第30回 自己点検か、明日に向けての奔走へ



お金のために、ではない!


 12月7日の夕方、寒気で冷え込む空気とは対照的に、秋葉原駅に近い産総研東京本部の会議室では、産官学各方面から期待以上の数の方々が集まり、「アメリカの大学発ベンチャー最新事情、及びアメリカの主要ベンチャーキャピタルの戦略展開」と題する研究発表に耳を傾け、質疑応答も熱気が溢れた。


 会議後は、部屋の内外で定例の名刺交換となったが、そこで、ある方が私の名刺を見て「あっ、あの〜、え〜と、DVDで連載を書いている方ではないですか?」と尋ねられて、「DVDでなく、DNDでちょっと書かせて頂いているが、最近サボっていて・・・」と筆者は答えた。「そうそう、DNDだ、失礼しました。いや〜、時々読んでいるよ。中国って今は凄いでしょう」とその方。「まぁ、地域や領域また見方によってはそのように言えるでしょう」と筆者。しばらく話を交わした頃、その方は「DNDに載せるとなれば(原稿料)お高いでしょう」と尋ねられた。筆者は「あの連載はお金のために書いているのではないので」と微笑みで応じた。


 筆者は、黒川先生や石黒氏をはじめ、コラムを持つ先生方々が非常に多忙な中で、貴重な時間を割いてご執筆されるのは原稿料を得るためではないと思うし、無学な筆者が「足で得た現地情報」をもって末席を汚させていただくことは大変光栄であり、責任を持たなければならないといつも自覚している。日本の代表的なブランドサイトの1つでささやかながら発信をさせて頂けたことには、計ることのできない、言葉にならない価値があると考える。


 今回で、この「中国のイノベーション」連載コラムは、かれこれ30回目を迎えることとなる。実はこれまで、いくつかのテーマについて途中まで書いてきたが、今改めて、なぜコラムを書き始めたのか、どのようなスタイルで書いたほうがよいのか、何を書き続けるべきなのかについて、少し考えてみたい。


論文を書くようなものではない。


 このコラムの連載を書き始めてから、時おり、一部の読者から内容についての確認や質問またはコメントなど、さまざまな反応があることを筆者は有り難く嬉しく思っており、情報の重要さと文字の重みを改めて実感する毎日である。


 本連載「第1回 連載をスタートするにあたって」の中で「この連載の主眼や体裁」に関して次のように述べた。「・・・この連載はあくまでも『中国のイノベーション』に光を当てて提供させて頂ければと考えている。イノベーションの定義によっては執筆の射程範囲が大きく変わるのもありうるが、筆者は『イノベーションとは技術の革新だけを指すものではない』との見解に立ち、この連載では具体的に、非常に重要であるのに日本ではまだよく伝えられていないと痛感している、中国におけるハイテク『産業の開発、集積及び発展』を基調にしつつ、その周辺も紹介していく予定である。」と書いた。


 さらに、「出口さんから頂いたアドバイスで、具体的には随想や雑考、訪問インタビューや時流的なトピックなど、体験談や事例を盛り込み、体裁を固定せずに多様な形で提供させて頂くように目指す」と書いた。


 要は、筆者の私見に基づき、いまは先進諸国にも注目されている「中国ハイテク産業の開発、集積及び発展」を通して中国におけるイノベーションの一角を見ること、重要であるにもかかわらず、日本のメディアや研究発表などではまだよく伝えられていないことについて、多様な参考文献をもとに検証していく論文のようではなく、自らの目で確かめた現地情報を中心に「なにがあったのか」、「なぜそうなのか」、「どこを見るべきか」という点を提示し、関係者の研究や実務に対しもうひとつの素材提供になれればと考えている。


 拙稿を読んで頂いた実務者としての読者からはそういう点と同時に「どのように」という点にも関心が高く、詳しく尋ねられることもあるが、クライアントさんとの守秘義務関係や当方の業務ノウハウの維持という意味で、時々夜中まで詰めてもそこまでは書けないこともあり、多彩な読者にとって、お茶を一杯飲みながら読めるようなものになれればと努め続けたいものである。


基本的な視点は変えない!


 また、「第1回 連載をスタートするにあたって」で次のようにも書いた。


 「近頃、日中関係は明るい方向に変わりつつあるが、誤解から問題が生じ、また誤解によって拡大される側面もあることに気づいた。日本人と中国人は同じ漢字を使っても同じように感じをする(受け止める)とは限らない。また、変わり続ける中国を俯瞰する際にはどこに視点を置くかで見えるものが大きく変わる。多様なレベルでの日中間の相互『誤解』はこれ以上増えてはいけない。


 日中関係とは別であるが、近年、日本では産官学の連携による技術経営の普及と人材の育成が押し進められている。またその隣接する事象として、大学発ベンチャーの話題も関係者の関心を集めている。しかし、どこか『ベンチャー=企業』より『大学発』が強調されすぎるような気もして、産官学連携が不可欠と思われるところでの『産』の観点が十分なのかが若干気になる。」


 今日、毎日さまざまなニュースが飛び交う中、同一の出来事に対して、日中両国で異なる側面に注目した報道を流しているのが目に入る瞬間に、何か一言言いたい!20年余りに日本に住んでいろいろな面で馴染んでいるが、やはり不思議だなぁ〜と思っていることに、何か一言言いたい!という気持ちが高まる時は筆者にも確かにある。


 しかし、といいながらも、筆者はやはり今後も、DNDサイトの趣旨やこのコラムの目的に沿って、基本的に「脱線」せずに、読者のニーズを踏まえながら、前述したような視点で、より分りやすく、面白く、よいタイミングで「独特な色」を示してまいりたいと考える。と同時に、場合によっては有益と思われる日中比較や、日本へのささやかなコメントを加えさせて頂き、率直に質問を投げるかもしれない。


 来年も、日本と中国を結ぶことに汗をかき、現在と明日を結ぶ架け橋に繋ぐものとして、有志とともに奔走し続けていきたい!ご愛読者のみなさん、1年間、ご愛読を有難うございます!いつものように遠慮なくご指摘下さい。出口さん、またも1年間、大変お世話になり、どうも有難うございました!


来年、再見!



<了>



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