第11回 「レッツ ピクニック」の巻


 先月来、東京大学のシンボルマークにもなっている銀杏の黄葉がキャンパス中に散っていまして、小さな円錐形に積まれているところもあります。晴れた日にキャンパスを歩いていて、そういう堆積を見かけると、鼻が顔の中で小高くなっているさまから類推して、フッヘルヘンド(だったかな?)というオランダ語の解釈にたどり着くという、解体新書翻訳に係る江戸時代の先人の苦労をふと思ったりしていました。そして先日、とある講演を聴いてからは、一度、ポカポカ陽気の下、一面に敷き詰められた銀杏の黄葉の上でピクニックをしてみたいものだと思うようになりました。


 その講演は、前回触れた地域振興研究会で行われた、太田浩史東京大学生産技術研究所講師のものです。太田先生は都市再生の研究者であるとともに、建築家でもあるのですが、加えて、東京ピクニッククラブという集まりの発起人という側面もお持ちです。このクラブ、都市の公共空間の開放を求めて「ピクニック権」を主張しつつ、多様なアーティストのコラボレーションによって現代のピクニックのあり方を提案しようとするもので、現在、他の都市にも、同様のクラブが生まれてきているそうです。一方、都市再生の研究者として、毎年世界の都市を20以上調査することをノルマとされ、現在、135都市に至っているとのことですが、今回の講演のメインとして取り上げられた英国のニューキャッスル/ゲーツヘッドとの出会いは、ピクニックを通じてだったようです。


 このニューキャッスル/ゲーツヘッドというのは、いわゆるツインシティ(例えば、米国だと、ミネソタ州のミネアポリスとセントポールがツインシティです。大リーグで、イチロー選手と毎年、首位打者を争うマウワー選手が属するのが、このツインシティを本拠地とする、その名もミネソタ・ツインズ。)で、各の人口が26万人と19万人。英国最大の炭鉱を擁する工業都市として、造船や武器製造で世界にも名を馳せていましたが、戦後衰退し、失業率が17%まで達したこともあるそうです。1990年代に入り、文化による都市再生を開始し、まず、炭鉱跡地に、巨大なAngel of North という鉄製の彫刻(両手を広げた巨人の両手の部分が、飛行機の翼のような形になっている)を建てることから始めました。建立前の市民の評判は芳しくなかったようですが、完成初年度に10万人の旅行者が訪れたことも与り、市民の意識を変え、誇りを持たせる大きな効果を持ったようです。


 以来、様々な文化を軸にした都市再生プロジェクトを行ってきた結果、現在では、英国で第4位の人気を獲得する観光都市に生まれ変わったそうです。太田先生は、同市のプロジェクト募集に対し、10日間にわたり市内各所でピクニックをして最終日にピクニックコンテストを行うという提案をされて見事当選し、ピクニックプロジェクトをやって来られた由。「ピクニックの祖国の英国(1802年に突如流行)に対し、ピクニックプロジェクトを提案するのはおこがましいが、ただ一つ食べ物には手を抜かないという点に関しては、日本からのピクニック提案に価値があると思いました。」という先生のコメントには、米国及びカナダ(ケベック州を除く)での数多の外食経験を踏まえ、深く頷きました。「仕事をしているんだか、遊んでいるんだか、分からない感じになったりしてまして。」とニコニコしながら講演をして頂いた太田先生、本当に楽しそうでした。ピクノポリスなんて、かつてテクノポリスという言葉になじんだ身としては嬉しい新語も登場したりして、ピクニック気分にさせられました。黄葉上ピクニックには少し時季遅れとなり、また、スキーはやらなくなって雪上のピクニックとはおさらばなので、やっぱりお花見ピクニックですかね。はーるよ、来い。




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