第12回 テレビジョン発祥の地


 戦後日本の高度成長時代、「三種の神器」と呼ばれたものがあります。  そうです、テレビ、洗濯機、冷蔵庫です。1950年代の後半、神武景気で沸く頃の日本です。自動車、クーラー、カラーテレビと答えた方は、やや、若手(?)の方ですね。いわゆる、3Cと呼ばれ、1960年代後半の時代です。映画「三丁目の夕日」でも、四角い箱の下が四本足で立つ白黒テレビのプロレス中継に、見入る人達の興奮した姿が描かれていますね。


 アメリカのT型フォードもそうですが、豊かな暮らしの象徴として、これまで高嶺の花だった製品が買える。そのために勤勉に働く。結果として国が栄える。といった図式があったことは、近代のどの国も同じですね。


 実は、このテレビ技術が発展した背景には、日本人教授の貢献が非常に大きいと言われております。ここで、今回は、「浜松だな」とピンと来る方は、なかなか、近代産業技術通の方です。ということで、今回は、「やらんかね精神」で有名な浜松にお邪魔して来ました。


 まずは、静岡大学工学部で産学連携にご尽力される 工学部長 柳澤 正先生と、イノベーション共同研究センター長 木村 雅和先生のお話を伺った後、工学部の敷地内の「高柳記念 未来技術創造館」へ。


 実は、静岡大学工学部は二度目の訪問ですが、前回、同創造館は閉館でした。 その際、一緒に訪問していた、文部科学省 田口 康 研究環境・産業連携課長(当時)より、この創造館は、一見の価値があるので是非見るべきと言われ、今回、訪問が実現できて感激です。


 静岡大学工学部は大正11年に浜松高等工業学校として創設されました。 日本のテレビジョン発祥の地となった浜松高等工業学校の教育方針には、「学徒を最も自由な境遇に置き、その個性を十分に尊重し、その天賦の才能を遺憾なく進展せしめるよう、これに適応せる手段方法をとるところに理想の教育」とあり、その伝統を受け継ぎ、多くの有為な人材を世の中に送り出しています。


 例えば、NHK総合テレビの「プロジェクトX」(2000〜2005年に190回ほど放送)には、およそ90回の技術系テーマのなかで実に12回に卒業生が登場しているそうです。


 高柳健次郎氏は、13年に新設の 浜松高等工業学校に助教授として迎え入れられましたが、ここで、「無線遠視法(現テレビジョン)」の研究を始めました。当時ラジオ放送も一般に普及していない頃ですので、その先見の明は驚異です。


 大正15年には、ブラウン管による表示方法で「イ」の字の表示に成功しました。 もちろん、テレビの原理自体は、スコットランドで発明された訳ですが、高柳先生の発想は、機械式ではなく、電子式で映像を作ることに取り組まれたことです。


ニポー円板方式でブラウン管上に映し出された「イ」の字
:ニポー円板方式でブラウン管上に映し出された「イ」の字


 その後、高柳先生は1940年開催予定であった幻の東京オリンピックのテレビ中継という国家プロジェクトの実現のため、NHK技術研究所に出向され、現在のテレビ規格に近い技術を完成させましたが、第二次世界単線のためオリンピックもテレビ放送も中止されました。


 しかし、戦後、日本ビクター(株)に入社され1953年のテレビ本放送実現を支えたということです。


(後に教育・人材育成にも力を尽くした高柳先生は、自らの経験から、「先見性を持ち、ひたむきに努力すること。ひとりの天才によって科学技術が進歩する時代は終わり、集団討議によるステップ・バイ・ステップの研究でこそ大きな成果が期待できる」と言われたそうです。
この言葉は、正に、近代産業技術史の発展に基本をついておられます。
 晩年もカラーテレビの画像向上について研究するなど、1990年(平成2年)、91歳で天寿を全うするまで、健次郎のテレビジョンへの情熱は決して冷めることはなかったそうです。)


 なお、その後、シャープのAQUOSに代表される液晶の商品化では、東北大学 前工学部長の内田龍男先生の研究が大いに貢献した話も有名ですね。


 日本の産学連携は、このように、テレビという最も身近な商品に大きな影響を及ぼしているんですね。


http://www.nvrc.rie.shizuoka.ac.jp/takayanagi/
↑高柳記念未来技術創造館のHP 訪問の際には開館時間を要確認


http://hamamatsu-daisuki.net/hiroba/ijinden/index.jsp?PID=081004
↑浜松偉人伝 お勧めのサイトです


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%A8%AE%E3%81%AE%E7%A5%9E%E5%99%A8_(%E9%9B%BB%E5%8C%96%E8%A3%BD%E5%93%81)
↑三種の神器について


http://sangakukan.jp/journal/main/200902/pdf/0902-02-3.pdf#search='液晶 内田 東北大学'
↑液晶開発における東北大学の取組



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