第3回 武漢が拓く!中国における光産業の未来
探し続けた酒器と名古屋と例えられる「中国武漢」
去る5月中旬のある日、北京空港。「あっ、張さん、見て!お探ししているのはこれではない?!」飛行機に乗るのは若干余裕があるので散歩していたところ、あるクライアントの部長さんから声を掛けてきた。「どこ?あっ、本当だ!どうもありがとう!いや〜、・・・」。まさか空港で売られているとはなぁ?とついに見つけた筆者は嬉しくて一時言葉もなくなった。
見つけたのは数年前、久しぶりに中国武漢に行ったときのある晩餐会で出会った酒器の一種である。二層構造のようなもので、下部の方に沸かされたお湯を注いで、それで上部のコップにある紹興酒を温めるものである。1人ずつ精緻なワンセットが配られるので、思わず食事の時間を忘れてしまいそうになる・・・。同行したクライアントの方が絶賛し「買いたい」というので、以後、時間があったら人に聞いたりして探し続けたのである。
しかし、武漢といえばその懐かしい酒器より、杭州の西湖より実は6倍も広い武漢の東湖の美しさや、李白や王維などの漢詩で有名な「黄鶴楼」、また武漢市南部であった有名な「赤壁の戦」や、毎年4月頃は桜が満開される武漢大学の桜園など、特筆すべきことが枚挙にとどまらない。
本連載との関連で言えばまず取り上げなければならないのは次のことであろう。すなわち、武漢には「武漢東湖新技術開発区」という国家レベルのハイテク産業開発ゾーンが設けられており、これは現在、中国政府が54の国家ハイテク産業開発ゾーンの中で最も重点的に強化しさらに発展させようと選定した五つのゾーンの一つである。そこではまた、中国唯一の「国家光電子情報産業基地〜中国光谷(Optics Valley of China)」が設けられている。
また、1987年に設立された「武漢東湖創業中心」は中国初の国家レベルの技術型インキュベーターであり、2005年12月現在450の技術型ベンチャー企業が卒業されたという。そして、中国大学ランキングの上位10位に必ず入選され、筆者も招かれて講演したことのある総合大学・華中科技大学は大学再編後中国一の規模になり、同大学サイエンスパークも全国で実績豊富なパークの一つになっている。さらに、武漢東湖新技術開発区は国家知的財産局に選定された全国7つの「国家知財実証パーク」の一つでもある。
ちなみに、昨年の今月では、中田英寿が所属するイングランド・ボルトンが中国プロリーグの武漢と提携契約をしたことや、ホンダと合弁した東風本多汽車は(昨年)4月より新型シビックの生産を武漢工場で開始したと報じられている。また、日本の総合商社・双日が中国の大手総合エンジニアリング会社・武漢鋼鉄グループとの戦略的業務提携は業界初として、後述する烽火科技グループとNECとの合弁会社は「強強連合」の事例として注目を集めていた。
武漢の位置づけや活気ぶりなどから、名古屋とたとえられて理解できよう。
武漢!中国における「光通信産業の発祥地」
武漢は湖北省の省都、中国中部最大の都市であり、人口は約781万人(中国統計年鑑2004、中国国家統計局)。昔から「九省に通じる所」と称えられたように地理的な便が良く、北の北京、南の広州、東の上海、西の重慶や四川などといった交通と物流の要衝として栄えてきた。数年前久しぶりに武漢に訪ねたときに、機関銃のように紹介を続けていた武漢東湖新技術開発区招商局の担当マネージャ・王氏からの説明はいまでも記憶に残る。
今日、武漢といえばなによりも「中国光谷」(オプティカル・バレー)という大ブランドが堂々と登場するが、光電子産業の振興を狙った中国光谷を設けようと決められた当時、「冗談だろう。裸の大地以外はなにもないし、これから光産業がどうなっていくかもわからないときなのに・・・」と疑問視する人も少なくなかった。しかし、後述する「中国光谷・国際光電子博覧会」の上昇気流に象徴されるように、中国光谷は多様なイノベーションや産業連鎖の中で厚みを増しつつ着実に進化し続けてきた。
武漢ではもともと、国立研究機関である武漢郵電科学研究院や、武漢大学また華中科技大学といった大学・研究機関等を中心とした、光通信技術に関する技術開発基盤が存在していた。これらの技術開発成果をもとに、光通信分野の事業化・産業化のため、1976年、武漢郵電科学研究院を烽火科技グループという名称で企業化した。これは中国の国立研究所が企業化された中国初の事例であり、同時に、中国における光産業の発祥となった。
中国の情報通信企業といえば華為技術や中興通訊、大唐通信などは日本でも有名であるが、武漢郵電科学研究院が企業化して誕生した「烽火科技集団」傘下の最大企業である烽火通信(FHT)は、華為、中興とならび、中国光通信分野の三大企業の一つであり、国家プロジェクトの多くに関与している。1982年に中国初の光ファイバー通信システムを開通するなど、中国における光通信分野の先駆者でもある。また、同じく烽火科技集団の傘下にある武漢電信器件公司は、光電子デバイスメーカーとしては世界6大企業に数えられている。
中国光谷は現在、中国最大規模の光通信技術の研究開発基地、光電子部品生産基地、光ファイバー・ケーブル生産基地、レーザー技術の研究開発及び産業化基地となり、中国の光通信産業における最先端・最大級の産業基地の地位を確立したと思われる。
中国における「光ファイバーの父」、中国工程院士、武漢郵電科学研究院最高顧問の趙氏に会えたら〜、と昨年11月上旬、あるクライアントの部長さんが言った。先方に打診や調整はしたが、「高齢でとても多忙な方なので・・・」と伝われて、今回は無理かなぁと思った。しかし、「あっ、いらっしゃっているよ」と誰かの嬉しい声の飛んでいる方向を見ると、思ったよりも小型ではあるが非常に穏やかな方がこちらに歩いており、その優しいまた自然な微笑には光ファイバーのように大きな包容力があるとも感じさせられた。
第6回「中国光谷・国際光電子博覧会」
中国光谷・国際光電子博覧会(OVC EXPO)は、中国武漢市で開催される中国光電子業界における一大複合的なイベントであり、2002年に第1回目が開催されて以来、毎年1回の開催を継続、回を重ねるごとに規模を拡大し続けてきた。
2年前の11月上旬、はじめての出展支援を実行したときの話しであるが、開幕前夜で行われた盛大な出展関係者レセプションが終わった後、既に夜10時すぎだったが、クライアントさんとホテルのバーの一角で、片手にビールを持ちながら、展示方針の確認や視察要人へのアピール方法などに関する最後の詰めという「作戦会議」を続けた・・・。
この博覧会は、湖北省政府、武漢市政府はもちろん、中国情報産業省、中国科学技術省、中国教育省、中国国家知的財産局、中国科学院といった中央省庁や、全国的な業界組織及び海外の関連団体の支持・協力の下、光電子情報技術を中心とした専門的博覧会として、世界"四大"展覧会の一つとなることを目指している。また、例年同様、多様な定番のあるフォーラムの中では、国家知的財産局も後援される「知財保護フォーラム」も同時開催となっている。中央政府から各地域の要人や専門家が数多く来場されるのもこの博覧会の地位を物語っている。
今年も11月2日〜5日までの日程であるが、米国国際光学工程学会、中国光学学会、中国通信学会、中国国家光電子情報産業基地、武漢光電子国家実験室(?)、武漢市人民政府、武漢東湖新技術開発区生?力促?センター、武漢郵電科学研究院等の支持の下、毎年数カ国で順番に行われる「APOC」(アジア太平洋光通信産業発展フォーラム)も同時同地にて開催される運びになったため、今年の中国光谷・国際光電子博覧会は例年にない盛り上がりになるのであろう。
いままで、「5回も成功を収めたこと、10万人も越える専門家等の来場、2000の国内外の企業や研究機関の出展、50に登る多彩かつ権威的なフォーラムの開催、100億元を超す契約ベースの取引額の達成」のほか、「30%の海外関係者からの出展、60%の知名企業の出展、80%の博覧会現場にての調達、99%の会場サービスへの満足度、100%の業界における注目度!」といった博覧会組織委員会の統計には思わず惹かれる点もあろうか。
いままで、米国、カナダ、ロシェア、フランス、イタリア、日本、韓国、香港、台湾などの関連企業や研究機関がその博覧会で登場し、日本からはNTTフォトニクス、住友電工、松下電器、ソニー、日本電気、日立などが精力的に出展してきた。日本光産業技術振興協会等は視察団を派遣し、関係諸国の同業者と会い、現地の躍動ぶりを体感し、中国における光産業の最新動向を俯瞰する有難いチャンスとして活用する。
今年も11月という最も爽やかな季節に開催されるこの国際的博覧会であるが、貴方と一度、武漢の東湖か黄鶴楼で会って、そして業務後は冒頭で述べた酒器で軽く飲もうとしてみないか?!ちなみに、筆者は行く予定である。
◇中国光谷・国際光電子博覧会日本語サイト
http://www.tb-innovations.co.jp/CHBW/OVCEXPO/link.OVC.EXPO.htm
<了>
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