第18回 「イノベーションの学術俯瞰」



 去る11月27日、都下ホテルオークラにて、第7回産学官連携サミットが開催されました。来賓で来られた尾身幸次前財務大臣がご挨拶でおっしゃっていたように、産学官連携の会合もトップの方々に定着してきましたが、発足当時との大きな違いは、「イノベーション」と言う概念への理解の拡がりです。サミットの特別講演者のひとりは、最近"Innovation - The Missing Dimension −Harvard University Press"を著したMITリチャードレスター教授です。黒川清先生によれば、氏は本の中で、イノベーションを議論する中で失われている視点として、指導者が能力のある違った職種の人達を集め、建設的な議論の中から、"曖昧さ"に耐え、その中から解決策を見いだす能力を指摘しています。今回の講演も、イノベーションの本質を明確に言葉にされ、すんなりおなかに収まったとの声が聴講者から上がっていました。このような会議の成果にも表れるように、イノベーションを巡る産学官の認識はほぼ一つになってきたと言えます。

 イノベーション25が閣議決定されてしばらく経過し、政局の如何に依らず、いよいよイノベーション政策も実行強化の段階に入りつつあるとの状況になってきました。昨年10月に黒川清先生による官邸での初会議報告から始まった本「イノベーション25戦略会議への緊急提言」もすでに80稿を超える一大コラムになりました。このあたりで、一区切りしたらどうかとの出口さんのご要望に応え、最後にイノベーション全体を俯瞰する話をご提供したいと思います。

 イノベーションは、シュンペーター(Schumpeter, J.A)が経済学上の重要な概念として提唱して以来、様々な分野において研究が進められてきました。特に「科学技術によるイノベーションの創成」との概念に関する研究は近年、急展開をしています。このため、イノベーションという概念は、経済学、経営学等という学問分野だけでなく、経済政策の運営にとっても、近年とみに重要性を増し、学術と政策との連関が深まっていることは、イノベーション25報告を見ても明らかです。

 一方、学術の世界におけるイノベーションに関する議論については、これまで、どういう視点で何が議論されてきたのか、その全体像は必ずしも明確になっていません。

 そこで、私たちは、最近急展開しているネットワーク論を駆使し、学術論文の引用分析という手法により、イノベーションに対する学術研究の俯瞰を試みました。本稿は、先日の2007年度研究技術計画学会総会で口頭発表したものを基にしています。

 具体的には、論文のタイトルやアブストラクトといった書誌事項に「イノベーション」という用語を含むものを抽出し、それらの間の引用分析を行ってクラスタリングをし、主要なクラスターの特性を明らかにした上で、可視化(俯瞰マップの作成)を行いました。

 これまで4万件近い論文がinnovationを対象にしており、また近年では年間2千件以上の論文が発表されていることがわかりました。

 主要なクラスターには、Environment for innovation、 Technological innovation、 Innovation managementを中心とした横断的テーマのほか、Healthcare、Environment(Pollution)などの分野別テーマがみられました。また、時系列的にみると、イノベーション研究そのものは70年代以前から行われてきましたが、90年代初頭から活発となり、論文数は急速に増加していることが判明し、その傾向は、最近一段と顕著になっています。クラスターを可視化した図を別添します。

 詳細は別の機会に論文を見ていただこうと思いますが、上述の考察の意義はいくつかあります。特に、これまでイノベーションは何のために議論し、どういう方法論で活用されてきたかの俯瞰的考察を踏まえ、今後のイノベーション及びその検討は、いかなる方向に、いかなる分野に進むべきかが明示されたことにあります。

 イノベーションに関する議論は、このように、学術分野でも爆発的に拡大しています。企業の経営のみならず、国家の運営、さらには人類の繁栄のためにますます重要になる概念、それがイノベーションです。「イノベーション25」が、未来の発展のための橋頭堡となることを期待しつつ「イノベーション25戦略会議への緊急提言」を閉じたいと思います。

 長い間ご高覧ありがとうございました。引き続き、「イノベーション戦略とNEDO」など、DND各コラムをお楽しみに。

【イノベーション学術俯瞰マップ】