第5回 どこから?「大学発産業」のパワー!
いわば「大学発ベンチャー」か「大学サイエンスパーク」か?
日本では「イノベーション・システム改革の象徴的な政策として大学発ベンチャー1000社構想を推進し」(石黒氏「志本主義のすすめ」)、その数字目標は早くも2005年に達成された。出口氏の「全国大学発ベンチャー北海道フォーラムへの喝采」(DNDメルマガvol.199)には多彩な方々の生動の表情まで描かれ、臨場感の溢れる行間には大学発ベンチャーの飽くなき追及による持続的な成長への大きな躍進に期待や声援する熱い気持ちが伝わってくる。
一方、中国では大学発企業(日本でいう「大学発ベンチャー」とは同一の概念ではない。)の構成が変化し続けてきたのはいうまでもないが、「国家イノベーション・システムの一環」として、また「21世紀に向けた戦略的なハイテク産業の発展」にも資するように、第11期5ヵ年計画期間での大学発ベンチャー事業の推進のために、新たに30前後の「国家大学サイエンスパーク」を認定すると構想され、既存と合計すると全国で80箇所に上ることになる。
近年、日本においても中国の大学発企業の現状等に関する視察報告、事例紹介及び研究発表が見られるようになり、その中では有益な情報や貴重な示唆を提示したものも存在する。しかし、中国の社会システムやハイテク産業の集積や構造、大学発企業や市場メカニズムの変遷、知財制度の実務や金融システムの再構築などは日本のそれとはさまざまな相違が存在するため、中国における大学サイエンスパークに光を当てて見るのが重要と筆者は考える。
某日、ある集会の講演の後、「中国の産学連携や大学発ベンチャーは日本の格好のモデルとなるのではとも言われるが、大学サイエンスパークはどのような役割を果たしているのか」と質問された。実に良い視点だと筆者は思った。創業後わずか4年、スタッフが5名から300名まで成長の例、社長が自ら3輪自転車で顧客へのアプローチをスタートした例、他地域から著名大学の誘致でそのブランド効果に一石二鳥を得た例・・・。日本の何と違うだろうか!?
中国における「大学発企業」の歴史的な変遷
いうまでもなく、中国における「大学発企業」の歴史は日本に比べ長い。時系列的にいうと本日に至るまで大きく四つの段階に分けることができる。すなわち、(1)1970年代までの「校弁工場」(大学発工場が主流)時代、(2)1980年以後の「校弁産業」(大学発非技術型企業が主流)時代、(3)1990年以後の「校弁科技企業」(大学発技術型ベンチャーが主流)時代、(4)2000年以後の「大学科技園」(大学サイエンスパーク)時代である。
そこで、(1)と(2)以後とは位置づけが全く違うと同時に、管轄機関や事業内容なども基本的に異なるものである。また、(3)と(4)は時系列的にいえば前述した流れになるが、(3)が完全に(4)に変身したということではない。中国の大学発企業に対して政策案内や情報提供、また比較研究などを行う教育省科学技術発展センターは近年、「大学発産業」及びそこに含まれる「大学発技術型ベンチャー」という切り口から「中国における大学発産業」統計を実行している。
2001年、大学発企業数は5039社であるが、そのうち大学発技術型ベンチャー数は1399社であり、全体に占める割合は39.55%である。2004年、2005年、大学発企業数はやや減って4563社、4311になったが、そのうち技術型ベンチャー数は2355社、2429社に上り、全体に占める割合は51.61%、56.34%となった。ますます激しくなってきている企業競争の中で、技術型ベンチャー数は確実に増え続けている!
ここで、とくに記しておかなければならないのは、中国における大学発技術型ベンチャーの多くは大学サイエンスパークに設立された企業であり、また大学サイエンスパークのほとんどは前回で述べた中国ハイテク産業開発ゾーンの中に/一角として設けられたエリアである。大学サイエンスパークは大学発ベンチャーの誕生や成長を支える一方、ハイテク産業開発ゾーンなどに支えられている面も存在するという連鎖的な協働の構図が見えて来るであろう。
中国における大学サイエンスパークの背景や動向
1990年以後、中国国務院等は「教育、科学技術、衛生に関わる改革を深化する意見」という通達を周知し、大学の豊富なリソースを活かした社会へのサービスを増進せよと一連の政策を公表した。その結果、大学発技術型ベンチャーの起業が行われはじめた。2000年以後、大学発技術型ベンチャーはさらに質量ともに向上していく必要があると認識され、それぞれの単体的な存在から大学サイエンスパークへと集積化、本格化になった。
実際、2001年3月、中国科学技術省、中国教育省が専門家評価委員会を発足し、イノベーションに関する(1)地域環境、(2)経営リソース、(3)技術移転、(4)技術開発等の実績、(5)地方政府の重視度といった観点から、実験的に作られてきた評価対象に対する厳しく審査を行った。そこで、清華大学を始めとする第1回目の国家大学サイエンスパークが認定され、翌年の4月、北京理工大学をはじめとする第2回目の国家大学サイエンスパークが認定された。
2007年7月現在、国家大学サイエンスパークは62となり、多様な成果を得ることができた。例えば、製品化や事業化へと転換させた研究成果は3000件、同パークにて孵化されている企業数は5700社余り、累計卒業した企業数は1400社。また授与された特許数は2000件超、提供した就職機会は70000人、海外から帰国された留学人材は2000人となった。多くの大学サイエンスパークには大学生創業基地や研修基地が設けられている。
今日、中国文部省「21世紀に向けた教育振興アクションプラン」等の展開は新たな段階に入っており、ハイテク産業開発ゾーンとは密接な関係にある大学サイエンスパークの発展は「高速道路」に入ったといわれている。大学発ベンチャーの創出や成長に必要な各種の行政サービスや資金、人材、市場、情報等のサポートといった大学イノベーションの一環で切り開く方々のお顔を見て、筆者は中国の「大学発産業」に特有なパワーの出口を探った気がする・・・。
本稿と関連しながら別の観点で下記テーマの分科会を開催する予定になっているので、ご関心の方は直接分科会事務局までお問い合わせ下さい。
◇ 社団法人日本知財学会産学連携・ベンチャー分科会開催のお知らせ
演題「中国における産学連携の最新事情〜調査事例や体験談を中心に〜」
http://www.ipaj.org/bunka/bunka2_01.html
<了>
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