第49回 「2012米国大統領選挙」の巻


 米国大統領選挙が終わりました。初めて大きな関心を持ったのは、20年前のYALE大学留学時のブッシュ(父)対クリントンの選挙。前者が学部卒、後者が大学院卒という違いこそあれ、ともにYALE卒業生ということもあり、学内の盛り上がりを目の当たりにしました。同じくYALE卒業生のクリントン夫人(即ち現国務長官)が夫の応援演説のためにやってきたのですが、当時、最初の学期の乗り切りに汲々としていた私は、家内の勧めにもかかわらずその演説会を見に行かなかったこと、今、ちょっぴり後悔しています(夫人の方が旦那よりも演説上手という専らの評でした)。20年前の開票当日、TVに釘付けで見ましたが、今でも鮮明に覚えているのは、クリントンが過半数を制することが決まった瞬間の映像。"Winner of the United States"というタイトル付きで新大統領の顔が登場し、素直に格好良いなあと思いました。


 今回の選挙戦、医療保険改革というとても大きな業績を挙げたことが私には強い印象となっていて再選確実と思っていたため、9月まではさほど関心がなかったのですが、10月の1回目の討論会後に急激にロムニー候補が追い上げを見せ始めてからの1ヶ月は、結構強い関心を持って見ていました。余談ながら、同じく10月に1ヶ月かけて行われた大リーグのポストシーズンが、最初の地区シリーズから、どの組み合わせも大接戦で例年以上にはまってしまったことと相まって、この1ヶ月は、米国に大いに楽しませてもらいました。


 この1ヶ月、大統領選挙の推移を見つつ、色々な情報に接して一番感じたことは、米国内の分断の大きさとでも表現したら良いでしょうか。4年前の選挙の際には、ブッシュ(子)政権の8年間に疲れた米国民を、オバマ氏は、"change"というキャッチフレーズと"米国を1つにする"というメッセージで引きつけ、新大統領誕生の勝利演説は、米国民でない私が聴いても高揚感を覚えたものでした。そのメッセージとは裏腹に、この4年の間に、米国の分断とでも呼べる状況は深刻さを増しているように思えます。その引き金は、共和党のTea Party運動とそれによる2年前の中間選挙での下院民主党の大敗北で、大統領はそれ以降は暫く共和党との妥協路線を取っていたものの、大統領選挙が近づくにつれ対決路線に転じてしまい、今回の選挙戦中の相互のネガティブキャンペーンは凄まじいものであったようです。再選の勝利演説では、再び、米国民は一つになって進んでゆこうと呼びかけていましたが、今回は私にはあまり響きませんでした。


 その一方で、今回の大統領選挙(及び上・下院議員選挙)にまつわる情報に接してこれまで同様感銘を受けたのは、米国民の選挙を通じて国を変えて行こうとする行動力です。自分の思うところに従って行動し、仲間を募り、当選させたい候補者への投票を様々なやり方で働きかけ、更には現職の議員を教育しようとしたり、あるいはダメだと判断した議員は落選させようと運動したりする人々の姿を見、そして彼ら彼女らの言葉を聞くと、米国の民主主義を支えているのは自分たちの行動だという強い信念を感じさせられました。また、私が手放しで素晴らしい業績だと思っている医療保険改革について、低収入状態に陥って無保険者になってしまった男性が、それにもかかわらず、国が税金を投入して無保険者を無くそうとする改革に対し、「無保険者になったのは自分の責任であり、自分の判断。それに対し、国が介入してくるのはおかしい。」と反対していたのには半ば驚きました。こういうTea Party運動の考え方が、上記の非妥協的な分断を生んでいる一因になっている訳ですが、それはそれとして、こうした米国民の自ら恃む気持ちというか矜持というものには、唸らされました。オリンピックやワールドカップ同様、大統領選挙が終わると4年後まで忘れてしまいがちな私ですが、今後の4年間はもう少し継続的関心を持ちながら米国政治の行方をフォローしてゆきたいと思います。そして、日本の民主主義を支えているのは自分たちだという信念を持って、まずは来る国政選挙に一票を投じたいと思います。



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