第14回 イノベーション政策―米国の動き



 NEDOの誇る海外インテリジェンスのうち、ワシントンから最新のレポートが届きましたので概略をご紹介します。ワシントンでは米国のイノベーションへの動きを精力的・継続的に追っています。今回の動きは、2004年のパルミサーノレポート、それに続く全米科学アカデミーのRising Above the Gathering Storm、これを受けたブッシュ大統領の「American Competitiveness Initiative(ACI)」を踏まえた議会の対応です。

 ブッシュ政権は、中間選挙をすぎてその基盤が揺らいで?いますが、ことイノベーションの推進については、共和党、民主党とも立場の違いは大きくなく、その点でこの政策の方向については引き続き強力に推進されるだろう、というのがNEDOの分析です。

 また、米国のイノベーション政策は、2004年代の冷戦終結を経て基礎研究への政府支出増強など予算面の手当が進められていましたが、同時に、大学やNASA含めた国立研究機関からの技術移転などの構造改革的政策がほぼ一巡し近年では教育を含めた人材確保が大きな比重を占めているというのが私の印象です。

 以下、NEDOワシントンレポートから抜粋した概要です。詳しくはNEDOのホームページの海外レポート欄をご覧ください。

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 Harry Reid上院民主党院内総務(ネバダ州)を始めとする計43名の上院議員が3月5日に、グローバル経済における米国競争力強化のためにイノベーションや教育への投資を推進する「America COMPETES法案(America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence in Technology, Education, and Science Act:上院第761号議案)」を超党派で提出した。

 前議会(第109議会)では、「米国競争力優位保護法案(Protecting America's Competitiveness Edge Act = PACE法案)」等が上院に提出されたが、中間選挙の年の政治が絡んで、いずれも成立には至らなかった。

「America COMPETES法案」はこうした法案に含まれた条項の多くを統合したもので、Harry Reid上院民主党院内総務とMitch McConnell上院共和党院内総務の双方が支持していることから、早ければ4月にも、直接上院本会議へ持ち込まれ、審議にかけられる見通しである。同法案は、(1)商業と科学;(2)エネルギー省;(3)教育;(4)全米科学財団という4章構成となっている。各章の主な条項は下記の通り:

A.商業と科学:別称は「米国イノベーション競争力法案(American Innovation and Competitiveness Act)」
《科学技術政策局(OSTP)》
・国家科学技術サミット(National Science and Technology Summit)を開催。
・イノベーション創成力に関する調査研究を、全米科学アカデミーに委託。
・全ての初等・中等学校が「科学技術工学数学の日(Science, Technology, Engineering, and Mathematics Day)」を年二回祝うよう奨励。
・サービス科学(service science)を連邦政府が如何に支援すべきかについての調査を実施。
《イノベーション促進》
・大統領イノベーション・競争力委員会(President's Council on Innovation and Competitiveness)を設置。委員会では、(1)イノベーションのイニシアティブの実施状況をモニターし;(2)教育・職業訓練・技術研究開発への政府資源配分について大統領に助言し;(3)米国のイノベーション能力に影響を及ぼす既存および提案中の政策や規定の効果を査定する方法を策定し;(4)イノベーションを助長する好機を確認して連邦省庁長官に提言し;(5)連邦政府の進捗状況を測定するメトリクスを策定し;(6)進捗状況について大統領と議会に年次報告書を提出する。
・米国内でイノベーションを支援・推進する「イノベーション促進研究プログラム(Innovation Acceleration Research Program)」を設置。科学・数学・工学・技術の研究に出資する連邦各省庁は、年間研究開発費の約8%を同プログラムへ配分。
《米航空宇宙局(NASA)》
・2007年度の基礎科学研究予算を1億6,000万ドル増額する。
《国立標準規格技術研究所(NIST)》
・ NISTの2008年度予算として7億360万ドル(内、1億1,500万ドルが製造技術普及計画(MEP)予算)、2009年度に7億7,400万ドル(内1億2,000ドルがMEP)、2010年度に8億5,100万ドル(内1億2,500万ドルがMEP)、2011年度に9億3,650万ドル(内1億3,000万ドルがMEP)を認可。
・米国のイノベーションを支援・推進する「標準規格技術促進研究プログラム(Standards and Technology Acceleration Research Program)」を設置し、NIST年間予算の最低8%を同プログラムに計上する。
《国立海洋大気局(NOAA)》
・「海洋大気研究開発プログラム(Ocean and Atmospheric Research and Development Program)」を設置する。


B.エネルギー省:別称は「エネルギーによる米国競争力優位保護法案(PACE-Energy法案)」
・エネルギー省(DOE)長官は、DOE全体の数学・科学・工学教育プログラムを管轄する数学科学工学教育部長を指名。
・国立研究所の共同科学センターやその他の認可された教育活動および教育パートナーシップに関連するプログラムを実行するため、「数学・理工系教育基金(Mathematics, Science, and Engineering Education Fund)」を新設、同省の研究開発・実証・商業化活動予算の最低0.3%を同基金に充てる。
・中高生を対象に、DOE国立研究所でのインターンシップを提供し、数学や科学の実践体験習得を推進する「夏期インターンシップ・プログラム(summer internship program)」を設立する。
・公立のK-12学校に勤める教師の理数科指導技能を補強するため、DOE各国立研究所において2週間以上の「夏期講習プログラム(Summer Institute Program)」を開設または拡大。
・高等教育機関の原子力科学教育能力を拡充するプログラムを設置する。
・独自の研究に携わる有能な若い科学者や技術者に年間10万ドルのグラントを5年間交付する。
・カーボンニュートラル技術等のエネルギー技術開発のため、ARPA-Energy(エネルギー先端研究計画局)を設置。
・DOEのミッションに重要な科学または工学分野で博士号の取得を狙う学生を対象とする「PACE大学院生フェローシップ計画(PACE Graduate Fellowship Program)」を新設。

C.教育
・教員免状と同時に、数学、科学、工学、または重要外国語の学士号を取得できる教育課程を提供する高等教育機関に競争グラントを授与する。
・教師のナリッジ・指導技能の向上を目的として、教師のために数学、科学、または重要外国語の修士課程を確立する高等教育機関に、競争グラントを授与。
・2008年からの4年間で、国際バカロレア(IB)の数学、科学、または重要外国語を教える教師を7万人増数し、
・「Math Now for Elementary School and Middle School Studentsプログラム」 …幼稚園児から中学生を対象とする数学指導方法を改善し、特に、低所得家庭の生徒を指導。
・重要外国語を学ぶ「重要外国語パートナーシップ計画(Foreign Language Partnership Program)」を確立する高等教育機関に競争グラントを交付。

D.全米科学財団
・全米科学財団(NSF)の予算を2007年度からの5年間で倍増。
・「大学院生研究フェローシップ計画(Graduate Research Fellowship Program)」を拡大。
・「大学院統合教育研究トレイニーシップ(Integrated Graduate Education and Research Traineeship)計画」を拡大。
・「科学・技術・工学・数学の人材育成プログラム(Science, Technology, Engineering and Mathematics Talent Expansion Program)に2008年度予算として4,000万ドル、2009年度に4,500万ドル、2010年度に5,000万ドル、2011年度に5,500万ドルを認可。
・EPSCoR(Experimental Program to Stimulate Competitive Research)の2008年度から2011年度予算として、年間1億2,500万ドルを認可。