第23回 ボストンにて−その1(国際商標協会年次総会)



 久しぶりのボストンは、陽光が輝き、一年で一番いい季節のようでした。日本から来た身にも少々暑すぎる日差しで、滞在先のボストン・コモンズ近くのホテルの窓からは、プールサイドでくつろぐ老夫婦の姿が遠目に見えています。


(右は、クリエイティブ・コモンズ発祥の地?ボストン・コモンズの朝の風景です。コモンズとは「入会地」のことです。)



 5月の下旬にここボストンで国際商標協会(INTA)の年次総会が開催され、商標のユーザーに交じって、各国の商標庁担当官も集まっていたのでした。特に、日米欧の商標担当幹部が集まることになっていました。今年は、第9回の商標三極局長級会合を日本のホストで開催する順番です。筆者がその議長をやることになっていて、その準備会合をここボストンのINTA総会の機会に行うことで昨年の会合で決まっていました。メンバーは、USPTOのべレスフォード商標コミッショナー(Ms. Lynne Beresford, Commissioner for Trademarks;写真前列右から2番目)と欧州OHIMのデボア長官(Mr. de Boer, President of OHIM、写真前列右から3番目)です。お二人とも商標三極には第一回から出席している、この世界の有力者です。会合には、INTAに出席していた三極の代表団が参加しましたが、米国からはUSPTOのBarner副長官も来ておられました(写真前列最右)。彼女は知財担当の商務省次官補代理でもあります 。今回はベテランのべレスフォード女史の隣で静かに会議の行方を見守っておられました。




 商標三極の準備会合では、次回日本会合の日程、議題をはじめとする枠組みや準備作業についての合意がされるなど、成果を得て無事終了しました。


 なお、OHIMのデボア長官は9月末に退官されることになっており、後任はポルトガル知財庁のカンピノ長官と決まっています。デボア長官はオランダ特許庁出身で、オランダ人らしくとても大きな体 ですが、その風貌、物腰はとても柔らかで、この世界の経験の浅い筆者にもとても優しく接してくれるのでした。今回が最後の三極会合で、議長の筆者から謝辞を申し上げました。これに、淡々とにこやかに受け答えされていたのが、デボア長官らしいところでした。


 INTAは、商標関係者が集まる国際的な組織で、今回が第132回の年次総会というとても歴史ある団体です。日本の特許制度が創設されてから今年で125周年(商標制度は126周年)ですから、日本の知財制度よりも古い団体ということです。現在のトップは米国ヘルスケア関連の大企業の知財法務担当のステインマイヤー女史です。余談ですが、会談を行ったときに、日本の知財制度が高橋是清翁が米国等から学んで立ち上げたことを紹介しましたが、あまり興味はなさそうでした。歴史よりはこれからの戦略こそ重要ということでしょう。


 INTAのメンバーは、米国を中心とした世界の法律・特許事務所やブランド戦略の重要性を熟知する商標ユーザーの企業ですが、参加者は前者の事務所が多いように見えます。これら事務所を中心に展示場にはブースがたくさん出展されています。また、日本でもおなじみの知財戦略コンサルタントのトムソン・ロイター社などは大きなブースを構え、たくさんの訪問客を集めていました(左写真)。



 政府関係では、WIPO、OHIM、KIPO(韓国知財庁)などが出展して、それぞれの商標制度などを広報しています。日本の特許庁も、昨年からJETOROニューヨークセンターの協力を得て小さなブースを出展しています。日本ブースにも期間中様々な国の関係者が来訪し、商標のみならず、日本の知財制度について実務的な問い合わせがありました。出願にかかる専門的な質問に対応するため、日本弁理士会と日本商標協会から弁理士の先生の応援をいただきました。審査官でもあまりうまく説明できない手続きの詳細など、丁寧にお客様に応答いただき好評でした。先生方、どうもありがとうございました。(写真は左:ブースに陣取る特許庁の面々。右はにぎわうJPOブース。)



 INTA年次総会に初めて出席して感じたことは、中・韓の関係者の多さです。特に中国の商標出願は83万件(2009年)と、日本(11万件)、米国(35万件)を抜いてどんどん増えています。これは、各国企業が中国市場で勝利を得るためには、商標によりブランドを守ることはとても重要だということが背景にあります。このため、中国の知財事務所はますます活況を呈しているようです。


 INTA年次総会は、セミナーや会議など様々なイベントを経て、最終日のグランドフィナーレを、ボストン科学博物館を借り切って行われました。そこで見たのは、展示場で見たよりはるかに多い出席者の群れでした(下写真、科学博物館内を埋める大人たち)。日本ブースではお目にかからなかった?たくさんの日本人関係者も出席されていました。皆さん、会場の内外でいろいろな接触をこの機会に行っておられたのです。(当方の三極準備会合のように。)実物大のT-Rexや宇宙船の下で、グラス片手に語らうと、とても優雅な気分になりますね。ここでも米国人に交じって、中、韓の関係者の多さが目につきました。


 商標制度は、各国によって若干の違いがありますが、マドリッド・プロトコールによりWIPOを事務局とした商標国際出願制度が普及しつつあるなど、国際化が急速に進んでいます。その背景には、従来、欧米と日本に中心があった市場が、中国をはじめとする新興国に急激に拡大していることです。三極商標会合でも、WIPO、中国をオブザーバーに迎えていましたが、今年は日本の提案により初めて韓国がオブザーバー参加する予定で、その視野を広げています。三極会合の主要な議題の一つが、オブザーバー等の参加国の拡大問題であることが象徴的です。知財制度は、商標のみならず国際整合性が極めて重要です。我々も米欧と協力していくのみならず、こうした新興国と情報を共有し、商標ユーザーの利便性を高めていく必要性を強く感じているのです。
(ボストン編続く)



i.オバマ政権誕生の時に、民間の弁理士事務所のトップから登用された、いわゆるポリティカル・アポインティです。彼女はオバマが若いときから支援してきたとの記事があります。
ii.筆者が学生時代、アムステルダムでインターンシップをしていた時、配属先の担当者から、笑いながら、「はい、子供用の作業着をどうぞ」といわれましたが、周りのオランダ人は確かに2メートルを超える大男ばかりで、半ば冗談でもありませんでしたね。


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