第7回 DND通信緊急提言 イノベーション
経済産業省特別会議室においてイノベーション・スーパーハイウェイ構想についての懇談会(第一回)が11月2日に開催されました。産業構造審議会産業技術分科会の懇談会として設置されたもので、産構審委員長の木村 猛先生(大学評価・学位授与機構長)を座長に、協和発酵の平田 正相談役、吉海AIST理事、光川NEDO副理事長などと、経済産業省側から小島産業技術環境局長、古谷産業技術担当審議官などなどが参加して2時間の議論がなされました。
はじめに、新経済産業政策で提言されたイノベーション・スーパーハイウェイ構想を具現化するために本懇談会が設置されたこと、来年3月を目途に分科会として中間報告をまとめていくことなどが経済産業省から報告されました。今日の懇談会で論点を抽出し、12月に論点精査、1月以降に大学、産業界、NEDO等からヒアリングし、月2回のペースで急ぎ結論を出す予定。
イノベーション・スーパーハイウェイ構想は、何か特定の研究プロジェクトを対象とするものではなく、第三期科学技術基本計画で国が主導するイノベーションプロジェクトをいかに効率的に実施するかの方法論を明示することにあるようです。図に示すように、ポイントとしては、自動車ハイウェイを模して、@研究と市場間の双方向流れの構築 A最終目的地、出口、すなわち市場を明確にする Bジャンクションで知識を融合する C高速なみにイノベーション速度を速くする D民間・大学が自分で運転する自主性、などを促進するためのインフラ整備ともいえましょう。
案の定、内閣府総合科学技術会議のイノベーション創出戦略、黒川議長のイノベーション25、学術会議のイノベーション委員会などなどとの相互関係はどうなっているのかに先ずは議論集中。小島局長によれば、いろいろな議論が多角的に出て、結果がハイウェイ構想に貢献できれば良いのではないかとの由。一拍遅れて古川が提案。それに持論を加味すれば以下の通りです。
「内閣は社会、経済、地域、環境、文化をも含めた広汎なイノベーションを検討、学術会議でもその支援としての意見聴取中、やはり経済産業省としては、産業技術イノベーションに的を絞って議論いただきたい。イノベートアメリカの事例が紹介されたが、イノベーション政策では2000年にEUがリスボン・イノベーション宣言をしているので参考にするべきでしょう。イノベーション議論についてまたぞろ初めから議論するのではなく、これまでの議論の蓄積を尊重し、その上に立ってスーパーハイウェイを議論して欲しいと思います。個人的にはイノベートアメリカ(パルミサーノ レポート)を考慮した報告として、[産業競争力強化に向けた米国動向と日本の課題]―パルミサーノレポート等米国次世代技術戦略と日本の対応―(日本政策投資銀行 H17−6http://www.dbj.go.jp/japanese/download/pdf/industry_report/r14.pdf)が大変参考になると推薦します。
その目次を引用すると、
第1章 米国競争力評議会の競争力提言の流れ
1.『ヤングレポート』から『パルミサーノレポート』へ
2.『ヤングレポート』(1985年)
3.『ヤングレポート』の提言
4.『ヤングレポート』の日本へのインプリケーション
5.競争力強化策に関する議論
6.『イノベーションインデックス』(1999年)
7.『米国の競争力2001』(2001年)
第2章 最近の米ハイテク産業界からの提言
1.はじめに
2.問題意識
3.提言内容
4.提言から見えてくるもの
5.今後の動向
6.補足:カーター政権「産業イノベーション・イニシアチヴ」
第3章 パルミサーノレポート(Innovate America)の概要と今後の展開
1.パルミサーノレポート(Innovate America)
2.パルミサーノレポート(Innovate America)の概要
3.米先端技術産業界とパルミサーノレポートの提言の比較
4.パルミサーノレポート(Innovate America)の位置づけ
第4章 2004年大統領選挙後の米国政策の動向
第5章 「イノベート・ジャパン」の方向性
1.日本のイノベーション政策の検証
2.日本における競争力提言の状況
3.日本のイノベーション促進のために
この目次から分かるように、米国と我が国のイノベーション政策の経緯がキチンとまとめられている上に、第5章「イノベート・ジャパン」の方向性では、人材の育成を先ず「ゆとり教育」の見直しから着手すべきこと、外国人の積極的活用、投資面では大手企業に眠る技術シーズの活用、IPキャピタルの設立など、インフラ面では技術評価モデルの提案などかなり具体的に提言していること。こういうようなキチンとしたまとめを尊重してこそイノベーション議論を実のものとして進めることが出来ると思うのです。
先週のTime誌によれば中国研究開発費はGDP1.3%と低いのですが、科学・工学博士数は英国に同等、Business Weekは中国のイノベーションが製造全般に渡っていて、ソフトに傾注しているインドより怖い、しかしForbesはBRICsには知的財産問題が残る、などなど。しかしBRICsの追い上げは厳しいし、欧米の後塵を拝していては我が国の立国は成り立たないと案じられますから、中国を中心にBRICsに対してもイノベーションでも注意しなければなりません。
産業イノベーションで重要なことは、イノベートアメリカに並行してManufacturing Americaが2004年に策定されていること、そこでは先端科学分野(IBNE, Info, Biio, Nano, Environment)イノベーションでは、環境を除けばアメリカ一人勝ちなので、富の根幹の製造分野でも勝とうとの国家イノベーション施策です。同様にEUでも、Manufuture 2020を策定して、2020年に向けてEUは知識駆動型社会を構築する、そこでの製造技術を俯瞰して世界の勝者になると謳い、具体策を練っていることです。
それに対して我が国は、製造分野は民間の競争領域だから、そのイノベーションに国費を投じるのは如何かの議論が主流で、これまでは国費の1%台しか投入されていません。柘植総合科学技術会議議員によれば、来年度はようやくにして製造分野に2.6%の国費が配分されるとのこと、寂しい限りです。せめて数%までに増大するべきと考えますが如何でしょうか?このままでは国家富の源泉である製造GDP100兆円を維持するのはかなり困難と懸念します。
あれこれ書きまとまりがないのですが、僕なりに多少の勉強をし、欧米との産業イノベーションに関わる重要因子を4つに絞込み、下図のように相対比較してみました。
申しあげたいことは、IBNE(IT,BT,NT,ET)の先端科学技術分野では、環境のETを除いてはどうやら米国に優位性がありそうなので、この先端分野のイノベーションによって新規産業を創出することの重要性にプラスして、我が国の場合には、強みである省エネ、環境調和とイノベーティブ製造を活かしたイノベーションにも力を入れるべきだと主張したいのです。それは我が国企業数の99%を占める中小製造企業の作り込みの高さの恩恵でものづくり産業が繁栄している事実、にもっと傾注するべきです。今日のものづくり産業の中核である自動車、情報家電、精密、生産機械などなどは、中小企業のつくり込み技術の高さによる改良型イノベーションの集積結果とも言えるのです。下図に示したような日本型イノベーションは改良型と科学型イノベーションの融合にあることをもっと認知していただきたいのです。
この辺りの詳細については、実は「学術会議、学術の動向12月号」に投稿しましたので、その内容の新規性を維持しなければなりませんので、ここで同じ事を詳しく述べるわけには参りません。いずれ発刊されたら参考にしてくだされば幸いです。
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