第28回 中国のイノベーション〜知財管理に見る中国の変化


「第7回知財保護官民合同訪中団」

 8月16日の週、官民合同の知財保護訪中代表団の一員として、北京に出張してきました。同ミッションの報告は、、日経新聞などにも報道されていますが、「協力」と「要請」のスローガンのもと、中国の知財に関係する5つの政府機関(商務部、国家工商行政管理総局、国家知識産権局、国家版権局、最高人民法院)に対して、模倣業者の再犯行為、商標の不正出願、インターネット上での知財侵害等について要請を行い、また中国と共同で取り組む様々な知財保護にかかる協力について提案を行いました。


 この代表団は、今回7回目の派遣で、歴代、官民の錚々たるメンバーが参加しています。今回は、産業界を代表して志賀俊之日産自動車株式会社最高執行責任者を団長に、林康夫JETRO理事長、日下一正三菱電機株式会社専務執行役、岩井恒彦資生堂執行役員ほか、官からは、近藤洋介経済産業大臣政務官を筆頭に、長尾正彦大臣官房審議官、三橋敏宏製造産業局模倣品対策・通商室長ほか、特許庁からは筆者が参加しました。


 日中間では、政府ベースでの対話が積極的に行われていて、経済産業省と中国政府の各機関と大臣レベルの覚え書きが締結されています。この覚え書きに沿って、毎年意見交換やシンポジウムなどが行われています。また、審査官レベルで、特許、意匠、商標のそれぞれの日中会合が定期的に行われているほか、筆者(部長)レベルでも商標の問題で担当省の国家工商行政管理総局と議論したり、特許庁長官レベルで特許協力について、国家知識産権局の局長と話し合いを進めていたりします。知識産権局とは、特許審査ハイウェイに中国が参加する枠組みについて対話が進展している最中でした。一方、本訪中代表団は、「官民」という枠組みが特異であり、現場の問題意識に基づく産業界トップの迫力ある発言と、制度を司る日中の政府機関同士の意見交換がかみ合った、他国にも例のないやり方として今回、中国政府からも評価を受けました。


 「中国の知財保護問題」

 この知財保護に関する訪中団が7次にも亘っているのは、中国において知財保護の問題が日本の企業の喫緊の課題になっているからです。中国では日本製の工業製品、食品がその品質、安全性から市民の間で人気が高いとされていますが、それに便乗した模倣品等の知財権侵害問題が後を絶ちません。商標権や著作権を侵害した製品が街に流通し、消費者の誤解を与えています。日本の有名なブランド、例えばPanasonic に見間違えるように巧妙に作られた"Panasounio"などが不正に出願される例があとを絶たず、またパッケージが全くのデッドコピーの化粧品の中味が、本物とは似ても似つかぬ品質だという恐ろしい事案もあります。また、折角悪質な業者をとらえても、罰金等の刑罰が不十分であると、「やり得」となってしまい、再犯を阻止出来ません。そこで、こうした犯罪行為を取り締まる権限を持つ中国知財当局に対して、日本政府のみならず、この官民訪中団が要請をし続けてきたのでした。


 今回の訪中では、これまで日本から要請してきた、再犯者への重罰規定の整備、没収設備の範囲の拡大、行政罰の強化、悪質な商標代理人の監督強化など、すでに商標法改正案等に盛り込まれているものも含めて中国当局の意向を確認しました。また、最近問題が大きくなってきているインターネット上の知財侵害に関して、中国政府の知財保護の方向性を確認し、さらなる協力に向けて合意しました。第7回という積み重ねにより、本来、反発を招きがちな日本からの「建議」(中国側の反発を避けるため、要請のことをこう称しています)に対し、中国政府として真摯に日本側の考えを受け止め、合意していただき、非常に友好的な雰囲気の中で意見交換ができています。


 「中国政府の明確な方針」

 今回、中国各政府機関が共通して表明していたのは、日本の考えに合意するのは、外圧だからではなく、中国経済の健全な発展、特に中国が創新国家(イノベーション国家)を目指すに当たって、知財の保護は不可欠だと深く認識しているからだということです。このため、中国では知財戦略(※i)を立て、これに基づいて毎年知的財産権保護行動計画を進めています。これは日本の知財戦略大綱に倣ったものと思われますが、少なくとも中央政府は、知財戦略を、信念を持って進めている姿が明確に見えました。


 様々な報道(※ii)にもあるように、中国の知財保護問題は根が深く、また中国政府を含めた関係者の努力をかいくぐって、グローバルな問題に発展しつつあります。こうした中で、中国政府の行政、司法が一体となって厳しく知財保護を進めていくことは、我々にとってもきわめて重要なことです。中国では、例えば専利法(特許法)もまだ25年の歴史というように、知財制度の基盤整備はまだ途上にあるといえます。今後とも日本としては、官民一体となって中国政府に建議し、協力を進めていくことが必要です。



i.2008年6月、国家知的財産権戦略綱要を策定。この中で、5年以内に、世界トップクラスの権利付与、侵害行為の減少、権利擁護コストの低下等の知財保護の改善を目標として定め、2020年を目標として具体的な戦略と実現のための措置を定めている。
ii.テレビ東京「ガイアの夜明け」膨張する中国ニセモノ〜追跡…"グローバル化"の脅威〜では中国の模倣品の実態を生々しく報じています。



記事一覧へ