第40回 「一年越しのホームワーク」の巻


 弥生2日の夕刻、弥生式土器ゆかりの東大キャンパスへ、東京大学産学連携協議会平成23年度総会にお招きを受け、行ってきました。この総会は、産業界の会員の方々(現在734社)に当年度の産学連携本部の活動報告を行うことを核として、東大教授による特別講演及びその後の懇親レセプションを主な内容としています。昨年度は3月14日に開催予定でしたが、前週金曜の震災発生で中止となり、今回は2年ぶりの開催で、その2年前の総会の際には私が司会進行を務めました。そういう経緯があるので、会議が進行していく間、様々なことが頭に浮かんで参りました。ところで、今回は会場も目玉の一つ。今回の総会は、伊藤雅俊セブン&アイ・ホールディングス名誉会長御夫妻の御寄付により建てられた伊藤国際学術研究センターのプレ・オープンイベントという位置づけも持っていたのです。 レンガ積みの外壁でクラシックな香りのする良い感じの建物でした。これまでの総会は学外で行っていたのですが、昨年の中断を経て、初めて学内で、生まれたばかりの建物において再開されたことは、いかにも新生という感じがして、嬉しく思いました。


 総会冒頭の濱田純一総長の御挨拶は、やはり1年前のことを思い起こしつつのものでした。震災発生以来の東大の救援・復興への取り組み、人々の役に立つ技術・知を生み出していくために教育・研究に更にしっかりと取り組む決意、産学連携に更に力を入れていくというメッセージ、秋入学への取り組みを一例とした学生をよりグローバル志向に&よりタフにしていこうとする意気込み等を述べられた後、「本日、このセンターで初めての挨拶をすることができ光栄。総長就任当初は、安田講堂の壇上で挨拶することに感動していたものだが、最近はすっかり慣れてしまった。」と笑いを誘いつつ締められました。


 今回の特別講演者は、中須賀真一工学系研究科航空宇宙工学専攻教授でした。この中須賀教授には、工学部全体の広報責任者もされていた関係で、私の宮崎の母校の後輩が東大見学に来た際にお世話になったことを皮切りに色々と御縁がありました。かの山崎直子宇宙飛行士の指導教官でもある中須賀教授の演題は、「超小型衛星による新しい宇宙開発・利用への挑戦」。まず、宇宙開発の基本は、"ロケット打上げ→衛星のロケットからの切り離し→衛星が地球を回りながら、その衛星に課された業務(ミッション:例えば通信・放送、写真撮影等)を遂行"ということであること、航空宇宙工学を支える先端研究分野は流体力学、燃焼工学、構造力学、航空宇宙材料等、多種多様であるが、それらを束ねるシステム統合技術が極めて重要であることを語られました。そして、中・大型衛星による宇宙開発が、高コスト、長期の開発期間、失敗を許さない超保守設計等から閉塞化してきたという問題意識に立ち、発想を転換して新しいメカニズムでの機能の実現を図るという思想の下、50kg以下の超小型衛星の研究開発に邁進してこられたこと、御尽力により、かかる研究開発に取り組む日本の大学が15に上るまでになってきたこと、打上げられた衛星が無事にミッション遂行を開始した際の感動、ベンチャー企業の立ち上げ、教育への熱い思い等を関西仕込みのユーモアで場内を笑わせながら語ってゆかれ、最後に、2010年より進めておられる最先端研究開発プログラム"日本発の「ほどよし信頼性工学」を取り入れた超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築"の話に移り、「超小型衛星でしきいを下げ、宇宙で何かをやろうと考える人の数を100倍にしようというコンセプトで進めているところ、是非皆様もジョインして下さい。」と締められたところ、場内から大きな拍手が湧きました。パチパチパチ888888….


 おや、この風景はデ・ジャ・ビュの感じが。そう、昨年2月に大阪で行われた第2回FIRSTサイエンスフォーラムで中須賀教授が話をされた直後の、ニコニコ動画からの配信でした。 実は、1年前の弥生2日にアップした第36回の「日曜午後はサイエンスの巻」に、FIRSTサイエンスフォーラム第2回の内容については稿を改めて書きたいとしていたのですが、当時、まさに書きたいと思っていたのが、中須賀教授のことでした。「この人のしゃべり、おもろいなあ!」「こんな大学の先生に習ってみたい。」「ほどよし信頼性なんて、上手いネーミング。」と続々と寄せられる賞賛のコメントを横目で見つつ、初めてのニコニコ動画を楽しんでから1年。当時の映像記録、ネットに掲載されているようなので、中須賀教授の話を実際に体験されたい方は検索してみて下さい。1年前からの大きな宿題を抱えておられる方々が沢山おられる中、ほんとにささやかなものではありますが、1年前にお約束したホームワークを果たせた思いで、少しホッとしています。



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