第27回 万鋼氏が来日、8%経済成長目標、そして日本初報告書



中国科学技術省大臣、万鋼氏が来日


 2009年5月24日の「東京新聞」などによると、塩谷立文部科学相と韓国の安秉萬(アン・ビョンマン)教育科学技術相、中国の万鋼科学技術相は24日、都内で会談し、気候変動や省エネルギーをはじめとする地球規模の課題解決に向けて共同研究プログラムを創設するなど、3カ国の科学技術協力を促進することに合意し、共同声明に署名した、という。


 実は同日午前9時40分過ぎ、小雨が降り続く中、筆者は予定通りに中国駐日大使館本館に着いた。既に大使館スタッフのほか、旧友や新顔の方の姿が見られる。「あっ、お久しぶりですね!最近どうでしょうか」「あれ、帰国したじゃないの?いつ戻ったのですか」「どうも、はじめまして、前から一度会いたかったですが」などと、あちこちで挨拶が起こる。


 この日、在日華人科学技術者団体、在日華人企業家、及び在日中国系技術型企業からの代表が20名近く集まった。日中韓共同研究会談出席のために来日した中国科学技術省大臣万鋼氏を大使館に招いて開催される、座談会に参加するためである。


 万鋼氏といえば読者の中でご存知の方も少なくないかと思うが、同氏は中国科学技術省大臣という肩書きのほかに、「中国人民政治協商会議」副主席と、「中国致公党」主席も務められている。


 中国人民政治協商会議(中国ではよく「政協」と略称)は中国の国家機関に属さず、普通の団体とも異なっている。中国共産党、各民主党派、無党派、社会団体、各少数民族と各界の代表、台湾、香港、アモイ及び帰国華僑の代表や特別に要請された人々から構成され、その主な機能は政治的協商と民主的監督である。また中国致公党は中国における民主党派のひとつであり、中国に戻ったいわゆる「帰国華僑」の政党であるといわれている。


 ドイツに留学し、1991年工学博士号を取得した後、ドイツアウディ自動車会社で10年間を勤務された万鋼氏は帰国後、同済大学新エネルギー自動車エンジニアセンター責任者、同大学学長補佐、副学長、学長を経て、2007年4月から中国科学技術省大臣に任命された。非共産党員の閣僚就任は35年ぶりのことでもあることから話題となった。


 午前10時前、万鋼氏一行が大使館に到着し、関係者一同の拍手に迎えられた。会議室に入ると早速、大使館孔公使が司会として座談会の趣旨を説明し、予定されていた「全国政協副主席、中国科学技術省大臣万鋼氏と在日華人科学技術者団体、在日華人企業家、及び在日中国系技術型企業の代表らとの座談会」が始まった。


「中国8%経済成長目標は実現できる」


 少々話は変わるが、2009年5月20日の人民日報・海外版トップでは、「経済増長8%肯定能実現」(中国において8%経済成長の目標は必ず実現できる)というタイトルで、中国国家発展と改革委員会財政金融司長徐林氏が香港の中外メディアに向けた説明を報道した。筆者はそのタイトルを興味深く思い読み進めた。


 というのは、百年に一度と言われる経済危機の中、中国は安定した経済システムと豊かな実体経済を背景に、日米欧諸国に先立っていち早く経済回復を遂げるのではないかと期待が寄せられている事実がある。一方、国によって4兆元の内需拡大政策が打ち出されたものの、「2009年のGDP成長率を8%以上に保つ」という目標にははるかに及ばないような観測から、企業の負担を少なくし、収入を増やすことを目的とした新たな「10大産業振興計画」が、2009年2月に打ち出されたことは記憶に新しい。


 徐林氏がどういう理由から「中国において8%経済成長の目標は必ず実現できる」と述べたかというと、「一つは第一四半期の経済成長率は6.1%で、予想より高いこと、もう一つは中国政府が大きなリソースを有しており、必要なときに更なる刺激策を策定し実行する余裕がある」とのことである。


 「4月の統計に望ましくない変動も若干見られるが、ここ10年間の落ち着いた経済成長の中で考えた場合は大きな懸念をすべきことではない。マクロ政策等の調整によって、W型回復ではなく、V型回復の実現に努める」と徐氏の解説が続く。中国政府の負債は国内総生産高の20%前後であるのに対し、アメリカは100%を超え、ヨーロッパは60%超、日本は190%以上になる見通しと予測される。「中国は必要なときに更なる刺激策を策定し実行する余裕がある」というのはこのことを裏づけとしている。


 中国国家発展と改革委員会は、中国国務院体制改革弁公室の機能と、前国家経済貿易委員会の一部機能を吸収した前国家発展計画委員会をもとに、2003年5月6日に正式にスタートした国家レベルのマクロ統制を行う行政機関であり、経済・社会発展政策を総合的に研究・策定し、全体的なバランスを保ちながら、経済全体の体制改革を指導するマクロコントロール部門にあたる。


 金融不況への対応策によってどのような効果をもたらしうるかについては決して軽く語れるものではないが、このような機関からの見解はやはり興味深い。


中国サイエンスパーク報告書が公開


 話は冒頭の座談会に戻るが、在日関係者の発言終了後、万鋼氏はスピーチを行った。その内容は多岐に渡ったが、万氏はその中で、金融不況への対策やハイテク産業に関連し、各地に設けられている「国家ハイテク産業開発区(日本では「国家ハイテク産業開発ゾーン」とも称される)は比較的に受けた影響が少なく、今後も発展し成長し続けるであろう」と述べた。


 国家ハイテク産業開発区は中国「タイマツ計画」の重要な構成要素であり、中国におけるさまざまなサイエンスパーク・ハイテクパークの中で最も重要と思われる基盤的なパークである。国家ハイテク産業開発区は、知識の密集と開放的な環境条件により、主に中国の科学技術と経済の実力に基づき、地域的な特性を活かした環境の部分的改良を通じて、科学技術の研究成果を最大限に生産力に転換するため設立されたものであり、国内と海外市場に向けた中国のハイテク産業を発展させるための集中エリアである。


 このコラムでも何度か紹介したが、これまで1991年と1992年の2回に分けて、53の国家レベルのハイテク産業開発区が国務院の承認を得て建設されてきた。その後、2007年3月には浙江省に設けられている寧波ハイテク産業開発区が、そして今年4月は湘潭ハイテク産業開発区、泰州ハイテク産業開発区が地方(省)レベルから国家レベルへと昇格されたことにより、2009年5月現在は56の国家ハイテク産業開発区が存在している。


 実はこれに関連し、独立行政法人科学技術振興機構(JST)中国総合研究センターは2009年5月14日、調査レポート「中国におけるサイエンスパーク・ハイテクパークの現状と動向」を公開した。


 中国における@国家ハイテク産業開発区、A国家大学サイエンスパーク、B国家バイオ産業基地、C国家イノベーションパーク、D中外共同運営国家ハイテクパーク、E国家特色産業基地、F国家ソフトウェアパーク、G国家インキュベータ、H国家帰国留学人員創業パーク、I国家知的財産実証パーク、といった10種類の特定エリアを一つの報告書の中で俯瞰的に一望し、分野ごとの研究者や実務家の方々に読んで頂けるように、制度ごとのハイテクパーク・サイエンスパークを紹介するとともに、さらにパーク毎の具体的な個票またはリストをもって補足する形で作成されているという点で、同テーマにおける「日本初の報告書」といえるかもしれない。


  ご関心の方はまず同報告書の目次をご覧下さい。
 http://www.jctbf.org/jp/CHBW/link.0.03.shpark.jst.200904.htm


 当方は同報告書における調査・執筆を担当させていただいており、大変あり難い機会を頂いたと関係者一同感謝している。中国におけるハイテク産業の時代的な背景、中国ハイテク産業におけるサイエンスパーク・ハイテクパークの位置づけ、その現状、多様なパークに進出している外資系企業とりわけ日系企業、中国におけるイノベーション、そして今後向かう方向とは・・・、ご関心を持たれる方はいつでもアクセスしてみてください。


<了>



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