第8回 アジアイノベーションカンファレンス(韓国・KAIST)



「アジアイノベーションカンファレンス」

 韓国、中国に出張しておりましたので、原稿が遅れました。

 韓国は初めての訪問でしたが、ソウル及び韓国特許庁とKAISTのあるテジョン(大田)に行きました。中国は、これも初めての北京及び青島を訪問しました。 今回はこのうち、ソウル及びテジョンで開催された、第2回アジアイノベーションカンファレンス(AIC 2009 KAIST)についてご報告します。


 本コンフェレンスは、東京大学、KAIST(韓国産業総合研究大学、文部省ではなく、知識経済省(旧経産省)所管の大学)、精華大学の三極からなる会合で、昨年東大イノベーション研究センターの働きかけで第一回を開催しました。第一回会合は、東大本郷の安田講堂で開催され、小宮山東大総長、鈴木特許庁長官他が基調講演を行い、筆者は司会を務めました。

 http://ipr-ctr.t.u-tokyo.ac.jp/eaic2008/program.html

 今回第二回は"New Challenges for Innovation"をテーマに開催したもので、KAISTがホストです。 主な出席者は、日本から小宮山宏前東大総長(基調講演、写真左)、松島克守東大名誉教授(前東大イノベーション政策研究センター長)、坂田一郎東大政策ビジョンセンター教授などで、筆者はセッション1のパネリストをつとめました。(写真右)



 韓国からは、リム(Dr. Chemin RIM)韓国知識経済省(旧通商産業省)次官がご挨拶に立ち、スー(Nam Pyo SUH)KAIST総長(基調講演)、ヤン(Taeyong YANG)KAISTイノベーション・テクノロジーマネジメント大学院専攻長、イェオン(JEON)韓国知識経済省電子・IT局長(セッション1パネリスト)ほかKAIST教授など多数が参加されました。KAIST総長のスー先生は、長くアメリカで活躍された教授で、請われてKAIST総長に戻ってきたそうです。韓国のイ・ミョンバク大統領ともご懇意と伺いました。会議には、所管である韓国知識経済省の次官、局長が出席し、KAISTの政府への影響力の大きさを示していると思います。知識経済省のイェオン局長は、埼玉大学大学院に留学されており、日本語も流暢です。しかし、「知識」経済省とは、なんと時流の先端を行く組織名なんでしょうか。日本の官僚組織の改編の進み方と比べて、うらやましい限りです。


 中国からは、ヤオ(Andy Yao)精華大学教授(基調講演)ほかが出席されましたが、ヤオ教授は、アルゴリズム分野のノーベル賞といわれるTuring Awardの受賞者で、彼も最近米国から請われて帰国した先生です。ほかに米国よりLevy米ライス大学副学長(プロボスト)が出席されました。


 KAISTの総長やイノベーション・テクノロジーマネジメント大学院の先生方の多数が米国帰りや、米国の教育を受けた方々です。中国でもそうですが、このように米国で優れた教育を受け、研究を行ってきた人材が続々と帰ってきて自国の教育研究に当たっていることを目の当たりにしました。一方で、日本の若手研究者は最近海外留学をしなくなっていると東大の先生方が嘆いておられるのを聞いたことがあります。これは黒川清先生の持論ですが、日本人も若いうちにもっと他流試合をしていかないとだめだなとつくづく思いますし、欧米で活躍する日本人研究者が日本で安心して働ける環境作りも必要だと思いました。そんなことを提案しても事業仕分けされちゃいますかね、出口さん。


「カンファレンスの成果」


 カンファレンスでは、日韓中の代表からイノベーションに関する課題が基調講演され、日中韓を含めたアジアでの協調の必要性が共通認識とされました。特に小宮山前総長から、日本の2020年に25%のCO2削減の道筋が紹介され、25%実現へのイノベーションの重要性が認識されました。なお、小宮山先生は講演後直ちにご帰国されましたが、それは、ご自宅(有名な小宮山エコハウス)に、菅副総理ほか関係閣僚をお呼びして、地球温暖化に関する会合を開かれるためだそうです。ご自宅で閣僚会議とは、すばらしいですね。小宮山エコハウスは、筆者がNEDO時代、洞爺湖サミットでエコハウスを建てようとしたときに、勉強しようと伺ったことがありますが、既存の技術で、80%もの省エネを実現した小宮山先生の知恵と熱意に深く感銘しました。今回のご講演でも、日本の25%削減へ、現実的な道筋をご提案されておられましたが、これも自らの実践に裏打ちされたものでした。


 以下、詳しくは坂田教授からの報告を抜粋します。


『カンファレンス及びラウンドテーブルでの議論の結果、日本、韓国、中国にインドを誘ってAsia Innovation Societyを設立することに合意しました。また、小宮山先生が初代の会長に就かれることに決まりました。この組織の性格は、小宮山先生の言葉では、"Network on Networks"。4カ国の産学が国・地域や研究領域を越えて、非競争領域でのイノベーション分野で協力行い、小さくなった地球(地球環境問題)、社会の高齢化という世界的課題の解決を先導することを目指します。具体的な活動としては、具体的な共同研究プロジェクトの組成、イノベーションサミットの開催、共同サマースクール、イノベーション制度の改革での協調等を想定しています。


 現在、政治レベルで「東アジア共同体構想」が話題となっていますが、EUが石炭と鉄鋼協力からスタートしたように、共同体形成にはその軸が必要です。カンファレンスでの議論では、日中韓が直面する共通の課題である環境と高齢化が共同体形成の軸となるものと強く認識されました。Society作りはそのべースとなる学術レベルでの安定的な横の協力関係づくりにつながるものと考えています。


 今回、合わせてデジョンにあるKAISTキャンパスの視察会を行いました。短期間の内に、Mobile HarborとOn-Line Electric Busという2つの大型プロジェクトが立ち上がっており、そのスピード感には驚かされました。後者は、まもなく大規模なインフラ投資が行われ、実用段階に入るそうです。これは、KAISTと大統領府との太いパイプによるところもありますが、日韓の大学のスピード格差を痛感させられました。また、訪問した技術経営大学院(Graduate School of Innovation and Technology Management、略称I&TM、全て英語で教育)からは、東大と教官が学生の交換を行いたいとの希望が寄せられました。』


 以上です。筆者は、韓国特許庁訪問のため、KAISTには10分ほどしか滞在しませんでしたが、とても美しいキャンパスでした。


 今回は、坂田教授のご報告にもあるように、「スピード韓(感)」を肌で感じた韓国訪問でした。韓国特許庁においても、同じように政策執行のスピードを感じさせるやりとりがありました。これは機会がありましたらご報告したいと思います。 (了)




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