第76回 東北関東大震災に関連して書きとめておきたいこと


 東北関東大震災で被災された皆様へ、心よりお見舞い申し上げます。


 筆舌を尽くしがたい被害と惨状、そして現在も身の危険を顧みることなく復旧に従事されている方々のことを考えると、何もお役に立つことができない自分が軽々にものを書くことについて、憚られる思いがあります。でも、いま、いくつか書き留めておきたいことがあります。


 世界各国から、数多くの暖かいメッセージと支援をいただきました。あちこちのサイトで見聞きした、こんなメッセージに感動しました。
・「日本は今まで世界中に援助してきた援助大国だ。今回は国連が全力で日本を援助する」(国連)
・"Operation Tomodachi"(米軍の被災者救援活動)
・「これまでスラムの住民は、日本から多くの支援を受けてきた。今こそお返しをするときだ。」タイ、バンコクのスラム街で、東北関東大震災の被災者に対する支援募金が始まったとのニュースがありました(3月21日)。
・「モンゴル国税関全職員が今回の震災義援金のために、給料2日分を募金することをみんなで決定したんだそうです。これまで20年間の日本政府からの援助協力に対する恩返しであり、友情のあかしを示すのは今だ!って。」(モンゴル在住の日本人の方からのTwitterメッセージ)
 「戦略性がない」などと言われ続けてきましたが、日本の援助は不器用な日本が他国に施してきた「お布施」だったのかもしれません。


 私自身、世界各国の友人から親身で心配するメールをいただきました。紹介させていただきます。
・Shocked to see THE damage caused by THE earthquake and tsunami. Is it close to where you live and have you been suffered from any of it?? Please let me know as soon as you can. (オランダの友人から)
・I know you may be very busy right now, but when you get a chance, please let me know how you and your family are doing. We are extremely concerned about you and sad about what has happened in Japan.
Is there anything we can do for you from here? (米国の友人から)
・The pictures on the TV of the earthquake and the tidal wave absolutely shocking and heartbreaking but the response to the tragedy absolutely amazing.
Can well appreciate that currently you have enough 'on your plates ' to respond to such earthquakes as this. Will wait a few days therefore before contacting you again. Until then take every care - thinking of you (英国の友人から)
・大変ですね、食べ物とかはありますか?今日、お米を買えましたので、必要でしたら、ご連絡ください。中々お米を買えないらしいですね。 友たちと両親は避難しに戻ってくるように言っているが、必要ですかね。迷っちゃいますね。 (日本にいる中国人留学生から)
・I was once in Sendai and the surrounding area, which then was beautiful with pine covered islands and rocks and the sea. The pictures shown on the TV and newspapers reveal the area to be devastated and unrecognizable.
We hope the northeast coast of Japan will be able to begin recovery soon.(米国の友人から)
・The news are full with the latest from Japan, and I must confess, I cannot always listen, as it is so depressing. …If only we could help....our house is large enough for all of you if you need a break. (スイスの友人から)
・My knowledge of towns in Japan is very poor so I don't know how far you are from the earthquake zone or the nuclear reactors but I hope you are all safe and well. Please let me know if everything is OK. (英国の友人から)
・A capricious mother nature has been incredibly cruel in Japan. Be assured of my sorrow and sympathy.
As the casualty-toll of the earthquake and tsunami continues to rise, the last news is even worse than we feared. I hope that the situation at TEPCO Fukushima Daiichi will become controllable and that a major nuclear disaster can still be avoided, not to mention the continual severe seismic earthquakes that probably make managing the situation much more complicated.
We are impressed by the strength, calm and discipline of your country fellows. Let's hope that Japan will quickly heal and overcome this tragedy. (フランスの友人から)
 こんなご心配をいただいて、本当にありがたいことです。日本に居る中国人留学生の「今日、お米を買えましたので、必要でしたら、ご連絡ください」なんて、本当に泣かされちゃいそうですね。ちょうどいま、ドイツのキール(Kiel)にある大学の付属病院で実習をしている娘などは、ドイツの人たちからとても同情され、とても良くしていただいて感動!のメールを送ってきました。


 日本国内でもTwitterを通じて「いい話」がいっぱい語られています。皆さん、もうよくご存知と思いますが、これは、私が感動した話の一部。(Pray for Japanのサイトなどから。)
・「駅員さんに『昨日一生懸命電車を走らせてくれてありがとう』って言ってる小さい子達を見た。駅員さん泣いてた。俺は号泣してた。」
・「終夜運転のメトロの駅員に、大変ですねって声をかけたら、笑顔で、こんな時ですから!だって。捨てたもんじゃないね、感動した。」
・「ホームで待ちくたびれていたら、ホームレスの人たちが寒いから敷けって段ボールをくれた。いつも私たちは横目で流しているのに。あたたかいです。」
・「亡くなった母が言っていた言葉を思い出す『人は奪い合えば足りないが分け合うと余る』被災者で実践されていた、この国の東北関東地震被災者の方々を、日本を誇りに思います、頑張ってください。」
・「子供がお菓子を持ってレジに並んでいたけれど、順番が近くなり、レジを見て考え込み、レジ横にあった募金箱にお金を入れて、お菓子を棚に戻して出て行きました。店員さんがその子供の背中に向けてかけた、ありがとうございます、という声が震えてました。」
・「ある自衛隊員が言った。『被災地で炊き出しをした際、たとえ余っても自衛隊員は絶対食べないで缶詰の冷たいご飯を食べます。被災地の人用にお風呂を用意しても自衛隊員は入りません。そして出来るすべての事をやったらひっそりと帰る。それが自衛隊です。』自衛隊は日本の誇りです。」
・「父が明日、福島原発の応援に派遣されます。半年後定年を迎える父が自ら志願したと聞き、涙が出そうになりました。『今の対応次第で原発の未来が変わる。使命感を持っていく。』家では頼りなく感じる父ですが、私は今日程誇りに思ったことはありません。無事の帰宅を祈ります。」
・「暗すぎて今までに見たことがないくらい星が綺麗だよ。仙台のみんな、上を向くんだ。」
 日本も本当にまだまだ捨てたものではありませんね。ここでなぜか"Resilient"という英語が頭に浮かぶのですが、この災厄をバネに日本経済を回復の軌道に乗せたいものです。政府に頼ることは最小限にして、民間のできることで経済を回復させる。そういった経済社会に変っていかなければなりません。


 回復といえば、現段階であれこれ書くのはまったくの先走りですが、自分の関係していたことで、2つ、今後のことで気になることを書いておきたいと思います。


 「今の対応次第で原発の未来が変わる」と先のTwitterにありましたが、日本の原子力政策、ひいてはエネルギー政策の将来です。私は、役人生活の最後の2年間、縁あって原子力委員会の事務局の役割も務めました(*1) 。当時は、六ヶ所村の核燃料サイクル施設の建設の際に起きた度重なる事故や不祥事、そして核燃料サイクル政策をめぐる資源エネルギー庁の「資料隠し」問題(実際は、「資料隠し」と言われるような行為はありませんでしたが)で、核燃料サイクル政策に対する不信と疑問符が突きつけられていたこともあって、原子力委員会が2年かけて日本の原子力政策を根本から見直す作業を行っていました。なお、この作業の結果は2005年10月に「原子力政策大綱」としてまとめられ、閣議決定されています。


 その見直し作業の中で勉強させていただいて改めて分かったことは、日本のエネルギー政策は少なくとも今世紀中ごろまでは、現実問題として原子力なしでは成り立たないということです。世界に至ってはなおさらです。今後、2050年までに世界の人口が1.4倍、一人当たり所得が4倍、すなわち人類の経済活動がほんの40年ほどの間に6倍以上に急激に膨らむことが予想されていますが(*2)、こうした活動を支えることのできるエネルギー源は原子力しかありません。


 今回の地震、津波災害をきっかけとして起きた福島第一原子力発電所の事故は、中長期的な問題として、こうした日本のみならず世界のエネルギー政策にきわめて大きな問題を投げかけます。これに対して、原子力などに頼らずとも太陽エネルギーや風力エネルギーなどの新エネルギーがあるではないか、などという議論がすぐに出てくるような気がしますが、そのような議論は、現実的にははなはだ無責任な議論だと思います。


 今回の地震と津波で蒙った被害は、防災対策についてどれほどのリスクを想定すべきか、リスク評価、リスク管理の問題にも深刻な影響を及ぼします。今回の地震と津波では、世界有数の規模を誇る三陸海岸の防波堤が軒並み破壊されてしまいました。特に津波の規模は、専門家にとっても想定を超える規模だったと言われています。


 こうした被害が再び起きないようにするために、ではリスクの想定を上げればよいかというとそんなに簡単な問題ではありません。リスクの想定を上げて実際的な対策を考えると、おそらく三陸地方では海岸周辺に住むなという答えが出かねない状況でしょう。総延長2.5kmにも及ぶ高さ10mの防潮堤を建設していた町、世界の防災対策のモデルといわれていた岩手県の田老町ですら大被害を蒙ってしまったのですから・・・。原子力の安全問題にも関係しますが、1000年に一回といわれる災害にどのように備えるか。そのリスクをどう受け止め、どう現実に対応するか。これまた、これまでにない深刻で真剣な検討を要する問題だと思います。


 今回の震災は、短期的、中期的、長期的それぞれにいろいろな課題を私たちに突きつけています。「課題先進国日本」として、これらの課題の解決に取り組み、日本がResilientできるようにしていかなければなりません。


・「世界唯一の被爆国。大戦にも負けた。毎年台風が来る。地震だって来る。津波も来る・・・小さい島国だけど、それでも立ち上がってきたのが日本じゃないの。頑張れ頑張れ。」(韓国からのメッセージ) ・「チリ津波も経験してきたから、だいじょぶです。また、再建しましょう。(笑顔)」(家屋に取り残され、42時間ぶりに救出された80歳過ぎの男性) ・「避難所でおじいさんが『これからどうなるんだろう』と漏らしたとき、横に居た高校生ぐらいの男の子が『大丈夫、大人になったら僕らが絶対に元に戻します』って背中さすって言ってたらしい。大丈夫、未来あるよ。」 (Pray for Japanのサイトなどから。)



1) 内閣府の科学技術政策担当というのは、こういった仕事もやるのです。
2) "Common Wealth: Economics for a Crowded Planet," by Jeffrey Sachs


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