第33回 「4回目のトラ」の巻


 トラトラトラは、御存じの通り、日本軍の真珠湾攻撃成功を伝えた電信です。しかしながら、たった今、'御存じの通り'と記したものの、69年目のその日を迎えての豪州発のニュースによれば、トラトラトラどころか、日本が米国と戦争を行ったことを知らない日本の若者が増えているのだそうです。本年GWに統一20周年を迎えたドイツを旅した時に考えたことを"歴史を学ぶ"というコラムに書きましたが、改めて日本の歴史教育の再構築の必要性を感じます。豪州と言えば、かく言う私自身、かつて親しくなった豪州政府の方から、「実は、豪州は歴史上、一度だけ侵略されたことがあるのだが、それは第2次世界大戦時の日本によってなんだ。」と教えられて不明を恥じたことがありました。


 この豪州発のニュースを聞いた数日後に、大学の総合図書館に足を向けました。蛇足ながら、学生の頃は、学部の図書館には行っても、総合図書館には足を踏み入れた記憶がほとんどありません。学生時代の生活には自分なりにまずまず満足しているのですが、総合図書館を全然利用しなかったことは、勿体なかったなあとつくづく思います。さて、通常は、2週間の貸出期間ですが、嬉しいことに既に冬期休暇対応モードになっていて、1月中旬過ぎまで借りられることが分かり、第2次世界大戦の頃の長編物を読んでみようと、赤絨毯の敷かれた中央大階段をしずしずと上がって日本史のコーナーへ。いくつかの本を手にとっては戻しているうちに、本棚の最下段にピンクと緑の背表紙が目に止まりました。ピンク色の上巻を手に取って、パラパラとめくってみると、米国人の学者による、戦後の占領期の日本についての本。とりあえず上巻だけ借りたのですが、その日の夜に読み始めたらすごく面白くてどんどん読み進んでしまうので、慌てて緑の下巻も借りに行きました。


 その本は、ジョン・ダワーMIT教授著の"敗北を抱きしめて"です。原題は"EMBRACING DEFEAT"なので、忠実な和訳タイトルです。私にとってのこの本の最大の魅力は、占領期の日本人の生活を伝える沢山の写真と豊富な事実の記述です。まだ上巻を読み切った段階ですが、占領期の日本のことをほとんど知らないことに気づかされると同時に、こんな苦しい生活の状態から這い上がってくる日本人の先達のエネルギーに感動させられました。'日本の読者へ'と題する2001年2月1日付けで書かれた著者のメッセージの最後は、以下のようになっています。


 "新しい世紀において、自分たちの国は何を目標とし、何を理想として抱きしめるべきか。今日の日本の人がそう自問するとすれば、それはあの恐ろしい戦争のあとの、あのめったにないほど流動的で、理想に燃えた平和の瞬間であり、それこそもっとも重みのある歴史の瞬間として振り返るべきものではないだろうか。私は、そう考える。"


 実は私、本年は4回目の年男でした。3回目、すなわち、トラトラトラの年は、拓銀破綻直後の北海道で過ごしました。前年11月の拓銀破綻を受け、北海道はとても大変な状態でしたが、同時に、新しい北海道作りを目指した動きが、道内で色々と始められ、あるいは本格化した年であったように記憶しています。自分自身も元気溌剌、人生まだまだ先は長いと思っておりました。4回目の本年は、さすがに箱根の山の折り返し点は過ぎちゃったかなと感じつつ、また、大学に身を置いているせいか、たすきを渡してゆく若い世代のことをしばしば考えつつ年の暮れが近づいて来ましたが、ダワー教授のメッセージを抱きしめて、5巡目に入ってゆきたいと思います。皆様、佳いお年を。



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