第17回 「春は夕暮れ」の巻


 春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。平安の御世に、清少納言はこう書いているわけですが、春眠暁を覚えずという言葉があるごとく、しかも数年前に花粉が閾値を超えたこともあり、すっきりとした状態で、春のあけぼのの風情を感じ取る境地には至ることができません。それでは、どの時間帯に春を感じるか?私の場合は、夕暮れ時です。ゆるゆると日が落ちていく頃、空気はひんやりとはしても、もはや刺すようなものではなく、外を歩いていても、早く暖かいところに行かなくちゃという切迫感を抱かずに、ゆったりと時を刻める感覚。先日も、そんな感覚を楽しみながら、シンポジウム関係者の方々との打ち上げの宴に赴きました。


 さて、そのシンポジウムは、大阪大学産学連携推進本部と東京大学産学連携本部とが共催したもので、テーマは、"大学発ベンチャーによるグリーンイノベーション"でした。エネルギー・環境関連の事業を行っているベンチャー企業が、阪大関連と東大関連とで各2社ずつ事業内容を発表されました。いずれの企業の事業も、地に足の着いたものであると同時に志の高いものでしたが、本日は、東京大学発ベンチャーの(株)ユーグレナを御紹介したいと思います。このユーグレナは、ある微生物の学名(Euglena)をそのまま社名にしており、その学名は、ラテン語で、美しい眼という意味を持つのだそうですが、それでは、その微生物とは何でしょうか?


 正解は、ミドリムシなのです。高校の生物で耳にして以来、幾星霜を経て忽然と現れた"美しい眼"。単細胞の微細藻類で、植物のように光合成を行うと同時に、動物のように細胞を変形させて動き、植物と動物の両方に位置する非常に珍しい生物だそうです。当日御発表の出雲充(株)ユーグレナ代表取締役によると、ユーグレナの光合成による生産効率は稲の80倍で、また、食品としてみた場合、栄養価が高く、ユーグレナの粉末10gに、トマト9個分のベータカロテン、ホウレンソウ1束分の鉄分、納豆1パック分のタンパク質が含まれているとのこと。また、ユーグレナの体内成分の3割は油脂なので、バイオ燃料にも使える可能性があり(単位当たりの油脂分の生産量はトウモロコシの約350倍の由)、さらに、高濃度の二酸化炭素の環境下でも成長していくので、発電所や製鉄所等の施設から排出される二酸化炭素を活用して、二酸化炭素の排出削減とユーグレナの大量培養とができるということです。いやー、あっぱれミドリムシ!出雲社長に「凄いヤツですね。」と申し上げたら、「可愛いやつなんですよ、ユーグレナ。」と愛おしそうに仰っていました。

 沖縄のプールで大量に培養されているユーグレナの映像を眺めているうちに、まるで暖かな南風が、画面からこちらに流れ込んでくるかのように、ほんわかした気持ちになってきました。春は、ユーグレナ。



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