第46回「陽の当たらない坂道」の巻


 ロンドン五輪が終わりました。毎度のことなのですが、開幕まではあまり気持ちの盛り上がりを感じていなかったものの、始まってからは連日、日本人選手の出場する競技のTV中継や新聞報道にはまってしまいました。第1週目は、まず柔道。松本選手と中矢選手がともに決勝まで残った日は夜更かししましたが、それ以降は、帰宅して、さあ応援だ!とTVを点けると日本人選手は既に敗退しているという状況が続き、健康管理上はプラスだったものの残念でした。その一方で、競泳陣が連日メダルを取る活躍で素晴らしかったです。


 第2週目は、気持ちはほぼサッカーに向いていました。男子の初戦のスペイン戦を見て、このチームはこれまで見た男子サッカーチームの中で最も強いと思い、たまたま先月Jリーグの試合で目の前で見た永井選手のスピードに惚れたこともあり、熱を入れて応援しました。決勝トーナメント第1戦のエジプト戦も快勝で、メキシコにも勝てると思いましたが、メキシコ戦は守りのミスからの残念な逆転負け。更に三位決定戦の韓国戦は早起きしてTVの前に座りましたが、攻守共に精彩無く、後に眠気だけが残る観戦となりました。
 それに対し、なでしこジャパンは見事だったですね。準決勝のフランス戦、数少ないチャンスを確実にものにしました。後半のフランスの猛攻の際には、TVの前で、「○○、△△に付け!」(○○には、なでしこの選手名が、△△には、フランスの選手の背番号が入ります)と連呼し続け、試合後はぐったりとしてしまい、それでも、いよいよ決勝!という高揚感を伴った疲労感でした。決勝の米国戦も、男子の3位決定戦とは異なり、勝てたかもと思わせる試合で、素晴らしい銀メダルだったと思います。


 さて、その後の報道で知ったのですが、日本サッカーチーム、行きの便は男子だけがビジネスクラスだったのが、帰りの便は男女ともビジネスクラスになった由。「同じ日本サッカーチームなのに、こんな差別があるんだね。」と五輪通の家内に言ったら、「男女間だけでなく、むしろ競技間、つまりメダル獲得が有望で人気もあるメジャーな競技と、あまり知られていない競技との格差は至る所にあるのよ。」と。実は家内は、大学時代にアーチェリーをやっていて、インカレで優勝し(余談ですが、結婚を決めてから、東大ハンドボール部時代のキャプテン(現在衆議院議員)に報告した際、「山城、それはハンドボールで言えば日体大や筑波大と同等の凄さだぞ!」ととても感激しつつ祝福してくれたのを思い出します)、アジア大会にも日本代表として出場した経験の持ち主なのですが、現在は当時に比べれば改善されているかもしれないけどと前置きしつつ、以下のようなアジア大会時の経験を語ってくれました。例えば、柔道や競泳等のメジャーな競技の日本選手達は、自前のバスで選手村と競技場や練習場をスムーズに移動できたのに対し、アーチェリーのようなマイナーな競技の日本選手達は、大会組織委員会等が運営する巡回バス(田舎のバスのように、一日に3本しかなかった由)に乗るしかなく、そのため早朝出かけたり、選手村に帰りたくても夕方まで帰れなかったりで体調管理が大変だったそうです。また、メジャーな競技の選手達は、大量に持ち込まれた日本食を食べることができたのに対し、マイナーな競技の選手達は選手村での食事を食べるしか無く、家内は口に合わない食事で苦しんだ由。その他にも、メジャーな競技の選手達には、トレーナーやマッサージ師がついていたりとか、挙げればきりが無いわねえと。


 今回、そのアーチェリーは男女ともメダルを取る快挙でした。その他にも、男子フェンシングや女子バドミントンが団体で見事な銀メダルを取り、また、卓球女子団体が初めてのメダル、男子ボクシング、男子レスリングあるいは女子バレーボールの何十年ぶりのメダル(前2競技は金メダル)と、私見で言えば、マイナーな部類に属する競技やメダルをずっと取れていなかった競技での日本人選手の活躍が目立った五輪だったように思います。今回、アーチェリーの女子選手の一人の、"注目されていない中で、あっと言わせたいと思っていた"という趣旨のコメントが報道されていましたが、まさにあっぱれだし、これは、スポーツの世界に限ったことではなく、ベンチャー育成や人材育成等に通じることだと思います。自分の才能を信じつつ、一所懸命努力して坂道を上っていこうとする人々を、たとえそれが陽の当たらない坂道であっても、いやむしろ陽の当たらない坂道である場合にこそ、応援し、盛り立ててゆくことが大切なのではないかと思います。



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