第29回 中国タイマツセンターの訪日メモ



中国タイマツセンターとは?


ちょうど一週間前の2009年9月9日、人民網日本語版で「日中間のハイテク産業の連携強化に向けて」と題する記事が掲載された。人民網に掲載された次の写真は、中国タイマツセンター訪日団が黒川先生に、中国国家ハイテク産業開発区記念誌を贈呈しているところをキャッチしたものだが、皆さん実にいい表情ではないか(出口さん、これはある意味でDNDが提唱する「記憶を記録に!」というコンセプトにも合うものかな?)。同訪日団は、帰国前日に黒川先生を訪問したが、黒川先生の力強いイノベーション論を拝聴し、筆者も時間を忘れてしまいそうになったばかりか、そこに日米中の科学技術政策研究で知られる角南先生も同席されていたことで、嬉しさは増すばかりであった。


黒川先生(中)に中国ハイテク産業開発区記念誌を贈呈
:黒川先生(中)に中国ハイテク産業開発区記念誌を贈呈



 ところで、「中国タイマツセンター」が初耳という方もおられるかもしれないが、これは「中国科学技術省タイマツ・ハイテク産業開発センター」の略称で、中国科学技術省が直轄する「中国タイマツ計画」の実施機関である。このコラムでもしばしば触れてきた重要な機関であり、中国で高成長を続けるハイテク産業、すなわち外資企業の進出も多い様々なサイエンスパーク・ハイテクパーク設立を含み、ハイテク成果の商品化、ハイテク商品の産業化、ハイテク産業の国際化をミッションとする政策立案、環境整備、実施推進などにあたっている。



北海道バイオ産業の魅力に惹かれて


 前記に関連し、2009年8月30日から9月4日、従来から中国タイマツセンターと相互協力関係にある日中テクノビジネスフォーラム(JCTBF)は、日中間のハイテク産業に関する交流や協力を強化し、また政策やイノベーション環境に関する相互理解を促進するため、同センター代表団4名の日本訪問を招待し、日本のハイテク産業に密接に関係する政府機関や関係専門家との交流の場を設けるとともに、9月1日には東京国際フォーラムにて、デジタルニューディール(DND)殿にもご後援頂いた「日中ハイテク産業特別研究交流会」を開催した。


 上記の黒川先生をはじめ、経済産業省などを含む様々な訪問先で受けた実に興味深いお話などは別途お伝えしたいと考えているが、ここではまず、日本を代表する北海道バイオクラスターの訪問についてご紹介したい。


 8月31日、ホテルでの朝食の後、皆さんとともに札幌駅にいくため、大通駅に向かった。チケットを買って改札に入ろうとしたが、なぜか訪日団全員の足が動かない。券売機の上にある路線図を見て、真剣に「札幌」駅を探そうとしていた。「張さん、札幌行きはここではないよ!」とどなたかが言い、「そうだ、ないね」と皆が声をそろえた。確かに、漢字から発想する中国人からみれば、それもそのはず、視線の先には漢字の「札幌」はなく、「さっぽろ」と書かれていたからだ。


 その後、問題なく札幌駅に到着すると、当訪問のために色々と周到かつ丁寧にセッティングして下さった、北海道経済産業局バイオ産業課の米谷さんが、笑顔で、改札口の前で我々を待っていた。


 米谷さんのご案内のもと、北海道経済産業局の会議室に到着し、地域経済部長牧内氏、バイオ産業課長多田氏、同課長補佐工藤氏のお迎えを受けて、訪問交流会がはじまった。まず牧内部長からのご挨拶があり、続いて多田課長から、北海道バイオクラスター誕生の背景、特徴、成果、そして今後の目標などについて、関連資料の下で詳細にご紹介頂いた。訪日団の皆さんは、途中にもしばしば質問を挿みながら、非常に興味深く聞き入っていた。多田課長からのご紹介の後も活発な質疑応答が行われ、北海道で行われているビジネスマッチング会に高い関心を示し、訪日団団長の韓氏は「中国タイマツセンター関連を通して、北海道の産業イノベーションを紹介したい。また、中国の関係地方と北海道との産業協力関係の形成にもぜひ期待したい」と述べた。


北海道経済産業局地域経済部の方々との記念シーン
:北海道経済産業局地域経済部の方々との記念シーン



 同日午後、同バイオ産業課の工藤氏、米谷さんの同行の下で、今回の中国タイマツセンターの訪日に相応しい企業見学として、北海道札幌市清田区ハイテクヒル真栄に本拠を置く(株)アミノアップ化学を見学させて頂いた。天然資源を原料とする生理活性物質の抽出・製造等のための基礎研究、応用研究、製品企画を事業内容とする同社の戦略的な研究開発、自動化工場、グローバルな展開は訪日団の強い関心を集めた。同社小砂憲一社長は北海道バイオクラスターフォーラムの会長を務められていることから、日中双方がフォーラムの運営実務についても有益な情報交換をした。



日中ハイテク産業特別研究交流会


 9月1日午後には、東京国際フォーラムにて、JCTBF主催により、中国駐日大使館科学技術処、JST中国総合研究センター、ビジネスモデル学会、デジタルニューティール(DND)研究所からの後援を受けた「日中ハイテク産業特別研究交流会」が開催され、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻准教授・上條由紀子氏の司会の下、日中両国からの産官学関係キーマン20数名の方が一堂に会した。


 初めに開会挨拶・趣旨説明として、NPOビジネスモデル学会長・前東京大学イノベーション政策研究センター長である松島克守氏より、「産業イノベーションには、技術イノベーション、経営イノベーション、社会イノベーションの三要素が不可欠」というご指摘がなされ、続く中国駐日大使館科学技術参事官阮湘平氏のご挨拶においては、「日中間の戦略的な互恵関係を具現化するものとして、日中ハイテク産業の交流や協力は大変重要なテーマである」と、日中協力への期待が述べられた。


 その後、まず中国タイマツセンター計画財務処処長の唐鳳泉氏から「中国におけるタイマツ事業の最新動向」を、(独)科学技術振興機構中国総合研究センターフェローの秦舟氏は「『中国におけるサイエンスパーク・ハイテクパークの現状と動向調査報告書』の作成について」を、(独)産業技術総合研究所イノベーション推進室総括主幹木村行雄氏より、「日本における技術型ベンチャーの現状」を題とする講演をして頂いた。講演後は活発な質疑応答も行われ、予定時間より大幅な時間延長になった。最後に、中国タイマツセンター副トップ・訪日団長の韓麗娟氏より閉会挨拶がなされた。


 日中ハイテク産業特別研究交流会は、予定より時間を延長して閉会を迎えたが、参加者は閉会後も会議室内外において名刺交換や討論を行うなど、なかなか会場を後にしようとしない。「記念写真を撮ろうよ」ということで場所の選定をはじめたら、「会議室の外でよいよ」と松島先生に勧められ、写ったのは以下の一枚だ。このような機会をきっかけに日中間の多彩なつながりがより発展的になっていけたらと、みんなの表情はそれを願っているであろうか。


日中ハイテク産業特別研究交流会一部参加者
:日中ハイテク産業特別研究交流会一部参加者




<了>



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