第24回 中国ハイテク産業、ハイテク企業、及びハイテク分野


中国ハイテク産業の背景
 前回の連載の中でご案内させて頂いた「中国におけるハイテク産業パークの背景、現状及び最新動向」を題とする研究会であるが、大変お忙しいと思われるこの時期にもかかわらず、官公庁、大学、企業及びマスコミ関係の方々より、50名を超える参加申し込みをいただいた。当日、大雨という生憎の天気も一因してか、実際に参加された方は若干減ったものの、時間の関係で切り上げた質疑応答の内容を思うと、皆さんの関心の高さを改めて実感した。

 日本では「ハイテク産業」という用語はそれほど頻繁に登場しないし、関連の統計も比較的に少ない(だから問題だという意味ではない)。しかし、中国におけるハイテク産業とは実際何を意味するものなのか、 その著しく成長するパワーはどこから由来しどこに及んでいくのか、皆さんの関心点は筆者と同様のようである。

 中国では1978年に、ケ小平氏の提唱により「改革・開放」という国策が策定された。これはいわゆる「政治闘争」の時代から「経済再建」の時代に入ったことを意味する。1980年代前半からは経済再建において科学技術を重視するという「科技重視」の考え方が台頭し、外国からの技術導入策の検討や実行が行われ始めた。その一環として、1980後半からは「科技立法」(科学技術関連の立法)が活発に展開された。

 一方、特に1984年春には大連など14の沿海都市が「対外開放都市」に指定され、さらに海南島を加えた後、珠江デルタや長江デルタなどが「開放地帯」として認定された。これらの市場開放はそれまでになかったほど多大な成果を得たと同時に、多様な課題ももたらした。

 中国経済の持続的な発展を追求するには何が不可欠か?大学や研究機関の役割そして成果の創出や活用にはどのようなシステムが構築されるべきか?中長期的に必要な産業構造の調整に資するためにはどのような産業を育てていくべきか?これらに応えるため、1988年8月、中国におけるハイテク産業の「生みの親」ともいえる中国「火炬(タイマツ)計画」が登場した。

 同計画のもっとも重要な内容の一つはいわゆる「国家ハイテク産業開発ゾーン」(日本では「国家ハイテク産業開発区」とも称される)の設立であり、中関村サイエンスパークをはじめ、今現在全国各地に54の国家ハイテク産業開発ゾーンが設けられている。その合計面積は中国国土の10000分の3にもなっていないが、そこで創出されたGDPは中国全体の7.1%を占めているという(2008年10月現在)。


:中国における国家ハイテク産業開発ゾーンの分布図

中国ハイテク企業の認定
 中国におけるハイテク産業の主役といえば54の国家ハイテク産業開発ゾーンという「特別なエリア」を取り上げることができるが、もっといえばそこに立地される21517社のハイテク企業であり、この中には外資系企業も8028社含まれる(2007年12月)。しかし、優遇税制も含む多様な政策的支援を受けて躍進してきたこの「ハイテク企業」の認定に関し、中国外資政策の転換やイノベーション政策の策定に伴い、重要な変化が現れ始めている。

 実は昨年末、北京にある「中国タイマツハイテク産業開発センター」に訪問した。そのとき、先方は中国科学技術省、中国財務省及び中国国家税務総局が2008年4月14日に共同で発表した「ハイテク企業認定管理弁法」について言及され、「ぜひ日本の関係者の方々にも伝えて頂きたい」との一言があった。そして、今年1月22日、同センター長で居られる梁氏が中国「科技日報」記者のインタビューに答える形で、以下のように再度強調した。

 どのような企業が「ハイテク企業」として認定されうるかという点について、前述した「認定管理弁法」のもっとも重要な特徴は「企業自らの研究開発及びイノベーション能力を中心として認定されることにある」と梁氏はいう。

 具体的には、@その企業が従事している研究開発や生産経営活動は国が重点的にサポートするハイテク分野(次項参照)に属する範囲内であること、A自らの持続的な研究開発力を有し、コアな知的財産権を有すること、B企業の主要事業は前述した研究開発および成果の転化と密接な関係にあること、である。この説明からも分るように、単純にハイテク製品の生産を従事する企業は今後、ハイテク企業として認定されることはないであろう。

 同「認定管理弁法」はOECD、アメリカ、韓国などの経験を参考にしながら、中国の現状を踏まえて関連の評価指標や判断基準の明確化を図ったものであり、同弁法の施行によって「ハイテク製品目録」が廃止されることになった。これは、ハイテク製品を生産していることによって「ハイテク企業」と認定された時代は終わり、自ら研究開発などを行いその上で関連の評価指標等の基準を満たしている企業であってはじめて「ハイテク企業」として認定されうる、という時代に入ったとのことを意味するものであろう。

 ちなみに、日系企業も含めて、中国進出される外資系企業も今後中国ハイテク企業の認定を申込む場合は前記同様の基準が適用されることになる。

中国ハイテク分野の内容
 前項で触れた「国が重点的にサポートするハイテク分野」は以下に述べる8分野である。すなわち、1.電子情報/IT分野、2.バイオ及び新薬分野、3.航空宇宙産業、4.新材料分野、5.ハイテクサービス分野、6.新エネルギー及び省エネルギー分野、7.資源と環境分野、8.ハイテクを用いた伝統的な産業の改造等の分野であり、各分野において具体的な技術を示している。

 例えば、「2.バイオ及び新薬分野」に関しては、@医薬品用バイオ技術、A漢方薬、天然薬物、B化学薬品、C新しい薬剤の形状及びタイプ、ならびに製剤技術、D医療機器技術、装置及び医学専用ソフトウエア、E軽工業及び化学工業バイオテクノロジー、F現代農業技術、というように分類し、類型毎に技術内容を示した。

 この内、例えば「D医療機器技術、装置及び医学専用ソフトウエア」は、医療画像技術、治療、応急処置及びリハビリ技術、電機生理検査・看護技術、医学検査技術、医療用ネットワーク環境で使用するソフトウエア、と明示されている。

 そこでいう「医療画像技術」とはX線撮影画像技術(高周波、中周波)、新型高性能超音波検査技術(カラーBモード)、機能画像及び分子画像技術、新型画像認識及び分析システム及びその他の新型医用画像技術(電気的インピーダンストモグラフィー、光CT技術を含む)である。また、「医療用ネットワーク環境で使用するソフトウエア」とは医用BASIC言語のコンパイル及び電子カルテ(EMR)システム、エレクトロニックヘルスレコードシステム等(※メカニズムが明確でなく、治療効果が確定できない製品は除く)とされる。

 中国進出しようと考えている技術開発型企業や、中国へ技術移転しようと検討する研究開発機関は前述した「ハイテク企業認定管理弁法」のほか、この中国の「国が重点的にサポートするハイテク分野」を事前に理解し、検討することが重要となろう。

 石黒憲彦氏は数年前、「日本の産業活性化にも資する日中テクノビジネスのあり方」に関する質問に対し、個人的な見解として、次のように回答された。

 1990年代からの中国進出ブームは「行かないと後れを取る」という雰囲気のもと、「バラ色のマーケット」「コスト削減を実現する生産拠点」という2つの動機があったといえる。しかしながら、今後の中国進出には綿密な戦略が重要不可欠である。このご指摘は「研究開発拠点へのシフト」が進む今日においても、非常に重要な指摘であると筆者は考える。

 中国におけるハイテク産業パークは正に今後日本企業等が叩くべきドアであるといえるが、国家レベルのさまざまなパークが少なくとも600近くあるほど、その数は多く特徴も様々である。中国の諺に「好的開端是成功的一半」(よいスタートであれば最終的な成功への途中にまで着いたに等しい)とあるように、「最初に叩くべきドア」を見極め、臆せず、間違わずに入っていけるよう、限定的な文献情報や古典的な考え方に惑わされることなく、現状を真に理解した上で戦略的・効率的に取組むことが求められるであろう。

 最後に、中国「国が重点的にサポートするハイテク分野」の関連情報は下記サイトをご覧下さい。

http://www.jctbf.org/jp/CHBW/link.0.04.1.20.htm



<了>





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