第3回 「本場のアイリッシュコーヒー」の巻


 10月最初の週末、我々日本人の多くは、デンマークのコペンハーゲンで行われた2016年の夏季五輪開催地決定のための投票に関心を寄せていたと思いますが、ヨーロッパでは、そこに暮らす人々の多くが関心を寄せていたであろうもう一つの投票が行われました。EU統合をさらに進めるための新基本条約「リスボン条約」批准を行うか否かについての国民投票がアイルランドで行われたのです。昨年の国民投票では、アイルランド国民は批准にノーを突きつけており、今回の再投票で再びノーとなれば、加盟国全ての批准が必要なリスボン条約は発効せず、EU統合への動きはストップを余儀なくされる事態になるところでした。再投票の結果は、3分の2が批准に賛成というもので、リスボン条約は、来年発効となりそうです。


 さて、そのアイルランド、私は一度だけ訪れたことがあります。かれこれ15年前の11月だったと思いますが、国際エネルギー問題を担当する課の課長補佐をしていた際、アイルランドのエネルギー政策を審査するチームの一員として、首都ダブリンを訪れました。このエネルギー政策審査とは、IEA(国際エネルギー機関;先週、閣僚会議がありました。)のスキームで、数年(当時は4年)に1回、IEA加盟国(OECD加盟国と同義で、要するにいわゆる先進諸国)のエネルギー政策を、他の加盟国数カ国のメンバーがIEA事務局と一緒に現地調査した上で、レビューするというものです。政策審査の結果は、最終的にIEAの勧告という形にまとめられるのですが、例えば、石油依存度を高めるような政策を講じていたりすると、厳しく追及されます。実際に加盟国メンバーが現地調査する期間は一週間程度であるものの、事前に、事務局が作成した被審査国の政策レポートを読み込んでいき、事後には、審査レポートと勧告案の調整があって、なかなか骨のある、でも勉強になる仕事でした。今となっては、ピートと呼ばれるいわゆる泥炭が結構重要なエネルギー源であるということぐらいしか、審査レポートの内容についての記憶は残っていませんが、今回のEUとアイルランドのニュースを聴いて、思い出した一コマがあります。


 現地調査中のある日のランチで、アイルランド政府の方から、「今日のような寒い日は、食後にアイリッシュコーヒーをいかが?」と勧められ、喜んで頂いたのですが、一口目を飲んで、「わっ、こりゃ強い!」。アイリッシュコーヒーというものは、ちょっとだけウイスキーが垂らしてあるコーヒーと認識していたのですが、ダブリンで頂いたものは、コーヒーの味がするウイスキーそのものでありました。その日の午後の調査にしんどい思いをしながら臨んでいる時、ふと、「ああ、なるほど。こういうことか。」とある絵葉書のことを思い出しました。それは、前の年に、当時のECの本部を訪れた際に、ベルギーのブラッセルで買ったものです。"完璧なヨーロッパ人はかくあるべき(The perfect European should be)"という文字が中央に書かれており、それを取り囲むようにして、当時のEC加盟12カ国の国民が漫画で描かれていて、その一つ一つに、イギリス人のように料理をし、フランス人のように運転をし、ドイツ人のようにユーモアがあり、てな具合の文言が添えられていました。そして、アイルランド人については、以下の文言が。 アイルランド人のようにしらふで(sober as the Irish)。




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