第2回 イノベーションの実現に向けて(その1)



「イノベーション・ジャパンの開催」

 今年も9月13日から三日間、東京フォーラムでイノベーション・ジャパンが開催され、大学等366機関、約4万人の参加がありました。今年で3回目のこの会合も、年々参加者が増えてきました。

 本サイトの原山さんのご報告にありましたが、先般の京都の産学官連携推進会議が量・質ともに変化してきたと評価されたように、イノベーション・ジャパンも定着してきたということは、産学連携そのものが我が国の中で普遍的なものになりつつあることを示しています。このプロジェクトの創始にかかわった一人として、また、現在の主催者のひとりとして、その感慨は大きなものがあります。

「出口につなげること」

 イノベーション・ジャパンは、三年前のある日、当時大学連携推進課長だった私のところに一人の教授が訪ねてきたことで始まります。東京大学工学研究科教授で、内閣府の「動け日本」プロジェクトの主査である松島克守教授です。松島教授は、「動け日本」プロジェクトを通じ、産学連携において日本に最も足りないことは何か、すでに見抜いておられました。「動け日本」プロジェクトでは、小宮山宏東大総長(当時工学研究科長)をヘッドとして、大学にイノベーションへのシーズが蓄積できているか、を丁寧に示したものです。非常に期待のできるシーズがあることはわかった、安心した、問題はこれを如何にイノベーションという出口に結びつけるかだ、そう考えた松島教授は、産学連携の担当課長であった私に相談を持ちかけたのです。「大学と産業界のマッチングイベントを大々的にやろう!」

 産学連携のイベントとしては、尾身幸次財務大臣が仕掛けをつくられた「産学官連携サミット」及び「産学官連携推進会議」が中核です。これらも発足当時から画期的で、産学連携を進め、その認知を広める上で重要なイベントでした。産学のトップの意識を変え、また産学連携の担当者のネットワークを広げる効果は高いものがありました。一方、具体的な大学の研究成果を産業界に伝え、新しい事業を起こすというところまでの機能は持っていません。そこで松島教授が考えたのが、大学現場の研究者と、普段あまり大学とは縁のない企業の事業部の関係者をマッチングするイベントでした。

 私も教授の話を聞くなり、「これだ!」とピンとくるものがあったことを覚えています。大学技術移転機関の設立や日本版バイドール法の整備、国立大学の法人化など、制度的な産学連携体制の整備は相当進んできました。しかし、イノベーションの実現に向けて、あと一歩足りないものがあると私も感じていたからです。ただし、表面的には冷静を装い、松島教授に、「産学連携関係のイベントですと、文部科学省ともご相談しなければいけませんし、京都の会議もありますし...」と役人的なことをつぶやいてしまったのではないかと、いまでも心配になります。が、幸い、カウンターパートである文部科学省の田中産業連携課長(当時、現在文部科学省官房政策課長)にすぐに相談すると、快諾されつつJSTにも根回しをしてくれました。また、NEDOの安永裕幸企画調整課長(現在経済産業省研究開発課長)にも資金的な支援の了解をとりつけました。JSTの現細江孝雄理事とも相談が始まりました。実行の仕組みについては、松島先生と相談し、産学のトップによる組織委員会を作ろうということになり、奥田前日本経団連会長と吉川前学術会議会長に共同議長をお願いに行きつつ、黒川清先生を始め、国大協と私大連会長ほか、産学官関係者のお歴々に組織委員会に名を連ねていただきました。相談する人、会う人それぞれが、構想の良さを理解してくださり、さらには地域クラスターシンポジウムやバイオジャパンとのコラボレーションなども付加され、何とか形になってきました。今でも、当時の関係者の方々の暖かいご対応には感謝の念で一杯です。

「量と質的な変化のきざし」

 イノベーション・ジャパンでは、東京フォーラムの会場を埋め尽くす大学や大学発ベンチャー、TLOなどのブースに注目が集まります。今年は展示参加希望が多く、一部の機関には参加をお断りせざるを得なかったとの話もあります。(申し訳ありませんでした。次回は主催者ブースを小さくして?なるべく多くの方に出展いただきたいと思います。)これらブースを回ると、企業にとっても興味深いシーズが並んでいて、共同研究や商談などが始まることもあります。我々技術政策の担当者にも刺激の多い展示会です。(経産省の幹部連も秘かに?ご視察されていきました。)ところが、このイベントの本当の目玉は、実は、隣の会議室で行われている新技術説明会なのです。名前からして地味なこの「説明会」は、大学の最先端の研究成果を、普段つきあいの薄い企業の事業部系の方々に披露し、真のマッチングをするのが目的です。説明会では、今年はナノテク、バイオ、医療、ITなど6つの分野で合計179のセッションが行われ、各セッション平均30人、延べ5400人の参加者があったとのことです。3日間の短期間にこれだけの産学のマッチングの試みが行われたことになります。ちなみに、昨年のマッチングの成果は350テーマ中、249テーマ、1632件について技術指導、サンプル提供、共同研究等の問い合わせがあり、これまでに69テーマ、125件が成約まで至ったということです。この数字が増えていくことそのものが、産学連携の具体化を示しています。

 近年、「オープンイノベーションの時代」になりつつあることを企業もひしひしと感じており、大学の研究成果への関心も相当実際的・具体的なものになってきたといえるのではないでしょうか。

「課題も多い」

 もちろん、マッチングの機会を提供したからといってすぐにイノベーションにつながるわけではありません。研究成果の事業化よりは、また一から共同研究を始めたいという企業もあるでしょうし、技術移転が成立しても、企業化までは更なる山道が横たわっています。一方、大企業よりはベンチャーという形で進めるほうが適切な場合も多いでしょう。この場合は、ベンチャーを支援するためのマーケティングや経営の人材・資金とのマッチングがさらに重要です。

 イノベーション・ジャパンでは、並行して様々なイベントが行われました。例えばNEDOは、ナショナルプロジェクトの成果を大々的にシンポジウムで発表するとともに、産学連携人材育成事業の対象であるNEDOフェローの主催でセミナーを開催しました。それにパネラーで参加していただいたのがDNDの出口さんで、その折の私との再会がこの連載のきっかけでもあります。経済産業省は、「製造中核人材育成」のシンポジウムで大学における製造業を担う人材育成に関する議論を深めています。こうしたさまざまなイベントを同時並行して行い、課題を抽出していくことも大切なことのひとつです。イノベーションの出口にも入り口にもまだまだ課題が山積しており、ひとつひとつ解決していくことが必要なのです。

「有楽町宣言;大学発ベンチャー支援への方向性」

 特に、2004年の第一回イノベーション・ジャパンでは、発明協会に主催いただいて「大学発ベンチャー支援フォーラム」を開催し、議論を進めました。このフォーラムは、東大先端研の渡部俊也教授、監査法人トーマツ代表社員北地達明氏らと大学発ベンチャーの支援策について議論を行い、その結果を提言としてまとめました。「有楽町宣言」(i)です。この宣言では、大学発ベンチャー支援のため、特に人的ネットワーク形成の重要性を強調しています。この宣言からすでに2年経過していますが、思うような支援ネットワーク形成はこれからでしょうか。関係者のご努力を期待しています。(NEDOも!)

 NEDOは、これからもこうしたイベントを積極的に展開し、NEDOとしての情報発信を行いつつ、イノベーション実現への様々な課題を提示し、解決策を模索していくお手伝いをしたいと考えています。もちろん、技術開発への支援そのものも大切ですが、その周辺の環境整備こそ、我々も含めた政府の責務だと思うからです。この点は、政府の役割のあり方として、常々黒川清先生からも強くご指導をいただいているところです。

来年も、有楽町で逢いましょう!

「NEDOイベント情報」(ii)
リーディング産業展みえ(iii):燃料電池やロボットなど、NEDOの最新の研究成果も発表します。お近くの方は是非ご来場ください。(11月10-11日、四日市ドーム)



(i) http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/whatsnew/daigakuhatubencha-yurakuchousenngen.pdf
(ii)このほかにも、NEDOの関与するイベントはたくさんあります。詳細は以下をご参照ください。http://www.nedo.go.jp/informations/events/index.html
(iii)http://www.pref.mie.jp/sangyos/moyooshi/