第16回 イノベーション25の戦略的課題



 黒川清座長のもと、やっとイノベーション25戦略会議の最終報告が閣議決定されました。報道では閣議決定文書という制約による「骨抜き」論が目につきましたが、事務局の谷審議官いわく、冷静に前向きな評価をしている報道も多かった、とのことでした。今後欧米での評価がより的確なものになっていくことでしょう。

 この報告で画期的な内容ことはいくつかありますが、一番すごい(?)のは、このDNDで議論されていたことがほとんどそのまま取り上げられていることが多いことです、もちろん、DNDも黒川清先生の問いかけでイノベーションをめぐる議論を始めたので、当然といえば当然ですが、今回役所から離れて、「合議」に参加しなかった(そして国民から集めたという300余の意見にも加わらなかった)私にとって、常日頃考えていることや議論していることが政府文書にほぼ正確に、自動的に取り上げられた経験は初めてです。すごいね、出口さん!!

 例えば、「サービスイノベーション」。前回の私のコラムに紹介したように、この言葉が概念としてはじめて使われたのは、ほんの2年ほど前の第三期科学技術基本計画で、この前まではどこにも出てきません。経済産業省サービス産業課が「サービスイノベーション研究会」を立ち上げたときには、「言葉が踊っているな」と顔をしかめる幹部を「ローキーでやりますから、やらせてください」と説得したことを思い出します。それが、閣議決定文書の一角を占めているとは驚きです。ほかにも、黒川先生の問いかけに何人かが反応した理系問題。文系理系区分にとらわれない教育などの画期的提言がされています。大学改革や人材育成など、ここで議論されたことも網羅されています。

 こんなことだったら、もう少しまじめにDNDで議論すべきだったと今更ながら思ってしまいませんか?森下さん!!

 例えば、イノベーション25では大学改革をはじめとする各種制度改革に言及していますが、政策のイノベーションについてはあまり取り上げられていません。年金問題や公共事業における談合問題など、政府自身の政策執行体制が問われる中で、その改革を行う「イノベーション」を提言してもおかしくないでしょう。最近のITが進化している状況の中で、個人の年金データを管理するイノベーションが起これば、国民は拍手喝采すること間違いなしです。談合防止ソフトなんてのも意外に簡単に作れるかも。

 また、少し物足りないのは、ナショナル・イノベーション・システムの構築に向けての戦略です。知の創出に関して、人材育成やその拠点である大学改革がとりあげられていますが、そうした点の整備もさることながら、面的なもの、シリコンバレーモデルであるネットワークの構築について、言及して欲しかったと思います。

 さて、ここで、第12回の「イノベーション「戦略」とは」を再掲します。

 ナショナル・イノベーション・システム構築への「戦略」への課題を、野中郁次郎先生の分類に従って整理すると以下のようになりました。
○大戦略:国家競争力にとってイノベーションが最も重要とする国家理念
○軍事戦略:イノベーション遂行能力(つまりイノベーションへの国家資源配分)
○作戦戦略:イノベーション実現への各セクターの配置、運用能力(大学などの能力)
○戦術:個別制度、プロジェクトの運用
○技術:個別技術開発課題の発掘、設定

 今般のイノベーション25は、上記「大戦略」ですが、軍事戦略に関するもの、作戦戦略のレベルに関わるものも含まれています。第12回でも指摘したように、大学やNEDOなどの研究開発独法は「作戦戦略」以下の戦略を担っています。つまり、イノベーション25を実現するためには、政府による政策の推進はもちろんですが、法人化し、自らの意思で事業を行う大学及び独立行政法人の役割は大きい、ということです。

 もうひとつ補足したいのは、イノベーション25の実現のためには、政策及び実施機関の「融合」が効果的だということです。この最終報告にも一箇所だけ府省連携ではなく「府省融合」という言葉が出てきます。その意図するところは不明ですが、単なる連携でなく、政策担当が融合していかないと、政策のイノベーションは望めません。NEDOでは、最近「蓄電池」や「バイオマスエネルギー」のNEDO内の複数部局(したがって、役所でも複数部局)にまたがる技術課題について「リエゾンマン」を置き、これら部局の調整をしながらプロジェクトの融合を図っています。政府部内では、総合科学技術会議事務局など内閣府が各省庁連携の窓口になっていますが、内閣府自体が独立した府省なので、「リエゾンマン」にはなれていません。しかし、こうした連携・融合が必要な政策担当者同士が、自らリエゾンマンとなり、ネットワークを構築し、おたがいのリエゾンを図っていく、こうしたことができれば、政策もさらに効果的、効率的に進んでいくものと思いませんか?やっぱり最後の鍵はネットワークですね。DNDも名前をデジタル・ネットワーク・デグチ(またはデフュージョン)に変えませんか?