第1回 DNDへの想いとNEDOと



「連載をはじめるにあたって」

 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の企画調整部長になりました橋本正洋です。これから、「イノベーション戦略とNEDO」と題して、日本最大級の研究開発ファンディング・エージェンシーであるNEDO の活動を通じ、日本のナショナルイノベーションシステムのあるべき姿を皆さんとともに考えて行きたいと思います。折しも、 黒川清先生が座長となる「イノベーション25戦略会議」が設置されました。黒川先生とは、かつて経済産業省の産学連携小委員会の委員長をお願いするなど、イノベーションの議論をさせていただいてきました。私の連載も「イノベーション戦略とNEDO」となったのは偶然ですが、その黒川戦略会議の動向を睨みながら、NEDO戦略の方向性も導き出せれば、とも考えています。

 連載にあたっては、出口さんからは、「NEDOは広報活動がへただ、私が場所を提供してあげるから、NEDOがいいことをやっていることを皆さんに見せてください。」とありがたいご提案をいただきました。確かに、NEDOは図体が大きい割には知名度が低く、JSTさんや学振さんのような大学への浸透もいまいちです。敷居が高い、とのご指摘も承っています。こんな状況に業を煮やした出口さんに肩を押されたのが発端ですが、私にはとてもうれしいお話でした。

 プロフィールにあるように、私はTLO法制定のとき担当室長で、大学発ベンチャー1000社計画の担当課長もやっておりました。(このとき、このサイトでも有名な石黒さんには、産業再生課長・新規産業室長や官房総務課長として様々なサポートをいただきました。)我が国最大唯一の大学発ベンチャー支援サイトであるDNDを通じて、産学連携や大学発ベンチャーの今昔・未来を含め、ナショナルイノベーションシステムについて語る機会をいただけることにはとても感慨を覚えます。


「NEDOって?」(ii)

 NEDOは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称ですが、ご存じない方は、長い名前の前半からエネルギー開発の独法と思われるかもしれません。確かに、設立した1980年には、新エネルギー開発のための特殊法人、「新エネルギー総合開発機構」として発足しました。(略称は当時からNEDOでしたが。)しかし、1988年にエネルギー以外の「産業技術研究開発」業務が追加され、名称も今と同じ新エネルギー・産業技術総合開発機構となりました。通商産業省(当時)の行うナショナルプロジェクトの大半を実施する特殊法人として再発足したのです。さらに、政府の行政改革により、通商産業省が経済産業省に再編されるに伴い、工業技術院が廃止され、その業務の一部が(独)産業技術総合研究所とともにNEDOに移管され、日本最大の研究開発実施および管理の独立行政法人となったのです。

 具体的に組織と機能を見てみると、その移行プロセスが見えてきます。NEDOには、現在、バイオ・医療、ナノテク・材料、機械システム、電子・情報など産業技術の分野別の技術開発部が6部、ほかに新エネルギーと省エネルギーの技術開発部がそれぞれあります。これらの部は、昔の工業技術院の「研究開発官室」とほぼ同等の機能を有しています。

 経済産業省には、原課という、バイオなら生物化学産業課、電子・半導体なら情報通信機器課、飛行機なら航空機武器課などの課が今もありますが、通商産業省時代は、こうした原課が、研究開発のナショナルプロジェクトを企画し、予算要求を行い、プロジェクトが立ち上がったあと、その実施、管理をするのが工業技術院の各研究開発官室でした。新エネルギーならニューサンシャイン担当、半導体なら電子情報担当、バイオならバイオ担当、というふうに。この、研究開発官(課長相当)が工業技術院とともに廃止され、その機能の大半を現在NEDOが担っています。つまり、ナショプロのお守り役を引き受けているのです。したがって、ナショプロであれば、ロケット、航空機、半導体、バイオ、ナノテクから新エネ、省エネ、さらには石炭関係まで、石油開発と原子力を除く、ありとあらゆる経済産業分野の研究開発を担当しているのです。また、産学連携に関して、大学発ベンチャーへのマッチングファンドの提供、NEDOフェロー制度による人材育成なども実施しています。


「ナショナルイノベーションシステムとNEDO」

 このように、産業技術にかかるナショプロはNEDOのコーディネイトのもと行われています。ナショプロは、産業技術政策において重要な位置を占めていますが、特に、1990年代後半から我が国の産学連携が本格的に開始されるまでは、産業界と大学を結ぶ主要な仕組みとして評価されています。我が国産業の基盤を形成する技術開発プロジェクトにおいて、出口(イノベーション)を意識した産業界と大学における知の創成を結びつける実質的な産学連携を達成した、との理解です。

 現在、経済産業省では、新経済成長戦略に示した「イノベーション・スーパーハイウェイ構想」の具体化に頭を絞っています。この構想は、科学の力によりイノベーションを加速すべき分野に官民の資金、人材、技術など政策資源を集中投入しつつ、仕組みの見直しを行おうとするものですが、特に、研究(入口)と市場(出口)の双方向の連携を進めることにより、その流れの円滑化と時間的短縮を狙っています。NEDOの行っている技術開発プロジェクトもまさにそうした観点を基盤として進めているものです。この議論はいずれ詳しくご紹介したいと思います。


「利用しやすいNEDO」

 NEDOは独立行政法人です。資金の大半は大学やほかの独法と同じく「運営費交付金」という形で政府から受け取り、その執行はNEDOの責任で行います。これは、特殊法人時代とは、質的に大きく異なる制度です。政府からは一定の管理を受けますが、最終的な資金の執行責任は独法にある。ということは、現場のニーズにあわせて柔軟な研究開発管理が可能だ、ということです。具体的に説明しましょう。あるプロジェクトが非常にうまく行っており、さらなる発展が期待できる、あるいは時代の要請で緊急に資金増が必要だ、というときに、従来の予算制度では、次年度の予算要求・成立を待ってプロジェクトへの資源配分を行わざるを得ません。時期によっては一年半以上待たないとプロジェクトの強化はままなりませんでした。ところが、今は、独法としての判断があれば、緊急に運営費交付金の枠中で資金を融通し、必要な資金を投入することができます。NEDOではこれを「加速」制度といって、年度途中でも資金の追加配分を行っています。また、昔から批判の強い「予算の単年度主義」についても、なにがなんでも無理やり年度内に執行することがないよう、運営費交付金の中で繰越ができることを有効活用し、必要に応じて資金を次年度以降融通できる「複数年度契約」も適用しています。これらにより、「利用しやすいNEDO」を目指し、実現しているのです。

 さらに、連載一回目ですから?NEDOのPRを続けることをお許しいただければ、当組織の特長は、「検査」と「研究評価」体制の充実です。NEDOは、検査の担当部(検査・業務管理部)を独立して設置し、各担当事業部と協力しつつ、厳しくも柔軟な検査体制をとっています。これはほかの独法にはみられない体制です。契約や執行はなるべく簡素に行えるようにし、出口の検査は充実して行って、結果的に研究開発実施者の負担を軽減することを目的としています。


「成果を挙げるNEDO」

 一方、研究評価部では、各プロジェクトの中間評価や最終評価を実施しています。評価の専門組織により厳格な評価を行い、場合によっては計画中途でもプロジェクトを中止することもあります。このほか、ナノテク分野ではステージゲート方式といって、当初複数の事業者でいくつかの技術アプローチを競い合い、評価の段階で、水準の高いもののみ残してさらに計画を進めることも行っています。さらに、特徴的なのは、終了した後のアウトカム調査に力を入れていることです。「イノベーション」というのは、「事業化して何ぼ」の世界です。ナショプロがどの程度事業化したのか、しない場合は、その阻害要因は何なのか、さらに、阻害要因を取り除くためNEDOは何ができたのか、といったことを評価の一環として取り組んでいます。これは、NEDOが技術の「産業化」を目的の柱としていることの表れです。成果を挙げるNEDO、これが我々の目標の一つです。

このほか、NEDOの自慢話はたくさん?ありますが、今回はこの辺にします。もちろん、NEDO、さらにはナショプロが、このままでよいと思っているわけではありません。ナショナルイノベーションシステムの構築を進めるに当たって、国家戦略として技術開発を進めるには、NEDOの役割は極めて重いと思っています。次回以降、この連載でそうした議論ができるよう、様々な論点を提示していきたいと思います。



(i)NEDOの18年度予算は2290億円。JST((独)科学技術振興機構)1134億円、学振(JSPS、(独)日本学術振興会)1379億円)(出所:各機関ホームページの18年度計画から。)
(ii)NEDOについては、詳しくはhttp://www.nedo.go.jp/をご参照ください。