第9回 「イノベーティブな人材の育成」



 引き続き、アカデミアとイノベーションを題材にした話題提供をします。

 NEDOが今年度から開始した、大学における「NEDO特別講座」のシンポジウム・セミナーが、昨年8月1日(火)に東京大学で、9月27日(水)に京都大学で開催されました。それぞれ募集定員を上回る来場者があり、大盛況でした。さて、「NEDO特別講座」(*iとは、「イノベーティブな人材の育成」を目的とした新しい試みですが、いったいどんなものでしょうか。

NEDOプロジェクトで扱っているような最先端の技術の基盤は、アカデミアが中心に行われている例も多いのですが、最先端なだけに、産学の人材がそれに興味を持って学ぼうとしても、プロジェクトに参加していなければ学ぶことも難しく、また、折角開発されたNEDOプロジェクトの成果であっても、それを深く理解できる人材はプロジェクト参加者に限定されてしまいがちです。このため、研究成果が産業化されても、それを支える人材や、その応用、発展を担うことのできる人材が不足する恐れがあります。もともと、NEDOの研究開発プロジェクトは、産業競争力を意識した研究開発であるとの特性から、研究テーマや参加者については一定の制約があります。イノベーションが実現しても、非常に狭い範囲で終わってしまうおそれがあるのです。 そこで、優れた成果を生み出しつつあり、大学が技術の中核となっているプロジェクト(コアプロジェクト)を対象に、プロジェクトリーダーのリーダーシップの下、コアプロジェクトの技術や成果を核として多方面の人材が産学の垣根を越えて集まり、人材育成、人的交流などを実施する「拠点」を設けることにしました。「拠点」においてコアプロジェクトの成果の最大化を目指して展開される事業がNEDO特別講座です。これは、現在、経済産業省が推進している「イノベーション・スーパーハイウェイ構想」(*iiの一端を担うものでもあります。今年度には、下表の2講座を開設しました。両方ともデバイス分野などのブレークスルーにつながると期待が高い分野です。



 NEDO特別講座は、人材育成事業と人的交流事業の2本柱からなりたっています。人材育成事業は、プロジェクトリーダーの他、特別講座のために配属する特任教授、産業界から招く非常勤講師等により、大学で講義を開講し、またシンポジウム・セミナーなどを開催します。

 人的交流事業はプロジェクトやその実施者に関心のある方々に広くご参加いただき、交流を図ることにより、それぞれの分野での人的ネットワークの拡大を目指します。単なる交流だけにとどまらず、人材育成事業や後述の周辺研究への展開も期待して行います。

 また、コアプロジェクトの中心的な技術に関連する基礎的研究や、コアプロジェクトの成果の普及や発展に資する派生的研究などを、周辺研究として実施します。こうした研究活動は、人材育成の観点も考慮して実施される共同研究や、人的交流事業としての意義も持ち、拠点の活動を活性化する原動力としても期待しています。これらの費用は、人件費も含め、NEDOが負担します。

 冒頭にご紹介したシンポジウム・セミナーの終了後、NEDO特別講座の活動に多くの参加希望が寄せられており、この活動に対する期待の大きさが感じられます。こうした期待に応えられるよう、各講座の活動を充実し、さらに、他の重要な技術分野におけるNEDO特別講座の開講も検討中です。

「たった二つの講座開設で偉そうなことを言うな」とお叱りを受けそうですが、論理的には、プロジェクトリーダーの数だけ(100以上?)NEDO特別講座が開設できるわけです。しかし、NEDO特別講座の成否は、プロジェクトの我が国産業社会への重要性、リーダーの資質に依るところが多いので、厳選しつつ拡大していきたいと思います。今後の展開にご注目下さい。


*i.NEDO特別講座の活動内容については、NEDOホームページでも紹介しています。http://www.nedo.go.jp/activities/portal/p06046.html *ii.イノベーション・スーパーハイウェイ構想の詳細については、経済産業省のホームページで紹介されています。http://www.meti.go.jp/policy/innovation_policy/ishw.htm