第34回 「サイバーフィジカルでスタート!」の巻


 本年も宜しくお願い致します。さて、先週木曜の朝、本年最初の出口編集長のメルマ ガを拝読していて、“意識するしないにかかわらず、情報が、次から次と洪水のよう に押し寄せてくる。日々、溺れそうになる。本当に必要な情報って何なのだろう か。”というフレーズが頭に残りました。今日の始まりに読むのにぴったりのメルマ ガだなと思った次第ですが、本年の一隅を照らすの記は、東京大学産学連携本部が先 週木曜の午後に開催した第20回科学技術交流フォーラムの話題にてスタート致しま す。


 今回のフォーラムのテーマは、「サイバーフィジカル情報革命」で、「ホリスティク センサーからの情報爆発を価値創造に結び付ける次世代ITインフラ」という副題が付 されています。これからの情報通信プラットフォームは、爆発的に増大するセンサー 情報を、適切かつ即座に処理し、それを社会的価値に変換できなければならないとい う問題意識に立って、議論を行おうとするものです。経済産業省の「情報大航海」や 文部科学省の「情報爆発」といった先進的プロジェクトを推進し、昨年度開始の最先 端研究開発支援プログラムの中心研究者でもある喜連川優(きつれがわ まさる)東 京大学生産技術研究所教授が、「サイバーフィジカル情報革命」の提唱者であり、今 回のフォーラムでも基調講演を行って頂きました。以下、同教授の基調講演及び配付 資料から、興味深かった点を御報告します。


 まず、情報の爆発についてですが、人類の情報生成量はとどまるところを知らず、2 000年には6EB(エクサバイト;10の18乗バイト)であったのが、2020年 には35ZB(ゼッタバイト;10の21乗バイト)に達すると予測されているそうで す。そして、喜連川教授が我が国における情報爆発についての研究の起点とされてい る2004年当時は、WEBが主体に位置づけられていたが、今やその主役はセンサー になってきているようです。“連続的に生成される膨大なセンサー情報を、サイバー 空間上における計算資源を利用し、高度に解析すると共に、解析結果を元に、実世界 の系に働きかけることにより、多大な効率化が実現できるような時代になった”と同 教授は主張されています。実例として、コンビニのセンサリングデータに基づく電力 消費削減についての生産技術研究所の取り組みや、同じくセンサリングデータに基づ く船舶の最適航路計算を通じた省エネ運行を挙げておられました。また、情報大航海 プロジェクトでの実証実験の延長として、例えば、メタボ症候群の対象者の日々の運 動量をセンサリングして、適切なタイミングで、運動を促すアドバイスをモバイルで 提供する等の健康管理についても言及されました。“膨大な情報を多様に利活用する ことにより、従来にはない新しいサービスを生み出すことが可能となるチャンス到来 の時代というポジティブな捉え方”が重要であるようです。


 さて、今回のフォーラムでは、サイバーフィジカルシステムというコンセプトを最初 に打ち出した米国から、IBMの研究者にお越し頂いて、同社の「Smarter Planet」と 称する取り組みを講演して頂きました。米国ハドソン川流域やアイルランドにおいて 環境モニタリング&マネジメントを行っているものでしたが、IBMがこんな事まで やっているのかと驚きました。日本からも、都市開発、物流、農業といった、私自身 の土地勘の乏しい分野におけるITを活かした改革についての講演が次々と行われ、そ れぞれ新鮮でした。フォーラム終了後の交流会での挨拶でも申し上げたのですが、 「私は、ITに関わる仕事に携わった経験に乏しく、サイバーフィジカル情報革命とい う言葉自体も、今回のフォーラムの企画を聞くまで知らなかったくらいですが、本日 のフォーラムを聞き終えた今、この革命では、日本が大いに活躍できるのではないか と思いました。各自がやるべきことを掘り下げると同時に広く連携して頂いて、ウサ ギのように軽やかに、世界に跳びだしていきましょう!」



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