考えていくことが大切。このアクションプランは、九州の地域、分野を越えた戦略的取り組みの実験的試みになればと思っています。


 本機構を提案されたある知事からは、上記機構のことがあるので、我が事のようにAPを読み、これは良い、使えると思ったとのこと。また、九州府バーチャル議会というイベントがありましたが、九州府の産業ビジョンとして、APを採用するという動議が決議されました。


第四に、アジアとの協走と競争。
 「九州は、ひとつ。」といわれます。その後に、「されど、ひとつひとつ」と揶揄されるのですが、実際に九州知事会と九州経済4団体からなる九州地域戦略会議で、平成20年に「道州制の九州モデル」がまとめられ、全国に先駆けて九州府への意欲を示しました。


おわりに
 年末に発表し、1月からこれまでに120回以上の説明会、私自身も20回以上の講演を行ってきました。現在、各分野毎の具体化を進めています。


 次回からは、アクションプランの具体化に向けた取り組みをトピックス毎に取り上げ、その中でキーパーソンや意欲的な地域に焦点を当てながら、地域活性の戦略と実践について、肉付けしていきたいと思います。



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