日本の競争力維持に向けて「イノベーション加速に総力結集」
 −第5回産学官連携推進会議所感−


 今日、6月10日(土)は、恒例となった産学官連携推進会議(産学官サミット)の第5回が梅雨の合間を狙ったかのように、ここ京都で開催された。キャッチフレーズが素晴らしい、「イノベーション加速に総力結集」。私は昨年を除いて分科会の座長を4回務めることになったので、今回の第5回はエポック感いっぱい。

 事務局によれば4000名以上の参加とか、レジストレーション待ち時間が20分以上、なんとプリンスホテルでのレセプションはまさに立錐の余地なし、顔と顔が笑い、名刺と名刺が飛び交う。産学官連携サミットが定着したのか、否、景気回復で参加余裕ができたのか、いずれにしても現場を計画・指揮していた内閣府審議官の塩沢文朗さんのクールビッズが笑っていた。しかし祇園祭りには早いこの京都に、これだけ沢山の人が集まっても単なる産学官祭りでないところがにくい。

 松田岩夫・科学技術政策担当大臣がビシッと「科学技術基本計画の効果が現れ、日本のイノベーションが実のものになりつつある、あと一歩の努力」と基調され、我が国科学技術方針が確認された。すなわち、従来技術のたゆまざる改善による基盤革新と、科学知見ベースのライフサイエンス、ナノテク材料などの科学的革新の二つが核心とのお話だ。これを受けて、先ごろ経団連会長に着任された御手洗冨士夫氏が、「まだまだ基礎では欧米に遅れている、科学技術高度人材の育成が要、民間が大学と協力して博士を育成・採用すべし」との民間保障宣言も頼もしい。

 午後は例年のように下記の5分科会に分かれて集中討議、そして全体会議での集約。

 「国際的産学官連携の新展開」(座長・相澤益男東京工業大学学長)
 「地域・中小企業における産学官連携の新展開」(座長・古川勇二東京農工大学大学院技術経営研究科長、首都圏産業活性化協会会長)
 「イノベーションの創出に向けた産学官連携の推進と人材の育成」(座長・山野井昭雄味の素顧問、経団連産学官連携推進部長)
 「知的財産を軸とする産学官連携の新展開」(座長・荒井寿光内閣官房知的財産戦略推進事務局長)
 「データから見る産学官連携の現状と課題」(座長・原山優子東北大学教授、総合科学技術会議議員)

どうやら、我が国産学官連携における国際化、地域、中小企業の3つが各分科会のキーワードであったようだ。言ってみれば当たり前のもので、これで表題の「イノベーション加速に総力結集」が議論・提言できたのかは、いささかの懸念。

 我々分科会主査の報告を聞いた全体会議の座長で日本学術会議会長の黒川清氏が、「日本の産学官連携によるイノベーション創出は本物なのか、世界の変化スピードに対応できているのか、将来に向けてアジアを仲間に入れ、その知見を活用できる構想なのか」と例によって面白おかしく集約されたが、参加者の多くも同様の感触であっただろう。

 確かにそのとおりと思う、これだけの参加者があって、政府高官、関連官庁の責任者の出席の中での議論として、明確な5年目のエポック宣言を出せなかったのはいささか残念、分科会主査の一人として一半の責任を感じる次第。

 たとえば私見だが、「この4月から始まった第3期科学技術基本計画をより実のあるものとすべく、5年後には日本がアジア諸国と協同して世界の科学技術をリードし、アジア全体の産業経済の発展に貢献する、日本全体のバランスの取れた地域発展を実のものにする、そのため地域発中小企業の独創的競争力を実現する」など、少し頑張って宣言しても良かったかもしれない。

 私自身は前述したように、第2分科会の「地域・中小企業における産学官連携の新展開」を司会させていただいた。京都の堀場雅夫氏、北陸の松浦正則氏、北海道の土井尚人氏、東北の井口康孝氏、富山の東保喜八郎氏と多士済々。会場を含めた意見交換との凡そのコンセンサスは以下であった。

(実績):平成12年と15年の比較調査結果によれば、産業クラスターに参加した企業総数は6100社に登り、それらは全国中小製造企業平均に比べ、
 ・売上高利益率は50%増し
 ・売上高は10%増し
 ・雇用は10%多い。

 知的クラスターの中間評価においても、参加企業はシーズ創出効果大と回答するなど、クラスターの定量的効果が検証された。もちろん、クラスターに参加した企業が元来元気であったことにもよるので、一概にクラスター効果とは言えないが。さりとてクラスターの成功は間違いないところであり、その要因は何かを議論・分析した結果、主たるものは以下のとおりであった。

(組織・システム)
従来の行政枠を超えての産学官連携の組織化、強いリーダシップ、政府・自治体・商工会議所の強力な支援など。

(実施方法)
全体のプログラム化と成功事例の創出、成功事例は民間発・市場発が成功の秘訣、文部科学省予算でシーズ開発、経済産業省予算でニーズ開発、5ヵ年計画の明示など。

(人材)
産を知る大学人、学を知る産業人、シーズ・ニーズをマッチして自ら創業できるなどの新しいコーディネータ、研究者をマーケットが分かる技術経営者に育成。卒業生(含む外国人学生)が地域に戻ってネット化するなど、新しい人的ネットワークが不可欠。

(外部連携)
金融・販売機関の包含、国内・海外クラスターとの協力(仙台フィンランド 健康福祉センター事例、富山と産総研連携で地域の弱みを克服事例)、e-クラスターと地域クラスターとの適切バランスなど。

(中小企業活性化)
中小企業に最も必要・必須事項は関連の正確な情報、京都で中小企業に対する情報提供に端を発し、インキュベーションオフィスさらには京都高度技術研究所(ASTEM)に発展、これが全国的にJANBOに普及し、ワンストップサービスが可能になった。

 以上の成功要因を踏まえて、更なる地域イノベーションに向けて国への要望を以下のように取りまとめた。
  ・クラスター施策の更なる拡充・支援(クラスター参加企業3万社の実現)
  ・国内外クラスター間の連携支援
  ・コンソーシャム研究費、中小企業支援研究費等の更なる拡充と支援
   (これらが最もイノベーション効果が高い資金)
  ・コーディネータなど単年度派遣制度ではなく、多年度契約制度の実現
以上の国への要望が早期に実現され、地域イノベーションが実を挙げて地域と中小企業の産業経済競争力が一層高まることを切望する次第(了)。