第41回 「春の眠りの話」の巻
先の日曜の午後、東京駅近くの丸ビルホールで開催されたFIRSTサイエンスフォーラムに足を運びました。このフォーラムには昨年も行き(第36回「日曜午後はサイエンスの巻」ご参照)大変面白かったので、今年も参加。今回登壇された研究者は、喜連川優東京大学生産技術研究所教授、柳沢正史筑波大学教授兼テキサス大学教授、山中伸弥京都大学教授のお三方。喜連川教授については、第34回「サイバーフィジカルでスタート!の巻」をご参照頂き、また山中教授についてはiPS細胞生みの親として皆様十分にご存じと思いますので、本日は柳沢教授に焦点を絞って書きます。
柳沢教授の御講演タイトルは、「睡眠・覚醒の謎に挑む〜『眠気』の正体を求めて〜」。以下、御講演の概要を私の理解の範囲で記します。"@睡眠は、現代の神経科学最大のブラックボックスの一つ。例えば、そもそも、なぜ眠らなければならないのか分かっていない、すなわち睡眠の機能が分かっていない。また、眠気とはそもそも何かも分かっていない。A別の研究目的でマウスを観察していたところ、突然活動を休止し、暫時の後、元通りの活動を再開するマウスを発見。研究を進めた結果、脳内の覚醒物質「オレキシン」を発見。Bオレキシンが欠乏すると、ナルコプレシーという覚醒障害が生じる。症状は、日中の慢性的眠気や情動脱力発作(笑った直後に急に脱力)等。1000〜2000人に1人発症するので、決してまれなものではない。現在は、症候治療のみしかない。C眠気の制御については、恒常性によるもの(徹夜明けだと眠い等)、体内時計によるもの(関連する現象として時差ボケ)、情動によるもの(火事だ!という叫びを聞いて眠気が吹っ飛ぶのは関連する現象)といったものがある。D現在、大量のマウスを活用しながら、睡眠障害に係る創薬や、睡眠に関する未知の睡眠遺伝子の探索に邁進中。"
御講演の後、コメントを求められた山中教授は、「柳沢先生は、私自身が研究者として凄く影響を受けた方。そもそも学生の頃に、エンドセリンという血圧を下げる物質の発見という大きな業績を挙げられたこと。30代で米国に渡り、研究室を持って独立されたこと。米国での講演が素晴らしく、自分もああいう講演ができるようになりたいと思ったこと。血圧とは違う分野で、今度はオレキシン発見という、またも大きな業績を挙げられたこと。」
などを語られました。私自身は、柳沢教授のことをフォーラムを契機として初めて知ったのですが、知らぬは己ばかりなり、とても高名な研究者なのでした。場内の高校生たちへのメッセージとして、人と違うことを恐れないこと、良い問いを見つけることを仰ってました。そして最後に、研究者を志す若人への言葉として、「虚心坦懐、英語だとBe unbiased。自然は極めて大きいものなので、自分の仮説などにはとらわれず虚心坦懐に見ることを心がけて下さい。」と締められました。現在、研究所のマネジメントに携わっている私にとっても有益なメッセージの数々で、当所の研究者にも伝えていきたいと思います。
高校生の「先生にとっての睡眠とは何ですか」の問いに、「この世の楽しみです。」と答えられた柳沢教授ですが、ほぼ3週間ごとに日米を往復するというハードな生活を送られているそうです。時差ボケに弱い私などにはとても務まらない生活ですが、是非ご自身の眠りも大切にされつつ、眠りに関わる真理の発見&睡眠関連の疾患等に苦しむ人々の救済策の開発のための成果を挙げて頂きたいと思います。春の日曜の午後と言うと、ついうとうととしまいがちな時間帯ですが、フォーラムの間中、少女漫画のヒロインのようにおめめパッチリの3時間でありました。
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