第5回 イノベーション・ネットワークの重要性
〜UNITT(産学連携実務者ネットワーキング)2009に行ってきました



(今回は出口さんのメルマガ風で行きたいと思います。)


「UNITTに初めて参加しました」

 9月11日、慶應義塾大学三田キャンパスにて、大学技術移転協議会(一般社団法人)の主催するUNITT という会議に、初めて顔を出しました。筆者の想像を超えて、500名以上の技術移転、産学連携関係者が全国から集まり、熱気ある、かつ中味の濃い議論をしていることに感銘を受けました。様々なセッションのうち、設立したばかりの(株)産業革新機構の西山圭太執行役員(前経済産業省産業構造課長)のご講演があったので、傍聴しました。講演後の討論では、モデレーターの山本貴史東大TLO社長の誘導がうまかったのか、ベンチャーを実際に扱っている各大学の産学連携担当者などから産業革新機構の業務について次々と具体的な質疑があり、さすがの西山君も答弁に苦労?といった場面もありました。しかしそこは、かつて産業再生機構を立ち上げ、今度は産業革新機構を企画したのみならず、自らその執行役員として経営に加わっている西山君、丁寧にわかりやすく説明をしておられました。



写真:UNITT事務局長 福田猛さんと

 このUNITTという会議は、TLOなどの大学技術移転関係者の人材育成、問題解決のためのコンサルを目的としていると理解しています。筆者は、かつて山本社長や、西澤昭夫東北大学経済学部教授らと米国のAUTM(米国大学技術管理者協会)の年次総会に数回参加し、その参加者の多さや人材育成の仕組みなどのすばらしさに、「いつか日本にもこうした会合を創りたいものですね」と語りあったことを昨日のように思い出しました。UNITTの実務者「ネットワーキング」というネーミングも、まさにコンセプトにぴったりのものだと思います。

 そういえば、産業革新機構の英語名「Innovation Network Corporation of Japan」というのも符合します。また、東京医科歯科大学の前技術移転センター長、前田裕子先生の移られたのも、新設の「全国イノベーション推進機関ネットワーク」 でしたね。ネットワークばやり?なのでしょうか。


「イノベーションのネットワーク」

 ネットワークモデルについては、筆者も研究の必要上その理論を少々かじりましたが、複雑な現代社会を俯瞰して認識するためには不可欠の学問です。世の中がネットワークで動いているというのは日々実感しているもので、また、small world 現象というのは、言われてみればその通りと思われませんか。そういう観点から、上述の組織に関してこのようなネーミングをする方々にも強い共感を覚えます。ネットワーク理論といえば、今秋発売された一橋ビジネスレビューはこのネットワーク理論を特集していますが、なかなかの優れもので、ネットワーク論の著書も多い碩学の西口敏宏一橋大学教授の編纂のもと、ネットワーク分析の様々な側面を著した好論文がならんでいます。我が?坂田一郎教授、梶川裕矢特任講師の「ネットワークを通して見る地域の経済構造」もわかりやすく地域クラスターの構造解析をしていますので、是非お読みください。


「ネットワークの具体論」

 UNITTの懇親会では、主催者から急に挨拶を頼まれたので、思わず「橋本のせいで皆様を産学連携という大変な仕事に引きずり込み、大変申し訳ないと思っている。」とお詫びを申し上げてしまいました。半ば本心でそう思っているところでもあり、UNITTの皆さんに親しみを込めてお話をしたもので、その場では皆さんに笑っていただきましたが、後で考えると、大変不遜な言い方であり、反省しております。皆さん、好きで産学連携やってらっしゃるのですものね。



 会合では、懐かしい方や新しくこの世界に入ってきた方々と親しくお話できました。


 東京農工大学TLO社長の伊藤伸社長、日経新聞記者から大学TLOの社会に飛び込んで、活力あるTLOを作り上げた元気な社長です。かつてはTLOの社長の中で最年少でしたが、いまだにそうでしょうか?外見は相変わらずお若いですが。



 金沢大学TLOの平野武嗣社長、地元コマツから青木建設の欧州担当の役員を経て金沢大学TLOに来られ、最近は金沢にとどまらず、日本海地域の10大学、2TLOをたばねた日本海地域大学イノベーション技術移転機能の中心人物としてもご活躍です。


 山口大学の知財部門長佐田洋一郎教授は、当庁のOBでもあり、ユニークな活動を続ける同大学で健在です。やはり当庁OBの羽鳥 賢一慶應義塾大学教授・知的資産センター所長は、今回は主催者側としてお骨折りされておられました。NEDOフェローやそのOB、OGの元気な顔もいくつか見せていただきました。


 新しい顔では、経産省から東工大産学連携推進本部に出向された中西穂高教授は筆者と入省同期で、つい最近まで高知県の副知事という重責にあった方です。ご愛顧ください。


 東京大学の産学連携本部にも経産省から山城宗久氏が副本部長として着任されました。DNDにも再登場ですね。中小企業庁の創業連携課長などご歴任の経験を生かしてのご活躍、期待しています。文科省から知的財産戦略推進本部事務局に出向されている有賀理参事官補佐には初めてお会いしました。知財戦略本部の活動は、当庁とも密接に関係します。ご指導よろしくお願いします。


「格別のサプライズ」


写真:大阪大学飯島俊宏教授と

 大阪大学産学連携推進本部の飯島俊宏産学連携教授を見つけた時にはびっくりしました。飯島教授は、元々ダイキンにおつとめの技術屋さんでしたが、以前筆者が大学連携推進課長の時、当課の人材育成事業に参加してTexas A&M University Systemへ派遣され、テキサスで既に確立された "研究成果の事業化の方法論" をAUTM元会長Terry Young、元副会長 John Sandelinから学んだ方です。飯島さんからのメールの一部を引用します。



 『テキサスで産官学軍が有機的に連携した様々な事業化プロセスを目の当たりにして背筋がぞっとしました。"日本は絶対に米国に勝てない・・・。"と絶望しました。帰国後も一月ほど、何も手に付きませんでした。しかし、時間の経過とともに、"日本の産業競争力向上に資すること。"と言うテキサスで得た私の天命がムクムクと心の中で大きくなり現在に至っています。・・・特に会社を辞める経緯は、テキサス後すぐに、研究・技術計画学会に入会したことがきっかけです。関西支部の役員の先生方の中でもお年をめされた先生方は、技術論と同様以上に産業技術政策論にも興味を持たれていました。産業技術政策論について、その先生方と議論を現在まで続けて来たことが大学への敷居を低くしました。その後大阪大学の産学連携推進本部産学連携教授の公募が有り、天命を果たす二度と無いチャンスと考え応募して、会社を辞める決意を固めました。』とのことでした。


 テキサスは私も何度か訪問しました。前出の西澤昭夫教授や、留学中の東北大学福島路准教授(現)らとご一緒しました。産学連携やイノベーションにも積極的な土地柄で、テキサスのオースティンモデル(@)はクラスターの成功例として有名です。その生みの親であるG. Kozmetskyテキサス大学教授には、晩年にお会いできました。同教授の立ち上げたIC2(スクウェア)は、まさにテキサスの地にイノベーション・ネットワークを構築し、その中心にKozmetsky教授がおられたということでしょう。ちょうど日本が自信喪失している時代でしたが、「日本は、ITと環境技術を融合することによって世界での競争力を復活できる」と車いすの上から熱弁をふるわれたことを今でも覚えています。


 一方、飯島先生が研修したTexas A&M Universityは、農学と機械工学を標榜する州立大学ですが、いくつかの分野で優れた総合大学であり、技術移転や技術経営にも積極的に取り組んでいます。日本で言えば東京農工大学でしょうか。その大学で、AUTM(全米大学技術管理者協会)の功労者ヤング氏やサンドリン氏に師事したのですから、影響を受けないはずはありません。飯島先生は気がついておられるかどうか、経産省の事業に応募した時点から氏の運命は決まっていたのかもしれませんね。ダイキン様には申し訳なく思っていますが、これもお国のためだとご諦念ください。



写真:東京大学TLOの美女3人組(左から 飛田、登、山本)

 このように、短時間の間にいろいろと思いを起こさせてくれたUNITT2009でしたが、改めてその創設にご尽力された山本社長、渡部教授をはじめ、関係の皆様に厚く敬意を表したいと思います。福田猛事務局長、ご苦労なこともあるかと思いますが、めげずに頑張ってください。陰ながら応援しております。ありがとうございます、日本のために。




(@)オースティンモデルやコツメズスキー教授の偉業はいろいろなところで解説されていますが、まずは親交深い西沢昭夫、 福嶋路、2005、「大学発ベンチャー企業とクラスター戦略 日本はオースティンを作れるか」、学文社 をご参考ください。

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