第13回 「思い出のサンフランシスコ」の巻


 読者の皆様、本年も宜しくお願い致します。新年早々、米国に出張してきました。カナダ勤務から帰任以来6年半ぶりの北米大陸との再会でした。サンフランシスコで開かれたJUNBA(Japanese University Network in the Bay Area)の会議に出席し、さらに、シリコンバレーまで足を伸ばしてきました。シリコンバレーでは、ベンチャー企業2社(ソフトウェアとデバイス)、ベンチャーキャピタル及びジェトロが運営しているインキュベーションセンターを訪問してきました。


 そのインキュベーションセンターで頂いた統計によると、米国におけるベンチャー企業への投資は、リーマンショックの影響を受けて、2008年第4四半期及び2009年第1四半期にかけてがくんと減少し、2009年第1四半期の投資額は、2008年第3四半期の投資額の半分以下(7180百万ドル→3320百万ドル)となっています。その後、2009年第3四半期(当該統計の直近期)にかけ戻してきているものの、2008年第3四半期の3分の2の水準に留まっています。ベンチャーキャピタルの側からすれば、既に投資した企業が破綻しないようにすることに注力せざるを得ず、新規投資や拡張的投資のプライオリティは落ちざるを得なかったのでしょう。今世紀初頭にITバブルが崩壊した際の急減以降、2003年からは増加トレンドで来ていたベンチャー投資が2007年末をピークにして落ち始めていたところにリーマンショックが来たという構図のようであり、再び2003年以降のような上昇トレンドに乗っていくのか、今年は要注目です。


 さて、サンフランシスコを訪れるのは18年ぶりでした。前回は夏で、ゴールデンゲートブリッジの手前側は霧に覆われているのに、対岸のサウサリート側に渡ったら太陽光がいっぱい(昨年最後のコラムの続き)だったのがとても印象に残ってますが、今回は冬であるにもかかわらず、空港への着陸時に湾内がすっぽり霧で覆われていて、思い出に残る光景でした。スタンフォード大学のカフェで2ドル少々のピザ(8分の1ピースですが、直径及び厚みがあるので十分)を頬張りつつ浴びたカリフォルニアの太陽光とキャンパスの開放的な風景も、長く記憶に残りそうです。訪れたベンチャー企業経営幹部の意欲満々のプレゼンテーションと前方に山が見えて確かにここはバレーだなと思わせるロケーション、ベンチャーキャピタルが入居している広々とした別荘を思わせる建物、初日の日曜夜に目指すレストランがことごとく閉店していて最後に偶然見つけた美味なるシーフードレストランから見たベイブリッジの夜景、などなど、思い出に残りそうな光景は数々ありますが、たぶん、一番覚え続けているだろうと思うのは、以下のことです。


 JUNBA出席者のためにサンフランシスコ総領事が開いて頂いたレセプションからホテルに戻ってきて、シャワーを浴び、眠りに就いてから約1時間後、耳元の警報で目が覚めました。何事かと思い、枕元の照明を点けようとすると、点きません。ゆるゆると歩いて窓から外を見ると信号機が消えていて、停電!廊下の明かりを頼りに着替えて1階のフロントへ行って質問すると、「エリア一帯の停電であり、いつ修復するか不明。エンジニアは停電対応に係りきりであり、警報を止める作業には手が回らない。」との返事。警報が鳴り続けているのでは眠れないし、参ったなあと思いつつあたりを見回したら、「あ、山城部長!」という声が。関西在勤時に親しくさせて頂いた、優れた産学官連携活動をされている立命館大学の中谷吉彦研究部長が、同大学のチームとともに飲んでおられました。「一緒に飲みましょう。」と招いて下さり、お酒がなくなると、トランジット時に台湾で購入されたというお茶から作ったウイスキーのようなお酒(2本!)まで部屋から持ってきて下さいました。JUNBA会議のテクノロジーフェアで御講演される小西聡教授が東京大学御出身であることも手伝って、停電が修復するまでの1時間半、楽しく歓談できました。良き方々との縁は本当に有難いものです。おかげで、生まれて初めての旅先での停電という事態に見舞われても、心穏やかに過ごすことができました。まさに"安心立命"でありました。




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