第43回 商標権紛争が映すものとは(上)



 2012年2月27日夜20:58、MSN産経ニュース「国際」で、「『エルメス』の訴え却下 正式ブランド中国語表記『愛馬仕』→中国紳士服メーカー酷似商標『愛瑪仕』がOK」と題する以下の記事が掲載された。



 2月27日付の中国英字紙、上海デーリーは、仏エルメス・インターナショナルが中国広東省の紳士服メーカーに対し「エルメス」ブランドの中国語名である「愛馬仕」と酷似した商標「愛瑪仕」の登録抹消を求めた裁判で、エルメス側の訴えが却下されたと伝えた。


 同紙によると、エルメスは中国で1977年に商標登録し、「愛馬仕」は高級ブランドとして定着している。だが、広東省の大衆向け紳士服メーカーが、中国語の発音が同じ「愛瑪仕」を登録したため、エルメス側は95年から抹消を求めてきた。


 しかし、商標権を管轄する中国国家工商行政管理総局ではエルメス側の要求を2001年に却下。さらにエルメス側が不服を申し立てた中国の裁判所がこのほど、同総局の決定を支持する判断を下したという。



 同じことを内容とする中国語の記事を確認すると、この日本語の記事には重要と思われる点を漏れていること(この点については次回で)に気付き、日本関係者に誤解を与えてしまった部分はないか、と筆者は思うが、今日の中国において、外資系企業等との商標権を巡るトラブルが多発している、ということは事実である。


 2月21日には、ITproで、「中国で『 iPad 』に販売停止命令、商標権裁判でApple敗訴」と題する記事が掲載された。すなわち、「中国における『 iPad 』の商標をめぐる訴訟で、広東省恵州市の裁判所は市内の家電小売りチェーンの店舗に対し、米Apple製タブレット端末の販売を停止するよう命じた。訴えを起こしていたのは広東省深センの唯冠科技(Proview Technology)。同社は恵州市以外でも同様の訴訟を提起しているが、販売停止命令が出されたのは初めて。」という。


 面白い?ことに、類似の訴訟であるが、2月24日、日本経済新聞で、「iPad、上海で販売継続」を題とする記事が掲載されて、「上海市浦東人民法院(日本でいう地裁に相当)は23日、中国企業側(iPadの商標権を持つと主張する唯冠科技。筆者)の訴えを退け、iPadの上海市内での販売継続を認めた。中国ではアップル製品の販売差し止めなど係争が相次ぐが、最大の消費都市での販売継続の判断により販売中止が広がる事態は回避できそうだ。」という。


 広東省恵州市内では「販売停止命令」で、上海市内では「販売継続」が認められて、他の都市ではどのような結果になってくるのか、しばらくはこの話題から目が離せなさそうである。


 ちなみに、2011年7月19日夕方18:52、MSN産経ニュース「経済」で、「中国が讃岐うどんの商標登録『認めず』」を題とする下記の記事が掲載された。



 香川県の特産品である讃岐うどんを表す「讃岐烏冬」の商標登録が中国で出願され、同県などが異議を申し立てていた問題で、同県は19日、中国商標局が異議を認め商標登録を行わない決定をしたと発表した。


 県によると、決定書は5月25日付。中国商標局から現地の法律事務所が今月13日に受け取った。讃岐うどんが広く知られた香川の特産品名だと認め、中国で商標登録されると「誤認を生じさせやすい」ことから出願を拒絶するとしている。


 「讃岐烏冬」の登録申請は、中国・上海市の個人が2006年2月、飲食店などの商標として出願したものである。県は09年8月、本場さぬきうどん協同組合など3団体と共同で異議申し立てを行っていた。讃岐うどんの商標をめぐっては、台湾でも日本人のうどん店経営者と経営する地元企業の間で争いが起きている。



 また、別件であるが、2011年2月25日、青森県は25日、中国で青森によく似た「青E」という文字とリンゴの図柄を組み合わせた商標登録が申請されていた問題で、同県の異議申し立てを受け、中国商標局が商標登録を認めない裁定をしたことが判明したと発表した。


 近年において、中国ではなぜ外資系企業等との商標権を巡るトラブルが多発しているのか、かような商標権紛争がいったい何を映しているのか、日本関係者としてはどのような対応をとるべきなのかについては、よく分析し考える必要があるだろう(次回に続く)。



<了>



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