第7回 NEDOカレッジ〜イノベーションの参考書



 「NEDOカレッジ最終講義」

 先日、大変久しぶりに、川崎の地を訪れ、NEDOカレッジ2009年度後期のイントロダクションの講義を担当しました。


 NEDOカレッジは、いつかご紹介したことがあると思いますが、NEDOに蓄積した研究開発マネジメントのノウハウを、NEDO若手職員を中心にして社会人を対象に講義するものです。NEDOのホームページを参照ください…ってあれ、ホームページにバナーがない?さては今年度で終了でしょうか?残念な…、と思ったところ、NEDO総務企画部の澁谷洋子さんより、後期の公募が終わったので、ウェブの容量の関係で消しただけとの返事がありました。安心しました。詳しくは以下をご参照ください。

https://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/other/BA/nedoothernews.2009-07-28.4636372517/


 気を取り直してNEDOカレッジと筆者の最終講義のお話を簡単にします。NEDOカレッジは、NEDOが主催して行っている社会人向けの研究開発マネジメント講座ですが、その生い立ちなどから、講義内容等は大学院レベルに設定されています。一回90分講義+30分質疑で、毎回レポートが課され、半年間で全15回という大学院講義2単位分に相当するものです。受講者の方もなかなか大変だと思います。


 筆者の講義は、「ナショナルイノベーションシステム論と産業技術政策」と題して、DND「イノベーション戦略とNEDO」にもご紹介してきた日米のイノベーション政策の対比、イノベーションの三層構造をご紹介した上で、同第22回、23回に掲載した内容を詳説しました。実は、前期にも同じ題で講義をしており、前期を受講した方も数十人おられるということでしたので、前回の講義を深掘りした上で、特に、NEDOの機能と役割及び今後の期待に焦点を当てて熱く語ったものです。それこそ、NEDOの皆さんへの「最終講義」だったわけですが、幸か不幸か、研修として義務参加している一年生以外はあまりNEDO職員がおられなかったようで、筆者の想いも空振りだったのかもしれません。一年生も隅っこに固まっていましたし。まあ、いつの時代でも「片思い」は美しくはかないものですね。


 さて、その際、受講生からご質問がありましたので改めてイノベーションにかかる参考文献をご紹介しましょう。これまでの掲載と若干重複しますが。


 まず、『後藤晃、2000、イノベーションと日本経済 岩波新書 』。産業技術政策を体系立てて整理した上で、日本経済とイノベーションの関係を分析している好著です。


 イノベーションに関して網羅的に学びたい方は、『一橋大学イノベーション研究センター、2001 イノベーションマネジメント入門 日本経済新聞社』。発行から少々時間がたっているので、新しいバージョンの出版が望まれますね、長岡貞男先生やIIRの先生方。


 大型本で、値が張りますが、『R.A.バーゲルマン、S.C.ウィールライト、C.M.クリステンセン著 2007 技術とイノベーションの戦略的マネジメント(上) (下)  翔泳社』は、イノベーションマネジメントの大家のコア論文がたくさん掲載されており、イノベーションの参考書としてはもっとも充実しています。が、どちらかといえば研究者用かもしれません。拾い読みには最適です。筆者の研究にも役立ちました。


 イノベーションを技術経営の一環としてとらえた教科書では、『松島克守2004 MOTの経営学 日経BP社 』、『延岡健太郎 2006 MOT[技術経営]入門 日本経済新聞 』などがお勧めです。松島先生は、俯瞰経営学の権威でもあられますし、延岡先生は、以前ご紹介した青島先生らとともに、アークテクチャ論などの経営学の気鋭の先生です。


 イノベーションモデルの各論については、クリステンセンのイノベーションのジレンマ 、H・チェスブローのオープン・イノベーション などが有名ですが、これらに加えて必読なのは『R・ローゼンブルーム、W・スペンサー、 西村吉雄訳 1998 中央研究所の終焉、日経BP社 』です。企業の研究所への思いとその機能が分析され、イノベーション組織論の好著となっています。


 イノベーションモデルが分野によって全く異なり、IT分野では特にスピードが重要だと気づかせてくれるのが『梅田望夫 2006 ウェブ進化論、ちくま新書 』でした。


 イノベーションの分析に不可欠になりつつあるネットワーク理論の分野では、『西口敏宏 2007 遠距離交際と近所づきあい―成功する組織ネットワーク戦略 NTT出版 』を紹介しておきましょう。西口先生には最近も著作があり、また、先日ご紹介した一橋ビジネスレビューのネットワーク理論特集も特にお薦めです。


 ほかに、電気電子産業に特化したものではありますが、イノベーション論一般、特に技術イノベーション論としても参考になる『藤村修三 2000 半導体立国ふたたび 日刊工業新聞社 』と『山口 栄一 2006 イノベーション 破壊と共鳴 NTT出版 』のご推薦が、梶川裕矢東京大学特任講師からありましたので、ご紹介します。藤村先生は、富士通の半導体技術者から一橋大学のイノベーション研究センター教授に転出され、現在東京工大のMOT、イノベーションマネジメント研究科教授です。技術のわかる経営学者、との言い方は先生には少し平板すぎるでしょうか、講義もわかりやすく、経済産業省のMOT講座でもお世話になりました。山口先生にもベンチャー企業政策などで大変お世話になっていますが、同志社大学のビジネススクール教授をされています。先生はなんと東大の物理出身だったのですね、知りませんでした。MOTにはぴったりの先生のお一人といって良いでしょう。


 先週ご紹介した『妹尾堅一郎 2009 技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか ダイヤモンド社 』を再掲しておきます。妹尾先生は以前もご紹介しましたが、長い間知財等の人材育成で我が国の中核的な役割を果たしておられます。今回の著書は知財を中心とした米国と日本の企業戦略を鋭い見識でわかりやすく解説したもので、DNDの出口さんご推薦の著でもあります。


 最後に、筆者の論文には上記を含め参考文献をいくつか引用していますので、ご参考に。『橋本正洋・坂田一郎・梶川裕矢・武田善行・松島克守、2009, ネットワーク分析によるイノベーションの学術俯瞰とイノベーション政策、第56巻4号 一橋ビジネスレビュー』


 なんだ、これだけか、といわれそうですが、一度にあまりたくさんご紹介しても、消化しきれないでしょうから?? なお、中には入手が困難な本もあるようですのでご注意ください。これ以外にも好著はたくさんありますが、イノベーションモデルの各論ではなく、俯瞰的に見通せる参考書を中心に選びました。




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