第21回 「チューリップの絆」の巻


 GWでお世話になったデュッセルドルフ駐在の友人から、写真が届きました。どの写真にも美しいチューリップが沢山写っていて、感動が蘇ってきました。


 旅立つ前、「ドイツ北西部には、観光ポイントがそんなに多くないから、例えばオランダに足を伸ばすことも良いのでは?」との彼からの示唆を受け、昔見たチューリップ花盛りの公園の写真が美しかったことを思い出し、連れて行ってもらうことにしました。当日朝、ホテル前に車で迎えに来てくれた彼とは、約10年ぶりの再会。前日まで一人でドイツを旅していたため、友人と会えた喜びはひとしおで、車に乗り込むなり会話が弾みます。思い起こせば学生時代、卒業旅行と称して、お互い初めての海外旅行に出かけたのがこの友人。「山城は、しょっちゅうヨーロッパに来る機会があるだろうけど、田舎に戻って就職する俺は、二度とヨーロッパに来られないかもしれないから。」と言って、お土産を色々買っていた彼が記憶に残ってますが、ヨーロッパ駐在経験無しの私に対し、堂々二度目のドイツ駐在中。オランダへ向かう道すがら、アウトバーンの標識に、中学の地理で覚えた諸都市の地名が次々と現れ、ルール工業地帯を通過しているのだなあと感慨。速度無制限ゾーンでは、生まれて初めて時速180kmの車を体感。国境に近づいたところで減速させつつ、「オランダは速度規制が厳しいんだ。」と彼。オランダに入ってしばらくすると、「ほんと、オランダって平らだよな。」と語りかけるので、「山がない国土に住んでいるオランダ人って、山が欲しいと思ってるのかな?」と返すと、「きっとそうだろう。」私は、「そういう思いが、海外に乗り出していくエネルギーになったのかな?」とつぶやきつつ、"山のあなたの空遠く、幸い住むと人のいう。"というフレーズを思い出しました。出発から約3時間半、遠くに赤や黄の線が見えてきました。「あれ、チューリップじゃない(か)!」と後部座席に座っていた彼の奥さんと助手席の私とが同時に声を上げました。その線が次第に太く濃くなり、ほどなくして、目指すキューケンホフ公園に到着。


 到着後すぐのランチは予想通りのオランダ味でしたが、公園内の風景は、昔見た写真のイメージ通りの素晴らしさ。特に、チューリップが樹木に囲まれて咲いているさまが、とても美しい。ムスカリやヒアシンスなど、他の色々な花とのコンビネーションも華麗でしたし、おまけと言っては我が国花に失礼ながら、ぼってりとした八重の桜も満開でした。寒風の中、色も形もさまざまなチューリップを見て回っているうちに、駐在していたカナダのオタワでのチューリップ祭りのことを思い出しました。5月中旬に開催されるこの祭りは、やっと春が来たと実感させてくれるイベントでしたが、真冬には世界最長の天然スケートリンクになるリドー運河沿いの樹木の下にチューリップが咲いているさまは、今回見たキューケンホフに通じる景色でした。このチューリップ祭りは、第二次大戦中にオランダからオタワに避難したオランダ王室が、戦後、感謝の意を込めて、チューリップの球根をカナダに送ったことがきっかけで始められたものです。花というものは、あらゆる人に喜びを与える素晴らしいものだと思いますが、その花によって、国と国との絆、あるいは人と人との絆が強くなるとしたら、それは一層素晴らしいことです。


 チューリップをバックにした友人と私との写真を見ながら、これからは、チューリップを目にする度に、キューケンホフ公園と彼のことを思い出すだろうと考えているうちに、ふと公園を出るときの彼の言葉が蘇ってきました。「こんな美しいところ、奥さんを連れてもう一度来るべきなんじゃない?」そうですね、いずれまた、5月のオランダを訪れることになりそうです。




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