第1回 IoTが意味するもの


 今回から、大学発ベンチャー、その他事業シーズに絡みますテクにロジー、事業トレンド編として、再出発致します。初回は、益々注目度を増しますIoTです。
当初、あまりに大きな構想で掴みどころのない話に見えたIoT(Internet of Thing)ですが、最近、センサー供給側(それを担う半導体チップベンダー側を含む)、そしてデータ処理側の双方からの期待と具体的な提案が加速しています。特に、日本の元々強い半導体チップ、センシングデバイス領域に大きく関わり、データ処理領域のITとうまく融合すれば、という期待も高まります。そこで以下では、IoTの事業・サービス領域別のアプリケーション項目例から掲げます。米欧のIoT系新興企業の提案内容をかき集めました。かなり見近なことばかりで、洋の東西を問わないニーズ群です。


IoTの具体的アプリケーション例


医療・介護、リハビリ・健康モニタリング
・転倒検出:自立した生活高齢者や障害者への支援。
・医療冷蔵庫:ワクチンや医薬品、各種有機物質を保存する冷凍庫の内部状態制御。
・スポーツマンケア:高性能センターや身体部位のバイタルデータ・モニタリング。

産業用制御
・生産ライン管理:工場における工程管理の自動化、デジタル化、そしてIT統合化向けセンシング
・M2Mアプリケーション:機械自動診断と資産管理。
・室内の空気質管理:労働者と製品の安全性を確保するための、化学プラント内部の有毒ガスと酸素濃度モニタリング。

スマートメーター(省電力)
・スマートグリッド:電力エネルギー消費の監視と管理。
・タンクレベル:貯蔵タンクや貯水槽内の水、油やガスのレベルの監視。
・太陽光発電のインストール:太陽エネルギープラントでのパフォーマンス・モニタリングと最適化。

小売り・物流
・サプライチェーン管理:サプライチェーン・製品トラッキング過程でのトレーサビリティ監視。
・NFC(Near Field Communication)支払い:公共交通機関、スポーツジム、テーマパークなどでのモバイル機器での支払い
・インテリジェントショッピング:顧客側の食習慣、好み、アレルギー成分、期限切れ日付等に応じた購入時でのアドバイス取得。

スマートシティー、安心安全住空間
・構造物の健全性:建物や橋、歴史的建造物等の老朽化、地震の影響等の状態モニタリング。 ・騒音の都市地図:リアルタイムでの、都市における騒音モニタリング。 ・電磁波フィールドレベル:セルステーションとWiFiルータによって放射されるエネルギーの測定。

ホーム・建物オートメーション
・節電、節水モニタリング:家庭での電気と水の消費量モニタリングによるコストとリソースの節約。
・家電等のリモート・コントロール:事故回避、エネルギー節約のための遠隔スイッチング制御。
・侵入検知システム:窓やドアの開口部の監視。

自動車、セキュリティー&緊急時対応
・自動運転用のセンシング:自立走行のための車間距離制御、スピード監視
・車の周辺安全確保:障害物の自動認識、安全確保動作
・人のアクセス監視制御: 制限区域、非許可地域への人々の立ち入りを監視制御。

スマート農業・畜産
・ワインの品質管理:ブドウの砂糖量を制御するために、ブドウ畑での土壌水分ほかの監視。
・グリーンハウス:果物や野菜の生産量、その品質を最大化・最適にする生産ハウス条件監視。
・水田・畑等の農地やゴルフコースでの灌漑:必要な水を最適節約するための選択的、最適な灌漑、継続モニタリング。

スマート環境・防災
・森林火災の検出:危険地域を特定するための燃焼ガスや初期火災状況のモニタリング。
・大気汚染:工場のCO2排出量、自動車や農場で発生した有毒ガスによる汚染の制御。
・積雪量の監視:リアルタイムの積雪量測定による雪崩危険度確認、スキートコース品質確保等。

スマートウォーター(水管理)
・飲料水モニタリング:都市の水道水の品質監視。
・河川における化学物質漏れ検知:河川への工場からの有害物質漏れや廃棄物検出。
・プール水質の遠隔測定:遠隔でプール水質条件を継続監視・制御。



IoTが意味するもの、日本企業の対応


これら内容をよく見ると、まず2つの意味合い、事業機会が見えてきます。

新しいセンサー提供機会: ウェアラブル(身に着ける)型も含めて、確かに新しいセンシングデバイス、アプリケーションアイディアが詰まっています。医療・介護、節電管理、自動車、農業、環境保全等、広い領域の項目にあります。もちろん、半導体チップを駆使して従来から個々センサーを提供するハードウェア企業にとっての更なるビジネスチャンスです。ただ、センサーメーカーによると、個々のセンサーをどうすれが、そのようなIOT的な大きな話にできるかがもう一つ見えない場合が多いと言います。需要が見込まれるセンサーの個数勝負のみでは、事業の拡張性という意味でもおぼつかない。
全体最適化、システム化、新連携の加速: そして、特に製造ラインや小売り、電力の系統管理系、住空間・建物管理などでそうですが、すでに別な形でかなり、しかも完璧になされている領域・内容も多いのも確かです。では、上記の新しいアプリケーション分野も含めて、IOTで何が決定的に変わっていきそうか。それはまず、これまでの「部分最適」からますます「全体最適」化が進むという点です。従来なら個々の工場内やビル内、病院内で閉じた形で最適な管理システムが構築され運用されてきているのが、工場どうし、その工場地域一帯、ビル間やその商用そして居住地域一帯での最適な管理運用化が進むということです。病院間、その広域連携の件も前記のとおりで、国内でも目下優先テーマとして進められています。 そして、医療やエネルギー・環境保全、交通システムなど、公益性が高い順に、違ったプロバイダー同士の機器・システム間もつなぐことにも最終的に帰結します。むしろプロバイダー企業同士の連携合同プロジェクトでしか成しえない領域が急速に増えていきます。データとサービスの連係が前提になりますから、プロダクツ・サービスの提案、そして運用パターンが、従来の個々企業で完結していた、個々同士で競争していた形から今後ますます様変わりしましょう。そしてここでの連携はそのような上位システムを社会的に担える大手・中堅企業同士になります。

 そんな中、日本企業ですが、ものつくり系ハードウェア企業は、「製品同士をつながない、個々企業向け」を最大の売り物にしてきました。今更言うまでもないことですが、まさに、以上の動きはそのパラダイムシフトを迫る話です。では、日本企業はどうのように対応するか、考えるかです。

強み: 部材技術や機器性能に優れていること。つなげたとことで、いい加減な製品・装置・システム同士をつないでも話になりません。この部分はドイツにももちろん負けない、世界的な信頼感そしてブランドがある。

弱点: 上記の中小企業やIT領域におけるグローバルな展開実績には乏しい。前者はまだ大手企業であればグループ企業の結束である程度対応できても、IT領域、特にグローバルレベルでのプラットフォーム基盤部分では米欧企業が強い。

 そこで対策はこうです。部材や機器側の供給で主導権を確保する。ただでさえ信頼感がある領域です。個々の機器、部分最適システムのレベルの高さを武器に、あくまで各論で、こちらから国際的に積極的に構想をぶち上げて、ビジョン段階で議論をリードする。そうでないと、折角の技術・ハードウェア機器が相変わらずモジュール扱いされて、全体で見た収益につながりません。日本企業の従来モデルであれば、この欧米主導の世界構想・トレンドの趨勢を睨みながら、どの流れになっても対応する部材・機器、つまりモジュールを提供するポジションを確保する形です。しかしその結果が、日本企業の全体的な低収益性にもつながっていることはよく指摘されるとおりで、日本のメーカー各社も認めます。

 その際のコンセプト構築の土台の大きな決め手がデータの把握です。少なくともIBMに代表されるこの分野のリーディング企業の方法論です。というより、データサイエンスのビジネス展開の常識です。ドイツが工場パッケージを海外に売る、その工場同士をつなぐというとき、つなぐ媒体は、各工場の製造工程を管理している情報データの連係です。その意味でのデータの把握です。何度も言いますが、日本のIT企業各社も、部分最適システムでは相当なレベルです。その技術力・知見は、企業や国を跨いで展開するための基盤部分です。データバリューチェーンは、その基本概念を提供するものです。



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