第57回「いつも彼女を携えて」の巻


 「あんた、あれ誰か知ってるか?」それが彼女との出会いでした。6月28日に経済産業省から情報処理推進機構(IPA)に出向した私が、9時半に藤江一正理事長から辞令を頂いた直後に言われたのが冒頭の言葉。後ろを振り返ると、大きなポスターが貼ってあり、肩越しにこちらを見ている女性が。「すみません、知りません。」と私。「あれは、初音ミクというてな。ITパスポート試験の普及のために、彼女の力を借りることにして、デザインを募集したら全国から200以上の応募があってな。あれが最優秀作品。」と理事長。


IPAでは、長年にわたり、情報処理技術者試験という国家試験を実施してきましたが、4年前に、ITリテラシー向上のため全ての社会人及び社会人予備軍たる学生に受験していただくことを意図して、最も易しいレベルのITパスポート試験を創設し、実施しているところです。6月14日に、IT版成長戦略として成長戦略本体と同日付で閣議決定された、世界最先端IT国家創造宣言の工程表でも、従来からの情報処理技術者試験に加え、ITパスポート試験の活用の促進が謳われています。


新しいポストでの私の最大のミッションは、このITパスポート試験の普及。国家試験で初めてCBT(Computer Based Testing)方式という、パソコンを利用して実施する試験方式を導入し、年中いつでも、全国の受験地の中から受験者に都合の良い場所で受験できるようになっています(従来からの情報処理技術者試験は、毎年春と秋の一回ずつのみ)。ITを用いた組織マネジメントやITの技術的側面に関する基本的知識に加え、財務・法務・経営戦略等の経営全般に関する基本的知識が問われることが特長です。すなわち、ITと経営についての基本的知識が、この試験への挑戦を通じて得られることになっていて、企業等の組織の運営において、ITが組織全体の生産性向上に生かし切れていないと言われてきた日本の弱点克服のために重要なツールだと思います。現在、NTT東日本及びNTTドコモ、富士通、パナソニック等の情報通信、エレクトロニクス関連の企業の他、大日本印刷、オリエントコーポレーション、鹿島建設、楽天証券等の企業が、ITパスポート試験の合格を社員教育や資格奨励制度に組み込んでいます。また、金融庁が新入職員全員にITパスポート試験の受験を推奨したり、埼玉県では、電子県庁を円滑に運用するという眼目の下、職員のITスキル向上のためにこの試験を活用するとともに、県内市町村の情報政策担当職員にITパスポート試験合格を目指した研修を実施する等、行政機関においてもこの試験の活用が広がりつつあります。


また、来年の新卒採用より、パナソニック、富士通、日本電気、富士ゼロックス、日立製作所グループ、KDDI、NTTデータ、大塚商会等の企業において、エントリーシートでITパスポート試験の合否を問うようになりましたし、採用内定者に対し入社前に同試験の合格を推奨する企業もあります(ちなみに、IPA自体はITパスポート試験以上の情報処理技術者試験の合格が採用の必要条件になっています)。一方、大学でも、首都圏では、青山学院大学、上智大学、学習院大学、明治学院大学、城西大学等が、また関西では、関西学院大学や近畿大学等が、ITパスポート試験の合格を目指した教育を行っておりまして、全国ベースでみると、同試験について、対策支援講座を実施しているのが138大学、単位認定制度を実施しているのが96大学、入試優遇制度を実施しているのが144大学、さらに合格者に報奨金を支給する制度を実施しているのが54大学という状況になっています。


私は、こうした企業、大学、行政機関等におけるITパスポート試験の更なる活用のために、毎日行脚しています。梅雨明けが早く、連日猛暑下での行脚は多少こたえておりますが、成長戦略の実行の一端を自ら担っているというやり甲斐感を支えとし、そして行脚先の一つの東京大学で濱田純一総長から頂いた「身体を鍛えなおすチャンスだとも思って頑張って」という励ましを思い出しつつ、これからも飛び回る決意です。鞄にはいつも、初音ミクを携えて。



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